2016年3月初旬、世界を代表するドローンメーカー2社が、日本市場向けに相次いで新型機の発表会を開催した。フランスのParrot(パロット)と中国のDJIが発表したニューモデルは、これまでにも空撮用ドローンとしてビギナーからベテランまで幅広い層に人気の高かったベストセラーモデルの改良版だ。
両者とも、進化のベクトルはより長い飛行時間とスピードをはじめとした動力性能の向上、そして安全性や自動操縦性能の向上に向けられた。ドローンへの規制が強まる逆風のなか、「ビギナーでも長い時間安定して飛ばせる」点を訴求し、趣味としてのドローンの定着を狙う。
強風のなかでも流されず安定飛行
Parrotが3月1日に発表した「Bebop 2」は、2015年に発売した「Bebop Drone」の後継機。前作よりサイズ、重量ともにひと回り大きくなったBebop 2だが、重量は500gに抑えながらも約25分という飛行時間を実現しているのが特徴だ。従来モデルのユーザーから寄せられた「もっと飛行時間を長くしてほしい」という声に耳を傾け、前作では1200mAhだったバッテリー容量をBebop 2では2700mAhとすることで、500gという機体としては長い25分という飛行時間を実現している。
バッテリーの容量アップに合わせて、機体もボリュームを増した。筒状のモノフォルムという個性的なデザインは前作と似ているものの、全長、全幅とも2割ほど大きくなっている。シャシーは従来比で20%強化されたグラスファイバー製で、これに耐衝撃性のあるローターアームを組み合わせることで、優れた堅ろう性を備えている。
サイズアップに合わせて、ローターのプロペラも従来のものに比べて大型化した。独特の3枚羽根プロペラと強力なモーターの採用により、推進重量比、いわゆるパワーウェイトレシオが向上。水平方向の最高速度は約60㎞/h、最高速度への到達時間は14秒で、高度100mに達するのに20秒かからないというパフォーマンスを発揮する。
この飛行性能が風の強い環境下でも発揮できるよう、風洞実験も実施している。大型の風洞の中で飛行するテストを繰り返した結果、63km/hの向かい風の中でも飛行することができたという。飛行中に強風で流されてパイロットが自機を見失うといった事故も少なくないだけに、こうした飛行性能の向上はとても有効だ。
こうしたパフォーマンスアップの一方で、安全性の向上も抜かりがない。GPS、Wi-Fiとメカなどすべてを刷新。垂直安定化カメラ、超音波センサー、圧力センサー、3軸ジャイロセンサー、3軸加速度センサー、3軸磁力計、そしてGPS+GLONASのGNSS(全地球衛星測位システム)という7つのセンサーを搭載し、常に機体の位置と姿勢をコントロールする。これらのセンサーからの情報を駆使した、高度や飛行区域の制限機能や自動帰還機能などを搭載。さらに、Bebop 2では新たにモーターにカットアウト機能を搭載。プロペラに何かが接触すると、瞬時にモーターの駆動をカットして接触物やモーターを保護してくれる。
スマホやタブレットがあればゲーム感覚で操縦可能
Bebop 2は空撮用ドローンでありながら、カメラ部にジンバル(カメラの姿勢を一定に保ってぶれを防ぐ装置)のような駆動部がないのが他の空撮用ドローンと大きく異なる点のひとつだ。機体の先端に付いた1400万画素の魚眼レンズ付きカメラが、最大で180度という広い範囲を撮影。この中からフルHDサイズの景色を切り取る形で、任意の方向をライブビューで見ながら記録する。そのため、機械的に作動するジンバルを必要とせず、機体の動きや振動に対するブレ防止はすべてデジタル画像処理が担うスタイルだ。このカメラで1920×1080ピクセル/30fpsの動画や、4096×3072ピクセルのJPEG、RAW、DNG画像が撮影できる。
もう1つ、Bebop 2が他の同クラスのドローンと大きく違うところが、基本的にスマートフォンやタブレットを使って操縦するスタイルであること。Wi-Fi(2.4G/5GHz)でスマホやタブレットと接続することで、最大300mの範囲で操縦が可能だ。操縦は「FreeFlight 3」アプリを使用し、Bebopのカメラで撮影した映像を見ながら、スティックに見立てた画面上のグラフィックをスワイプすることで実施する。このスタイルはスマートフォンのアクションゲームに近い感覚で、ビギナーでも親しみやすい。
