イシューてんこもりのタイトルですみません。
月曜に発表されたハーバード大学の学部生向け学費値下げ。正確には学費の「正札価格」は変わらないのだが、親の世帯年収次第で、学校が多額の奨学金を出すことにした、ということ。結果、学生の負担はこうなる:
- 世帯年収6万ドル(約700万円まで)だと無料
- 世帯年収18万ドル(約2000万円)までだったら、世帯年収の10%以下
前者の方は、2004年からある奨学金。(ただし、年収制限は最初4万ドルだったのが、去年、6万ドルまで引き上げられた。)今回さらに18万ドルまでの収入の家庭に救済策がもうけられたわけです。
この結果、「現在の生徒の半分以上が値下げメリットを享受する」そうな。つまり、「半数弱の生徒の親の世帯年収は18万ドル以上」なんですね。
で、あちこちのニュースで、10万ドル台の年収の「ミドルクラス」に救いの手が、となっている。まぁ、全国平均世帯収入が4万8千ドルの国で、10万ドル台をミドルクラスというか、という気もするが、親の実感には即してるんだろうなぁと思います。
というのも。
ハーバードの学費は今年間3万ドル強。寮費等入れると4万5千ドル、ということで、子供を一人卒業させるのに2000万円超かかるわけです。
日本ではちょっと誤解があることもあるのですが、別にハーバードが他の大学に比べて学費が高い訳ではありません。これが全米相場。「全米大学、学費が高いトップ10リスト」にもハーバードは入ってない。(このリストには、イェールもプリンストンもスタンフォードもどこも入ってません。)
子供が一人だったらまだしも、アメリカ人は子だくさん。複数の子供が、みんな大学進学した暁には大変でございます。アメリカの家計を圧迫する最たるものが子供の学費と言われるゆえんで、年収10万ドル超でも悪戦苦闘、という感じになる。
そこで、今回の値下げとあいなったわけです。
- なんでこんなことができるのか
ハーバード大学はお金持ち。寄付金による基金であるところの「endowment」が350億ドル、4兆円近くある。(今年6月末時点の価値。)endowmentというのは、これを元手に運用して、運用益を使いましょう、というもので、基本的に元本は減らない。ハーバードでは、逆にどんどん増えてしまってます。2年前には250億ドルだったし。2年で1兆円増えちゃったわけです。
一方、今回の措置で、ハーバードが出す奨学金は年間9800万ドルから1.2億ドルに増えると試算されており、差額2200万ドル、約24億円なり。これは、endowmentの運用利回り0.06%分でしかない。ちなみに、2007年のハーバードのendowment運用利回りは23%。0.06%くらい屁でもない訳です。
(っていうか、「こんなに儲かってるなら、ケチケチ言わずに学費ただにしたら?」という気もする。)
ちなみに、2004年には、ハーバードのendowmentを運用するファンドマネジャーのうち、トップ6人の年収合計が1億ドルを超していることが判明、寄付をしている卒業生等の間で「ちょっとひどいんじゃないの?」という声も上がっていた。ま、でも、ファンドマネジャーたちはそのサラリーを補ってあまりある儲けを大学にもたらしているわけでもあります。
- アメリカの有名大学のビジネスモデル
さて、かように多額なendowment。この出元は卒業生の寄付。もちろん、卒業生じゃなくても寄付して全然かまわない。(ラリーエリソンがハーバードに約束した$115 millionの寄付を取り下げ、てなニュースもありました。)でも、やっぱり卒業生からの寄付は大きい。大学にとって学生は、卒業してからこそが大事な顧客だったりする。以前「大学が卒業生を値踏み」というエントリーを書いたが、そこから引用すると:
アメリカの大学は
「この卒業生は生涯総額いくらの寄付をくれる可能性があるか」
ということを、見積もっているのだ。どの大学にも専門のチームがいて、世の公開情報を常に分析、どの卒業生がどれくらい公開企業の株を持っているか、どこかの会社で重要な地位についていないか、などを調査し、それに基づき「卒業生の(大学から見た)生涯価値」を決めているのだそうだ。
「生涯価値」が高い人には特別な寄付のお願いが行くことになる。「学長とのランチ会にご招待」とか。
で、(スタンフォードでは)「これまでの寄付金額」「過去3年間の寄付金額」などと「生涯価値」が一覧で出るようなデータベースがあって、「ふーむ、このあたりを攻めよう」などと戦略を練っているのである。
