宮脇俊三とは (ミヤワキシュンゾウとは) [単語記事]

宮脇俊三（みやわき　しゅんぞう、1926/12/09 - 2003/02/26）とは、埼玉県川越市生まれ・渋谷育ちの、偉大なる鉄道趣味人である。

概要

中央公論社の編集者であったが少年時代からの鉄道好きで、国鉄全線（当時）の乗り潰し達成を機に紀行作家に転向。以降多数の旅行記やエッセイを書き、「鉄道紀行文学の第一人者」と呼ばれるまでになった。気取ったり知識をひけらかしたりしない、淡々とした読みやすい、それでいて独特のユーモアとペーソスに溢れた文章は鉄道マニアからの評価も高い。また、数は少ないが小説も書いており、ミステリー短編集『殺意の風景』は泉鏡花文学賞を受賞した。

質の高い作品を残しただけでなく、「最長片道切符」や「廃線跡探索」といった、それまであまり知られていなかったカテゴリを世に広めた功績もある。

長女の宮脇灯子は作家として活動している。

読んでみると当時の国鉄・地方私鉄の様子などが分かって面白いかもしれない。（現在なら同じ時間に新幹線で出発すればその日のうちに到達できる場所までブルートレインで一晩掛けて向かったり、行き先を示すサボがいい加減な表示で途中駅で車輌が切り離され駅においてけぼりにされるなど）

生涯

後に衆議院議員を務めた陸軍軍人・宮脇長吉の三男として、1926年 12月9日、埼玉県川越市に生まれるが、生まれて間もなく渋谷に移り住んだため川越の記憶は残っていないらしく、「渋谷出身」を自称している。物心がついた頃からの鉄道好きで、近所の市電の車庫などを遊び場に育つ。渋谷駅にも足しげく通い、生きているハチ公を見たこともあるという。

1945年に東京大学理学部地質学科に入学するが、中退して東京大学文学部西洋史学科に再入学したのち1951年に卒業。卒業後は中央公論社に就職して編集者としての仕事を始める。

編集者時代は「中公に宮脇あり」と呼ばれるほどの辣腕で知られ、「世界の歴史」「日本の歴史」両シリーズというベストセラーを生み、「中公新書」の創刊にも関わった。「どくとるマンボウ」こと芥川賞作家の北杜夫を発掘・デビューさせたのも大きな業績である。

その仕事ぶりから常務にまで出世するが、一方で鉄道への愛情は止まず、休日となれば鉄道旅行に出かける生活を続けた末、とうとう1977年に国鉄全線を完乗。翌年この体験をまとめた『時刻表2万キロ』で作家デビューを果たすとともに中央公論社を退社し作家専業になる。これは「今まで編集者として多くの人の原稿をボツにしたり書き直させたりしてきた以上、中公から本を出すわけにはいかない」「他社で仕事をするからには中公にはいられない」というケジメによるものであり、それ以後も中央公論社の仕事は一切しなかった。もっとも、当時の中央公論はテロ事件を発端とする長い労働闘争の後有能な社員が次々と抜けて力を失い始めていた時期であり、また闘争の時は体制側について老獪に立ち回る羽目になった宮脇にとっては居心地も悪くなっていた面は否定できない（この点については外部リンクの文章が詳しい）。

ともあれ、デビュー作の『時刻表2万キロ』は日本ノンフィクション賞を受賞するなど高く評価され、一躍脚光を浴びる。翌年に発表した2作目『最長片道切符の旅』では、「一筆書き切符」の存在を世に知らしめ、こちらも高く評価され、紀行作家としての地位を確立した。

その後も数多くの作品を執筆し、1999年には業績全般を称えられ菊池寛賞を受賞。しかしこの年に気力体力の衰えから休筆を宣言。その4年後に銀河鉄道の乗客となった。享年76。

人物像

鉄道以外にもバスや船旅も好んでいたが、飛行機だけは苦手で、海外旅行やスケジュールの都合といったやむを得ない場合を除き極力乗ることを避けており、乗るときには睡眠薬が欠かせなかった。存命中に開業していたJR線の中で乗ったことがなかったのは宮崎空港線だけである。
立ち入り禁止区域に侵入したり、ホームから身を乗り出して撮影したりなどの、近年とみに話題になるような鉄道ファンの問題行動とは無縁であった。
時刻表の営業キロについてはこだわりがあるらしく「越美北線の起点が福井でも越前花堂でもなく南福井（貨物駅）であることを電話で問い合わせる。」「東京～神田の東北本線・中央線や代々木～新宿の山手線・中央線等の路線の二重戸籍を気にする」「新幹線は在来線と同じ扱いであるから乗っても乗りつぶしの乗車距離は増えないと思っている（新幹線開業で第三セクター化される例が多い近年なら別線扱いになるので喜んで乗り直しに来そうだ。）」
大好物は酒類。特にビール、日本酒、ブランデーなどを好んだ。上で述べたように鉄道ファンとしては紳士的で大人しい人物であったが、酒を飲み過ぎた時だけは別で、青函連絡船の中で学生に絡んだこともある。
自身がデビューさせた北杜夫とは友人として生涯の親交があり、北について書いたエッセイ（未完）が遺稿となった。特に北が宮脇の隣に引っ越してきてからは頻繁に互いの家を行き来していた。悪酔いした宮脇と躁状態の北が一緒になると手がつけられない騒ぎになったという。
作家専業になってからも編集者としての眼は失わなかったようで、文藝春秋の担当編集者に歴史検証の才能を見出している。後にその編集者・加藤保栄は中村彰彦の名前で歴史作家としてデビュー、直木賞を獲るまでになった。その中村は宮脇の著書の解説の中で、「宮脇さんは非常に詳細な取材ノートをつけているので、いざ旅に出ると同行編集者の仕事は何もなかった」「編集者時代の体験談などを聴かせてもらえるので勉強になった」と回想している。また読売文学賞などを受けた作家・松家仁之も「小説新潮」編集部在籍時に宮脇の担当になっており、『途中下車の味』に同行編集者として登場している。
鉄道以外の趣味は音楽鑑賞。特にモーツァルトに心酔していた。スポーツ観戦（相撲・野球）も好みで、ヤクルトファンであった（国鉄スワローズ初年度からの筋金入り）。またスーパーマリオブラザーズ2にハマって深夜までやり込んだなどという一面もある。
関口知宏が最長片道切符で旅をするNHKの番組が宮脇の死後に放送されているが、最長片道切符の存在を世に広めた先人に敬意を表して「監修・宮脇俊三」とクレジットされている。