ニッポンの「鷲」
アメリカ合衆国製F-15戦闘機の航空自衛隊導入型。原型由来の高い空中戦能力を有しており、現在では配備数において空自戦闘機の主力を務めている。
アメリカからの輸入機を除き、三菱重工業が中心となって製造した第4世代ジェット戦闘機である(輸入2機、ノックダウン生産8機、ライセンス生産155機、計165機)。主として訓練に使われる複座型のF-15DJ(輸入12機、ノックダウン8機、ライセンス生産28機、計48機)も導入されており、J型とDJ型を合わせて213機が生産された。高額な機体をほぼライセンス生産で賄っているというのは割と凄いことである。
アメリカ連邦議会から批判を受けた国防総省の決定により、提供されなかったTEWS(戦術電子戦システム)については、独自開発のJ/TEWSで代替している。
バージョン
F-15Jは主として前期生産型「Pre-MSIP」と、後期生産型「J-MSIP」に大別される。
Pre-MSIP
F-15Jの前期生産機は「Pre-MSIP」と呼称され、導入当初から使用されていた。1985年までの生産分である110機(J型98機とDJ型12機)がこれに該当する。軍用機にはよくあることだが、同じ機体でも前期型と後期型でかなりの仕様変更をされることが多く、Pre-MSIP機と後期型であるJ-MSIPも外側が同じだけでまるで別物である。前期生産型ということもあり、21世紀からは性能面での陳腐化が否めなくなっている。
特に陳腐化が激しいのはソフトウェア面。Pre-MSIPで使用されている配線は「H-009規格配線」で、MSIPに使用されている1553Bデータバスと比較して通信速度が遅かったり、複雑すぎて生産性が悪く、電子妨害にも弱い。機載コンピュータも古く、中距離空対空ミサイルも旧式のAIM-7スパローしか搭載できない。
しかし配線やコンピュータ等を更新しようとすれば、あまりにも手広く改造しなければならず、改造に必要な費用と残りの機体寿命を考えれば、F-15EかF-35の新造機を買ったほうが安い上に潰しが利く始末である。
このように完全に時代に取り残された代物で、空自ではF-35に代替される見込み。今後は退役した機体で使用されていたエンジンがインドネシアに売却される見込みとなっている。「こんな退役した機体のエンジンなんて売れるのか?」と思われたかもしれないが、同国のF-16はF100を使用しており、F-16の部品として売れるのである。
J-MSIP
1985年以降は性能向上が為されたJ-MSIPと呼ばれる後期生産機が生産されている。これは米国によるF-15への近代化改修「MSIP」に倣ったもので、全生産数の約半分に当たる102機(J型68機とDJ型34機)が該当する。J-MSIPには以下の能力向上などが施された。
- コンピュータの処理能力の向上
- 一部計器のディスプレイ化
- 警戒装置の追加等々直接的な能力向上
- 後々の能力拡張を見据えた各種配線の追加
特に一番下の「後々の能力拡張を見据えた各種配線の追加」により、J-MSIP機には様々な改修が行われた。例を挙げると、AAM-4やAIM-120といった「撃ちっ放し」能力を持つ中距離空対空ミサイルへの対応改修、HMDの導入によるオフボアサイト機能の獲得など。これらの改修はJ-MSIP機の9割以上に施されており、第4.5世代ジェット戦闘機相当に性能が向上している。
J-MSIP機は今後も改修されつつ、F-35に次ぐ一線級の戦闘力を維持する計画であり、2018年末に発表された中期防衛力整備計画では、さしあたり20機に搭載弾数の増加、電子戦能力の向上、新ミサイルへ搭載のための改修が行われる予定(後述の「F-15JSI」を参照)。
形態一型
平成9年(1997年)から着手したもので、コンピュータ・レーダーFCSの換装、AAM-4運用能力などを追加している。当時としては現代的な対応だったが、国防への危機感の薄かった90年代~00年代とあって予算の確保が進まず、平成20年(2008年)に最後の2機が納入されると、改造工事は合計8機で終了した。
形態二型
21世紀に入って再びのF-15J近代化計画で、形態一型に相当する改造に加え、主に「JHMCS」と呼ばれるHMD(ヘルメット装着型照準器)にも対応したもの。これによりAAM-5ミサイルの能力は完全に引き出せる。改修していない機でもAAM-5は発射できるが、JHMCSへの対応によりパイロットが顔を向けた方向にAAM-5を発射できるようになった。
形態一型の再改造も含め、こちらは令和元年(2019年)までに92機が納入されている。
F-15JSI
折から旧式化が叫ばれて久しかったF-15JのPre-MSHIP機であったが、2019年10月に発表された「中期防衛力整備計画」において、遂に方針が示された。2019年時点で保有している201機のF-15J/DJのうち、Pre-MSIPにあたる99機は全機退役・売却となる。
