今朝の新聞に、「病院の救急受付がいかに危険か」という記事が載っていた。
シリコンバレーはSan JoseにValley Medical Centerという公立病院があるのだが、そこの救急受付にはガラスのシールドがある。患者と病院の受付の人との間が強化ガラスで仕切ってあって、怒り狂った患者から病院職員を守っているのであった。で、このガラスを取り外そう、という案があり、受付で働く人から「身の危険が!」とクレームがあがっている、と言う記事だ。強化ガラスの厳重な仕切りっぷりはリンク先の写真を見てください。
なんでこんなことが起こるかと言うと:
- アメリカ国民3億人中、4700万人が無保険。生活保護を受けるほど貧困だと公的保険があるので、無保険はいわゆる「ワーキングプア」の人たち。
- そういう人たちは、本当に具合が悪くなったらやむなく公立病院の救急へ行く。基本的に救急はどこの病院でも患者を拒否しては行けないのだが、特に公立病院の場合は必ずそういう人をケアしないといけない。なので、多くは公立病院へ。
- 公立病院の救急の待ち時間は8時間とか、そいういうとてつもない長さ。こちらの記事によれば、Los Angelesの方にあるとある病院の救急では、平均待ち時間12.2時間、16.6%の人が待っている間に諦めて帰ってしまうと。(そして、病院の駐車場で死んだ、といった事件が時々起こる)。
シリコンバレーの別の公立病院のSan Mateo General Hospitalで働く人に話しを聞いたことがあるが、
「2食分のお弁当を持って救急に来る人もいる」
とのこと。(それくらい待つことを覚悟できている訳です。)
というわけで、そもそも公立病院の救急に来る時点でかなり切羽詰まっている人が多く、しかもこんなに待たせられて怒り心頭。そして銃は簡単に手に入る。
で、強化ガラスで受付の人を守らないとならない訳です。金属探知機がある病院もあるとのこと。
病院にかかる方も命がけなら、病院で働く人も命がけなのであった。
ちなみに、ミニ知識ですが、アメリカで無保険の人を病院が見た場合、料金を支払ってもらえる割合は10−20%。保険がある人でも、自己負担分は個人が支払うのだが、この集金率もたった50%。(McKinsey Quarterly: Overhauling the US health care payment systemより。このレポート、アメリカの医療経済がマクロでどう動いてるか知りたい人は必読。登録すれば誰でも無料で読めます。)
で、そういうコストは回り回って税金として国民に降り掛かってくる。ホント、ダメですね。
オバマがこけたら、アメリカから日本への移民希望者が続出するかもしれませんね。日本は手厚いですよ。行き倒れた場合、名前や住所がわからなければ、例えば東京駅ならば、東京太郎、東京次郎、東京三郎と順番に名前が割り振られて、治るまで入院できて、ただ、結局、こっそり逃げていってしまうことも。で、最近起きているのは、病院間の、緊急連絡ネットワークが未熟なのと、救急患者でない人がいるので、混乱しているようです。このことについては、アメリカの方が臨戦態勢みたいなのはうまいので、たぶん、警察経由のような救急活動はアメリカの方が上だと思います。
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>オバマがこけたら、アメリカから日本への移民希望者が続出するかもしれませんね。日本は手厚いですよ。
まさか。
同じ不景気でも過労死が当たり前で、新卒以外の転職組が冷や飯ぐらいの日本に来たがるとは考えにくい。
>行き倒れた場合、
運良く「行き倒れた」と認定してもらえれば良いけどね。
つまり「生活保護を受けるほど貧困だとお役所が認定」してくれれば手厚い保護も期待できる。しかしそうでない大半の労働者層は死ぬまで働かすことが黙認されている。
ましてや日本語が話せない層に対する日本の職場環境は極めて冷たい。そういう人達が今の不景気な日本に来たとしても、最底辺のブラック企業の使い捨て派遣社員として勤めるのがやっとで、過労死しようが餓死しようが経団連も政府も指一本動かさないでしょうよ。
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アメリカではお金がない人が病院に送られてもタクシーで街に放り出されるそうですね。やっぱり、どう考えても日本の状況のほうがいいです。今回の金融危機+中国重視の民主党政権樹立をひとつ機会にして、過度のアメリカ追従をやめたほうがいいと思います。
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移民ではないけれど、航空代払っても日本で治療した方が安くつくと、帰って来る話はある様です。
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僕も何年か暮らしていたことはあったのですが、こういう現状はまったく知りませんでした。 いやぁ・・・強化ガラスの向こう側に受付ですか・・・
テレビでER見てたこともあったし、病院(clinic)に行った事もありましたが、私立のクリニックだったからかな? 現実の公立病院がそこまで悲惨な状況だったとは、確かに日本よりひどいかも。
オバマ大統領がこの病んだ国をどう建て直すのか?
