世帯収入と食生活には関係があるの?

昨年のこの記事→「不健康(?)な生活と県民所得」と同じく、国民健康・栄養調査の概要を見てシリーズです。


■23年国民健康・栄養調査で気になった事
先日厚生労働省のウェブサイトに平成23年国民健康・栄養調査結果の概要がアップされました。注目点はいくつかあるのですが、世帯の収入と生鮮食品摂取量の関係が興味深いと思いました。特に野菜類の摂取量は、男性では200万円未満と200万円以上600万円未満の世帯で少ない傾向がでておりました。ここに着目した記事*1もでており、社会問題として注目されそうです。


■結果を見てみる

国民健康栄養調査概要はこちらで見る事ができます
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002q1st.html

さっそく、世帯の年間収入と食品摂取量の項目を読んでみます。

概要より引用

魚介類を除き、調査項目にある食品群において200万円未満の世帯収入である世帯員の食品摂取量が低い傾向が確認されたとあります。

概要より引用

年齢と世帯員数で調整した値との事なので、同じ家族構成であっても収入により差が生まれる傾向があるといえるのでしょう。


■生鮮食品摂取量が少なくなるのは?
こうした生鮮食品摂取量が少なくなる理由がいくつか考えられますが、調査で行われたアンケートでもその理由が明らかになっております。

概要より

価格が高いことが一番高い回答割合となっておりますので、収入が少ない世帯において、買い控えが多かったことが予想できます。
収入が少ない世帯であっても、食べないと生きていけません。そうなると必然的に安価でエネルギーを確保できる食品を選択すると予想できます。野菜類は水分の割合が多く、脂肪をあまり含みませんので値段の割にお腹を満足させにくい食品ですから、優先順位が下がってしまうのでしょう。
これはエンゲル係数という昔はよく用いられた指標をひっぱりだしてくるとわかりやすいかも知れません。過去に関連する記事を書いておりますので引用してみます。

食料自給率や輸入食料にヲモツタコト:その1
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20101117/1289983993


世帯収入200万円未満の群では、収入に対する飲食費の割合が約40%であることが分かります。これ以上に食費をかける事が極めて困難・・・というか、食べることは絶対に必要なので落としようにも落とせない水準なのかも知れません。このような収入状況にある方々は、国産食品を選びたくても選べない状況なのではないでしょうか?

生活習慣病対策は啓発も大事ですけれど、貧困対策も並行して行われる必要があるものだと思います。今後、消費税率がアップするのであれば、この辺りへの配慮は不可欠だとどらねこは考えます。


■生鮮食品摂取量を減らすそれ以外の要因
調査では食料品店へのアクセスも関係している事が示唆されております。これについても過去記事で言及しておりますので、そこから引用します。

生鮮食品へのアクセス
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20120525/1337925418
野菜など、生鮮食品を購入する頻度と関係すると考えられるのが、住居から販売店までのアクセスです。
農林水産省の農林水産政策研究所のページに食料品アクセスマップというものが掲載されております。これは「生鮮品販売店舗から距離が500m以上の人口割合」を統計データから推計したものですが、地図に色分けして示しており情報が視覚的に入ってくるため大まかなイメージを得るのに有用だと感じました。
食料品アクセスマップはこちらから閲覧できます。→http://cse.primaff.affrc.go.jp/katsuyat/
最近では、スーパーマーケットによる宅配サービスなども行われているようですが、その窓口がインターネットであったりもするので高齢者がアクセスするためには壁があったりするようです。ヘルパーさんを頼むという選択肢もありますが、それほど身体に不自由が無かったり、すれば介護保険の適用外ですからお金が十分に無い人はやはり自分で買い物を、となるでしょう。
しかも、そうした問題を解決する為の人的資源も予算も地方には十分でなかったりするのです。しかも、そうした地域ほど高齢化が非常に進んでいたりするので更にやっかいだったりするのです。こうした問題を解決する策は簡単に見つかりそうもありません。


