San Jose MercuryのVCs hope higher spending will boost start-up sales。
調査会社のIDCが、ついに来年は企業のIT投資が上向きになると予測、VCは「これで投資先のベンチャーにも、上場や買収というexitが増えるだろう」と喜んでいる、と始まる。
ちなみにM&Aは、スタートアップの重要な「出口」である。
「下請け受注でお客様をハッピーに」
という会社であれば、生涯一中小企業としてやっていくこともできる。しかし、世界制覇的技術を提供するんだったら、それに見合った優秀な人材が必要で、そういう人を引き付けるには「出口」がないといかん。「出口」はVCだけじゃなく、ファウンダー、ストックオプションをもらっている社員、などなど、全ての人にリワードを提供する手段である。
しかし、と記事は続く。M&Aで、スタートアップがシスコやYahooに買収されるのを阻害する要因が一杯あるぞと。そのうちの一つの理由が
• The lawyers — Many start-ups are intimidating in their legal complexity.
最近の多くのスタートアップは、法的にえらく複雑なナリタチになっているため、買収が難しい、ということ。
During the downturn, many venture capitalists, afraid of investing when most companies were going out of business, secured their investments with so-called “liquidation preferences.” These clauses guaranteed that, in the event the start-up was sold, the VCs would get their money first — before other executives or employees.
バブル崩壊後に、投資先が次々とつぶれるのにびびったVCが、投資する側の自分たちにとってえらく優位な条項を投資条件としてつけたがゆえに、それが問題で買収が成功しないことがある、と。
アメリカのベンチャー投資契約というのは、厚みにして1-2センチの長大なドキュメントである。ありとあらゆる条項があるのだが、まぁ殆どはそれほど重要でない。というか、「森を歩いていたら熊さんがあらわれ、その熊と奮闘しているところで雪崩がやってきて、熊もろとも下敷きになったときにはこうしよう」みたいな、「そんなこと、おこりますかいな」的条項が多い。
しかし、絶対に見落としてはならない大変重要な条項が「liquidation preference」である。特に「そこそこの条件で買収される」という、最もありがちなexitの際に著しい影響を及ぼす。
liquidation preferenceとはなにか。
liquidationは「清算」だが、買収されたり、倒産したりして、会社がキャッシュに変わる瞬間を指す。そのときに、VCがどれくらい優位な(preferredな)条件でキャッシュを持っていくか、ということ。で、liquidation preference。昔は「最初に投資した金額、プラス年利X%の利息分」くらいをまずVCが取り、残りをファウンダーや社員も含めた全株主で分ける、というのが普通であった。
が、しかし、バブル崩壊後、2Xとか3Xとかいう条件が流行りだす。「VCは、投資した金額の2倍、または3倍、先に分捕っていく」ということだ。何事もフェアかアンフェアかはrelativeなものなので、一概にひどいとは言えないが、しかしやっぱりひどいよなぁ。例えば、こういうことが起こるんである。
1)VCが10億円あなたのスタートアップに投資する
2)その後、ある会社が30億円であなたの会社を買収したいと言ってくる
3)社員は喜び、あなたも喜び、しかしヨーク投資契約を読むと、VCが投資額の3倍持っていく、と書いてある。ということは、何年間も汗水たらして働いた、あなたにも社員にも、一銭も売却益は入らない。
This sets management and employees at odds with the venture capitalists, and it is one reason Jeff Herbst, vice president for business development at Santa Clara’s Nvdia, said his company has avoided acquiring start-ups with such preferences. The start-up’s employees won’t profit, and so won’t take kindly to the merger: “The smart ones will say, `What’s the point?’ ”
ということで、そういう買収は、買収された会社の社員のやる気をなくさせるので、買収する側の会社もアンハッピー。そんなんだったら買収しないよ、ということになった案件が実際あるとNvdiaのVPは語る。記事はさらに、M&Aに際して、「ファウンダーチームの弁護士」「社員たちの弁護士」「VCの弁護士」など、弁護士がぞろぞろ出てくることもあると。
Owen Mahoney, VP of corporate development at Electronic Arts, agreed. “Many deals fall apart on their own complexity,” he said.