残った102機は全てがJ-MSIP仕様で、これらには「F-15JSI(Japanese Super Interceptor)」という強化改造が予定されている。
これには本家最新版F-15EX同様のAESAレーダーAN/APG-82(v)1やミッションコンピュータの更新、対地・対艦ミサイル搭載能力の付与など大幅な装備更新が含まれ、コックピットもF-35のようなモニタ一枚の統合表示に変更される。
この改修によってF-15JはF-15EXに迫る先進的なマルチロール機へと変貌する……はずだったのだが、この編集時点ではかなり雲行きが怪しい。
「F-15EX同様の」というのが問題で、多くの部品がF-15EXと共通のものになっている都合、JSI生産はF-15EX生産の空き次第、ということになる。当分の間、アメリカ空軍はF-15EXを全力調達する。調達数は2024年現在で104機となっており、今後の調達は不明だが、一段落するのを待っているとJSIの調達開始は30年代まで遅れる可能性がある。
ただでさえ機体への金属疲労が溜まっているF-15Jをさらに10年こき使ったうえで改修するとなれば、JSIとしての運用期間は相応に縮むためコストに見合わなくなる。
しかしながら遅れを失くすには余計に金をかける他なく、そうなった場合は生産ラインの増設等で、当初800億円程度の見積もりだった初期費用が2400億円まで膨れ上がる、というのが米国の見解である。
結局改修に着手できたのは19年度に予算が計上された2機のみ。
20年度、21年度予算において改修費用の計上はなく、関連費用が予算化されたのみであり、その関連費用だけでも既に1000億円を超えている。
現在防衛省は計画の見直しと米国との再協議を行っているが、未だ見通しは立っていない。
19年度に予算化された2機は2023年に改修を終えて引き渡される予定になっているが、現在の状況ではこの2機のみでJSIの改修計画が頓挫してしまう可能性もゼロではない。
配備状況
1982年に第202飛行隊(新田原 2000年に解隊)を皮切りに配備が始まり、2024年8月現在は以下の部隊に配備されている。
- 千歳基地
- 第201飛行隊
- 第203飛行隊
- 小松基地
- 第303飛行隊
- 第306飛行隊
- 飛行教導群
- 浜松基地
- 第1術科学校
- 岐阜基地
- 新田原基地
- 第305飛行隊
- 第23飛行隊(飛行教育航空隊)
- 那覇基地
- 第204飛行隊
- 第304飛行隊
喪失
1981年の導入以来、現在までの喪失は12機(導入数からこの数を引くと、現在の保有数は201機)。
特筆されるのは1995年、日本海上にてF-15Jが模擬空戦中に誤って実弾を発射し、僚機のF-15Jを撃墜した事故である(Wikipedia:F-15僚機撃墜事故)。空中戦によるF-15被撃墜事例は世界で唯一といわれる。
残骸は引き上げられ、何故か市川市のゲームセンターの片隅に放置されている。このゲームセンターにはF-104Jの残骸や戦闘機用のキャリーカー等も転がっている。戦闘機の残骸が何故こんなところに……
登場作品
映画
- 平成ゴジラシリーズ
- 『ゴジラVSビオランテ』で実機が初登場したのを皮切りに多くの作品に登場。『ゴジラVSキングギドラ』ではキングギドラと空中戦を繰り広げている。
- 一方で航空自衛隊の主力戦闘機として頻繁に登場した関係上、F-1やF-2を差し置いて空対艦ミサイルや魚雷を装備して登場する作品もある。
- 平成ガメラ三部作
- ULTRAMAN
アニメ
- 機動警察パトレイバー
- Fate/Zero
- 築城基地から発進した2機が未遠川に向かい、キャスターの創り出した巨大海魔を発見する。1機は接近した結果海魔に捕食され、もう1機はバーサーカーの「騎士は徒手にて死せず」によって宝具化されてしまった。
- ひそねとまそたん
- ガーリー・エアフォース
- 「ザイ」と呼ばれる未確認物体に対抗するためにドーターへと改造された黄色いカラーリングをしたF-15Jが登場。
- ちなみにヒロインの1人でありこの機体のパイロットであるイーグルはこのドーターへと改造されたF-15Jのアニマ(少女の姿をした自動操縦装置、いわば人造人間)である。→イーグル(ガーリー・エアフォース)
- 通常機体のF-15Jも登場するが、こちらは他の既存戦闘機の例に漏れず「ザイ」に苦戦を強いられている。
- やわらか戦車
- 第49話と第50話でスクランブル待機する航空自衛隊の戦闘機として登場。
ゲーム
- ドラッグオンドラグーン
- 隠し最強ボスとして5機編成で登場する。いわゆる新宿EDにもコールサイン「スカーフェイス」の空自戦闘機が出てくるが、こちらは画質の関係もあって機種判別が困難。
- エースコンバットシリーズ
- 『インフィニティ』以降からF-15Cの派生機体として登場。兵装が異なる上位互換機といった扱い。