インタビュー
【SUPER GTタイヤメーカーインタビュー】レーシングタイヤでサステナブル素材含有量71%を実現しているミシュランのモータースポーツ活動を小田島広明氏に聞く
2025年9月18日 07:01
日本で最も人気があるレースシリーズSUPER GTは、1994年にスタートした全日本GT選手権をルーツに、30年以上にわたって日本の複数のサーキット、そして2025年はマレーシア・セパンでの海外戦を含めて全8戦で開催されている。次戦は第6戦がスポーツランドSUGOで開催され、終盤を迎えている。
そのSUPER GTに長年タイヤを供給しているのがミシュラン。フランスのタイヤメーカーで、日本のブリヂストン、アメリカのグッドイヤーと並び、グローバルでトップ3のシェアを持つ巨大タイヤメーカーだ。
そこで現状のミシュランのSUPER GT活動について、長年日本ミシュラン モータースポーツダイレクターを務める小田島広明氏に話を伺った。
長くSUPER GTに参戦し、4度のGT500チャンピオンなどの実績を持つミシュラン
ミシュランは1889年にフランスで創業したタイヤメーカーで、「PILOT SPORTS(パイロットスポーツ)」「PRIMACY(プライマシー)」「CROSSCLIMATE(クロスクライメート)」など、複数のブランドタイヤを世界中で販売している。さらに、飲食店の覆面調査による評価ガイド「ミシュランガイド」を発行しているブランドとしても知られているだろう。
そのミシュランは、モータースポーツにも熱心に取り組んでいる企業の1つで、古くは2006年までのF1参戦(1970年代後半~1984年まで)、近年はWEC(世界耐久選手権)やル・マン24時間レースなど、スポーツプロトタイプカーへのタイヤ供給、二輪のMotoGPへのタイヤ供給など、実に多種多彩なモータースポーツ活動を行なっている。
ミシュランのモータースポーツ活動は、本社があるフランスのクレルモン・フェランで研究開発や製造が行なわれ、それを世界中のモータースポーツの現場に投入していて、日本のSUPER GTのタイヤも同様で、フランスで開発して製造されたタイヤが持ち込まれている。
ミシュランのSUPER GTへの参戦は、多彩な歴史がある。GT300には「BFグッドリッチ」ブランドで参戦し、2002年に装着車がシリーズを制覇している。GT300ではほかにも2005年、2007年、2008年にミシュランブランドでタイトルを獲得しているほか、GT500では2011年、2012年、2014年、2015年とミシュラン装着車がタイトルを獲得している。
しかしGT500への参戦は2023年末をもって終了、現在はGT300のユーザーチームにタイヤを供給する形でSUPER GTに参戦している。
SUPER GTでのミシュラン装着車
クラス | No. | 車両名 | ドライバー |
---|---|---|---|
GT300 | 20 | シェイドレーシング GR86 GT | 平中克幸/清水英志郎/佐野雄城 |
GT300 | 30 | apr GR86 GT | 永井宏明/織戸学/小河諒 |
シリーズを通して参戦するチームは2台だが、第3戦セパンではワイルドカード(シリーズ参戦はしていないが、海外戦などで参戦が認められるゲストチームのこと)として参戦した611号車 EBM GIGA 911 GT3(Adrian D Silva選手/Dorian Boccolacci選手)がミシュランタイヤを装着し、予選1回目(Q1)でトップタイムをマークする活躍をみせている。
ミシュランにとってモータースポーツ活動は、タイヤ開発のラボという位置づけ
──2023年末をもってGT500活動を終えたが、その後のSUPER GTの活動はどういう形になっているか?
小田島氏:ミシュランにとって、モータースポーツの活動はラボ(研究開発の場)であるという位置づけは変わっていない。しかし、GT500に参戦していたときと、今のGT300の活動というのは位置づけは異なっている。GT500に参戦していた時代は、数少ない競争があるレースシリーズということで、タイヤメーカーとしてあらゆる技術的なチャレンジ、生産性の向上、持続可能なタイヤの実現といった有意義な開発の場として活用してきた。それに対して、今のGT300のみでは、ユーザーチームに対して、われわれが持つ知見をよりよく実現したタイヤを供給するスタイルとなる。
──ここまでの3戦を振り返ってどういう自己評価か?