つまり、アメリカの有名大学のビジネスモデルはこうなってるんですな:
1.将来成功しそうな生徒を集める
2.教育/研究活動を充実させる
3.成功した卒業生に、2の成果を見せて、寄付してもらう
4.1に戻る
もちろん、過去ずっとこんなだった訳じゃなくて、endowmentの巨大化はここ10−20年の話。ついつい過去のやり方に引きずられて学費をあげることに躍起になってきた訳だが、ふと「あれ、endowment収入が桁違いじゃん」と気づいて、それを原資に学費を下げた、ということでしょうか。
学費を下げることによって、上記1で、いっそう優秀な生徒が集められるようになる、という狙いも大いにあるでしょう。
一方で、endowmentが何千億円とか兆円単位であるのは、ごくごく限られた一部の大学のみ。しかも豊かな大学とそうでない大学の格差は広がっている。で、ハーバードがいくらスバラシイ教育をしても、毎年の卒業生は1700人に満たない。(アメリカの大学は学生数が少ないのだ。)「こんなことでええんか、それより、世の中の多くの大学に広く資金を行き渡らせて、平均レベルの底上げを図るべきではないか」という意見はもちろんあります。
あるのではあるが、今回の学費削減措置はもちろん、やらないよりやった方がずっといい。
- 何が起こるか
今回の措置の一環としてハーバードは、ローン型奨学金を撤廃、返済不要な奨学金に全て切り替えたそう。アメリカの学生は、親にも学費を出してもらいつつ、自分もちょっと借金して、就職してから働いて返す、ということも多い。学費が激しく値上がりし続けた結果、ローン返済用に高給の仕事につかざるをえない卒業生が増えていたが、返済しなくてよい奨学金が多額に出れば、NPOやら教育やら、収入の低い仕事を選ぶ自由もできる。
で、さらに、他の大学も学費値下げに追随すると想定されてます。競争上仕方なく。実際、ハーバードの発表の翌日には、イェールが「1月に新プラン発表」するとし、Caltechは年収6万ドル以下の家庭用にローンを返済不要奨学金に切り替えることを発表。
競合製品の値下げが発表され、あたふたと値下げ発表するソフトウェア会社みたいですね。
アメリカの大学というのは、世界から優秀な人材を呼び込んで、その人材と、人材の研究成果の知的資産を国内に広めるというサイフォンとして、アメリカ経済の発展になくてはならない存在な訳ですが、その陰には、こういうビジネス的カイゼン・カイカクの努力が常になされているのでありました。
東大も年収400万円以下の家庭は学費を無料にしましたね。大学院の授業料も、無料にするとか。
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ホントに?スゴイ!
留学をあきらめた最大の要因が学費だったけど、タダならありだなあ・・・(三大都市圏以外で年収1800万以上の家庭はほとんどない)。もう一度考えてみようかな。
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>でも、ファンドマネジャーたちはそのサラリーを補ってあまりある儲けを大学にもたらしているわけでもあります。
この部分は、少しは日本の経営者たちにも見習って欲しいのであります。
「潔白です」「悪気はありませんでした」「違法なことはしていません」でも
「利益も出していません」であるのなら、
経営者としての存在意義などないと思うのであります。
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>でも、ファンドマネジャーたちはそのサラリーを補ってあまりある儲けを大学にもたらしているわけでもあります。
この部分は、少しは日本の経営者たちにも見習って欲しいのであります。
「潔白です」「悪気はありません」「違法なことはしていません」でも
「利益も出していません」であるのなら、
経営者としての存在意義などないと思うのであります。
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っていうか年収6万ドルじゃハーバードには行かせられんでしょ,普通w
それだけの教育等受けさせられないでしょうし
親が失業しちゃったケースとかが当てはまるのかな?
