FlickrファウンダーCaterina Fake、Flickrの起源を語る

IT特化のヒアリング練習ポッドッキャスティング、Listen-ITの新しい回をアップしました。今回はFlickrファウンダーのCaterina Fakeのスピーチから取っています。練習素材は20秒ほどですが、元のスピーチは40分。結構面白い話だったので要旨を書き出しました。web2.0型事業の参考になるんじゃないでしょうか。

ちなみに、Flickrは、もともとMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)だったそうです。知ってました?私は知りませんでした。はい。ゲームの中でユーザー同士がチャットする際にそこに写真をドラッグして共有できるように作ったのがFlickrで、最初はサイトも無かったとのこと。元のゲーム事業で増資できず、「あと一つだけ何かできる」という資金だけしかなくなったとき、元のゲームを続けるか、ゲームをシャットダウンしてFlickr開発にかけるかを、6人の社員で投票して選び、Flickrにフォーカスしたとのこと。

Flickrは3-4千万ドルでYahooに買収されたとされてますが、6人だったら中々スバラしいディールですな。

では以下、要旨です。

ゲームからFlickrへの変貌

  • MMORPGのGame Neverending(GNE)を開発するために、Ludicorpという会社をカナダのバンクーバーに設立した。2003年のこと。
  • GNEはブラウザーベースはソーシャルゲームで、参加者の間にインタラクションを起こすプラットフォームとしてデザインされており、様々なオブジェクトを
    探したりしていく、というものだった。(このオブジェクトの例を語る部分がListen-ITのヒアリングの題材になっています。)
  • 2003年というのは起業には最悪で、Ludicorpも、情熱的かつアクティブな3万人のユーザーをプロトタイプで集めたが増資できず、最後に一つだけ何かする資金が残ったとき、起死回生で開発したのがFlickrだった。Flickrを選んだ裏には、フロントエンドの開発がバックエンドの開発より6ヶ月先行していた、という事情もあった。
  • Ludicorpの6人はみなGNEを愛していたが、投票してGNEをするか、Flickrを開発するかを決めた。3対3になってしまったので、開発者の一人を説得してFlickrに投票させてなんとかFlickrフォーカスにこぎつけた。
  • GNEをシャットダウンするのは難しい決断だった。メンバーはゲーム内で友達を作り上げていたので、非常にショックを受けた人が多かった。
  • Flickrの最初のバージョンは、ゲーム内のインスタントメッセージに写真を貼り付けるために作ったもの。それ以前に、ゲームのオブ
    ジェクトをチャットにドラッグすると、同じバーチャルルームにいる人たちがオブジェクトの影響を同時に受けるという仕掛けがあった。(キラキラパウ
    ダーをドラッグすると、同じ部屋の人たち全員のムードがよくなる、とか。)同じコンセプトを写真に適用したのがFlickrの第一バージョン。
  • Flickr第一バージョンは2004年2月にオープンした。しかし、「知り合いがオンラインでないと写真をシェアできない」という大きな問題があり中々広まらず、一日10人規模のサインアップで、これはダメだ、とすぐわかった。その後、いろいろと変更を加え続け、2004年6月に、ウェブページに写真をあげられるようにした。この時点でタグ、オープンAPI、その他ウェb2.0的機能が豊富にあったこともあり、いきなり大人気となった。
  • 当時は、デザインや機能のアップデートを毎日平均10回もしており、とにかくものすごい速さでサイトを進化させた。最初のIMバージョンができてから、ウェブ版の現行バージョンができるまで4ヶ月しかかからなかった。

