社長に就任して以来、加盟店の負担軽減を優先事項に掲げてきました。最近では店員が客の年齢・性別を推定して登録するレジの「客層キー」を廃止しました。
沢田貴司氏(以下、沢田):原点は「体験」です。就任前に自分がアルバイトと同じように店頭に立ち、汗をかいていろいろな仕事をしてみました。で、こんな大変な仕事をやっているんだ、と実感したのです。
就任後も、加盟店を300カ所以上まわっています。訪問時だけじゃなくて、加盟店のオーナーさん100人ぐらいとはLINEのアカウントを交換して、日々連絡を取り合っています。痛感したのが、現場の負担が危機的なまでに高まっている現実です。もう染み渡るように分かりますよね。特に人手不足は本当に深刻です。
ボディーブローが効いてくる
沢田社長はファミマ入社前、小売業や外食産業の支援会社であるリヴァンプで代表を務めていました。さらにその前の1990年代後半からは、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングでも副社長を務めています。小売業の経験は長いはずですが、コンビニの現場における人手不足は予見していなかったのですか。
沢田:分からなかったですよね。リヴァンプで僕が携わらせてもらった案件って、(クリスピー・クリーム・ドーナツなど)ブランド力で人材をひきつける企業が多かったのです。労働力が不足する感覚はありませんでした。
ユニクロ時代も同じです。社会問題として表面化しているのは最近ですよね。だからこそ、僕もファミマに来て現場に足を運んで話を聞いてみるまで、ここまで大変な事態になっているんだとは気づきませんでした。
いま、現場ではスタッフが集まらず、仮に採用できても定着しないんです。かつ(最低賃金の上昇で)人件費も上がっている。派遣スタッフを入れたりして、店舗はなんとか持ちこたえているけど、ボディーブローとして間違いなく、じわじわと体力が落ちてきているのは分かります。
だからもうとにかく全社を挙げて、店舗運営に関わる細々とした作業をシンプルにしなきゃいけない。だから客層キーをなくし、また宅配便の分厚い受け付けマニュアルも「ふざけるな、誰が読むんだ」と発破をかけて変えているんです。
店舗運営に要する作業の量を劇的に減らす目標を掲げています。
沢田:例えばPOP(店頭販促物)を1個取り付ける作業だって、差し込む紙と収容するケースの高さが同じではなかなか出し入れしづらいですよね。ちょっとだけサイズを変えれば格段に楽になるんですよ。本当ばかみたいな話なんだけど、そういうことが、これまでおざなりになっていた。これまでの経営者が悪かったとかじゃなくて、(エーエム・ピーエム・ジャパンやココストア、サークルKサンクスなどとの)統合による規模拡大を優先してきたツケが回ってきているんです。
加盟店に10月、アンケートを配布し、店舗オペレーションに関する意見をぶわーっと出してもらいました。本部に届いたぶんから優先順位をつけて、どんどん実行していく段階にあります。今後も3カ月に1回のペースで実施します。
コンビニは掲げる看板こそ全国ブランドですが、実際に店舗を経営しているのはフランチャイズチェーン(FC)契約を結ぶ零細事業者です。
沢田:そうですね。
だからそれぞれの加盟店の採用コストは限られ、身を削るにも削りしろが小さい。人手不足や、激しい出店競争で加盟店が疲弊しているのは、このチェーン本部と加盟店というコンビニ独特の関係性が限界を迎えたからなのでは。
沢田:変えなきゃいけない。契約の形態とかそういう話ではなくて、考え方です。ファミマはおかげさまで約1万8000店という規模になりました。過去の経営陣が素晴らしかったからです。ただしここまで来ると地域ごとにそこそこ店がある。これまで本部の都合でばんばん出店してきたのですが、これからは加盟店の都合、地域の都合を考慮したうえで出店を考えなきゃいけない。
具体的には。
沢田:たぶん他チェーンはやってないと思いますが、もっと店舗と店舗で情報交換してもらいたい。たとえば人手不足についても「うちの店ではタイミングがあわず採用できなかったけれど、こんな素敵な人が応募してくれたよ、そちらの店でどう?」みたいなやり取りが出来るようにしたい。
