日陰の小道

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話数単位で選ぶ、2024年TVアニメ10選

年末のこちらのaninadoさんの企画に参加します。

■「話数単位で選ぶ、2024年TVアニメ10選」ルール
・2024年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。

ぽんのみち 東8局 『あかりをつけましょう』

脚本:南川達馬 絵コンテ:ウシロシンジ 演出:伊藤史夫 作画監督:杉山直輝、吉田満智子、朴佳蓮、曺暻柱、徐允珠、崔秀鎭 総作画監督:三島千枝

4日後に開催が迫った灯りまつり。そのお祭り用に母親からぼんぼり作りを頼まれたなしこだったが、なんと課されたノルマは4日間で3000個……。一人では到底終わらない仕事量に涙を流すなしこ。すると事情を聞いたぱいや泉。さらに、チョンボや思わぬ人物たちが助っ人に加わり、一同は急ピッチで作業を進めていく。果たして、なしこたちはお祭りに間に合わせることができるのか!?
(公式あらすじ)

元雀荘を舞台としつつも、麻雀をしたりしなかったりと、そんな女子高生たちの日常を描くオリジナル作。とにかくゆるくてくだらないエピソードが多くて、これぞ日常アニメというような雰囲気が楽しいアニメだった。

個人的に、日常アニメのお祭り回が好きだ。大人になってめっきり行かなくなってしまって、お祭りが楽しかった子ども時代を思い出すからだろうか。普段見ている地元の風景に屋台が追加されライトアップされて、どことなく非日常的な光景になって、ケからハレに移り変わるあの不思議な高揚感。日常アニメというのはケを描いているものだからこそ、そのハレの特別感にワクワクするのかもしれない。
今回のぽんのみちもお祭りのエピソードで、ひたすらお祭りのためのぼんぼりを仲間内で作るという、それだけのエピソード。今回麻雀をやるシーンはほとんどないのだが、ぼんぼりの柄に麻雀牌の柄を描いてみたり、役の名前を描いてみたりと、ゆるーいお遊びとしての麻雀との付き合い方がいい。ぱいや泉以外にも、違う学校のリーチェや跳も加わって、麻雀仲間でだんだん賑やかになる感じ。たまり場の元雀荘にやってきた仲間を「おかえり」と迎えるのは、こここそが皆にとっての場所なんだなと思わせ、なんだか無性にぐっとくる。

なんてことない普段の遊び道具である麻雀柄のぼんぼりが、お寺に光を灯し始める。その時に手作りのぼんぼりが、どことなく神聖なものへと変化するように思える。日常の中で当たり前のようにそばにあるものが、"たまらなく尊い、聖なるもの"であること。日常からお祭りへの滑らかな変化を見せられて、私たちはそれに気が付くことができる。もしかするとそれは、お祭りが終わってしまうという寂しさの中で、永遠でないものに目を向けさせられるというのもあるのだろうか。

生活の中に眠る"聖なるもの"をすくい上げるアニメが好きだな。それをしてくれるのものこそが、日常アニメのお祭り回なのかもしれない。

ダンジョン飯 第11話 『炎竜1』

脚本:樋口七海 絵コンテ:小倉陳利 演出:佐竹秀幸 作画監督:田村瑛美、半田修平、千葉一希、竹田直樹

ついにレッドドラゴンと対峙したライオスたち。魔法で建物を崩落させてドラゴンを足止めする作戦を立てる。だが、レッドドラゴンは想定以上に凶暴かつ頑強で、作戦はことごとく失敗。防戦一方だったが、弱点である逆鱗を攻撃するチャンスが到来する。しかし、ドラゴンに恐れを成したケン助が敵前逃亡してしまう。
(公式あらすじ)

漫画原作作品。ドラゴンに食べられてしまった妹ファリンを助けるため、ライオスたちがダンジョンの魔物で飢えを満たしつつ、踏破を目指す冒険活劇。

1クール目終盤となるこのエピソードは、そのファリンを食らってしまったドラゴンが相手ということで、一つの山場、そしてターニングポイントである話だ。
前半で立ちふさがるのは、今まで戦ってきたどの魔物よりも巨大で強靭なドラゴン。イキイキとしたアクションによって、この作品らしいどこか軽妙なコミカルさを保ちながらも、しかし最も危機的なバトルシーンが描かれており、かなりの見応えがある。チルチャック、センシの助けを受けて、愛剣?のケン助をライオスが再び手にするシーンが特にカッコいい。レッドドラゴンに果敢に接近し、足を食わせるという痛々しい作戦で辛くも逆鱗を突き刺し、ドラゴンを打倒する……この一連の流れは迫力満点だ。

しかしながら、このエピソードの真価はその後、Bパートでの内容のギャップである。ファリンの蘇生にはその体のパーツが必要で、ドラゴンの中から探し出さなくてはならない。ライオスたちは、ドラゴンの皮膚を切り、肉を掘り、内蔵を開き、血に塗れながら、"ファリンだった骨"を探す。ここには、前半にあった危機的ながらも軽快な雰囲気はまるでなく、重苦しく淡々とした空気に支配されている。最後、ライオスはファリンの頭蓋骨を拾い上げ……そして、次回へと続く。

内臓をかっさばいて骨を探すのがどこか冒涜的にすら思えるのは、蘇生のために生命の営みを巻き戻しているかのようだからだろうか。
お約束の「飯」のシーンはないものの、もっと根本的な、食うか食われるか、生きるか死ぬか……ということのズシリとした重みを感じさせる、珠玉のエピソード。

変人のサラダボウル 第7話 『異世界人の戸籍問題他』

脚本:平坂読 絵コンテ:葛谷直行 演出:宇根信也 作画監督:趙小川、陳玲玲、姜海華

「学校に行ってみたい」というサラの願いを叶えるため、惣助は弁護士の愛崎ブレンダに相談を持ちかけるのだが、異世界人であることを隠したまま合法的に戸籍を作る手段はないという。落胆しつつ仕事に向かう惣助とサラ。調査対象を追って辿り着いたのは、隣町の競馬場だった…
(公式あらすじ)

ライトノベル原作のアニメ。異世界人、探偵、キャバ嬢、教祖……などなど、一癖も二癖もあるような連中が、岐阜という皿の上で、さながら色とりどりのサラダのように作品を彩るのが楽しい。

このエピソードを見ると、家族というものについて思いを馳せてしまう。ふと立ち止まって考えてみると、家族というのは不思議なものだ。親と子にはまだ血の繋がりがあるかもしれないが、では夫婦はどうだろうか。 これは法という、社会における人間の定めたルールによって同じ家に属するという契約を結んでいるに過ぎず、故にそれがなければ他人でしかない。
このエピソードで探偵たちがかき回すのは、その家族という契約についてだ。夫にハニートラップを仕掛けて妻に有利な証拠を「見つけ出す」探偵もいれば(本当に最悪!)最近様子がおかしい夫を尾行した結果、ゲーム好きの息子と話を合わせるために通っていた競馬にハマってしまっていた、なんて微笑ましい話に落ち着いた探偵もいる。表層の家族関係の裏で、実は冷めきっている、いわばウソの家族もあれば、ちょっぴり素行が怪しくてもちゃんと家族をやっている人もいる、というワケだ。同じ家族でも、その実態は様々である。

さて、そんな所属を考える上で異世界人の立場というのはどうか。 家族の前に戸籍すらない。法によれば家どころではない、国に属する人とすら認められていないのである。
そんなサラに対して、戸籍を獲得るために奔走していた宗介だが……家族のいろいろなカタチを描いたこのエピソードで、宗介が最後にサラに伝える言葉はとても――まるでいつも通りに、なんてことないことを伝えるかのように――シンプルだ。「サラ、お前俺の子どもになるか?」「……うん!」異世界人と探偵、この奇妙な2人組が「家族」になるということ。家族というのはこんなに単純で、ただ一緒にいようという、その気持ちがあればいいのかもしれない。

昨今の世の中、人種だとか生まれだとか、そういうことで「異邦人」になってしまう人もいる。あるいはルールで定められた性別で、法的に家族になれない人もいる。フツーでない、という意味では本作の異世界人とはその最たるものであるが、そんな異世界人の少女が家族の一員になること、これは本当にいいエピソードだなと思う。こういう、この時代の中で大事なことを言ってるな、と感じるアニメはついこういう場で選びたくなってしまう。あとは、いかにも「正しいことやってます」という感じじゃなく、さらりとしょうもない話からここまでやっちゃうのが好きだな。
冒頭、宗介とサラの日常のシーンで「もっといいことがあるかもしれないぞ」と言うのもラストシーンを予感させるもので良い。サラが目立たないようにと黒髪にするのもラストのシーンに繋がってるようで、上手いエピソードだ。

僕の妻は感情がない #10 『妻と子供が迷子になりました』

脚本:森田眞由美 絵コンテ・演出:亀井隆 作画監督:Shin Sung-min、Jo Mi-jung、Go Yu-il、Zhao Yue、Lee Min-bae、Kim Yeong-seop

先輩後輩であり、母子でもあるミーナとマモル。2人は一緒にスーパーへ買い物に出かけることにする。「先輩」として「母として」張り切っているミーナは常にスーパーまでの道順、帰るための目印を記憶しながら進む。だが目印にしたネコが元いた場所から移動してしまい、2人は道に迷ってしまう……。
(公式あらすじ)

漫画原作作品。家事用ロボットのミーナと、それを妻として迎えようとするちょっと変わった人間男性・タクマの、ロボットと人の夫婦の日々を描くアニメだ。

今回はロボットのミーナと、ひょんなことから家族に加わるマモルの2人がメインのエピソード。ミーナとタクマの影響を受けて人格形成されたマモルは、ものを覚え始めた子どものような状態のロボットだ。最初はマモルのことを邪魔者扱いしていたミーナだが、ミーナとマモルがちょっとした日常の困難を乗り越えながら、少しずつ仲良くなっていくのが微笑ましい。
マモルくん、なんだか無性に好きなんだよなぁ。甲高い声で話したり首伸びたり、なんか不思議なロボットなのに、妙に愛嬌があって。

私たち日本人がなんとな〜くこなしていることが、ミーナたちロボットの判断でやろうとするとうまくいかなかったりするのが面白い。信号がない横断歩道は渡れないっていう判断になるとか。ひらがなを勉強してて、音が同じな「お」と「を」を間違えて人間は2個作っちゃったんだなぁって判断するのもいい。
人間の作った運用方法、まぁ多分色んな理由とか経緯とかがあってそうなっているのだとは思うのだが、冷静になってみるとこれはこんな風に迷うんじゃなかろうか、という着眼点の鋭さがあるエピソードだ。同じ鋭さで、更にこのあとのエピソードでは、ロボットと人間の夫婦関係、さらには人間の家族関係のアンバランスさなども解体していくのがコワい作品なのだが……。

ミーナの音声スピーカーが壊れちゃって「ピー」みたいな機械音で最低限の意思疎通をしていたら、いつの間にかミーナとマモルで独自の言語で会話し始めちゃうのも好きだ。
そういえば、現実でもAI同士に会話させてたら独自の言語で会話しだしちゃって、実験を終了させた、なんてニュースがあった。古典SFを連想して「AIの人類への反乱の予兆だ!」なんて少し騒がれたりもしていたけれど。結局、アニメのオチは何かというと、タクマがこのロボット語をずっと聞いてたらなんとな〜く理解できるようになっちゃった、っていうオチ。確かにこれは、AIの反乱よりももっと身近に、近い未来あるのかもしれない!

こんな風に、AIが急速に身近になりつつある今だからこそのSF的な面白さもあり、楽しく見られる好きなエピソードだ。

負けヒロインが多すぎる! 第11話 『結果責任についての話をしようか』

脚本:横谷昌宏 絵コンテ:北村翔太郎 演出:村瀬貴一郎、川岸和樹 総作画監督:川上哲也 作画監督:三浦琢光、竹田茜、摺木沙織、仁井学

部長会での報告の練習をする小鞠だが、人前に立つことへの緊張から中々上手く話すことができない。人に慣れるためにまずは動物からという八奈見の発案でのんほいパークを訪れる三人。ひたむきに練習する小鞠に温水は助け舟を出すが、言い合いになり小鞠は立ち去ってしまう。謝るタイミングが見つからないまま、とうとう部長会当日を迎えてしまい…。
(公式あらすじ)

ライトノベル原作。タイトルの通りこの作品は「負けヒロイン」すなわち恋愛ゲームの中で敗北者とされてしまった人を熱心に描いてきた。そもそも恋愛ゲームに加わらない主人公の温水も加え、青春時代のいわば「日陰者」たちでいい感じにやっていくのがマケインというアニメだ。

そんな日陰者たちの立場を反映してなのか、今回は特になんだかずっと画面が暗い。憂鬱なシーンで画面を暗くして雰囲気を作るのは映像作品でよくある手法だろうが、それにしたってこのエピソードは常に薄暗い。
そしてそんな中で、新部長として一歩を踏み出そうとする知花は、温く心地よい日陰を抜け出し、日の当たる場所で役割を果たそうとして――そして失敗している人でもある。更に、そんな彼女を見て、温水も傍観者たる立場を捨て、本気で周りの人と関わろうとしているのだ。
夕暮れに沈む影の中で落胆する知花の姿は、ともすれば光の中にいるならば見えないかもしれない。しかし暗がりの中でそれをそっと見つけようとする、このアニメのこういうところが好きだ。これは「負けヒロイン」たちを、その人生を、恋愛ゲームの敗者という役割のみで語らせない、本作の世界に向けての宣言だ。知花と温水のやり取りがグループチャットで行われていたせいで、文芸部のみんなが心配して駆けつけて来ちゃう、締まらないけど暖かい感じが好きだな。
みんな集まってのラストシーン、暗闇から光へと移るのではなく、暗闇の中でじゃれ合って喜ぶのがこの作品らしい。ここって、劇的なシーンとしてはどうなのよと思ってしまうような暗さなのだけれど、ここで彼女らを見落とさないような眼差しこそが視聴者に求められているのかもしれない。

とまぁ……ここまでちょいちょい書いたけど……正直こんな御託はいいんだよな。私は小鞠知花というヒロインがめちゃめちゃ好きだから、選ぶとしたら小鞠編の結末、ここしかなかったワケだ。ラブコメにリッチな画面は必ずしも必要ではないと思うのだが(このようなことはいかなるアニメジャンルにも言えるが!)劇的なライティングと繊細な表情作りで、人物の感情の機微を見事に表現しているのが本作の良いところだなと思う。

夜の闇に包まれる中、知花の笑顔が花開く。暗がりの中でも燦然と煌めくような、彼女の表情は美しく、そして眩しい。

菜なれ花なれ 第7話『ハイカラ×バンカラ!』

シナリオ:綾奈ゆにこ 絵コンテ:梅津朋美 演出:中嶋清人 総作画監督:関口可奈味、三浦菜奈 作画監督:細山正樹、李起燮、Jumondou Seoul、Jumondou Wuxi

お届けチアを始めたPoMPoMsのもとへ御前嘴高校応援委員会団長の番家ららより依頼が届く。依頼内容は、県大会準々決勝に出場することになった野球部の応援を手伝ってほしいとのこと。初めての依頼に喜ぶ杏那たちだったが、穏花だけは気まずそうな顔をしていて…。そしてまさかの対戦相手は鷹ノ咲高校⁉
(公式あらすじ)

チアチーム「PoMPoMs」を立ち上げ、人々を応援しようとする女子高生たちが主役のオリジナルアニメ。「頑張っている人を応援したい」この真っ直ぐなメッセージと、人物たちのユニークな掛け合いが魅力の作品だ。

応援を届けるお届けチア、ということで、今回は野球部の応援の助っ人としてPoMPoMsが駆り出されるエピソード。御当地ネタでもあるらしい2つの高校のライバル関係だとか、両校のチア部長と応援部長の幼馴染からの因縁だとか、盛りだくさんで楽しいエピソードだ。なれなれはシリアスな話も多かったけど、この回のようなユーモラスな雰囲気があるところが一番好きなアニメだな。

「きゃつらが花なら、我らは”菜"だな。野菜の菜、茎や根っこのことだ。華々しい演舞で咲き誇る競技チアに対し、応援委員会のなんと泥臭いことよ……。しかし! それこそが応援魂!」応援団長のこのセリフ、すごく作品の応援観を象徴するセリフっぽくて好きだ。
このアニメのテーマである「応援」って、このセリフの通り、あんまり主役にはなれない「菜」の側で、今回も「花」はもちろん実際に試合をやる野球選手のほうだ(競技チアはそれ以上に目立ったりもしてるけど!)穏花も「こんなの(ポンポン)振ったって勝てるわけない」なんて言って冷めてるけれど、確かに応援というのはあくまで添え物で、それによって何が変わるわけでもない……というのも間違えではないのだと思う。
では、応援にできることってなんだろうか? 今回描かれていたその答えは、応援によって直接でないにしろその物事に参加できること、そして当事者の一員になれることだと思う。これになんの意味があるのかと言われたら、意味なんてないのかもしれない。でも、このなんでもない連帯が、案外応援される人を勇気づけることもあれば、逆に応援している方が元気をもらえたりだってする。
ちょっとだけ認識を変えるこのことこそが、なれなれのOPで歌われてるような「世界をちょっとだけ変える」ってことなんじゃなかろうか。

大したことをしなくていい、アニメの全部をかけてほんのちょっとだけ前に進めることができる、そんな一歩を愚直に応援してくれるようなアニメが好きだ。『菜なれ花なれ』が好きな理由って、なんか今ひとつ自分でもよくわかっていないのだけれど、きっとたぶんそういうところなんだろうな。

夢中になってアニメを見ることだって、言ってみれば応援なのかも。どうでしょう。応援ってキャベツだし、アニメ視聴。

ネガポジアングラー 第9話『鍋パ』

脚本:鈴木智尋 絵コンテ:青木弘安 演出:三浦 慧 演出補佐:松原 聡、尾形光洋 総作画監督:谷口宏美 作画監督:Lee Gwan Woo、Kim Kyung Ho、Kim Jong Bum、Lee Kyung Soon 作画監督補佐:中山見都美、三好和也、南井尚子、三島詠子、緒方歩惟、梁 博雅、東 亮太、栗田新一

大型台風が到来し、暇になった常宏たちは店内でFGノットの練習をするなど、のんびりと過ごす。そこへ、以前常宏を追っていた借金取りたちが訪れ、常宏は慌てふためく。
(公式あらすじ)

オリジナル作。この作品は釣りのアニメなのだが、このエピソードは台風直撃、ほとんど全てがコンビニの中だけで完結するという異色回。この「部屋の中だけで完結するゆるいコメディ回」みたいなものが、特に理由もないのだが凄く好きだ。ので、こういう回があると嬉しくて、ついつい選出してしまう。

釣りができなくとも、釣りの話はできる。こんな天気でもハナが釣りに行こうとして止められたりだとか、台風が来ていてお客が来ないから、ヒマなヒロが熱心に糸結びの練習をしてるとか。やってなくても生活の中に釣りがあるっていう、このおおらかさが凄くいいなと思うし、特に釣りというのはそういう生活に根付くことができる趣味なのかもしれない、なんてアニメを見ていると感じる。
あと、描写が丁寧なのも趣味アニメとして良い。今回もアンコウを鮮やかに捌くところのシーンとか、好きだなぁ。

台風という自然の脅威はどうしたって避けられずに人々を脅かすものだ。それは、本作で病気や家族の死のような、人を曇らせ「ネガ」にさせてしまうものと同じだろう。しかし、雨から逃げて人も集まって、じゃあ鍋もしちゃいましょうよという、このポジディブに不幸を受け流そうとしている感じが良い。降りかかる不幸を受け止めつつも、ちょっと前向きになれるような、このアニメらしい良さが詰まった回だなと思う。

借金取りの人たちも交えて鍋を囲む、そんな回に違う糸を束ねる「FGノット」をやってるのも、気が利いたモチーフの使い方だ。人と人を結ぶ「糸」……こう書くとベタすぎるけど、でもいいじゃないですか。

村井の恋 第12話

脚本:山川進 演出:北芳恵、山川吉樹 絵コンテ:山川吉樹 作画監督:J.C.STAFF作画部、河村あかり、下江一正、前田ゆりこ

友達がいなかった小学生の村井は高校生の田中と出会い、そして恋をしていた。そんな村井の軌跡を辿った春夏秋冬は、恋敵であるはずの村井のもとを訪れて...
(公式あらすじ)

漫画原作のラブコメ作品。新任教師の田中に熱烈にアタックする男子高校生・村井の恋を面白おかしくハイテンションに描く。

まずこのアニメ、とにかく省カロリーっぷりが凄い。まず映像が「動く」ことがなくて、静止画を出したり消したり、あとは揺らしたりして、あとはSEを加えてありとあらゆる動きを表現している。
しかし考えてみればこれは極めてプリミティブなアニメーションの形ではないかと思う。なぜならばもともと、何枚もの静止画を連続して映すことでさも動いているように私たちに錯覚させることがアニメーションであるからだ。実際、例えば足の動きというのは作画カロリーが高いので、上半身の動きだけでさも歩いているように見せる、なんて手法は、『村井の恋』以外にもいろいろなアニメを見ていれば当たり前のように出てくる演出だ。
であればこの作品もまた、そうした基本的な演出の積み重ねによって成り立っている部分もあるはずなわけだが……いや、それでも、ここまできれいに錯覚させられてしまうことが、すごい。

後半ともなれば、村井の恋模様もどんどんシリアスになっているわけで、視聴者は固唾を飲んで見守っている。そうしてふと気がついたときに「この作品のことを極めて普通に見られてしまっている自分」を認識し、それに驚いてしまう。最終回でも手拍子をしているシーン、エフェクトだけついたり消えたりして、手の絵は微動だにしていないのに、それをSEとともに映像として流されると「さも手拍子しているように錯覚」してしまう。これも初見のときは普通に気が付かずに、これを書くために見返して「拍手の手、全く動いてねえじゃん」と思ってビックリした。

もちろんそうした省力の演出だけがこの作品のアニメ部分の巧さではない。ギャグとして、また恋愛ロマンスとして、緩急の付いたテンポによって巧みにこれの作品を映像に仕立て上げているのもちゃんとしている。
時々思うことなのだが、漫画と映像作品の決定的な違いは動くことの有無ではなく、鑑賞時間の主体が作品側にあり、作品サイドでコントロールされているかどうか、であると思う。

どうしても技法がすごすぎてそっちの話ばかりになってしまうのだが……この最終回、お話もめちゃくちゃおもしろい。
なぜ村井の過去の思い出を今まで田中に話さなかったのか? なぜ田中は今の今まで村井のことを思い出さないのか? この問を紐解くドラマチックな展開には舌を巻いたし、村井が乙女ゲーのキャラの絵が入った痛ベースを持ち出すシーンなんて、もう涙なしでは見られない名シーンだ。いやいや、ほんとなんだって。騙されてると思うかもしれないし、自分でもまだ騙されてるんじゃないかと思うぐらいなんだけど……でもアニメ『村井の恋』凄い! 本当に凄いんだ!

オーイ! とんぼ 第25話『勝者と勇気』

脚本:広田光毅 絵コンテ:川崎逸朗 演出:神谷マキ 作画監督:白石悟、鎌田耕一、森悦史、飯飼一幸

大会最終日、最終ホール。
左足のケガの痛みに耐え、限界のスイングをするエマ。自分の殻を破ろうともがくひのき。最後まで自分のプレースタイルを貫くつぶら。1打を巡る3人の渾身のプレーを、先にホールアウトしたとんぼが見守る。最後の最後まで分からない白熱の展開は、意外な結末に――。
(公式あらすじ)

鹿児島の離島で暮らすゴルフ少女・とんぼの成長と挑戦を描いた漫画原作アニメ。分割2クールで、とんぼが島から出るまでを描いた1クール目と、九州女子選手権でライバルと競い合う2クール目が今年に放送されている。

『オーイ!とんぼ』というのは非常に面白い作品だった。島で生きるとんぼ周辺の人々のドラマを描いた、人情たっぷりのヒューマンドラマだった1クール目もとても良かったのだけれど、2クール目になると今度は競技シーンとしてのゴルフを描くアニメになっている。
もともとは、遊びとしてゴルフをやっていたとんぼのおおらかなところがアニメにも反映されているような雰囲気があったのだが、そんなとんぼも次第に競技として「勝ちたい」ゴルフをするようになる。とんぼが自身の中の闘志に気がつくころには、私もすっかり緊迫した競技ゴルフアニメの面白さに飲み込まれていることを実感して、思わず震えたものだった。

さて、とんぼがショットを打つエピソードもとてもいいのだが……今回25話は、とんぼが前話でホールアウト(打ち終えた)あとのドラマ。ここでも選手たちの積み重ねてきた年月を、ショットとして表現し合うような凄まじい試合になっていて、1シーン1シーンで息をするのもためらうような熱戦が繰り広げられる。
勝利を掴むために賭けに出る円。足の痛みをこらえながらも10年分のすべてを込めてショットを打ち上げるエマ。そんなゴルファーたちに憧れ、自身も研鑽の果てにある一打を見せるひのき。そんなゴルファーたちの姿に圧倒されて、よくわからないまま涙が出てきてしまう。

特に好きなのがひのきのエピソードだ。結果を出すことに囚われ、ボールが動いてしまったことをかつて深刻しなかったひのき。しかし最後の最後で、彼女は涙ながらに自分の罪を告白する。サブタイトルの『勝者と勇気』この後者の勇気はひのきのこの行動を指したものだろう。低きへ流されてしまうのが人の性であるならば、善くあらんとするのもまた人の意思の素晴らしさだろうと思う。
ひのきをかばう支配人の言葉が本当にいい。「ゴルフは紳士淑女のスポーツと言われます。ですが、正確には違うらしいのです。ゴルフは、紳士淑女を"育てる"スポーツ、これが本当なのだそうです。コースに出る誰もが、最初から紳士淑女のはずありません。ゴルフを通して、紳士淑女になっていく……のではないでしょうか」何回聞いてもいいセリフだ。こんなに素敵な姿勢はないだろう。