マケインが当選してたら、あまり変わらなかった気もしますが、オバマなら、もしかしたら・・・とい言う気はしてます。
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トピとは外れますが、日米の医療現場比較のコメントがあったので。
顕微鏡受精をアメリカで受けました。日本だと保険不適用でもおよそ50万、こちらでは平均200万前後から。日本の婦人科、不妊治療科では、注射の日には一列に並ばせ家畜のような扱い、反して米国では完全にサービス業化しているので、患者のプライバシーは一番重視され、本人の意思を尊重してくれます。技術や内容、結果だけを見れば倍払っても米国でやって良かったと思います。金額に見合っています。
でも、事務手続きに限っては、日本の病院は米国に比較にならない程迅速で確実、救急の窓口で口論が絶えないのも、米国の医療現場のproductivityが向上しないのも、メディカルアシスタントとかアドミに就く人間の総体的なオーガニゼーション能力が低いからではないでしょうか。
私は南CAの救急で7時間待ったのが最長です。
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>日本の婦人科、不妊治療科では、注射の日には一列に並ばせ家畜のような扱い、
それー,わかります!!私もそうでした!
一方で,医師二人がかり,二時間近く”拘束?”しての遺伝子相談は,保険適用で1300円程度。
相談に応じてくれた医師たちはとても親身になってくれて,家畜扱いの恨みはどこへやらというぐらい。ありがたかったけれど,このアンバランスって大丈夫なのか?って心配にもなりました。
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まちがい,「遺伝相談」でした。
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>アメリカではお金がない人が病院に送られてもタクシーで街に放り出されるそうですね。
日本でもそういう事件はあったけど?
もちろん米国の保険制度にも問題はあるという話は既にこのブログでも指摘されているけれど、日本の医療制度を過度に美化するのも止めた方がいいですよ。そういう竹槍でB29を落とせといわんばかりの精神論が、現場を疲弊させ医療崩壊を起こさせているんだから。
だいたい金を持ってない人を治療して病院が赤字になって倒産したら、一体誰が責任を取ってくれるというんです?
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>日本でもそういう事件はあったけど?
これは上記にあった制度利用の為に、新たな行き倒れ偽装だったようだけど。
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昔、パブリックエネミーの911 is a joke という歌がありましたが
それを彷彿させる話ですね。(^^;
私が住んでいるオーストラリアでも、公立病院の専門医に予約を
取るのは難しく、半年待ちは当たり前と言われています。
かくいう私も、先日、胃痛に見舞われGPの予約を取るのに3日待ち
(こちらでは、general practitionerに紹介状を書いてもらわないと
専門医に会えません)そして、専門医の予約が取れたのは1ヵ月
後でした。(公立ではもっとかかるので、私立病院にしました)
まぁ、私の場合は幸いERのお世話にはなりませんでしたが…
緊急の時が怖いですね。
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日本を美化するつもりはありません。日本の制度にも問題があると思います。ただ、アメリカよりはまだまし、と言っただけです。日本はアメリカの10年後を走ってると、よく言われるので、そうならないでほしい、という思いからコメントしました。
http://www.asahi-net.or.jp/~rp8i-fkm/managedcare.html
たとえば、このページに書かれているようなことが起きているのなら、理屈はいろいろあるかもしれないけど、フラットに考えて、なにかおかしいなと思います。弱者や敗者に対する最低限のいたわりや、愛がなさすぎませんか?