出店戦略についても、地域にある7〜8店舗の加盟店オーナーが集まって、セブンイレブンがどこにあってローソンがどこにあって、それに対してファミリーマートはどう攻めるのか。こっちはセーブして、代わりにあっちを攻めようとか、そういう話し合いをオープンに出来るようにしたい。
年1000店も2000店も開業する時代じゃない
どんな方法で実施するのですか。
沢田:今はまだ分かりません。制度設計はこれからです。とにかく僕はもうこれ以上激しい出店はしない、ということです。コンビニ業界は間違いなく飽和していて、もう年間で1000店も2000店も出店するような時代ではない。
むだ撃ちみたいな出店はしない。質の高い出店しかしない。戦略的にセブンイレブンの牙城を攻めるとか、ローソンを攻めるとか、そういう出店はあるかもしれない。戦略的に、腹を決めて。ただし、そんなときは直営でやります。
これまでは店舗の土地と建物をチェーン本部が確保し、出店が決まった後に、地域のオーナーさんに経営を頼むようなケースもありました。
沢田:それは完全に本部の都合でやっているわけですよね。新店が当たりか外れかまだ分からないのに。何度も言いますが、地域の出店戦略を話し合うときは、必ずその地域の加盟店オーナーに参加してもらうようにしなければいけない。強烈にそう思っています。年度内くらいにそんな仕組みを整えます。
年度内というと時間もあまりありません。実現できますか。
沢田:まあ試行錯誤はあるかもしれません。やってみたら(本部にも加盟店オーナーにも)エゴが出てきて、いろんな問題が起きるかもしれない。でも、まずは試してみないと、どうなるか分からないじゃないですか。基本的に加盟店オーナーさんは賛同してくれると思う。
今後は大量出店しないとのことですが、現状の約1万8000店から店舗網は減っていくイメージなのでしょうか。
沢田:ビルド&スクラップで一旦は減りますよ。1万7500〜1万7600店くらいにはなります。ただ、それより減ることはありません。いい立地があれば今後も出店はします。ただ従来のように「とにかく新規出店しろ」という考え方は改めます。店舗開発のメンバーにも口うるさく言っています。
現在のファミマの店舗開発メンバーには、2011年以降の大量出店時代に汗を流してきた社員も多いはず。うまく心構えを変えることはできますか。
沢田:なんとか切り替えろ、と言ってますよ。頭が切り替わらないなら、あなたが担当を替わってくれ……そんな勢いで伝えています。
24時間営業についての考え方は。
沢田:ケース・バイ・ケースじゃないですか。
どういう意味ですか。
沢田:必要ないところはやめる。必要あるところはやる。
これまで24時間営業は契約の一部であって、どんな立地であっても、原則として加盟店には選択肢がありませんでした。
沢田:ですから、いま直営店を中心にいろいろと研究を始めたところです。米国なら「Amazon Go」がある。中国でも無人コンビニが登場していますよね。無人でもいろんなデータがとれるので意外と万引きが少ないとか、興味深い結果が出ていますよね。ものすごい時代ですよ。
僕は、いろいろな技術を駆使すれば深夜帯は無人にできる気がしています。例えば午前0時には無人コンビニに変身し、6時には再び店員が出勤してくるとか。いろいろな試験を進めています。24時間は続けますよ。続けるんだけれども、そこに店員がいるか、いないかは別。そういう議論です。
実は先日、記者も24時間営業を実験的にやめた店を見学してきました。全国で何店舗くらいで実験しているのでしょうか。
沢田:まずは数店舗です。
24時間営業の見直しを始めると、加盟店オーナーが雪崩を打って「うちもやめたい」と言い始めるのでは。
沢田:まあ、そんなことよりも、まず僕ら(チェーン本部)が根拠を持って議論できるかどうかが大事なのではないですか。24時間営業をやめたら売り上げが本当に下がるのか、あるいはどれだけ人件費が削減できるのか。
やめたらやめたで、早朝のオペレーションの立ち上がりが大変とか、いろいろなことが起こるんじゃないですか。だからまず加盟店にご迷惑をかけない形で、我々が我々のできる範囲で試行錯誤したいと考えています。
24時間営業見直しの一番のリスクは。