とんぼ島へと届かせようとした一打。このショットがとんぼが届くよう願った島の人のみならず、その起こす風が違う場所の、とんぼの周囲の人々の心の火もまた燃え上がらせていくのが、すごくいいなと思う。
ゴルフの中で人情を描いていた本作の、一つの到達点のエピソードとして申し分ない。

わんだふるぷりきゅあ! 第26話 『暑すぎてヤバい!』

脚本:千葉美鈴 絵コンテ・演出:のもとゆうや 作画監督:青山充

いつものように朝のお散歩に出かけたものの、暑さのせいで足どりの重いこむぎといろは。同じ頃、買い物に出かけたユキとまゆも、やはり暑さでまいっていました。そんな4人は、ちょうど打ち水をしていた悟の家の前で顔を合わせます。
こむぎたちは悟の家で、冷房の効いた部屋で元気を取り戻します。お昼ごはんをごちそうになり、悟の家を出ようとしたとき、街にガルガルがあらわれました。
息を切らせながら駆けつけたこむぎたちの前では、ラクダ型のガルガルがあばれていました。暑さのせいでいつもの力が出せないプリキュアでしたが、リリアンがキラリンペンギンの力を借りて辺りを氷で包みこみ、ガルガルを元の姿に戻すことに成功します。
次の日、こむぎといろはは、早朝からお散歩に出かけます。保冷剤やお水もたくさん持って、ふたりはまだお日さまがのぼる前の涼しい時間帯の街を元気いっぱいに駆け回るのでした。
(公式あらすじ)

2024年のプリキュアシリーズ。今年のプリキュアは人と動物の絆がテーマの作品だ。凶暴なモンスターになってしまった動物を打倒するのではなく「戦わずに助ける」ということを徹底しており、人と動物が同じ世界で生きていく上での出来事を、様々な角度から描いている。

わんぷりってすごくいい作品で、10選に選ぶべきような感動的なエピソードもいくつもある。だから私もこのアニメからどのエピソードを選ぶかとても悩んだのだが、やっぱり楽しげな日常エピソードにこそ、わんぷりのいいところが一番詰まってるんじゃないかと思い、このエピソードを選んだ。
タイトルの通り、今回は酷暑を乗り切るお話。ちょっと外に出かけただけで砂漠を行くイメージ映像流れてくるとか、暑すぎて体が溶けちゃう感じとか、とにかくいろいろなシーンがコミカルに描かれていて、それが面白くてすごく好きなエピソードだ。今回助けることになるのはラクダのガルガルで、口に鉄くずを含んで飛び道具で攻撃してくるんだけど、空中に静止しながら頑張って避けるアクションとか、そういうのも面白くてずーっと楽しく見られる。

もちろん楽しいだけのお話というわけでもない。動物と人が一緒に生きていくうえで、この酷暑をどう乗り切るべきなのか、なんて教訓も含まれている。「兎は暑さに弱いから冷房を常にかけておかないといけない」だとか、動物を飼っていない身からすると素直にためになる話で面白い。
プリキュアとなったこむぎも、もちろん犬だから散歩しないといけない。そこで、飼い主のいろはは年中快適なニコガーデンという不思議な空間で散歩させてもらえないか頼むのだけれど、断られてしまう。じゃあどうするかというと、しっかり準備をして、涼しい早朝に散歩しよう、となる。このオチがなんだか私はすごく好きで、これって当たり前の解決法なのだけれど、この地に足がついた感じがすごくいいなと思うのだ。

現実にはプリキュアはいないから、魔法の力で解決をしちゃうと、都合のいいだけのお話になっちゃうと思う。わんぷりって、犬のこむぎは人間の言葉を話せるようになって、人のいろははこむぎと一緒におもいっきり走れる犬の身体能力を手に入れて。魔法の力で動物と人がもっと仲良くなれている。でもこの力がなかったら人と動物って一緒にいられないのかというと、全然そんなことはないわけで。
だからわんぷりの中で描かれているメッセージというのはずっと「どう折り合いをつけて、お互いに歩み寄っていけるのか」ということだと思うのだ。これって人と動物だけじゃない、人同士にとってだってすごく大切な話をしている。プリキュアが子どもとその親御さんに向けているアニメだからだろうか、この真っ直ぐなありようが眩しいアニメだなと思う。この純粋な優しさが妙に刺さってしまうのって、もしかしたら私が年を取ったせいなのかもしれない。