小田島氏:セパンまでの3戦に関しては、全体的に見るとウェットの性能は良好で、ドライに関してはよいところとわるいところが両方あり、今年になって投入した改良は狙い通りに機能している。セパンではワイルドカードで出場した611号車 EBM GIGA 911 GT3が公式練習1とQ1で1位、公式練習2で2位という速さをみせ、決勝でもスティント単位で見るとトップ争いができるレベルの性能を発揮できた。
また、GT300に参戦している目的の1つに、FIA-GT3車両の基礎的な開発の学習ということがある。世界的に見れば、ニュルブルクリンク24時間、WEC、IMSAなどFIA-GT3を採用しているカテゴリーがあり、そうしたレースに参戦するときにGT300での経験が生きてくるからだ。
──確かに第3戦の611号車の活躍は非常に印象深かった。そもそもどういう経緯でセパンで611号車にタイヤを供給することになったのか?
小田島氏:611号車のチームであるEBM GIGA RACINGのアール・バンバー氏のチームとは欧州でつながりがある。そのときにセパンのレースにでると聞き、欧州のミシュランに連絡があり、そこから日本につながってタイヤを供給することになった。欧州でのレース実績を評価していただいたのだと考えている。
──レースに限らず、タイヤ業界はサステナブルなタイヤ産業の実現に取り組んでいる。ミシュランのサステナブルな取り組みに関して教えてほしい。
小田島氏:ミシュランでは、すべてのタイヤをサステナブルマテリアル(筆者注:再生由来の素材などのこと)の含有率を2030年までに40%にするという目標を掲げており、それはモータースポーツ用も例外ではない。すでにそうしたサステナブルマテリアルは、WECやMotoGPなどのワンメイクカテゴリーで利用しており、ポルシェの電動車用のタイヤでは71%という含有率を達成している。
競争があるカテゴリーにも将来的に導入していきたいと考えているが、そこで課題になってくるのが、そもそも含有率とは何を示すのか、きちんとレギュレーションで定義し、どのように計測・判定するのかということ。再生材料といっても、製造過程なのか、タイヤ素材なのか、それらも含めてきちんとレギュレーションで定義して、継続的に取り組んでいくことが大事だと考えている。
すでに述べたとおり、ミシュランがモータースポーツに参戦するのは技術的な鍛錬の場として考えている。今後環境対応が重要になれば、モータースポーツ用タイヤもそれに磨きをかける場となっていくべきだと、われわれは考えており、そうしたレギュレーションを持つカテゴリーへの参戦を行なっていきたい。
──SUPER GT以外のモータースポーツ活動に関して教えてほしい。
小田島氏:WECのハイパーカークラスと、MotoGPへのワンメイク供給を行なっているほか、IMSAではGTP(LMDh)、LMP2、GTDなどに公式サプライヤーとしてタイヤを供給している。
ユニークなところでは、クラシック用タイヤの販売も日本で行なっている。実は2010年ごろから欧州のごく一部のユーザーの要望に応じて小規模生産を行なっていたが、そうしたクラシックカーのオーナーズクラブからも、「当時のクルマに適合するタイヤが欲しい」との相談を受けていた。
──今シーズンのSUPER GT活動における目標を教えてほしい。
小田島氏:シーズンを通じて供給させていただいている2チームに、ご満足いただけるようなタイヤをきちんと供給していきたい。
カスタマーチームの不運を乗り越えて後半戦で実力を発揮したい
ミシュランにとって、今シーズンのハイライトは、第3戦セパンであることに疑いはないだろう。ワイルドカードとして出場した611号車 EBM GIGA 911 GT3が公式練習1とQ1でトップタイムをマークしたのは多くのファンに記憶に新しいところだ。
シーズンを通しての戦績に関しては、供給している2チームのうち20号車 シェイドレーシング GR86 GT(平中克幸選手/清水英志郎選手/佐野雄城選手)が、5月に行なわれた鈴鹿テストで車両火災に見舞われてしまったことで第3戦セパンを欠場、また、第5戦鈴鹿では決勝レース前にピットで再び車両火災に見舞われるという不運に見舞われており、実力を発揮できる状況にはないことだ。
第6戦以降のレースでは、もう1台の30号車 apr GR86 GT(永井宏明選手/織戸学選手/小河諒選手)ともども、実力を発揮して結果を残せるレースを期待したいところだ。