(前回から読む)
モリナガ・ヨウ(以下モ):出ました、「ユニ(uni)」、そして「ハイユニ(Hi-uni)」。1ダースの箱入り鉛筆って入学式っぽいですね。金で自分の名前が刻印されてたりしているイメージです。ユニは高級品で、私は買ってもらってないかもしれませんけど。
編集Y:私はたしかプレゼントしてもらったのですが、大事にしすぎて使い切れなかったような記憶があります。子供心に初めて意識した「元祖・ブランド商品」だったかもしれません。
三菱鉛筆広報・小笠原さん(以下小):ユニこと「uni」は、ただ唯一のという英語の「unique」から名づけられ、当社のコーポレートブランドとなりまして、国内外で使っています。「uni」の発売は1958年(昭和33年)。発売して58年のロングセラー商品です。「Hi-uni」は1966年(昭和41年)発売です。
Y:「百年企業」の三菱鉛筆の、まさに象徴ですね。1958年というと、東京タワーができて、「鍋底景気」が終わって「岩戸景気」が始まった年でしたか。(スマホを検索し)「東京通信工業」が社名を「ソニー」に変更し、在来線特急の「こだま」の運転開始、日清食品がチキンラーメンを発売開始、いろいろ始まった年ですね。総理大臣は岸信介氏ですか。ザ・高度成長期って感じです。
モ:この色、「えび茶」っていうんですか、独特ですよね。どうしてこの色になったんでしょうか。
小:ユニ色と呼んでいるこの色は日本の伝統色であるえび茶色と、高級感のあるワインレッドを組み合わせたものです。当時「どこの鉛筆にも使われていない独自の塗り色を」と、世界中の鉛筆を集められるだけ集めて、そのどれとも全く重ならない色を探したそうです。
超高級品ながら大ヒット
小:決める際には、約160種類の色を実際に鉛筆に塗って試したという話です。2015年から、色も商標登録が可能になったので、さっそく出願しています。
モ:当時としてはすごく価格が高かったんですよね。
小:当時の輸入品の鉛筆と同価格帯の1本50円、ダース箱は1箱600円でした。当時の当社の鉛筆は10円ほどでしたから、その5倍という価格に「こんな高いものが売れるだろうか」と心配する声もあったようです。
でも、発売するや大ヒットしました。高価格帯ということもありプロ向けの鉛筆として発売されたのですが、小学校の前にあるような文具店さんでも売れたようです。小学生にヒットした理由として、色やケース、金色の文字をつけるなどのデザインが目新しく映ったことがある、と聞いております。
Y:わかりますねえ。そして、高度成長期の日本人の消費意欲にもばっちり重なったんですね。
小:加えて、ユニの発売後、1960年(昭和35年)は鉛筆の貿易自由化がありました。国際競争になる、という危機感も、品質の良さを追求した製品の開発を後押ししたのではないかと思います。
Y:それ以前と比べて値段が上がっても、世界に通用する品質の鉛筆を、と。
小:uniは、塗装だけでも通常の鉛筆より多く何層にも塗り重ねています。
モ:漆塗りですか?!
小:さすがに漆ではないですが、何層にも塗り重ねることで書く時のタッチが柔らかくなることも狙っています。無塗装のとくらべてみてください。
モ:(塗装がない鉛筆を渡されて試し書き) …言われてみれば、ちょっとこっちの方がペン先が遠い感じがするというのかな。長い時間使っているとけっこう差が出るかもしれない。
小:軸の木は、アメリカ原産のインセンスシダーという木を使います。鉛筆が開発されたころから、最上の材料とされたものです。きめがこまかく、ふしがなく、木目がまっすぐなものを選び、削ったときに引っ掛かったり、ポキッと折れてしまったりとかがないようにしています。
小:幹の直径が1メートル以上になったら使う感じらしいですね。「uni」や「Hi-uni」はその中でも、最上の部分を使用します。
モ:本当に昔の話になっちゃいますけど、1本の鉛筆で木の色が左右で色が違ったりするのも、子供のころはそれはそれで面白かったりするんですよね。子供のときは視力がいいので、「この後ろの木目が違う」とか、気になりますよね。
Y:そんなことあったかな…。見ているところがほんとに細かいですよね。
子供心にも伝わった高級感
モ:細かいついでに、「uni」の金色の文字の部分は箔押しで、凹んで見えますね。
小:鉛筆に文字をつける工程があります。それによってそのように見えるかもしれません。
モ:あと、この金の線。そしてキャップみたいなデザイン。手間がかかっていますね。
モ:怖くていまだかつてお尻から削ったことがないんですが、こちら(キャップ)側も芯があるんでしょうか。
小:Hi-uniは軸にキャップをかぶせております。uniはキャップではなく軸に直接加工をしております。
Y:こういうデザインの鉛筆は、Hi-uniだけでしょうか?
