無用の問答(その1)

五木寛之・帯津良一著 平凡社刊【健康問答−本当のところはどうなのか?本音で語る現代の「養生訓」。−】という本を読んだ。

著者の一人、五木寛之氏については多数のベストセラーを持つ著名な作家さんと謂う認識であるのだけど、よいのかな?どらねこは氏の文章をあまり拝見したことはありません。もう一人の、帯津氏は代替療法を積極的に採り入れる病院を経営している方で、日本ホメオパシー医学会の理事長をしている人物として、以前からネット上で情報をチェックしたりしていた。先日、とある古書店で、この二人の共著を見かけたので購入した次第。内容は、代替療法を中心とした養生訓をテーマに二人が対談するという構成になっていて、実に読みやすく仕上がっている。なるほど、これならちょっと慎重なヒトにもウケるのかもしれないな・・・そう思わせる仕掛けが随所にあったと思う。さらに続編まであると謂うから、ウケたのだろうなぁ・・・。

■今回は簡単に・・・
通しで読んでみて、一番驚いたのは、五木氏の代替療法に関する知識量です。有名な代替療法は勿論、どらねこの聞いたことの無いような名前がポンポン飛び出してくる。それも会話に滑らかに織り込んで。彼は健康オタクなのだろうか?それぐらい散りばめられている。対する帯津氏も負けてはおらず、古今東西、様々な代替療法について独自の視点から注釈を加えていく。そして氏の視点には医学的な問題に言及する誰しもが共感するであろう考え方が随所に挿入されており、読みやすい文章とその視点に引きずられて、本書を読み終わった後には彼の考えに賛同してしまう虞もありそうに感じる。
えっ、賛同しちゃまずいのかですって?どらねこはまずい類の話だと思う。このエントリでは具体的内容に踏み込まない個人的な感想を書きます。次のエントリでしつこく中身について言及してみる予定。

■全体の印象
この本で言及される健康法・治療法は様々だけど、どれに対しても一刀両断!ばっさり!と謂う記述は無いのだ。『これだけで健康になれる』、『断言しますっ!!』と謂う主張には眉にツバをつけましょう、みたいな事が書いてあって、これまでの代替療法本とはひと味違う事をアピールしている感じなのだ。その考え自体は確かに有用なモノなのだけど、何にでもその事を適用してしまっては有用な考え方も無用な考え方になってしまう危険性を孕んでいると考える。精度の高い情報と、もしかしたらレベルの情報を一緒くたに取り扱う事を考えてみればわかると思う。
次に感じたことは、読み手によって受け取る印象がかわるような書き方をされているんじゃないかと謂うこと。ある健康法に好意的なヒトが読めば認めているように感じ、批判的なヒトが読めば、鵜呑みにするなと書いてあるように読めるという具合だ。まぁ、八方美人みたいと謂えばよいのでしょうか。コレについては帯津氏が色々と分かった上で、商売的な配慮でやっているような印象を個人的に持った。

■本の構成
第一章、食養生から第六章の生き方死に方の総チェックまでで計50の問答(Q&A)が繰り返される。第二章で健康常識の総チェック、第三章は現代療法の総チェックと来て、四章五章でがん療法、人気療法の総チェックと謂う構成になっている。
このタイトルの並びを見る限りでは特におかしな処は見あたらない。でも、読み終わった後にもう一度タイトルを眺めてみると、ちょっと違った印象があらわれた。
序盤の文章には『メタな視点で物事を眺めているんですよ私は』をアピールする文章がよく見られる。序盤のトピックには慎重な読者でも惹きつけるようなモノが多く、其処だけを切り取ればどらねこも頷ける主張もあって、「うんうん」なんて思ってしまったぐらいだ。ところが後半に来るとちょっと雲行きが怪しくなってくるのだ。どうもそのオカシサは彼がチカラを入れている代替療法と関連しているらしいと気がついた。帯津氏は日本ホメオパシー医学会理事長であり、著作には気功や呼吸法に言及したモノがあり、『エネルギー医療』にも非常に強い興味を持っている事がわかる。それらの氏にとって好ましい代替療法がこの四章五章に数多く登場するのだ。
なぜか、これら療法については序盤に登場した慎重姿勢が発揮されることはあまりないようだ。

p192 Q42 ホメオパシーは、究極の治療法か より
帯津 ほんとですね。私がホメオパシーの効果を自分の目で体験したのは、うちの婦長に処方したときです。彼女が食中毒にかかって、くの字になってウンウンうなっている。定番の薬を点滴で入れてもいっこうに良くならない。私はそれを見て直観的に、ホメオパシーだと五分で治せると思ったので、彼女にそういったら、怒ってね。「先生、私を実験台にするんですか!」って。
五木 そうでしょうね。はじめたばかりのころですか?
帯津 ええ。だから、なんとかなだめすかして、一粒飲めば五分後に治ると思うから、といって飲ませたんです。そうしたら、本当に五分後に、ケロリと治ったんです。劇的に効いた症例第一号ですね。

安易に治せると謂うようなヒトを信用しない方が良いと同書内で書かれていたような気がするのですが・・・。あと、ここが大事だと思うのは、定番の薬剤を既に処方されていると謂うところかな。普通に考えれば、それらが時間をおいて効いてきたと考える方が妥当であろうと思う。つまり、氏は予断を持って治療に望んでいると謂うことだね。結果の解釈も先入観に影響を受けている事を指摘されてもしょうがないと思う。
このような記述が登場する文章を後半に混ぜ込んでくるあたり、本当に上手だなぁ、そう思った。皮肉じゃあなくてね。

■おわりに
帯津氏の考える代替療法・・・その一部には賛同できる面もあるが、それは一個人の幸福の追求についての面である。公衆と謂う観点から見ると望ましくない記述が多数存在する。この本が続編が発売されるほど人気を博したと謂うのはその点からも大いに不安に思うのでした。

次回(いつかはわかりませんが)は、本文を多数引用しながら具体的内容に言及しようと考えてます。