(写真=アフロ)
(写真=アフロ)

 葬儀の準備に遺書の作成…。自分が死んでしまった後のことを考え、生前にあれこれと用意をしている人は多い。

 そんな生前準備の一つとしてここ数年メディアで注目されているのが、「デジタル遺品整理」だ。自身のデジタルデータを自分の死後にどう扱うか生前に設定する行為を指す。しかし、注目が集まる一方で、思ったように利用者が増えないといった現状もあるようだ。

デジタル遺品整理とは

パソコンやスマートフォンに残されている電子データや、ネット上の自分のデータを死後にどう扱うか生前に設定すること。設定しなかった場合、半永久的にネット上に残り続ける懸念も

60代の2割フェイスブック利用

 フェイスブックやツイッターをはじめとするSNS(交流サイト)やブログ、オンラインストレージなどの利用が広がったことで、個人のデータは今やパソコン内だけではなくインターネット上にも残されている。これらのデータは削除しなければ半永久的にネット上に残り続ける。

   
●人気ウェブサービスの対応
フェイスブック 「追悼アカウント」管理人を生前に指定可能。管理人が葬儀の予定や死亡告知などを投稿できる
ツイッター 生前に設定できない。ただし、家族や友人が申請すれば、アカウントの削除は可能。その際、故人との関係を証明する書類が必要
インスタグラム フェイスブック同様、追悼アカウントへの移行、またはアカウントの削除を依頼できる
アメーバブログ 特に設定はできない。運営会社側の判断によって削除されることもある

 総務省の「平成27年版情報通信白書」によると、フェイスブックの場合、30代と40代で4割弱、60代以上でも2割以上の人が利用している。60代以上のツイッター利用者数も2割弱で、うち45%以上が実名利用だ。

 フェイスブックは、「追悼アカウント」の設定が生前に可能。死後、完全にアカウントを削除するか、自分のアカウントを管理する「管理人」を指定するかを選択できる。管理人は生前のメッセージをシェアしたり、写真を更新したりできる権利を持つ。

 生前に準備をしていなかった場合に備え、デジタル遺品整理をサービスとして代行している企業もある。データ復旧サービスのデータサルベージ(東京都港区)では、2015年からデジタル遺品整理サービス「LxxE」を開始。遺族から要望があれば、運営会社に依頼したりコンピューター解析でパスワードを取得したりして、フェイスブック、ツイッターなどのアカウントを削除する。サービスの価格は20万円から。

 とはいえデジタル遺品整理への認知度はまだ低い。ヤフーは3月末、2014年に始めた「生前準備」機能サービスの提供を終了すると発表した。生前準備機能は、ヤフーのユーザーが死んでしまった際にメッセージの削除や有料サービスの課金停止などのサービスを受けられる。しかし、「事前想定よりも会員数が少なかった」(広報部)ためサービスの提供停止を決めた。

 過去には、故人のツイッターアカウントのパスワードが乗っ取られ、勝手に違法な物品転売のアカウントとして使用されていたという被害も。有料のネットサービスに加入していることを遺族が知らず、料金が死後も引き落とされ続けているなどのリスクもある。ネットの利用が生活の一部になるなか、改めて死後の「データ処理」について生前に考えておく必要がありそうだ。

文=齊藤 美保

(日経ビジネス2016年5月23日号より転載)

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