「オトコが育児に参加するのが当たり前」の時代に変わりつつある。旬の経営者や学者、プロフェッショナルたちも、自らの育児方針や育休取得についてパブリックに言及することが増えてきた。優秀なリーダーたちは、我が子にどんな教育を与えようとしているのか。また自身はどう育てられたのか。そしてなぜ、育児について語り始めたのか。
連載19回目にスペシャル版として登場するのは、私立龍山高等学校理事で弁護士の桜木建二氏。成績底辺校で、経営破綻寸前に陥った私立龍山高校の再建計画として、「5年後までに東大進学者100人」を掲げ、独断で特別進学クラスを創設。奮闘の末、東京大学へ送り出した実績がある。東大合格を目標に多くの高校生を導いてきた桜木氏が考える子育て論とは。今回はその後編。
インタビューの前編で桜木さんは「今の親の常識で子どもを育ててはいけない」とおっしゃいました(詳細は「わが⼦を年収1000万円の“社畜”にするのか」)。確かに、親が自分の受験に成功した経験があれば、それを成功則として押し付けてしまいがちだし、逆に失敗していても、「わが子こそは」とプレッシャーをかけてしまうかもしれませんね。
桜木氏(以下、桜木):「子どもを親のプロジェクトにするな!」と言いたい。
親は、自分の仕事のプロジェクトを見つけてこい! 自分の人生を生きろ! 子どもには、子どもの人生を生きさせよ!
親が子どもに対してできることはないのでしょうか。
桜木:ある。体力を付けさせることだ。体力さえ備えておけば、いざ子どもが勉強しようと火が付いた時の集中力も高くなる。体力がなければ、勉強は持続できない。勉強以外でも、何か好きなことに取り組む時の粘りにつながる。体力は、最も汎用性の高いプレゼントだ。
「小1の息子がベイブレードにハマり過ぎて心配です」。これに対してはどう答えますか。
桜木:全く問題ない。没頭しているなら放っておいて、どこまでハマるのか見ていればいい。「そんなに好きなら、競技会に参加してみるか」と刺激してみてもいい。
好きなことに没頭する経験は、将来の集中力にもつながるからな。大人から見て「くだらない」「役立たない」と思うものでも、子ども自らが夢中になっているものを、奪い取ってはいけない。
なるほど。では、続けて「宿題をなかなかやろうとしない」という子育ての悩みに対しては。
宿題? やる気がないならさせなくていい
桜木:じゃあ、お前ら親の方はどうなんだ? 親は会社や上司から言われたタスクを全部やり切ったのか? 自分ができていないことを子に押し付けても無理だ。
そもそも、学校が出した宿題が本当に子どもにとって必要な宿題かという点も考えた方がいい。子どもがやる気がないのなら、無理にやらせる必要はない。子ども自身が宿題の意義を感じられていないからやらないだけだ。
宿題をせずに教師から叱られて、子ども本人が「やっぱりやるべきだ」と納得したならやるだろう。自分で学ばなければ、何も身につかない。
親が先回りしないほうがいい、と。
桜木:そうだ。その日着る服だって、全部子どもに決めさせればいいんだ。もし気温が低い日に子どもが半袖で登校しようとしたらどうする?
おそらく多くの親が「風邪を引くといけないから、すぐに長袖に着替えさせよう」と考えるだろう。しかし、俺が考える正解は「半袖を着せたまま登校させる」だ。
半袖を着たまま玄関の外に出て、「寒い」と思ったら、子どもは家に戻って着替えるだろうし、外に出ても「我慢できる」と判断したらそのまま通学する。その後に教室で過ごしながらやっぱり寒かったら、「明日は長袖で行こう」と本人が決めるはずだ。
この“自分で気づいて決める”プロセスが成長には不可欠なんだ。
もちろん、子どもが風邪を引いている時に同じことはしない。「道路に飛び出すな」ということも当然、教える。ただ命に直結すること以外は、なるべく子どもに任せた方がいい。
どんな習い事をさせたらいいのか、というのも関心が高いポイントです。
桜木:無理に習い事をさせることもないのではないか。子どもが興味を持つものがあれば習わせればいい。以上!
しかしながら、子どもが知っている世界の幅が狭いから、「知らないから興味が湧いていないだけ」ということが往々にある。
食べ物だってそうだろう。子どもの好物料理というと「カレー」「オムライス」「ハンバーグ」。いかにもお子様ランチ的な献立が上位に来るが、単に「それ以外を知らない」可能性は大いにある。もし、一度でも「モズク酢」を子どもたちに一斉に食べさせたら、「モズク酢が大好物」という声が1%くらい割り込む可能性だって、あるはずだ。
つまりバリエーションを広げる助けをしてあげた方がいい。
しかし、勘違いするな。何も子どもをいろんな習い事の体験教室に行かせりゃいいってもんじゃない。親が自分の趣味を広げたら、子どもの目にも勝手に入るようになる。親自身の週末の過ごし方を見直して、多様化させる方がてっとり早い。
子どもをどうやって成長させるかとあれこれ考える前に、親自身が成長しろ。
桜木さんが親になったとして、わが子に望むであろうことは何ですか。
ネガティブな経験にこそ価値がある
桜木:死ぬ時に「いい人生だった」と振り返ってくればそれでいい。10歳でメダルを獲るとか、20歳で大金持ちになるとか、通過点はどうでもいい。
引きこもりや不登校といった世間的にはネガティブとされる経験にこそ、価値があると俺は思っている。
人間はマイナスの局面に立たされるほど深く思考するものだ。社会からの断絶が、他人にはできない発想を生むことだってある。
俺はむしろ、そういう経験をしてきた人間に魅力を感じる。そもそもネガティブな経験なんて何もない。引きこもりや不登校がネガティブであるとレッテルを貼るから、そう見えるだけなんだ。
改めて、子育てで一番大事なことは?
桜木:子どもを信じ切ることだ。
しつこいようだが、俺が龍山高校で偏差値30の落ちこぼれたちを東大に行かせることができたのは、「お前たちは東大に行ける」と信じ続けたからだ。「多分行けないだろう。でも行かせたい」程度の気持ちでは、絶対に合格できなかったと断言する。
多くの親が陥っているのは、「自分に自信が持てない」という罠だ。
自分に自信がないから、「ダメな自分の子どもなのだから、そんなにできるわけない」とわが子を信じ切ることができずにいる。親とは関係がないはずなのに、わが子に勝手に枠をつくってしまっているんだ。
そんな枠、さっさと取っ払ってしまえ。
わが子の力を心の底から信じ切る。そのために自分自身に自信を持つ。親が自信を持つためにも、諦めずに成長し続けろ!
歳を取ったって、親になったって、人間はいくらでも成長できる。自分を高めろ! 自分にかまけろ! それが、子どもを伸ばす唯一にして最高の方法だ。
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