「妊娠・出産パーフェクトBOOK」はやっぱりよいね(書評)

今回は宋美玄さん著「産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK」の書評エントリです。

小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK に続いて、メタモル出版刊行本書評3連発の第2弾*1です。
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20140608/1402205507
宋さんはテレビでもおなじみの産婦人科医ですが、バラエティ番組などで、変な情報に傾きそうになると必死(?)により戻そうと奮闘なさっている姿が思い浮かび、頑張れ〜と心の中で叫んでいるどらねこ*2です。



■気になる内容は?
森戸さんの本は、「おかあさんもっと安心してよいんですよ」というメッセージをどらねこは感じましたが、宋さんの本は、ハウツーたっぷりの応援本という印象です。
まずは前回同様、本の目次を紹介です。どらねこが個人的にオススメでぜひ読んで欲しい項目を赤字にしてます。


プレ妊娠編
Q1 予防接種はしておいたほうがいい?
Q2 そのほか、妊娠前にすべきことは?
Q3 妊娠のサインってどんなもの?
妊娠編
1・普段の生活
Q1 妊娠に気づかずにやっていたことが不安です
Q2 運動はすればするほどいい?
Q3 妊婦が食べたほうがいいものって?
Q4 反対に食べてはいけないものは?
Q5 薬を飲んだりしても大丈夫?     
Q6 妊娠中の嗜好品は一切ダメ?
Q7 妊婦がしていいこと、いけないことは?
Q8 セックスってしていいの?

2・トラブルについて
Q1 つわりがひどくて困っています
Q2 体重が増えていると叱られました
Q3 よくお腹が張るので不安になります
Q4 マイナートラブルはどうすべき?
Q5 逆子は、どうしたら直るの?
Q6 高齢出産のリスクってありますか?
Q7 太ると妊娠中毒症になるって本当?
Q8 妊娠糖尿病になったら、どうすべき?

3・病院のこと
Q1 どこで産むべきか迷っています     
Q2 妊婦健診では、どんなことをするの?  
Q3 出生前診断について教えて!
Q4 無痛分娩は、赤ちゃんによくない?
Q5 病院を急いで受診すべきときって?

出産編
Q1 出産の兆候ってどんなもの?
Q2 出産の流れを知りたい!   
Q3 安産のためにできることってある?
Q4 できるだけ自然に産みたいのですが
Q5 どんな場合に帝王切開になるの?

産後編
Q1 産後1か月は休むべき?  
Q2 セルフケアのやり方を教えて!    
Q3 傷のケアはどうしたらいい?    
Q4 母乳で育てたほうがいいの?
Q5 産後のセックスはいつからOK?



■これは紹介しておきたい
本書はハウツー本としても有用ですが、妊娠、出産、子育てなどでよく出会うアヤシゲな情報にも注意を促してくれます。そのうち食と栄養に関わる項目二つを紹介させていただこうと思います。

Q4 反対に食べてはいけないものは? p32より
妊娠中は、生肉や生ハム、刺身、生牡蠣などの生もの、無殺菌のミルクやチーズは避けたほうがよいでしょう。これらのものは、先に述べた病原性原虫の『トキソプラズマ』、細菌の一種である『リステリア』に感染するリスクがあるからです。トキソプラズマに感染した場合、流産や死産のほか、胎児の脳や目に障害をきたす『先天性トキソプラズマ症』を引き起こす危険性があります。


そうそう。生ものは良くないと聞いていた人でも、生ハムや無殺菌のチーズは大丈夫だろうと考えてしまいそうな気がします。多くの方には問題はないでしょうけれど、十分気をつけようと思っていたのに、うっかりは避けたいものでありがたい指摘です。
さらに・・・

p33より
手作り酵素ジュースや発酵食品も雑菌が繁殖するリスクが高いので避けたほうがいいでしょう。


なんとなく良さそうなイメージで手を伸ばしそうな食品なので注意が必要ですね。
また、

p33より
「精製された砂糖はダメ」「南国の果物はダメ」など、さまざまな都市伝説がありますが、ほとんどがウソです。


マクロビオティック発の根拠の無い言説もバッサリです。こうした話は助産院などでも聞かれる話題ですから、しっかり言及して下さるのはありがたいです。


Q2 体重が増えていると叱られました p52より
助産師や医師の中には、「太ったら産道に肉がついて難産になる」「体重を制限すれば安産になる」と、体重が増えなければ増えないほどいいと思っている人もいるようですが、決してそんなことはありません。


出産育児関係だと根拠が無いのに正しい事のようにいわれるのって多いような気がするんでよね。これらもその仲間の一つです。もっとくだらないのだと、お腹が出っ張っているから男の子だとか、筋子を食べるとあかちゃんの顔が崩れるとか・・・ぷんぷんした記憶があります。

p52より
妊婦さんの栄養状態が悪いと、2500g未満の『低出生体重児』が生まれやすくなります。こうして生まれた子どもは合併症を発症しやすく、成人してからも生活習慣病になりやすいというリスクがあります。