また、世帯収入にも関係しますが、男性の収入と優配偶者率の関係(お金ある方が結婚してる人が多い)も生鮮食品摂取量に影響を与えそうです。独身男性よりも妻が専業主婦の家庭の方が生鮮食品をつかった食品が食卓に多く上りそうですね。こちらも過去記事から引用しておきます。

脳科学(?)とあさごはん
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20100113/1263358380

若者就業支援の現状と課題  独立行政法人 労働政策研究研修機構 労働政策研究報告書 No.35(2005)より
特に説明の必要は無いと思うが、男性の場合、収入が高いほど有配偶者率は高くなっており、計算の必要は不要なほどにその関連性の高さが伺える。




■一応のまとめ
収入が少ないほど収入に占める食費の割合は高くなりますが、それにも限度があります。そうなると必然的に安くて満足感の多い食品ばかりを選ぶことになります。生鮮食品が買えないからカップ麺やレトルトパウチ食品など、暖めるだけで食べられるものがどうしても多くなってしまう人に、食生活に気をつけましょうと話すのは有効な対策ではないでしょう。
生鮮食品を購入し、バランスを意識したメニューを考えてじっくりと調理できるというのはある程度生活に余裕がなければできません。総選挙が近づいておりますが、誰もがゆったりと食事を楽しめるような社会を実現できるような政策を期待したいものです。





■おまけ
結果の概要より

野菜の摂取量が10年前に比べて減っている事がこのグラフから見えてきますが、野菜の摂取割合は本当に減っているのでしょうか?
えっ?なに謂ってるの?「減っていることがわかりますが、本当に減っているのでしょうか?」って意味不明なんだけど・・・と謂う声が聞こえてきそうですが、こうした調査は出てきた数字の読み取り方がとってもむずかしいものなんですよ。
国民健康・栄養調査では、実際に食べた食品を調査員が見て計量をするのではなく、対象となった方に指導を行い、計量をしてもらい食事記録を書いて貰うようになっているんですね。こうした手法だとどうしてもある程度大きな誤差が出てしまうんですね。
最近の調査傾向は過小申告が大きくなる方向に出てまして、エネルギー摂取量だと15%から20%くらいは過小に申告されているんじゃ無いかと考えられてます。調査を見るときにはこうした点も考慮に入れないと「何かを見た気」になってしまう可能性もあるので要注意なんです。
エネルギー摂取量と同じ割合で他の食品も過小申告されているとすれば、実際には日本人の野菜摂取量はもっと多いのかも知れません。ですが、野菜が少ない事を自覚している人では過大に申告するかも知れませんので、ここらへんを明確にするのはとっても難しい事なんですね。
ええと、本題に戻りまして、「野菜の摂取割合」は変化しているのか、という点について考えてみます。ここでは、野菜の摂取割合として摂取エネルギー(kcal/day)と野菜摂取量(g/day)を比べて見ようと思います。

図1−1 野菜類、果物類の摂取量の平均値(20歳以上、男女計・年齢階級別)(平成13年との比較)より


23年国民・健康栄養調査での20歳以上野菜摂取量は277.4 gです。これを摂取エネルギー1000 kcalあたりの野菜摂取重量に換算してみます。同じく20歳以上のエネルギー摂取量は1846 kcalと出ておりますので、1000 kcalあたりの野菜摂取量は150.3 gになります。
では、13年はどうでしょうか? 13年はそれぞれ、295.8 g 、1969 kcalですので計算すると、1000 kcalあたり摂取量は150.2 gという結果がでます。
どうでしょう。エネルギー摂取量から見れば野菜の摂取量は減っていない事がわかりますね。これがどういう意味を持つのかは別に考えなければなりませんが、データは色々な角度から吟味する必要がある事がなんとなく分かっていただけたかと思います。この観点から考えると、肉類摂取割合の増加は侮れないかも知れない・・・なんて事も分かるわけです。

*1:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121206/k10014011971000.html“経済的な差が栄養格差に”厚労省調査