モ:たしか、ステッドラーの青いの(Mars Lumograph)もこうなっていたような…。どちらも、製図やデッサンをする人の定番鉛筆です。
Y:ところで、芯は何でできているのでしたっけ。
小:鉛筆の芯は、黒鉛と粘土を混ぜて作ります。
Y:あ、HとかHBとかは、粘土と黒鉛の比率で変わってくるんですか。
小:そうです。黒鉛の比率が下がれば、色が薄くて硬いHのほうに、上がれば濃くて柔らかいBのほうに。
芯の太さが違うって知ってました?
Y:ということは、粘土が少ないBは折れやすい。
小:ええ、ですので、芯が太くなっています。
Y:え、知らなかった。
モ:え、知らなかったんですか?
Y:なんで知っているんですか?
小:uniは、厳選して品質管理する事でなめらかな書き味を実現し、Hi-uniは、粘土との配合の理想も突き詰め、書き味の良さと折れない強さを作り出しました。よく言われる理想が「Bの黒さでHの硬さ」ですが、それを実現したと自負しています。
書き味のお好みは様々ですけれど、uniの売りは“なめらかさ”です。そのためには黒鉛の厳選と配合の最適化がカギなんですよ。ちなみに、Hi-uniのバリエーションは「10H」から「10B」まで、22硬度ありまして、世界一です。
Y:(手にとって)うわっ、10Bはバターみたいです。超なめらか。
モ:バターですか(笑)。しかし鉛筆の特徴というか、性能って、どういうふうに表現されるんでしょう。
書き味は「ぬるぬる」「カシャカシャ」
小:書き味の表現でいいますと、「ぬるっ」とか、「さらさら」とか、「カシャカシャ」とか。
Y:カシャカシャ!?
モ:ああ、分かる。ステッドラーは「カシャカシャ」しているかもしれない。
小:当社が求める、なめらかさとは反対のイメージなのですが、そういうタッチがお好みの方もいるわけです。
Y:そういう感覚というか、官能評価って、なにか基準があるんでしょうか。クルマのメーカーで言う、テストドライバーみたいな人がいる、とか。
小:いますよ、群馬工場に。
モ:へえっ。
三菱鉛筆の「テストドライバー」に会いに行く
小:芯だけを取りだして、テスト専用の木軸に填めて、不思議な記号を書いて、書き味や色の濃さをチェックしているんです。
Y:色ですか? 鉛筆の?
小:ええ。たとえば、「6Bと7Bの間の差がこれで正しいか」とかです。
Y:ひえ~。
モ:面白そう。そのテストの現場って見せていただけますか。
小:群馬工場までおいで頂ければ大丈夫です。合わせて、鉛筆の製造現場もお見せしますよ。
【次回、工場編に続く】
モ:そうそう、鉛筆と言えば、これこれ。懐かしい。
小:この「9852」はまだまだ現役商品なのですけどね。一定の需要も事務用品としてありまして。私も会社の机に一本、入っていて使っています。
Y:会社の机に一本、かならず入っている、というイメージの鉛筆ですね。
小:王道のこのオレンジ色というか黄色というか。この色もまた独特ですよね。
モ:谷川俊太郎さんの『ワッハワッハハイのぼうけん』という本の中に、こんなふうに消しゴムが付いている鉛筆を、主人公は「ちびた鉛筆」と名付けています。それを小学生で読んでから、ずっとこれは「ちびた鉛筆」と呼んでいます。
小:かわいい。
モ:でもこれ(と、先端の消しゴムを指す)あんまり使わないです。消しゴムとしては。
Y:そうそう、そういえば、この消しゴムってそもそもろくに消えないじゃないですか。これ、性能を上げてちゃんと消えるようにしようという話はないんでしょうか。
小:一般的な素材の消しゴムをこの位置に付けて消そうとすると、一般的な長方形の消しゴムよりも力がかかってしまうので、割れちゃうんですよね。
Y:ああ、そうか。硬くないとまずいんですね。
小:小さい消しゴムですので広い面を消すのには適しておりませんが、都度改良もしていますので、細かい箇所などはきちんと消すことができますよ。
モ:あまり消えない、でも、あるとちょっと安心、みたいな存在ですね。
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