日本のサラリーマンが一生で稼ぐお金の平均が約二億と言われていて、努力したり、リスクとったりして、その何十倍も稼ぐ人がいるのは夢があっていいことだと思うけど、一方で最低限の医療も受けられない人が多数いる社会というのは、あまり褒められないというか、、そんなところです。
最後に、いろいろ書いて、ご迷惑おかけしました。渡辺氏のブログは毎回興味深く読ませていただいております。真に読むに値する数少ないブログだと思います。
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アメリカ(カリフォルニア)で、子供を出産しましたが、予定より5週間早く生まれたために、10日間集中治療室に入っていました。体重は2800gあったので、特別大変な治療などは必要なかったのですが、病院からの請求は1450万円でした。HMOの保険に加入していたので、自己負担分の7000ドルを払いました。(私は2晩で退院させられたので、産後の痛い体を引きずって、毎日病院に通い、母乳をあげるため、集中治療室に缶詰状態でした・・・)
ほぼ同じ体験をした(早産・2週間の集中治療室)日本に住んでいる親友が病院から受け取った請求額は、17万円。払った後に、国が負担してくれて、その後出産手当など給付され、結局はプラスだったそうです。
日本に帰って出産したかったなぁ・・・
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chikaです
アメリカの医療は、日本と違ってすごーい素晴らしいところとめちゃくちゃにひどいところが入り交じってます。なので、特別なケースの報道を聞いてそれを全体に当てはめると全く間違っちゃう、という問題が。
>お金がない人が病院に送られてもタクシーで街に放り出される
「お金の有無」より「健康保険の有無」が大事です。通常健康保険がないヒトはお金もないのですが、保険はあるけどお金がないヒトも沢山いますので。(本文でも書きましたが、本当に貧乏な人には、Medicaidという公的保険があります。それから大量にいる退役軍人には、退役軍事病院が全米に多数あり、そこでほぼ無料で全医療行為が受けられます。)
そして、保険もお金もなくてもタクシーで街に放り出されたりはしません。そういうヒトのために公立病院があるのでした。タクシーで・・・は「そういう事件があった」というだけです。(救急車で街に捨ててた事件、というのもLAでありました。ちゃんと家族のいるおじいさんをうっかり浮浪者と間違えて捨ててしまって発覚した、というアメリカンな事件でありました)。
日本で産婦人科が不足し、産気づいた女性がたらい回しで死んだ、という事件があったからといって、「日本では出産しようとしてもたらい回しで死ぬらしいですね」というと、それはさすがに言い過ぎなのと一緒です。
というわけで、日本とアメリカの医療、どちらがよいか。
これまでにも何回か書きましたが、日本の医療は決して悪くない。単に医療への支払額(というか国家財政上の医療へのアロケーション)が低すぎるだけ。コスト抑制力的に、アメリカ方式(=半官半民の中途半端な市場主義)はかなり最悪ではあります。
ただし、通常の医療は全て予約制なので、行けば基本的にはすぐ医者に会えて(ま、そこはアメリカ、ちょっとは待たされることも多いですが)、どんなに軽い症状でも10分−15分はじっくり見てくれる、というのはアメリカのいいところ。「8時間待ち」は公立病院のERに限られた事態です。
あと、急を要する時は一気に事が進む、というのもアメリカ式。日本みたいに「一刻を争って手術するべき状態だが、ベッドがあくのは3ヵ月先なのでそれまで手術できない」てなことはなく、「診断→即刻手術」で、軽く診断してもらったら重大な病気が見つかって、その日のうちに緊急手術した、なんて話しも多々あり。
トータルで見ると、医療コスト増大の負荷を、患者に転嫁しているのがアメリカ、医療従事者に転嫁しているのが日本って感じでしょうか。(でも、アメリカでも、医者は、自分の子供には医者になるなと言う状態ですが。)
国全体でみると日本式医療の方が正しいと思います。ただ、健康保険も持てて、自己負担分も払える立場からすると、アメリカの方がいいんですけど。痛し痒し。
なお、アメリカからわざわざ日本に行って病院にかかるヒト、います。圧倒的に安いので・・・。最後の方も書かれている通り、ICUは相場1日、100−200万円。何度か書きましたが「点滴一本20万円」てな感じです。
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アメリカの救急医療事情
渡辺千賀さんの少し前のブログですが、「命をかけて病院に行く人々」というものがあります。アメリカの医療事情の貧しさの新聞記事を参考にされているみたいです。今日本では病院の受け入れ不能の事例が何回かニュースになっていますが、向こうではどの程度この救急の待ち時…….
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