無謀さからの新しいアイデアの誕生

  • Flickrをやるとき、他のフォトシェアリングサイトの研究は一切しなかった。もししていたとしたら、「フォトシェアリングは写真現像事業で儲けるためのもので、サイトそのものは赤字だから事業として成り立たない」という結論になったと思う。
  • しかし、GNEというゲームを作る立場から開発したので、「MMOフォトシェアリングサイト」というそれまでに全く無かったものができた。
  • 新しい技術は、その第一ステージでは前時代の遺産を引きずる。たとえばフィルムは(映画を作るのではなく)舞台を記録するために使われ、車は「馬なし馬車」と呼ばれた。同様に、当時のフォトシェアリングサイトは「オンラインアルバム」で、クローズで知り合いの間だけでシェアされるものだった。
  • しかし、Flickrはアルバムではなく、デジタルネーティブなフォトシェアリングサイト。誰でも見られるように写真を公開したことで、今までにない使われ方をされるようになった。
  • Flickrはタイミングが良かった。ソーシャルネットワーク、ブログ、といったものがだんだんと流行し始めた頃で、しかも、北米では2003年
    から2004年にかけて携帯カメラが普及してはじめ、それと同じ頃にFlickrが立ち上がったのが成功の要因だったと思う。当時、他の写真シェアリング
    サイトは携帯カメラに全く注目していなかった。
  • 2002年にFlickrを始めたらだめだっただろう。たとえば、ブログも、2003-2004年ごろまでは、変わった目立ちたがり屋がするもので、敢えてするには言い訳が必要だった。フォトシェアリングも、同じように、写真を公開するなんて信じられない、という時代から、パブリックサイトにアップロードすることが認められるようになった。それが2004年ごろだった。

ユーザーの意見はどれくらい大切か

  • Flickrはユーザーからのフィードバックには敏感。たとえば、右から左に、メニューバーを動かしたときは、1-2分以内に苦情が殺到、「I had a really, really, difficult childhood.  I’m having a really bad day.  And this is going to push me over the edge.」というものまで。そのときは、2-3時間で新デザインをやめて元に戻した。
  • しかし、ユーザーは既にある機能をもっと欲しがるだけなので、新機能をどうしたらよいかをユーザーに聞くのは不毛。それより、既に計画中の機能を複数ユーザーに投げて、どれが優先順位が高いかを聞くのがよい。
  • コミュニティには注意が必要。多くのユーザーが粛々と従っているのに、ごく一部のユーザーが激しく苦情を言うケースも多く、激しい苦情だからと言ってそれに従うと方向を間違える。たとえばユーザーIDを、(ヤフーに買収された後)ヤフーIDに変えた時も、フォーラムで盛大に苦情した人たちが100人くらいいたが、その一方で、変更するやいなや2万人が静かに変更した。もちろんユーザーの意見は聞くが、気をつけなければならない。

思いがけなく人気を呼んだ機能

  • 思いがけない機能が人気になることもある。ジオタグは、写真がどこで撮られたか、地図に関連付けられるものだが(千賀注:こういう感じです)、これを導入したときはまさかメインストリームな人気を呼ぶとは思わなかった。
  • Yahoo!Pipeをロールアウトしたときもビックリ。せいぜい5千人から1万人程度の開発者が興味を持つ位だろうと思っていたが、容量が足りなくなってサーバーをシャットダウンしなければならないほど人気で、最後は一秒あたりのクエリが2000もあった。

ビジネスモデルは最初から計画

  • 最初から無料と有料のアカウントを作ることは決めていた。
  • 趣味から始めたサイトが、後付でビジネスモデルをくっつけて事業化するのには問題が多い。たとえばFotoLogは、友達同士で写真をシェアするための写真ブログサイトとして始まったが、思いがけず成長したので、後からビジネスモデルをつけ苦労していた。
  • Flickrはフォトシェアリングに関しては素人だったが、ビジネスモデルは最初からちゃんと考えていた。
    GNEでも同様なモデルを取る予定だった。何といっても増資しなければならなかったのでビジネスモデルには知恵を絞った。

