渋谷で野草なんてあるの?と半信半疑で出発した前回だが、山下さんの同定の速さと知識の豊富さで有用植物が見つかりまくり駅前から全く前に進んでいない。他人で例えて申し訳ないが、さかなクンと水族館を歩くとこんな感じなんだろう。
前回はようやく渋谷に新しくできた商業施設MIYASHITA PARKまでたどり着いて施設の脇にイチジクを発見した。今回は施設内の植えられている植物から見ていく。
龍角散からスタートです
山下「これキキョウですね。桔梗。龍角散に入っているのはだいたいキキョウですので。 可愛らしいですね。根っこがトラジといって焼肉屋のナムルに出てくるやつ。韓国焼肉とか大体ナムルがありますよね。白花が食べる用で紫の花が生薬に使うやつです。痰を切ったりとか咳止めの龍角散の材料です。 」
シダが好きと言いたい
「これベニシダです。そういえばベニシダ好きなんじゃないですか?」と山下さんが同行してくれていた出版社の編集の方に聞く。好きな理由は「かっこいいんですよ」とのこと。
山下さんは「かわいい」とよく言うし、植物が好きな人は我々にない感覚が備わっている…! それにしてもシダがかっこいいとは…!!
商業施設が新しく植える木とは?
今度は植えられた木について。新しい商業施設に木が植えられることはよくあるがどういうものが植えられるのだろうか?
山下「さっきクスノキがいましたけど、これがジャパニーズシナモンのヤブニッケイですね。葉脈が最後まで到達しないのが特徴で、これが最後までビシッといけば普通のニッケイ(肉桂)。」
山下「あ、いい香りですよ。八つ橋とかの匂い。これはいいですよ、美味しいですね。お酒に漬けてもいいですね。枝を入れてホットワインとかにも。 」
林「これいい匂いだよ、って言えたらちょっとかっこいいですね」
──山下さんは街で気になる植物あったら持ち帰るんですか?
山下「持ち帰りますよ。調べることが多いですね。分類が好きなので。分類癖があるんですよね。」
分類を繰り返してここまで至ってるのもすごいがそれはまだまだ続いているのか…
植栽に込められたメッセージ
山下「シロダモですね。葉っぱをひっくり返してもらうと真っ白です。さっきタモノキもありましたけどもしかしたらここはクスノキ科コーナーになってるのかも。ヤブニッケイとか同じ仲間をあえて植えている気がします」
こういうところは植木屋さんが植えるらしいが、そんなテーマがあったのか。まじまじと見たところで全く気づかないな
アク抜きしたお湯で洗濯すれば泡立つ
山下「これエゴノキですかね。昔の洗剤ですよこれ。ソープナッツと言って泡立つんですよ。サポニンで。これを川に流して魚を窒息させてプカプカ浮かんでくるのを捕まえる。そういう漁があったんですよ。水面に膜を張って呼吸をできなくさせるんでしょうね。」
──サポニンが入って洗濯ができる植物って他にも聞いたことある気がするんですが
山下「植物って大体サポニン、泡立つものが入ってますから。アク抜きしたお湯で洗濯すれば泡立ちますよ。」
へえ! サポニン、サポニンとよく聞くがあれはけっこう入ってるものが多いのか~!
植木屋からのメッセージ
山下「これがタブノキですね。線香のツナギに使いますね。これ自体は匂わないです。ビャクダンやチョウジを入れてお香ができる。除虫菊とか入れると蚊取り線香になりますね。
このコーナー、やっぱり関連性ありますね。内陸の平地の雑木林的な雰囲気。下の植物もそうじゃないですか。こういうリュウノヒゲとかね。」
植木にもテーマがあったりするのか…植栽からそういう隠されたメッセージを受け取ったことがない。人生で一度もない
山ぶどうみたいなものが渋谷に生えている
山下「あれいいですね。ああ、渋谷にこれは嬉しいかも! これエビヅルですね。これ浜辺に多いんですよ。山ぶどうみたいな実がつくんです(※昔はぶどう類のことをエビと呼んでて、茹でたらぶどうみたいに赤くなることで海老の語源にもなったそう)。
これうまいんですよ! 山ぶどうよりも濃い味なんです。これの仲間のリュウキュウガネブっていうのがあって最近は化粧水になってますね。そのうち実はなりますよ。」
どうやらこのエビヅルというのは本当においしいものだそうで文一総合出版の方も黄色い声を上げていた。渋谷で、山ぶどうみたいなものが自生しているのか…!!