その他、低出生体重児では低血糖症に陥る危険性が高くなりますし、母乳だけで育てる場合に鉄欠乏になるリスクを高めるなどマイナスの要素がいくつもあります。防ぐ事ができるのなら防ぎたいものです。

p53より
ですから、たとえば妊娠前から太っていたとしても、「妊娠前の体重+12kg」に達しても、食べ過ぎに気をつけながら、できるだけバランスのよい食事をとりましょう。

目標体重を超えてしまったからもう食べない、というのはやめましょうという事ですね。何の為の体重コントロール(勿論母子の健康が目的です!)なのか、見失った制限というのはオカシイものですからね。

低出生体重に着目したどらの過去記事→http://d.hatena.ne.jp/doramao/20120107/1325921279

というわけで、オススメ2項目を紹介させていただきましたが、その他にも役立つ情報満載です。本屋で見かけたら手に取ってみて欲しいと思います。












■妊娠糖尿病について(蛇足)
今回も例によって蛇足です。妊娠糖尿病に対する考え方などは賛同できますし、説明もたいへん分かりやすいと思うのですが、エネルギー量の設定方法などがちょっと気になるところがありました。これについては、糖尿病診療ガイドラインに対するグチというか異議が半分という感じです。指摘内容は本書の価値を損なうモノでは無いと考えております。

p70より
糖尿病といえば、「生活習慣病」や「ぜいたく病」といったイメージが強いようですが、妊娠高血圧症候群と同じで必ずしも食べすぎたり体重が増加しすぎたりするとなるほど単純なものではありません。


その通りです。こうした問題はどのようにして起こるのか、どのような問題があるのかを宋さんは一般の方にも分かりやすい説明をしております。

p70より

そもそも妊娠すると、胎児に優先的にブドウ糖を送るため、母胎の胎盤からヒト胎盤性ラクトロゲン(hPL)というホルモンが送り出されます。その結果、母体のほうの糖代謝が悪くなって血糖値が上昇し、普段から血糖値が高めの人は妊娠糖尿病と診断されることが多いのです。
<中略>
妊婦さんの血糖値が高い状態が続くと、赤ちゃんが大きくなりすぎたり、羊水が増えすぎたりして、早産や難産になりやすく、帝王切開のリスクも高くなります。また、お腹の赤ちゃんが低酸素の状態になることもあります。


さて、ここまではまったく異論はないのですが、妊婦の必要エネルギー推定式を見ておやっと、思いました。

p71-72より
必要なカロリーは以下の計算で出せます。
【必要なカロリーの出し方】
(非妊娠時の標準体重(kg)×30+(妊娠時の加量分350(Kcal))


一つ目のおやっ、と思った点は、妊娠時の加量分です。この350kcalの出典がどこであるのかが分かりませんでした。糖尿病診療ガイドライン*3では、食事療法として標準体重×30kcalを基本とし、非肥満妊婦では健常妊婦の必要エネルギー付加量の妊娠初期 50kcal、中期 250kcal、末期 450kcal、授乳期 350kcal に準拠する方法と妊娠中全期間一律に200kcal付加する二つの方法が行われている旨が記載されております。
授乳期と間違えたのか、一律の付加量を誤ったのかなあと感じましたが、実際のところはわかりません。

しかしながら、どらねこは糖尿病学会の示す基本についても違和感を持っております。妊娠糖尿病というのは健常妊婦よりも必要なエネルギー量の推測は丁寧に行って欲しいと考えるからです。食事摂取基準ではその人の体位だけでなく、年齢や日常生活活動などを配慮し、消費量の推定を行うわけですが、糖尿病学会の示す「標準体重×30で求める方法」は推定するには精度が低すぎると思います。
ひとまとめに妊産婦といっても色々な方がいらっしゃいますからその範囲はそんなに狭いものではありません。年齢も10代〜40代(あるいは50代)という幅もあります。10代の女性では自身の成長分のエネルギーまで考慮する必要がありますから、同じように扱って良い物ではありません。妊婦であっても今までと同様の生活を送っている方もおりますし、運動を控える人もいるでしょう。計算式にはこれらを考慮しても良いと思うのですが、食事摂取基準よりも配慮が少ないというのはどうかと思います。

上記の内容についてはこちらの記事に詳しく書いておりますので、興味のある方はどうぞ。

妊娠糖尿病ってどんな食事をすれば良いの?
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20131226/1388046513

*1:当然3弾があるのでしょうね

*2:先日、妊すぐにどらも掲載していただいたのですが、宋さんと同じコーナーに登場したかったけれどそれは叶わなかったのだけが残念です

*3:科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドラインp223