ネットに超クールな“職業データベース”が出来つつある

この前、「インターネットが子供のキャリア形成プロセスに与える影響」というテーマで講演をしました。

“子供”とは、小学校5,6年生から中学生くらいを想定して。

ちきりんはインターネットの中には今、子供がキャリア形成の参考にできる情報がものすごい勢いで蓄積されつつある、と感じてるんです。


1.多彩な職業情報

ネットでの個人発信情報はまだまだ匿名が多いけど、職業については開示している人が多いでしょ。

ブログやツイッターのプロフィール欄には、「金融マンです」、「商社勤務」、「公務員やってます」、「IT屋さんです」、「web designとかいろいろ」、「本作ってます」、「脳外科医」など職業に関する記載が多いし、

ブログ名にも「ある介護士の日記」とか「田舎の教師のひとりごと」みたいな職業を軸にしたタイトルが目に付きます。

地方都市に生まれると、子供に見える職業の幅が広くないんだよね。

私自身もそういう地方都市で生まれ育ってますが、周りには公務員と銀行マンくらいしかいなかったり、大半が農家+準公務員です、みたいなエリアもある。

東京など都会だと、友達のお父さんが舞台監督だとか、○○ちゃんのお母さんはスタイリストだとか、職業の幅がもっと広いのに。

もちろん東京のど真ん中に生まれたって、自分の家族や友達の親つながりの職業以外を(子供が)知る機会はとても少ない。

先日の社会人向けの講演でも「今ついている職業を、中学校の時に知っていましたか?」と聞いたら、半分強は知らなかったと答えてた。

そんなもんでしょ。

ちきりんも実際についた職業について、当時は知らなかった。

ネットで発信する個人は、必ずしも仕事についてつぶやいたり書いているわけじゃない。

けれどプロフィールや発言を読めば職業名がわかる場合も多い。つまりネットにはいま、着々と「職業リスト」が作られつつある。


2.職業への具体的なキャリアパス情報

子供がキャリア形成について理解できないことのひとつが、「どうやってその職業に辿り着くのか」という現実的なパスなんだよね。

子供に見えているのは「医学部にいって医者になる」「法学部にいって弁護士になる」というような、少数の単純な例だけ。

ところがネットの中で職業を開示している人のブログやつぶやきを継続的に読んでいると、人が特定の職業に辿り着くにあたっての具体的なパスが開示されていることに気がつく。

たとえば下記みたいに。

・本が好きで文学部に進学→大手メーカーに就職→CSR部門に配属→環境ベンチャーと取引をする仕事→自分でも関わりたくなり、環境ベンチャーに転職(現職)


子供が「環境に貢献できる仕事がいい!」と思った時、こういう具体的なキャリアパスを思いつくのは不可能でしょ。リアルな社会を知らない子供が、まさか文学部からこういうキャリアが始まるとはとても想像できない。

その他にも、「洋服屋で働いていたけど書店員になったら天職だった」
「国のための仕事がしたいと思って霞ヶ関に入ったけど、今はシンガポールにいる」
「内定ももらっていたけどやっぱり起業することにして渡比した。」など、
ネットに存在する具体的なキャリアパスにはドラマが溢れてる。

もちろん「金融業界でバリバリ働いていたけど、ちんたら生きることにした」みたいなのもアリ。

こういう現実的で具体的なキャリアパス情報は、今までは世の中に存在しなかった。

あちこちのブログやツイッターを読みながら、ちきりんは「これはすごいデータベースができつつあるよね!」とワクワクしてる。


3.専門的な情報や知識

どこの業界にも「業界の中では秘密でもなんでもなく、みんな知っている」という情報や知識があります。

しかしそれらの情報や専門知識の大半を「業界外の人」は知らない。

こういう「極秘情報ではないけれど、一般には広く知られていなかった」というレベルの業界専門知識や情報が、今はネット上にどんどん開示され始めている。

特に特定のトピックに特化してそれなりの知見を開示しているブログでは、必然的に高度な業界情報を含むことになる。

その業界にいる人にとってはたいしたことはなくても、外部の人が学ぶには相当のコストや時間や人脈が必要となるような、すばらしい情報が惜しげもなく開示されてるブログも多い。

ネットでは、こういう情報を誰でも無料で読める。

もちろん中学生くらいの読解力があれば、内容も理解できる。

今まで子供が「将来は○○になりたい」という時、彼らはその仕事の内容や、リアルな職業生活をほとんど理解できていない。

イメージで憧れるだけ。

だけど、これからは自分のなりたい職業について、それらが実際のところどんな職業なのか、あらかじめ調べることができる。


大学の先生になりたい!という子供は、実際の大学の先生のブログをいくつか読めば、彼らがどれほど「研究とも教育とも無関係な書類仕事や雑事」に追いまくられているか理解できる。

弁護士を法律の専門職として憧れる子供にも、大半の弁護士にとっては法律知識だけではなく「営業も含めた事務所の運営管理」がいかに重要な仕事であるかを理解する機会が与えられる。誰だって自分が憧れている職業の人が発信する情報は熱心に読むもんだ。

こういった特定の職業の実際的な側面は、今までは就活中の大学生でさえ知らなかったコトも多い。

「自分は営業が不得意だと思ったから会計士や弁護士になったのに、営業力が士業にとってもこんなに大事だとは知らなかった!」と、

資格取得に何年ものお金と時間を注ぎ込んだ後に気がつく、みたいな笑える話はこれからは少なくなるでしょう。


4.超リアルな個人の感情や思い

加えて、多くの人がとてもリアルな個人の思いをネット上に開示している。

「IT屋さんです」という人の「今日はなんとか終電に間に合いそう」とか、「やばい。起きたら午後3時。洗濯だけで休みが終わった・・」というようなつぶやきは、その職業のリアルをビビッドに伝えてくれる。

派遣社員の方の「今月で終わりと今日言われた。ふー、結構気に入られてると思ってたんだけどなー。また登録にいくかー」というような文章を12歳の時のちきりんが読んでいたら、いったい何を感じただろう。

リストラ顛末、突然の辞令、上司との折り合い、将来への不安、思いもかけない成功の喜び・・・こんなリアルな就業情報が手に入るなんて、これから職業形成をしようという世代の人はなんてラッキーなんだろうね。


というわけで、
1.幅広く多彩な職業について
2.その職業にたどりつくまでの具体的で現実的なパスと共に、
3.職業の専門的な情報と
4.リアルな就業情報が、
ネットにはいま、着々と蓄積されつつある。


今はまだこれらの情報を「キャリア形成に有用な情報である」と認知している人も多くないし、ましてやそれらを体系的にキャリア情報として利用しようという動きも普及はしていない。

でも、そのうち中学校の夏休みの宿題で、
「インターネットの中から、今あなたが知らない10個の職業を探してきなさい。その10個の職業の内容と、それに就くまでのキャリアパスをまとめてレポートにして提出しなさい」
みたいなのが出始めるかもしれない。

提出されたレポートをクラスで発表会を行って共有したら、新たな世代の中学生は、ちきりんの時代とは全く違うキャリア感をもつことになるだろう。


みたいなことを(先日の)講演ではお話ししました。


そんじゃーね!