インタビュー

【SUPER GTタイヤメーカーインタビュー】GT300で過半数のマシンに供給するメリットなどを横浜ゴムMST開発部長斉藤英司氏に聞く

横浜ゴム株式会社 タイヤ製品開発本部 MST開発部 部長 斉藤英司氏

 横浜ゴムのモータースポーツ活動史は古く、1970年代から日本のトップフォーミュラへのタイヤ供給を行ない、途中で中断を挟みつつも2016年からは全日本スーパーフォーミュラ選手権にワンメイク供給を行なうなど、日本のモータースポーツシーンにおいて「ADVAN」は、モータースポーツファンにとってはおなじみだろう。

 SUPER GTにも全日本GT選手権として始まった1994年から継続的に参戦しており、1995年には現在のGT500クラスに相当するGT1クラスでチャンピオンを獲得したほか、GT300クラスでは毎年のようにチャンピオン争いの常連だ。

 その横浜ゴムのSUPER GTへのタイヤ供給について、横浜ゴム タイヤ製品開発本部 MST開発部 部長 斉藤英司氏に話を伺った。

GT300は半数以上の16台にタイヤを供給。SUPER GTの足下を支える横浜ゴム

 横浜ゴムは1917年と創業100年を超える歴史あるタイヤメーカー。市販タイヤとしては「ADVAN(アドバン)」「BluEarth(ブルーアース)」「iceGUARD(アイスガード)」といったブランドを展開している。

 モータースポーツ活動にも力を入れているタイヤメーカーの1つとしてもよく知られており、1970年代には勃興しつつあった日本のトップフォーミュラにタイヤ供給を行なっている。1980年代~1990年代には全日本F2選手権、Cカーによる全日本耐久選手権などのトップカテゴリーに、ADVANのロゴがついたマシンが必ず参戦しているような状況で、モータースポーツファンにはおなじみの歴史といえる。

横浜ゴムはSUPER GT300クラスでは半数を超えるマシンにタイヤを供給している

 また、トップカテゴリーだけでなく、全日本ラリー選手権や全日本ダートトライアル選手権といったグラベル系のシリーズにもタイヤを供給し、横浜ゴムがなければ日本のモータースポーツが成り立たないといっても過言ではない。

 さらに、2016年からスーパーフォーミュラにワンメイク供給を行なっており、現在では再生由来の素材を利用したタイヤを供給するなどユニークな活動も注目を集めている。

 そして今シーズンのSUPER GTには、GT500に2台、GT300ではシリーズエントリー28台のうち16台(約57%)と過半数の車両にタイヤを供給。GT300にこれだけの車両が参加できるのも、横浜ゴムがこれだけの台数にタイヤを供給しているからで、まさにシリーズを足下から支えているといえる。

GT500クラスに参戦している19号車 WedsSport ADVAN GR Supra(国本雄資/阪口晴南)

横浜ゴムのSUPER GT供給車両

クラスNo.車両名ドライバー
GT50019WedsSport ADVAN GR Supra国本雄資/阪口晴南
GT50024リアライズコーポレーション ADVAN Z松田次生/名取鉄平
GT3000VENTENY Lamborghini GT3小暮卓史/元嶋佑弥
GT3004グッドスマイル 初音ミク AMG谷口信輝/片岡龍也/中山友貴/奥本隼士
GT3005マッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号塩津佑介/木村偉織
GT3006UNI-ROBO BLUEGRASS FERRARI片山義章/ロベルト・メリ・ムンタン
GT3007CARGUY FERRARI 296 GT3ザック・オサリバン/小林利徠斗/木村武史/澤圭太
GT3009PACIFIC アイドルマスター NAC AMG阪口良平/冨林勇佑/藤原優汰
GT30018UPGARAGE AMG GT3小林崇志/野村勇斗
GT30022アールキューズ AMG GT3和田久/加納政樹/城内政樹/庄司雄磨
GT30025HOPPY Schatz GR Supra GT松井孝允/佐藤公哉
GT30026ANEST IWATA RC F GT3イゴール・オオムラ・フラガ/安田裕信
GT30048脱毛ケーズフロンティアGO&FUN猫猫GT-R井田太陽/柴田優作
GT30056リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ/平手晃平/金丸ユウ
GT30062HELM MOTORSPORTS GT-R平木湧也/平木玲次
GT30087METALIVE S Lamborghini GT3松浦孝亮/坂口夏月
GT300360RUNUP RIVAUX GT-R青木孝行/荒川麟/清水啓伸/田中篤
GT300666seven × seven PORSCHE GT3R藤波清斗/近藤翼/ハリー・キング
GT500クラスに参戦している24号車 リアライズコーポレーション ADVAN Z(松田次生/名取鉄平)

GT300のさまざまな車両に対応するのもタイヤメーカーとしての供給責任

──今シーズンの第3戦(インタビューは第4戦前に実施)までを振り返ってどんなシーズンになっているか?