氷も溶けてしまう暑さ。地球温暖化って私が子どもの頃は正直「よく言われてること」程度の認識だったのだけれど、最近の耐えられないような暑さの夏を経験すると、否応なしに身近な問題として感じられてしまう。
今回のエピソードはそんなふうに社会情勢をちょっと反映させた回だと思っているのだけれど、楽しい中でもすごく大切な話をしっかりとしていること。これって本当にわんぷりの良さだなぁと、そう私は思うのだ。

惜しくも選外となったアニメ10選

ラグナクリムゾン第24話 『光』
温かな、あるいは身を焦がす、様々な形の光。
閃光のように駆け抜けた人や竜の生き様が眩しい、鮮烈な最終回。


ゆびさきと恋々 Sign.1 『雪の世界』
雪が降る世界、そして雪の世界に入ろうとする逸臣。
ぱあっと花が咲いたような笑顔がたまらない、恋が始まる予感のエピソード。


治癒魔法の間違った使い方 第11話 『炸裂!必生の拳!』
攻撃を反射する魔法の鎧を治癒パンチで下して現れる「治癒魔法の間違った使い方」のタイトル、一番かっこよすぎ。
ヒューマニズムに溢れた物語のひとつの到達点。


最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。第1話 『ひとりの旅へ』
村を出るアイビーの旅立ちを繊細な目線で描く1話が圧巻。
正直後半の嘘発見器の話がなければもっと素直に見られただろうにと思うと、惜しい……。


忘却バッテリー #11 『俺は嘘つきだ』
千早の「嘘つき」について。体重を増やすために無理やりしている食事シーンが本当に辛く、心に来る。
作中の人々も視聴者をも騙すようなフォーボールでの出塁が気持ちよすぎ。


HIGHSPEED Étoile #12 『その先の景色』
凛が火をつけたレースの終着点。
とにかく説明不要の熱さがたまらない。ちょっと抜けたタイトル回収もすごくこのアニメらしくていいシーンだ。


喧嘩独学 第8話 『実践』
最強と言われる格闘技、テコンドーとの戦い。
アニメ喧嘩独学でもベストバウトのエピソード。テコンドーの時計をずっと大事にしている新庄が好きだ……。


死神坊ちゃんと黒メイド 第36話 『死神坊ちゃんと黒メイド』
これ以上ない大団円の3期最終回。1期エンディング流す結婚式よりいい結婚式ないですからね。
ムチャクチャいいんだけど3期の重み故なところもあり、泣く泣く選外……!


疑似ハーレム 第7話 『卒業』
校舎を舞台に見立ててしまうシーンが本当にロマンチックだ。
このあとのアニメなにするの? って思ったことをよく覚えている……が、更にラブコメは加速した!


アクロトリップ #4 『ずぶぬれレイニーデイ』
アクロトリップらしい、どうにも締まらない悪と正義の戦い……なのだけれど、地図子の目を通したそれは本物であった。
関わると決めた地図子の決心がすごく重要な回だ。

おわりに

ということで、以上が2024年のアニメ単話10選となる。

正直、企画参加のために年内に20本再視聴をして記事を仕上げるのがめちゃめちゃ大変だった。もっと早くから取りかかれたらいいものの……まだ見ていないアニメにあわてて追いついたものもあり、年末のアニメも12/30まで放送しているし、関係はないけどコミケもあるしで、1年で一番忙しかった数日間のような気もする……。

今回選んでいて、なんとなく見ていて楽しい回、みたいなものを選ぶことが多かった。特に心境の変化があったわけでもないのだが、今はそういう時期なのかもしれない。それはそうと、テレビアニメを見る趣味の良さって、やっぱりこの毎週見て「ああ楽しかったなぁ」と思えることの嬉しさだし、今はそういうものを積極的に評価していきたい、みたいな時期なのかもしれない。

今年はざっくり120本ぐらい見たらしいが、昨年よりも本数減となってしまった。多く見ればいいというものでもないが、やはり見なければ面白い/好きな作品に出会うスタートラインにも立てないわけで。生活の中で、つい遅い時間のアニメをスルーしがちだったり、集中力を欠いたりしてしまうが、折り合いをつけて引き続きアニメ見ていきたいと思う。あとできればもうちょっと余裕をもって10選したい……。

それでは、来年もアニメ見ていきましょう。