AP通信が、「hopefully」という単語を文頭に独立して持ってくることを許可する、と29日に発表した。どういうことかというと、
Hopefully, you will come.
という文章を記事に書くことを認めたということ。
はぁ?という感じ。それ以外にhopefullyを使うタイミングが思いつかないくらい普通にHopefully, って使いますよね。
で、hopefullyを文頭に独立で置いてはいけない派の争点が何だったかというと、
1)hopefullyは副詞である
2)副詞だから、かかる動詞が必要である
3)Hopefully, と文章を始めると、かかる動詞がなく宙ぶらりん
4)その上、Hopefully, you will come.は「できればきてくれるといいな」という意味で、来てくれるのを望んでいるのは発言している主であり、文中に登場するyouではない。それってdangling modifierだ。
+++dangling modifierについて。興味のない人は飛ばしてください。+++
dangling modifierは、主語が大事な英語ならではの文法ミス。たとえば、
Walking down the street, I saw my mother.
は正しい。「道を歩いているところで、私は母を見かけた。」walking しているのは主文の主語の「I」だから。そして、Walking down the streetの部分は、「I」の状態を規定している(他の何かをやっている自分ではなく、道を歩いている自分が、と限定してるわけです)ので、modifierと呼びます。
しかし、
Walking down the street, the trees were beautiful.
は不正解。「道を歩いていたら、木々が美しかった」と主語がないのが当然の日本語では全く問題ない訳文になってしまうが、英語だと、この文章の主語はthe trees。なので、文法的には、walkingの主語もthe treeにならなければならない。で、
「木が道を歩くんか」
と突っ込まれるわけですね。こういう時は、Walking down the streetは、the trees were beautifulとは意味的に繋がらない宙ぶらりんなものになる。宙ぶらりん=dangling。なので、dangling modifier.
もとい、Hopefully, you will come. はhopeしているのがyouじゃないぞ、dangling modifierだぞ、と
+++dangling modifier説明終わり+++
といったあたりが「Hopefully, 」反対派の強い信念で、このAP通信の決定を報道したWashington Postの記事には700近い熱いコメントが寄せられた。一般人の知らないところで、文法オタク界の熱い戦いが繰り広げらた模様。
Sadly, Mercifully, Thankfully, Frankly, Regrettably, などは単独で文頭に使うことに文句をいう人は誰もいない。それなのに、なぜか「Hopefully,・・・」は、ディープな文法ギークの間で、嘆かわしい文法ミスという考え方が定着していたようだ。
が、しかし、現実には、Hopefully, は普通に使われている。Oxford English Dictionaryでも、正しい用法として採用されるに至った。
そして、このたび、APもついに負けてHopefully,を許すことになったわけです。
ちなみにMerriam-Websterという辞書は、
「Hopefully, を文頭に単独で使う用法の起源は18世紀初期にさかのぼり、1930年代からは広く一般的に利用されている。1960年代になってはじめて文句をいう人たちが出始めただけ。この用法は全くもってスタンダード」
と言い切っている。
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これって、日本の「全然」に似てますよね。「全然・・・ない」と必ず「ない」でしめるのが全然の正しい用法とされてきたが、実は明治時代から戦前にかけては「全然ある」でOKだった模様。そして最近また、「全然同感だ」みたいなの否定のない用法も俗用としては辞書でもOKになってきているみたい。
というわけでHopefully, 全然大丈夫なんです。
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おまけ:
前回のブログのタイトルに「シリコンバレーメシウマ事情」と書いて、翌日になってから気づいたんですが、「メシウマ」は現代日本語では「他人の不幸は蜜の味」という意味でしたね。すっかり忘れて「飯が美味い」という意味で使ってしまったよ。
ちなみに、「他人の不幸は蜜の味」は、英語圏ではドイツ語を借用してschadenfreudeといいます。シャーデンフロイデ。でも、文語調なので、高校生がオンライン掲示板で使ったりしないですが。
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Hopefully, 母音が聞き取れるようになるといいですね↓
母音聞き取りマスターのためのiPhoneアプリ:Listen-IT
へー、こんな議論があったこと、全然知りませんでした。Merriam-Websterではないけど、こんなのとっくに定番だと思ってました。たしか大学受験の時に使った、日本の英文法の参考書にも出てたと思うなー。
全然の方は、確かに自分も「全然大丈夫」とかなり前から言ってたと思うけど、言語学者のお墨付きがあるとは思いませんでした。ちなみに中国語のサイトで、こんな説明がありました。
http://baike.baidu.com/view/1175037.htm
古代中国語で使われた言葉で、「全く」という意味の場合、後に続くのは肯定形でも否定形でもよかったみたい。またその他、「完璧な」「完全に美しい」という意味もあるみたいです。
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