従来のラジコンと同じようなプロポ(コントローラー)に慣れたユーザーのために、専用の「Parrot Skycontroller Black Edition」も用意。これを使えば、機体との通信距離を最大2㎞まで広げることが可能で、大型のタブレットを装着してモニターとしたり、HDMI端子にFPV(一人称視点)グラスを接続したりすれば、本格的なFPVフライトも楽しむことができる。さらに、Bebop 2と接続したスマートフォンやタブレットに有料アプリ「Flight Plan」をインストールすれば、あらかじめ飛行経路やカメラの向きなどを設定して自動航行させたり、あとで飛行ログをさまざまな形で見たりすることが可能だ。
1994年にフランスで創業したParrot社は、無線技術を使ったオーディオや車載向け機器、ガーデニング機器を手掛ける会社だ。最近では、特にスマートフォンやタブレットを中心にした機器を数多く手掛けており、その1つとして生まれたのがドローンなのである。それだけにParrotのドローンは、あくまでもスマートフォンやタブレットにつながる画像入力機器という位置づけで、ユーザーフレンドリーなつくりなのが特徴だ。Bebop 2でもこのコンセプトはしっかり受け継がれており、安全性やパフォーマンスがさらに進化したものと言っていい。予想実売価格は、Bebop 2の機体のみのキットで6万7500円、専用コントローラー「Skycontroller Black Edition」とのセットで10万2500円。発売は3月下旬となっている。
シリーズ4代目、パワーと飛行時間を強化
もうひとつのグローバルドローンメーカーの雄であるDJIは、3月3日に六本木ヒルズのアリーナで新製品発表会を開催した。その新製品とは、2月中旬ごろからネットでも噂となっていた「Phantom 3」の後継機、「Phantom 4」だ。
DJIの「Phantom」シリーズは、2013年に初代モデル「Phantom 1」をリリースして以来、毎年新型を発表してきたコンシューマー向けの主力モデル。4つのローターと機体を一体化した流麗なフォルムは、それまでの機械然としたドローンのイメージを覆し、その扱いやすさもあってエントリー層を中心に多くのユーザーを獲得してきた。
機体デザインは、初代から3代目にあたるPhantom 3まで大きく変わることなく進化してきたが、Phantom 4ではそのフォルムに手が加えられた。上面から見ると各アームがスリムになる一方、サイドビューはやや高さが増し、ややずんぐりとした形になっている。Phantom 3では、「Standard」「Advance」「Professional」という3つのグレードに合わせて、それぞれ赤、銀、金の3本のストライプが入っていたが、それを廃した真っ白なカラーリングとなった。
このデザインの変更は、おもにバッテリー容量の拡大と、カメラの懸架部を一体化したことによるもの。バッテリーはPhantom 3の4480mAhから5350mAhに容量がアップし、飛行時間が従来の23分から28分に引き上げられた。また、Phantom 3ではカメラのジンバルを固定する部分が機体の外に付いていたが、それを内蔵とすることで機体下面のフォルムをすっきりとさせている。
ローターには、新たに空冷式モーターを採用。プロペラは従来のネジ式から、押し込んでわずかに回転させるとロックされる方式に変更されている。取り付けはとても簡単になったが、もちろん飛行中に外れるようなことはない。この新設計のローターにより、最高飛行速度は72㎞/h。上昇速度は6m/sと、Phantom 3から約2割のパワーアップを実現。このパフォーマンスを生かしたスポーツモードが新たに設定され、スピードの速いスポーツを追走しながら撮影するといったことも可能になった。
画面の被写体をタップするだけで自動追尾し撮影
こうしたパフォーマンスアップの一方で、安全性の向上も図られている。Phantom 3では、機体の底面に超音波センサーとカメラを搭載し、飛行高度と位置を常に把握する「ビジョンポジショニングシステム」が高い飛行安定性を実現してきた。Phantom 4では、カメラを2つ搭載してステレオ化することで、より従来の5倍という高い精度での測定を可能としている。さらに、機体の姿勢を安定させるIMU(慣性計測装置)と電子コンパスは、それぞれ2個搭載。飛行中のコンディションによってこうした計測装置が不安定になった場合に、もうひとつが動作を補完するという冗長化制御が可能となった。
Phantom 4ではさらに、前面に2つの光学センサー「2inビジュアルセンサー」を搭載。前方の障害物を三次元で把握し、飛行方向に進みながらも障害物を回避したり、回避が不可能な場合には自動的に減速、停止したりしてホバリングをする。この機能は、機体が操縦者の位置に自動的に帰還する「リターントゥホーム」機能でも作動するため、帰還途中の障害物に衝突する危険性を減らしてくれる。