ムクノキ、エノキ、ケヤキを見分けろ
山下「これ漆器を作るときの最後の最後の仕上げに葉っぱをヤスリ代わりに使うんですね。ムクノキのですね。こっちはエノキですね。エノキはツルツルしてます。この鋸歯(※ふちのギザギザ)が葉っぱの半分あたりからスタートするのが特徴ですね。ここら辺全然ギザギザがない。ムクノキ、エノキ、あとケヤキがあれば識別として厄介な樹木が三つ揃いますね。 」
──普段、植物探しに街を歩いたりもするんですか
山下「しますね。本当に変人扱いされることが結構ありますよ。」
──どういう瞬間が面白いですか見つけた時ですか
山下「こういう所だと外国から来てる植物があるんで、新しいものを発見した時はときめきますね。」
林「僕らは普通に歩いてますけども山下さん情報量が多すぎますよね」
山下「一個一個に全部意味があって歴史がありますからねああいうのとかも。」
山下「これもいいですね。イイギリですね。今いっぱい実が付いています。 生け花とか花材によく使われますね。オフィスの玄関の生け花とか見たことありませんか?」
林「あれですか! ああ、いい生花とかでこういうのある!」
山下「そうそうちょっといい生花なんですよ。 」
山下「あれは多分召し上がったことがあるんじゃないですかねお正月に。クチナシですね。これの実を使って栗きんとんの色染めをします。サフランみたいなああいう色になりますね。」
MIYASHITA PARKを見ない
山下「これはイヌツゲのグループですけど、ツゲはだいたい櫛の材料になります。 しなりがいいので。ここは洗剤もあるし、櫛もあるし、栗きんとんもあっていいですね。」
──新しい商業施設に独特の褒め方をしていますね!
林「さっきから新しくできた商業施設の方を一切見てないですね」
山下「本当だ、全然見てなかった(笑)。興味が…いや、でもほんと植物好きだと友達がほとんど70代とかですよ(笑)」
友達がほとんど70代という一文に「ハーブ王子」と呼ばれることになった人の人生の奥行きを感じる。
山ぶどう的な実を発見!
山下「こっちはエビヅルの実がついてますよね! すごいすごい! これはちょっとうれしい。野生のぶどうです。まさが実が付いてるとは思わなかった。
もう少し熟したら、あれがぶどうのように紫に黒くなって…あと1~2ヶ月ぐらいですかね。 乾燥させて干しぶどうみたいにするとより美味いですけどね。それでバターに入れる。すごいですね! 今日一番じゃないですか! 本当に実がついてますもんね。 」
山下「これは植えてるやつじゃないですね。アカメガシワっていう。伊勢神宮とかで神様のお供え物にする時のお皿に使う葉っぱですね。パイオニア植物ですよね、森林を作り上げる最初のスタートとして生えて、その後違う植物が来たらいなくなっていく。」
金色の植物を発見
山下「これキンショクダモじゃないですか。金色なのですごい綺麗。金色です。裏が黄金のように。これキンショクダモですね。シロダモの変種。毛ですよねこれ毛が。黄金の毛が。 」
名前に入ってくる動物は犬が多い
山下「これあれですかね、シデの仲間ですかね。イヌシデとかそっちの。ネコシデとかもありますよ(クマシデというのもある)。」
林「犬多いですね。植物の名前になんの動物が出てくるのが多いですか?」
山下「犬が多いですね。後は猿も出てきますね、サルナシとかね。キツネもいますね。キツネはそう見えてそうじゃない時とか、モドキとかそういう系ですね。」
山下「これ薬草の中では結構有名ですよ。タカサブロウといってアーユルヴェーダとかで『髪の支配者』として使われていて。ヘナで髪の毛を染める時に使われたりもする。タカサブロウエキスとかよく聞きますが頭皮に良いハーブですね。キク科っぽい感じのスーっとした感じの匂いで。天ぷらも美味しいですよ。でもここにタカサブロウがあるのはびっくりです。大体、田んぼの脇とかにあるんですよ!」
タカサブロウエキスという言葉は聞いたことがあるが、天ぷらにして美味しいとかは全く聞いたことがない。頭にドリルで穴を開けて知識をストローで注入されてるような時間がずっとつづく…
渋谷で植物を探すおもしろさ
山下「これもしかしたらですけど、キャッサバの葉っぱです、たぶん。タピオカの材料。都会はこういうのが多いんですよ、今ブームの植物が。隣接するマンションのベランダにあったりするんですかね? 栽培している可能性もありますね。そういうのが面白いんですよね都会は。最近売ってますからね。ありそう、どっかで。 」
タピオカブームだと聞くがまさか原材料の葉が見つかるとは! だれかが原料から自作しているのかもしれない…!!
