”ドンキの焼きいも”が海外で大ヒットの理由とは?「情熱価格」やローカライズなど、ドン・キホーテが仕掛ける型破りな戦略を経営の重要人物たちが語る
公開日:2024/11/8
大手量販店「ドン・キホーテ」は、なぜ、快進撃を続けるのか。親会社である株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、PPIH)が公表する「財務・業績情報」によれば、2024年6月期の決算時点で、国内外の事業を合わせた売上高は前年比8.2%増の2兆950億円。店舗数は、国内だけでも632店舗を誇る。
その内外から、PPIHによる戦略を明かすのが、経営陣らによる『ドンキはみんなが好き勝手に働いたら2兆円企業になりました』(吉田直樹、森谷健史、宮永充晃/日経BP)と、記者として企業を数多く取材してきた著者による『進撃のドンキ 知られざる巨大企業の深淵なる経営』(酒井大輔/日経BP)だ。視点の異なる2冊を読んでみると、「ドン・キホーテ」の裏側が鮮明に浮かび上がってくる。
■代名詞「情熱価格」の背景ではリブランディングへの危機感も
1冊目『ドンキはみんなが好き勝手に働いたら2兆円企業になりました』では、PPIHを率いる代表取締役社長CEOの吉田直樹氏と、代名詞ともなる「情熱価格」のブランドリニューアルを手がけたPB(プライベートブランド)事業統括責任者などを歴任する森谷健史氏、さらに、外部からブランディングをサポートした博報堂でクリエイティブディレクターなどを歴任する宮永充晃氏の3人が、それぞれの視点から「ドン・キホーテ」の裏側を伝える。
現場は人が動かす。コンサルティング会社を経営していた吉田氏は「ドン・キホーテ」に招へいされて入社した当時、社内文化を「変わってる」と思った。実際、新卒入社からわずか2ヶ月半の社員に「月間4000万円」の仕入れを任せ、平均価格「400円」の商品を年間で「50億個以上」も販売して「2兆円」の売り上げを確保する企業の動向は、やはり「型破り」だ。
ただ、かねてより大手量販店として盤石の地位を築いていたかと思いきや、2019年の社長就任時に吉田氏が、すでにあったPB「情熱価格」に危機感をおぼえたとは意外だ。
>引用(p172〜173)
当時あった「情熱価格」「情熱価格+PLUS」「情熱価格PREMIUM」の価格体系を見直し、2021年2月には、店舗名の頭文字である「ド」と「情熱価格」と書かれた新ロゴを発表して、リブランディングをアピール。マーケティング部門の新設も経て、「◯◯といえばドンキ」を打ち出すべく、PB商品としての食品や家電などの開発に熱を入れはじめた。
その詳細を伝えるのも本書の柱であるが、人気のPB商品を手がける社員たちによる貴重な“生の声”を目にすると、店舗に並ぶ商品への興味がさらにわいてくる。
■「焼きいも」が意外なヒット商品になった海外店舗
国内の都市部や郊外における認知度は、もはや言わずもがなだ。しかし、海外でも現地流にアレンジした独特の店内レイアウトで客の心をつかむ。
小売り業界などへの取材経験が豊富で、現在は日経BPロンドン支局長を務める酒井大輔氏の『進撃のドンキ 知られざる巨大企業の深淵なる経営』では、2017年12月にシンガポールでオープンした海外店舗「DON DON DONKI」1号店を取り上げている。
>引用(p34〜35)
並んでいるのは現地の商品ではなく日本の商品で、コンセプトは「ジャパンブランド・スペシャリティストア」だ。さかのぼれば、2015年。当時、PPIHの創業会長兼最高顧問の安田隆夫氏がシンガポールへ移住した際、現地の日本食品があまりに高く「憤り」をおぼえたのが、オープンのきっかけだったとは驚いた。
また、現地でのヒット商品が「焼きいも」であるのも意外で、「わずか1日で3000本」も売り上げるほどのブームに。今では、社内資格「焼き芋マイスター」もできるほどの「キラーコンテンツ」になったという。
離島にも店舗があり、沖縄県の宮古島や石垣島では「シュノーケルセットといったマリングッズ」などもラインナップしているといい、やはり「型破り」というべきか、本書を通して分かる「ドン・キホーテ」の底の深さには、感心せざるをえない。
ふと、頭に浮かぶ“あのメロディ”も耳に残る「ドン・キホーテ」は、消費者として“異色”なお店の印象も強い。しかし、そこにはたしかに人がいて、確固たる戦略がある。紹介した2冊で内情を窺い知ると、店舗への愛着も不思議と強くなってしまう。
文=カネコシュウヘイ