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chikaです
>東大も
日本の大学の学費は元が安いから、アメリカの大学ほど無理しなくても、「学費が出せなくて大学いけない」っていう人の割合は相当少ないと思うんですよね・・・。
>タダならありだなあ
留学生にも適用できるかは不明。でも、奨学金って探すといろいろあるもんですよ。
>年収6万ドルじゃハーバードには行かせられんでしょ,普通
「普通」じゃなくすばらしい生徒が対象でしょう。たとえばこんな人
http://www.dailyprincetonian.com/archives/2006/04/28/news/15457.shtml
4歳のときに母親ともどもドミニカからやってきて、ニューヨークに不法移民として暮らし、住むところもなくホームレスシェルターで過ごす。シェルターにボランティアとしてきていた、投資銀行ファウンダーにその知性を認められ、奨学金で進学高に入り、Princeton大学入学、大学院はイギリスのOxfordに合格。
スタンフォードも去年孤児院育ちの人が優等で卒業しましたが。
毎年数名でもこういう人たちにチャンスを与える、というところが大事だと思います。こういうスーパー知性&スーパーガッツのある人は「成功する人」でもあるわけで、学校としても欲しい人材のはずだし。アメリカの常ですが、「平均点」をあげることより、「優れた個人を引き上げる」っていうパターンでは。
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大学にビジネスモデルがあるんですね。そして、大学がきちんと経営として成り立っていて、投資で利益を出している。
なにか、理念というか考え方の違いを大いに感じます。カッコイイです。
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Chikaさん、こんにちは。
いつも楽しく読ませてもらってます。
> アメリカの常ですが、「平均点」をあげることより、「優れた個人を引き上げる」っていうパターンでは。
その数少ない優れた個人が国家を支えてるって感じですね、アメリカって。
私はそれよりも23%の運用利回りのほうが気になります。寄付したら、そのファンドマネージャーとお食事させてもらえるかしら?
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ストリートスマートの宝庫ジュニアカレッジの学友で、トランスファーの際に、みなしごですって工作して、超有名資産家の家出令嬢がハーバードに学費ただ+生活費支給、になってたなー。同じようにスタンフォードにただ乗りした人もいたし。ジージタウンとMITにアポなしで出かけてって、ネゴして奨学金もらった人もいたなー。あー、みんな嘘付いて!って感じだったけど、私立だったら学校運営的には問題ないんですねー。よかった。いずれにしても、どの学校も、マジでアカデミックに優秀な人はホンの一握りなので、嘘付こうが、ドラック売ろうが、売春しようが、うそみたいな根性でみんな卒業しますね。まるまるポンっと払える人は、滅多にいないでしょう〜。だって高いもん。そんな私も、ちょっとウソ組ですた。えへ。
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子供をもって、米国の大学の学費もそんなに高くないんんじゃと思えるようになりました。
だって、0歳児のチャイルドケアから、月に1500ドルとかかかるんだもの。(涙)フルタイム・ナニーをつけたら月2500ドル(から)コースです。私立の幼稚園の学費も月2000ドルという噂を聞きますし。
恐るべしベイエリア。東京在住のお友達が、月5万とかでぶーぶーいっていたのをしかりとばしてやりたいです。
大学に入学するころには、すかり感覚が麻痺していることかと思われ。
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>寄付したら、そのファンドマネージャーとお食事させてもらえるかしら?
会えるかどうかは寄付の額で決まってくるとおもいますよ。
~$xxx: 年報にお名前
~$xxxx: 立食パーティーにご招待
~$xxxxx: 大学幹部とお食事
~$xxxxxx: 学長とディナー
って感じ
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ハーバード大学の資金運用チームのボーナス:
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ハーバード大学の資金運用チームのボーナス:
<24日のAWSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)にゴールドマン会長のボーナスが7000万ドル、約80億円との記事があった。少し下にハーバード大学の資金運用チームに2100万ドルのボーナス。トップには600万ドルのボーナスとある。米国金融関係のボーナスの大きさに改めて驚く。>
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別会社として運営している:
http://en.wikipedia.org/wiki/Harvard_Management_Company
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●大学は学生から学費を集めて運営するのが当たり前?
年収が700万円までなら、アメリカの超エリート大学・ ハーバード大学の学費が実質…
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