国内でバーチャルパワープラント(VPP)の実証事業が始まった。経済産業省の補助事業で7つのプロジェクトが採択され、事業化に向けて動き出した。
VPPは、需要家側に分散設置された蓄電池や電気設備を統合制御し、電力を供給したり需要をまとめたりして、あたかも1つの発電所(仮想発電所)のように機能させるというもの。経産省の長期エネルギー需給見通しでは、2030年に需要家側で大規模火力43基分の発電能力と、13基分の調整能力を持つと試算している。こうした需要家側のリソースを有効活用するわけだ。
VPPに似た技術に、デマンドレスポンス(DR)がある。DRは、需要家側が電力の使用を抑制することに主眼を置く。これに対してVPPは、需要抑制に加え、家庭や事業所、クルマなどが搭載する蓄電池を統合制御し、実際の電力を出し入れする機能を備えているところが特徴である。
「CO2フリー電源」として期待
国は、VPPを「火力代替のCO2フリー電源」として期待する。電力ひっ迫時の調整は一般的に火力発電が使われる。ただし、火力発電の運転は、CO2排出が問題となる。調整電力として貯めておいた電力を使えるならば、わざわざ火力発電を稼働させる必要はなくなる。電源確保とCO2排出削減を両立できるわけだ。
太陽光や風力など、出力が不安定な再生可能エネルギーを有効活用できるというメリットもある。現在、太陽光発電の急激な普及により、系統への出力を抑える「出力抑制」が問題となっている。出力抑制が発動された場合、せっかく発電した電力を捨てることになる。VPPによって捨てるはずだった電力を貯めることができれば、電力の有効利用だけでなく、再エネの普及にもつながる。
大手電力会社もVPPに注目する。その背景には、2020年4月に予定されている発送電分離がある。発送電が分離されると大手電力会社の発電部門は、今まで以上にコストに見合った電源運用が求められる。長期的な人口減少が見込まれる中、新たな電源の確保は現実的ではない。VPPは、火力発電の運用・維持コストの低減につながる。
東京電力は、こうした蓄電池のレンタルサービスなどを顧客向けの新メニューとして取り入れたい考えだ。蓄電池と省エネサービスなどを併せ、VPPの電力融通量に応じて需要家に協力費を支払うメニューの提供などを検討している。
事業化を見据えた資本提携も
関西電力は、電気自動車の蓄電池をはじめ、業務用の空調機や給湯器なども制御対象とし、13社と連携する。多様なリソースを制御することで、調整力の拡大を図る戦略だ。地域エネルギー本部地域エネルギー開発グループの石田文章担当部長は、「VPPは、日本の電力システムにおいて中長期的に欠かせないものになる。早期のノウハウの取得と仲間作りが欠かせない」と話す。
VPPサービスの実現には、蓄電池の大量導入が欠かせない。同社が普及のきっかけになるとみているのが、太陽光発電の余剰電力の買い取り制度の適用期間が終了する家庭が出始める2019年だ。買い取りが終わった家庭では、蓄電池を活用した自家消費のニーズが高まることが予想される。関西に拠点を持つ企業を中心に連携企業を広げ、2019年以降のいち早いサービス化を目指す。
事業化を見据えた資本提携も始まっている。KDDIは、エナリスや京セラなど5社と組み、実証実験を進める。同社は8月17日、エナリスの発行済み株式の30%を取得して筆頭株主となった。エナリスが持つ電力需給ノウハウを活用し、「auでんき」のサービス拡充を図る考えだ。
VPPをビジネスとして成立させるためには、継続的に収入を得るビジネスモデルの確立が欠かせない。2017年に予定されているネガワット市場創設などが追い風だが、VPPによる調整電力がどの程度の価値として位置付けられるかはまだ不透明だ。何より、需要家が参加したいと思う魅力的なサービスを打ち出せるかどうかが課題となる。
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