結果として、EAのVPは「複雑すぎて、結局買収がおじゃんになることが多い」と。VCは自分を守ろうとして、結局自分の首を絞めることに。
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「いやー、やっぱりそうだよなぁ」と思ってしまった。2X, 3Xって条件を最初に聞いた時は、「そんな殺生な」と思ったのだが、やはり行き過ぎた投資家保護は、結局回りまわって投資家にとっても困ったことになるのだと納得。
ちなみに、日本ではちょっと前まで、「株主は全員平等」という原則があり、グループごとに違う権利を持つ株主が存在する、ということが許されなかった、、、というか、強引にやればできたのだが、違法寸前。昔、日本でアメリカチックな優先株投資でベンチャー投資をする側になったことがあったが、投資先ベンチャーの弁護士が「こんなめちゃめちゃな投資条件を日本でつけるとは何事だ」と怒り狂っていたのも懐かしい思い出。
ま、日本のルールができた背景にはいろいろ複雑なこともあるのだろうが、私には
「投資家ごとに違う条件を付けて、それが理解できずに不利を蒙る投資家がでたりするとまずいですよね」という、「投資家はアホという前提」(もしくはpaternalism)と
「いったん明快なルールを政府が決めて、みんながそれに従えば最大多数の最大幸福が実現できますね」
という「社会主義発想」が根元にあると感じられた。
一方アメリカ型は、今回のliquidation preferenceの行き過ぎのように、
「短期的には非最適解が訪れることもあるけれど、中長期的には需給バランスのゆり戻しが起こって、最適条件にだんだん近づいていくんじゃないの」
という、投げやりな資本主義的発想でできている。で、途中の過程ではやたらと弁護士が儲かる、と、そういう構造になっている。
ちなみに、アメリカだって、一般投資家の多くはアホである、という認識はある。そこで、エンジェル投資家といわれる個人ベンチャー投資家になるにはSECで決められた「条件」がある。
SECサイトいわく
net worth・・・exceeds $1 million
または
income exceeding $200,000 in each of the two most recent years or joint income with a spouse exceeding $300,000 for those years and a reasonable expectation of the same income level in the current year
でなければ、だめ、と。
そう、エンジェル投資家になれるのは「お金持ち」だけなんです。でも、日本でこういうルールを作ったら「貧乏人差別」とかいうことで問題になるのかな。ちなみに、ベンチャー投資関連での商法改正後、何がどう変わったのかフォローしてないので、実は日本でもそういうルールがある、というようなことがあれば是非教えてください。
(ちなみに、アメリカでVCから投資を受ける際、liquidation preference以外で大切なのはratchet条項。内容は話すと長いので、弁護士に聞いてください 😉 )
去年、あるIT系のカンファレンス(欧州で開催)に行ったときに、ティム・ドレイパーが「バブルは崩壊したが、米国にはすばらしい破産法があるので、再挑戦が可能なんだ。これからはM&Aによる成長でなく、organicな成長でやっていきましょう」などと話していたら、聴衆のあるベンチャー経営者が「でも、liquidation preferenceのせいで、会社がやっと利益が出だしたと思ったら、投資家にとっては清算したほうがトク、ということで潰された」と迫っていたシーンを思い出しました。
事前に設定したliquidation preferenceがorganic growthを許さない設定だったのでしょうか。
弁護士とのお付き合いでいえば、お付き合いするのは不可欠ですが、downsideばっかり頭にイメージを植え付けられて、ビジネスのやる気がそがれるような気がします。
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基本的にはVCから投資を受けたらorganic growthは許されませんよね。Draper氏も、自分の投資先となったらorganic growthなんていわないだろうなぁ、という気がします。
ご指摘のベンチャー経営者氏の投資家たちは
「まだキャッシュがたくさん残った状態で会社をたたんで戻ってくる出資金」
「organic growthでゆっくり成長していって、何年も(もしかしたら永遠に)上場もM&Aできずそのまま投資金がフリーズするリスク」
の二つを比べて、前者がいいという判断をしたのでしょう。
うかつにVCから出資を求めることなかれ、ってことですよね。
弁護士の件については、「それくらいでやる気がそがれる人は起業しない方がいい」ということでしょうか。。。。
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こんばんは。
めちゃくちゃ昔のエントリにコメントして申し訳ありません。今VCからの投資時に起業家が負うリスクについて調べている素人です。liquidation preferenceでググると2番目にきたので拝見しました。
liquidation preference の2倍、3倍のキャッシュリターンは倒産時の清算にも適用されると思いますが、仮にキャッシュが無い、或いは足りない場合には起業家はそれらを補填する義務があるのでしょうか。
USの記事も色々読んだのですが、いまいち起業家が個人的に負うリスクについて分かりかねる状況で、コメントと言うよりこの場をお借りして質問してしまいました。
もし簡単にお分かりになられたら、一言教えていただけると大変助かります。
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ども。
>liquidation preference の2倍、3倍のキャッシュリターンは倒産時の清算にも適用されると思いますが、仮にキャッシュが無い、或いは足りない場合には起業家はそれらを補填する義務があるのでしょうか。
普通はないです。っていうか、あるという話はシリコンバレーでは聞いたことがありません。
>いまいち起業家が個人的に負うリスクについて分かりかねる
「かくかくしかじかというリスクを負うべきである」
というルールはなく、なんとなく相場的に「こういうのが普通だよね」という感覚はあるものの、本当にどうするかは、個別に投資家と企業家の間で、契約で決めるもの。
なので、未公開企業向けpreferredとかparticipating preferredの投資契約そのものの事例を探され、じっくり読むと良いと思います。ものすごく大変だと思いますが。。。ひとつ30-50ページくらいあるし・・・。。
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