山下「これ迷彩柄のモチーフになってるんですよね、プラタナス。」
林「迷彩っぽいなと思ってたけどこれが元ネタだったんですか!」
山下「あれもエビヅルですね、すごいですね。結構立派なエビヅルですよね。あの辺全部。壁全部ですね。俺の葉っぱ気になりますねあれなんだろう。」
渋谷にはうまいブドウ、エビヅルがめちゃめちゃ生えていた。これはもう、確実に生えている。収穫できる場所ではないが…見るだけでも楽しい
タワレコの横の歩道に蕎麦が生えている
山下「これ面白いじゃないですか。ソバですね、蕎麦の花。一株だけ何故かある。植えたのが逃げ出したんじゃないですかね。野生で絶対こんなとこにはないですよね。そばの実が転がって? その可能性はありますよね。こういうのはやっぱり都会ならではの光景じゃないですかね。おもしろいですよね。」
タワレコの隣にそばが生えている。都会なのか田舎なのか、一体もう何がなんだかわからない。
毒は仲間の植物から推定
山下「これイノコヅチですね食べやすいですよ。下半身をあっためてくれる牛膝(ゴシツ)という生薬名がついてます。薬膳とかやってる人は、ああこれが、となる。でもこっちのイヌホオズキは毒ですね。こっちが薬でこっちが毒。並んでますね」
──知らない草を食べるときって文献で調べるんですか?
山下「やっぱり大事ですよね。なんでもかんでも口にはできないので。それでも(毒や食用とも)書いてないのもあります。そういうのもなに科のなに属ってグループがあるので。アブラナ科のこのグループだったらほとんど毒ないし、とか。ただ食べてる人がいないだけっていう。」
──この場所小さいのにいろんな種類がよく生えてますね
山下「そうですね、ここ良い場所ですね。ほとんど八百屋みたいな感じですよ色々ある。エビヅルがいてエノコログサがいてイヌホオズキいますよねそれでヒナタイノコヅチ、セイヨウタンポポ、ダンドボロギク、ハルノノゲシ、ソバもありますね。」
──ここから誰かが制覇するんですか?
山下「まあそうですね、競争がありますんで。今が戦国時代かもしれませんね」
山下「ノボタンかわいいですよねこれシコンノボタンかな。
こっちはペンタス。これはハイビスカスの仲間ですね、ブッソウゲのハワイアンタイプ。最近エディブル(フラワー、食べる花)で使ってますね、サラダとかで。お花をデザートとかに使って。」
──見分け方って花から入るといいんですかね?
山下「これはもう分かりやすいですよね。花がね。ノボタンとかは園芸種なんで」
見分けられるようになるにはまず好きな植物を作ること
──見分け方のコツとかないですかね?