斉藤氏:GT500に関しては昨年抱えていた課題に対して打った対策の効果が少しずつ見えてきたと考えている。昨年の後半戦はウェットで厳しいシーンなどがあったが、第1戦の岡山ではそれがちょっと上向きになったと感じている。また、第3戦のセパンでは19号車 TGR TEAM WedsSport BANDOHがポールを獲得して、速さを取り戻しつつあると考えている。ただ、依然として競合はものすごく強いので、彼らの背中をしっかり追いかけていきたいという状況だ。

2024年からの改善が少しずつ効果に現われてきたと斉藤氏

 GT300に関しては、昨年0号車 VENTENY Lamborghini GT3がシリーズチャンピオンになったことは喜ばしいことで、横浜ゴムとしてもMR(ミッドシップエンジン-リア駆動)のマシンに最適なタイヤを作れたと感じている。しかし、その反面、FR(フロントエンジン-リア駆動)のマシンへの対応をもっとよくしていかないといけないと感じており、それを今シーズンの課題としてきた。その意味では、第3戦セパンで、18号車 UPGARAGE AMG GT3(小林崇志選手/野村勇斗選手)が優勝し、3位に4号車 グッドスマイル 初音ミク AMG(中山友貴選手/奥本隼士選手)が入ったことは(いずれもFRの車両が上位に入ったことで)手応えを感じる結果だった。

 他のメーカーさんはGT300に関しては数台の対応だが、われわれの場合は、FR、MR、RRなどさまざまな駆動方式の車両があって、一筋縄に対応できるものではない。これは供給数が多い故の悩みでもあるが、同時に強みでもある。そうした多数の車両からしっかりデータを取り対応していくことが重要だし、供給責任だと考えている。

サーキットの路面の違い、マシンの駆動系の違い、路面温度の違いなど、さまざまな要因に対応するタイヤを供給している横浜ゴム

──今シーズンのタイヤの変更点について教えてほしい

斉藤氏:地道なアップデートを続けている。地道に小さな問題をつぶしていくことが、取りこぼさないという意味で重要。新しい材料の研究も常に続けており、構造に関してもどういう積層にすればいいかなど、日々改善している。シーズンオフにセパンなどでテストを行ない、それを投入したものが第3戦のセパンでのGT500のポールや、GT300の優勝につながったと考えている。

GT300クラスに参戦している0号車 VENTENY Lamborghini GT3(小暮卓史/元嶋佑弥)

──レースの世界に限らず、持続可能な社会や産業を実現するための取り組みとして、再生可能材料を利用したタイヤの開発を各社が取り組んでいる。横浜ゴムの取り組みに関して教えてほしい

斉藤氏:横浜ゴムはサーキュラーエコノミーを実現するために、再生可能資源を利用した技術開発に取り組んでいる。市販タイヤでの取り組みはもちろんだが、同時にモータースポーツでもその取り組みを加速している。その一例としては、スーパーフォーミュラで再生可能資源を利用したタイヤを供給している。今シーズンは再生可能原料・リサイクル原料比率をさらに高めたADVANブランドのタイヤをスーパーフォーミュラに供給しており、その利用比率を昨シーズンの33%、そして今シーズンの目標だった35%を大きく上まわる46%をすでに実現している。

 SUPER GTに関しては、いきなり同じような割合を実現するのは難しいが、今後SUPER GTでも再生由来の材料を増やすなどの取り組みは続けていきたいと考えており、今年は市販タイヤでもサステナブルなタイヤが出てきており、レースでもそうしたトレンドが広がっていくと考えている。

サステナブルタイヤの開発も日々継続していると斉藤氏

──今シーズンの横浜ゴムのモータースポーツ活動に関して教えてほしい

斉藤氏:SUPER GTとスーパーフォーミュラ以外のレースという意味では、ニュルブルクリンク24時間レースに参戦するKONDO RACING(REALIZE KONDO RACING with Rinaldi)にタイヤを供給し、予選2位からスタートしてレースでも上位をキープしていたが、残念ながらチェッカーまで4時間を切ったところで、他車との接触により走行不能となりリタイアになってしまった。ほかにも、全日本ラリー選手権、全日本ダートトライアル選手権、全日本ジムカーナ選手権など広い裾野でさまざまな選手権にタイヤを供給している。

──今シーズンのSUPER GTの目標について教えてほしい

斉藤氏:GT500に関しては、19号車、24号車にどこかで優勝してほしいと願っている。GRスープラも、Nissan Zも、いずれもライバルは強力だが、それに対抗できるようなタイヤをしっかり作っていきたい。

 GT300に関しては、昨年同様にシリーズチャンピオンを獲ることが目標だが、どの車両でも、それこそFRでもMRでも、横浜ゴムが供給している車両がすべてのレースで勝って、その結果としてチャンピオンが獲れると嬉しいと思う。

GT300クラスに参戦中の4号車 グッドスマイル 初音ミク AMG(谷口信輝/片岡龍也/中山友貴/奥本隼士)

GT500は第6戦スポーツランドSUGOがチャンス、GT300は第5戦でMR車両でも優勝

 このインタビューが終わった後の第4戦富士レース1の予選では、19号車 WedsSport ADVAN GR Supra(阪口晴南選手)がポールポジション(決勝は4位)という結果を残し、第5戦鈴鹿では24号車 リアライズコーポレーション ADVAN Zと共にノーポイントに終わった。そのため、19号車 TGR TEAM WedsSport BANDOHはGR Supraの中で、24号車 リアライズコーポレーション ADVAN ZはNissan Zの中でサクセスウェイトが最も軽くなっており、上位勢のサクセスウェイトが最も重くなる第6戦スポーツランドSUGO(9月20日~21日開催)では優勝の大チャンスが到来している。

 GT300に関しては第5戦鈴鹿において、7号車 CARGUY FERRARI 296 GT3(ザック・オサリバン選手/小林利徠斗選手)が予選2位、決勝で優勝という結果を残しており、第3戦のFR車(メルセデス)で優勝したことに加えて、第5戦ではMR車(フェラーリ)で優勝したことになり、インタビューでも言及されていた、「さまざまな駆動方式の車両で勝つ」という課題を克服したように見え、シリーズ制覇に向けて順調に進んでいるようだ。