空撮用ドローンとして幅広いユーザーに支持されているPhantomシリーズ。Phantom 4では、カメラに8枚構成の新型レンズを採用。また、ジンバルと機体の位置関係を見直すことで、機体が大きく傾いた状態であっても、プロペラが写り込まないようになったのも改善点のひとつとして挙げられる。
Phantom 4では、新たに画像認識技術を使った機能を2つ搭載した。いずれも、プロポに装着したスマートフォンやタブレット上のアプリを使って操作するものだ。ひとつは、カメラが撮影している画像上のあるポイントを2度タップするだけで、そこに向かってPhantom 4が自動的に進んでいくという「TapFly(タップフライ)」機能。目的地まで障害物を回避しながら最適な飛行ルートを計算して、自動的にそこまで飛行してくれる。
もう1つは、Phantom 4が自動的に被写体を追尾する「ActiveTrack(アクティブトラック)」機能だ。こちらもスマホやタブレット上の被写体を選択するだけで、自動的にPhantom 4が被写体を追尾しながら、画面上の中央に被写体を捉え続けてくれる。これはGPSを必要とせず、カメラの映像のみで追尾が可能なため、衛星の電波が入らない環境でも使うことができる。この機能では被写体を中心に周囲を回りながら撮影するという、上級者でも難しいようなフライトも可能だ。
このように、Phantom 4はドローンというハードの進化にとどまらず、画像認識技術を使ったソフト面でも大きくジャンプアップを果たしている。その結果、よりドローンによる空撮を身近にしたうえ、イメージを超えた映像を撮影することが可能となった。直販価格は、従来のPhantom 3 Professionalとほぼ変わらない18万9000円(税込)となっている。発売は3月下旬からだ。
航空法がドローンにも適用され、安全性が強く求められる状況に対応
今回発表された2つのドローンは、おもに空からの景色を撮影する空撮用モデルだ。ひとくちにドローンといっても、ホビーユースから業務用、はては軍事用までと幅広い。下は手のひらに乗るような数千円の玩具から、上は全長が1mを超えるような数百万円もする測量などに使う業務用機まで、機体の価格やサイズも千差万別だ。
Bebop 2とPhantom 4は、ホビーユーザーが空撮を目的とするのであれば決定版ともいうべき存在だ。いずれも価格は数万円から十万円台後半と、本格的な空撮機と同等の価格帯で決して安くはない。だが、基本的に飛行の維持は機体が自動的に制御してくれるため、操縦者は機体の進む方向の指示とカメラアングルに注意を傾けることができる。そのため、このクラスの機体はドローンを飛ばすことそのものよりも、空から動画や写真の撮影を楽しむユーザーが圧倒的に多い。
一方、数千円から2万円までの範囲で購入できる“トイドローン”は、ドローンというものを飛ばしてみたいという入門用として人気がある。ほとんどの機体にはGPSが搭載されていないため、操縦者自身が飛行の維持に努める必要があるが、ドローンの操縦をマスターするという意味では最適。機体が小さいため屋内で飛ばすこともできる。カメラを搭載している機体も少なくなく、簡単な撮影も楽しめる。
ドローンのカメラから送られてくる映像だけを頼りに飛行するFPV(一人称視点)飛行も徐々に熱気を帯びつつある。FPV飛行は、どちらかというと飛行そのものを楽しむのが目的で、決められたコースを周回してその速さを競うレースも開かれている。3月11日~12日には、中東のドバイで賞金総額1億円という破格のレースも開かれる予定だ。
ホビーユースでも盛り上がりを見せるドローンだが、ここ1~2年は各地で墜落事故が目立ったのも事実。2015年12月10日には航空法が改正され、ドローンを含めた無人航空機に対する規制が細かく定められた。
原則として、飛行場の周辺や政府機関などの施設周辺、さらには人口密集地での飛行が禁止されたほか、イベントのような大勢の人が集まる場所でも飛ばすことができなくなった。ただし、一定の操縦実績や飛行環境を整えることを条件に、国土交通省に届け出をすれば飛行が可能となる。また、200g以下の機体であればこの規制の対象とはならないため、いわゆるトイドローンはルールとマナーを守って飛ばすという点においては、従来と環境は変わらない。
ParrotやDJIが今回発表した機体は、航空法が適用される機種ではあるが、メーカーとしては今後、飛行の機会や場所を積極的に提供していきたいという。特に、フライトのトレーニングや実績を証明する制度の充実は、今回、Bebop 2やPhantom 4がそれぞれ進化させた安全機能とともに、ドローンの利活用に欠かせないところだといえる。
(文/青山祐介)
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