山下「やっぱりこの付け根とかじゃないですか。葉っぱが一対一で付いている(※対生、茎の1地点から2本対称に生えていること)とか葉っぱがずれるとか、葉脈の本数とかギザギザがあるないとか。そういうところを見るんですよね。そしたらだんだんグループが定まってくるんで。
入り口として良いのは、何でもいいので好きな植物を見つけること。何でもいいです、タンポポでもいいしスギナでもいいし。それを確実に同定識別できるようになると似ている植物を10種類ぐらい覚えてくるんですよ。」
林「山下さんは何だったんですか」
山下「僕はマムシグサですね。マムシグサファンなんで(笑)。すごく毒々しい花ですけど(※実際毒があるらしい)植物オタクがすごい群がる植物ですね。僕はそれが入口でしたね。」
マムシグサ、検索などしてみてください。はっきりと悪そうな花です。ニコニコ動画で流行る歌の歌詞に出てきそうです。
山下「これ多分人が運んでますね歩いてる人の足の裏にくっついていくタイプですね。オオバコ。のど飴とかに入ってる。でもこれイタリアだと最近野菜として使われてるんですよね。噛むとキノコっぽい味がするのでポルチーニリーフって言われるんですよ(※この辺の知識はもう検索で出てこないがエルバステラ=セリバオオバコという野菜がイタリアであるそうだ)。」
お店が飾ってる植物もある
タワレコ前の歩道の植栽を見て今度はお店が演出のために店の外に置いてある植栽から。
山下「これおいしいですよ、グレパレリーフですね。これは青りんごみたいな味がするのでサラダとして使ってる。シャキシャキで。今回はぬか漬けでこれを出したんです。美味しい。」
山下「これはアガベですね、リュウゼツラン。これの仲間でテキーラを作るんですよ。全部が全部テキーラができるわけではないですね。アガベの中でそういう種類があるんです。 」
ど根性系の小さな植物も愛でる
そして今度は植え込みでもなんでもない、道と店の間にあるすき間からかろうじて生えている小さな草について。
山下「お、これいいですね。カニクサですね。カニクサ。カニクサこんなとこに生えてるんですよ。これ結構高いですよ買うと。リース(※花や葉で輪っか作るやつ)やる人とか向けで。これ可愛いんですよ。これはツル性なので結構大きくなるんですよカニを縛るっていうのでカニクサっていうんです(※ツタで蟹を釣る説と葉の形がカニの形に似ている説もある)。お茶としても生薬としても使ったりします。 」
草餅はヨモギではなく、つなぎ目的の草だった
山下「隣がチチコグサモドキですね。元はハハコグサという植物ですかね。毛が多いでしょう。ちぎるとこういう白い若い毛が。これをつなぎとして草餅を作るんです。草餅は江戸時代ぐらいからよもぎになったんです。もち米が一般的になる前はこういう毛をつなぎにしてふつうのお米で作ってたんです。(※ハハコグサには柔らかい葉を草餅に使用したことから葉々子草という語源の説も) 」
山下「これヒメムカシヨモギですね、死にかけてますけど。いやー、よく生きてますよね。」
林「ヨモギってついてますけどヨモギの匂いがするんですか?」
山下「しないですよね。広島でよもぎの代わりとして使われたっていう説があるんですけど(※もはや検索で出てこず)、でも何で広島なんですかね~」
知識まみれの濃すぎる回に
──駅前に戻ってきたので終わりましょうか
山下「いやー、意外に面白いですね。渋谷でこういう見方は僕も初めてで。結構植物あるんだなと思って。」
林「このシリーズでも一番移動距離の少ない回でしたね」
山下「いつもやってるワークショップでも大体こうなんですよ。場所は海だったり山だったりさまざまですが。一人の時は全然たどり着かないです(笑)」
植物が好きだと見るものが多すぎる
渋谷には人がたくさん訪れる。なので靴や服にくっついてきたタネで各地から植物が集まる。さらに観葉植物やら食べかけのものなど、いろいろな流行の植物が集まる。
タピオカが流行っているのかキャッサバの葉っぱがなぜかあった。リュウゼツランはお店のディスプレイとして流行りの一つだろう。
新しい商業施設のために植木屋さんがテーマを持って植える。そしてそのテーマを無視してタネが飛んできてエビヅルやら蕎麦やら意外な植物も生える。
たしかに色々な植物が渋谷に集まっていた。そしてそれを発見して一瞬で同定する植物好きの凄さと見ている世界の豊かさよ。ハチ公口からタワレコまで行って帰る片道5分の散歩に往復1時間半である。
そんな世界を垣間見られた贅沢な時間だった。