「寂」が「さびしい」で、「淋」が「さみしい」というわけではありません。
二つある漢字の違いと、和語としての読み(発音)の違いとは、別の
問題です。
①「寂」と「淋」について。漢字の違い。
常用漢字に載っているのは「寂」だけで、「淋」という漢字は
載っていません。
そこで、公用文、教科書、新聞などでは、「淋しい」は使わず、
「寂しい」に統一されています。
一方「淋(リン)」の方は、漢語の語素としてルビつきで用い
られることもあるようです。「淋病」のように、この「字」を使わなければ
表現できない語もあります。「りん病」では、この病気の感じが表現
できませんよね。
「淋」はもともと「そそぐ」「したたる」「長雨」などの意味を表す漢字で、
「さびしい」という意味を表すのは日本特有の用法だそうです。
ただ、日本語としての「寂しい」と「淋しい」には、それほど
大きな意味の違いはありませんので、一般社会(個人の言語活動)
では、どちらを使っても問題はないと考えます。
②「さびしい」と「さみしい」について
今では古くから用いられてきた「さびしい」の方が標準的な読みとされ、
常用漢字表では、「さびしい」という訓だけが掲げられています。
「さみしい」は、「さびしい」が変化した読み方と考えられています。
そういう事情から、放送関係(アナウンサー言葉)では、読みが「さびし
い」に統一されています。
ただし、最近になって「さみしい」となまったわけではなく、
この発音も歴史的に長く使われてきたので、共通語として認められています。
「さびしい・さみしい」と同じ源を持つと考えられる「寒」の方は、「さ
むい」が標準的な読みで、そこから「さぶい」という読みが生まれました。
こちらは「む→ぶ」という音の変化で、「さびしい→さみしい」とは逆の
方向です。
また、これも同源と考えられる「すさむ・すさぶ」という言葉もあります
が、これも「む」の方が先(標準的)のようです。「心がすさむ」「風が
吹きすさぶ」
語源をたどっていくと、迷宮の闇に包まれてしまうのですが、少なくとも
「寂」に限っては、「さびしい」の方が古いとされています。
学校の試験で「寂しい」の読みを「さみ(しい)」と書くと、間違いと
されます。
実際の言語活動でいえば、話し言葉では「さびしい・さみしい」のどちら
でもいいでしょうが、書き言葉(特に正式な文書や書簡)では「さびしい」
を用いた方が無難でしょう。