ローキーな機能紹介

  • スペシャルな機能はユーザーにプッシュせず、そっとサイトの片隅に登場させる。これにより、ユーザーに発見の喜び、自分が見つけたというオーナーシップを持たせ、その機能により強いコネクションを持ってもらことができる。
  • そっと(ローキーに)導入するのは最初からの戦略でもある。
  • Flickrはもともとアーリーアダプターをターゲットとしたサービスだったので、ローキーな導入により、まず自分から探し出すことに喜びを感じる情熱的ギークに使ってもらうことができ、初期のギークなイメージを保つことができる。
  • また、まずギークに使ってもらって修正を加えた後で、より多くのユーザーに使ってもらうこともできる。

■■■
オリジナルのスピーチはIT Conversationsのサイトにあります。
ヒアリング強化用に、スピーチの中から20秒だけ切り出し、それを20分かけて懇切丁寧に説明しているListen-ITのポッドキャストはこちら。本当に英語でITビジネスができるようになりたい人は聞いてくだされ。

FlickrファウンダーCaterina Fake、Flickrの起源を語る」への9件のフィードバック

  1. 最近、Founders At Work( http://www.foundersatwork.com )内で取り上げられている、FlickrのCATERINA FAKEとのインタビューをちょうど読んだところだったので、この渡辺さんのエントリーは、私にとってタイムリーなトピックでした。本で紹介されているエピソードより、渡辺さんのサマリーの方が詳しい部分も多く参考になります。スピーチも聞いてみようと思います。

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  2. GJ! ステキ!このエントリもlisten_itも!
    ポッドキャスティング何回も聞いてシャドウイングにトライしています。
    内容が本当に興味深いですね。ちゃんと理解できるようにがんばろ。
    お疲れ様でした&ありがとうございました。

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  3. chikaです。
    温かいお言葉の数々、励みになります。おだてるとハワイの海辺のヤシの木の天辺まで登りますのでどんどんお願いします。

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  4. Flickr(使ったことないけど)

    FlickrファウンダーCaterina Fake、Flickrの起源を語る引用:ちなみに、Flickrは、もともとMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)だったそうです。知ってました?私は知りませんでした。はい。ゲームの中でユーザー同士がチャットする際にそこに写真をドラッグして共有できるように作ったのがFlickrで、最初はサイトも無かったとのこと。元のゲーム事業で増資できず、「あと一つだけ何かできる」という資金だけしかなくなったとき、元のゲームを続けるか、ゲームをシャットダウンしてFli…

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  5. Flickr(使ったことないけど)

    FlickrファウンダーCaterina Fake、Flickrの起源を語る引用:ちなみに、Flickrは、もともとMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)だったそうです。知ってました?私は知りませんでした。はい。ゲームの中でユーザー同士がチャットする際にそこに写真をドラッグして共有できるように作ったのがFlickrで、最初はサイトも無かったとのこと。元のゲーム事業で増資できず、「あと一つだけ何かできる」という資金だけしかなくなったとき、元のゲームを続けるか、ゲームをシャットダウンしてFli…

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  6. 千賀さん初めまして
    flickrは初めゲームサイトとは知りませんでした。
    ここから修羅場に立って写真サイトとして立ち上げて
    成功したというのは見事!
    そして何よりも遊びからビジネスに転換した
    ことは大変魅力的です。
    yahoo!もGoogleも元はよくできたリンク集、
    趣味で始めた検索エンジンだったのが、世界を
    席巻する大企業になってしまったのが実情ではないでしょうか?
    これこそセレンビリティーっていうのじゃないかな?

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  7. chikaです。
    MMORPG=遊び、photo sharing=ビジネス、と分けられるのかどうかよくわかりませんが、(&趣味のリンク集だったのはYahooだけだと思いますが)、いずれにせよ、どんな事業にも修羅場はつきもの。がんばろう!ですね。

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  8. Chika姉さん、少し、入院していましたが、元気になってきました。
    この記事を読んでいて、励みになりました。ありがとう。

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