沢田:やっぱり売り上げ・利益が確保できるかですよね。売り上げ・利益が上がった上でコストを下げられたら「◎」。これがベストです。次が売り上げ・利益はイコールだけどコストは下がる……「○」ですね。売り上げ・利益が下がったけれどコストも下がったのでボトムラインは一緒……なら、これは「△」です。
いろいろ結果は出て来ると思いますよ。最悪の場合は全部「×」かもしれない。当然「◎」を目指したいけれど。
失敗したら僕のせい
よくコンビニチェーン本部は品出しや店内の清掃などの深夜作業ができなくなることを、24時間営業の理由にあげています。
沢田:それは本当みんな言いますよね。「うるせえ!」と叫んでやりたい。それを持ち出したら何もできなくなりますよ。
深夜に店を閉めても、それらの作業はできるはず……ということですか。
沢田:それは分からないです。できないかもしれない。それはやっぱり検証する。とにかく「できない」という前提に立つことはしない。できないと言ったらそこで思考停止。それは許されない。
社長みたいな立場の人間が「これはこうだ」と断言したり「これはできない」と決めつけたりすると、社員は全員、そこで思考停止ですよ。それはあり得ない。だからトライだけはしてみようと。失敗したら僕のせいにすればいい。
ケース・バイ・ケースということは、何か基準を作るのですか。
沢田:その基準をつくるための実験でもありますよね。来店客数なのか、売り上げなのか。とにかく研究です。研究しない会社は終わると思うんです。何かルールを決めてしまって、それだけに従うような会社は。ものすごく変化する時代だし、テクノロジーもどんどん進歩する。決めつけはなにより怖い。
加盟店支援の話に戻ります。ファミマは食品に廃棄が出た場合の支援金を設けています。光熱費の支援金もあります。そんななかで、人件費の上昇に連動するような助成金は設けられないのですか。今年10月にも各都道府県で最低賃金が引き上げられ、1店舗あたりの人件費が数万円は上がった計算になります。人件費は、チェーン本部にとって手のつけられない聖域なのですか。
沢田:そこは雇用の問題ですから。雇用というのはやっぱり、加盟店が契約しているわけですから。そこに僕らが踏み入れちゃダメだと思います。箱(店舗)に関してはいろいろなことができますが、雇用関係は加盟店が契約を結んでいらっしゃる話なので。そこに突っ込むと主従がおかしくなる。
オペレーションを回すのは加盟店ですよね。採用も加盟店が担当します。問題なく出来ている店舗は出来ているわけですから。もちろん、だからといって突き放すつもりはなくて、いろんな選択肢を研究してはいきたい。ただし、極めて慎重にやらないといけないというふうに思っています。
現在ファミリーマートとサークルKサンクスは合計で1万8000店弱あります。全体では伸びていると思いますが、個々の店舗でみると、利益が出ている黒字店は何割ぐらいあるのでしょうか。
沢田:増えていますよ、結構。昨年9月に導入した新しいFC契約のパッケージに移行してから増えています。
半分ぐらいは黒字ですか。
沢田:当たり前でしょう。
増益でもある。
沢田:増益でもあります。半分以上が増益です。
加盟店と本部を異常なまでに近づける
個々の加盟店が赤字でも黒字でも、本部の収益には直接関係しない契約形態になっていますよね、一義的には。
沢田:そんなことないですよ。もちろん、いまはサークルKサンクスとの統合を優先して取り組んでいるので、まだまだこれからな部分はありますが。
加盟店支援に関する取り組みを、3年から5年、本気で取り組み続けたら、ファミマって圧倒的にいい会社になると思っているんです。他チェーンとも差がつくはずです。だから本部社員と加盟店とでがっちりスクラムを組んで、問題意識を共有してやっていきたい。そこは自信があります。
とにかく加盟店の幸せが大事ですよ。加盟店と我々(チェーン本部)の距離が異常に近くなるのが理想じゃないですか。ファミマは異常に近くなっていきます。
ところで「おてつだいネットワークス」はご存じですか。単発アルバイトの情報を掲載しているサイトで、加盟店が依存しているようです。
沢田:聞いたことありますね。
何十店舗というファミマで働いたことのある人もいるようです。
沢田:そうなんですか。ぜひ紹介してください。ファミマについてどう思っているか聞いてみたいです。
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