東芝がようやく米原発子会社ウエスチングハウスでの減損の詳細を開示し、事業計画を発表した。
2029年度までに64基の原発を新規に受注するという計画は、原発部門の幹部さえ“非合理的”と認識していた。
日経ビジネスはこれを裏付ける電子メール記録を入手した。東芝の不正会計問題は経営問題に発展してきた。
東芝は11月27日、米原発子会社ウエスチングハウス(WH)の減損問題について記者会見し、新たな事業計画を発表した。2029年度までの15年間で、新たに「64基」の原発建設を受注するのがその骨子だ。
2011年の東日本大震災以降、東芝・WHは原発の新設受注で苦戦している。にもかかわらず64基という極めて高い目標を掲げた裏側には、WHでこれ以上の減損を回避しなければならないという事情がある。東芝社内でさえこの目標が“非合理的”であると認識していることが、日経ビジネスが入手したWH首脳宛ての電子メール記録で判明した。
そもそも東芝が不正会計に手を染めたのは、事業全体で稼ぐ力が弱体化しているため。社長の室町正志が「売却できる事業は売却する」と会見で述べるなど、否応なしに構造改革が迫られている。この状況で、WHがさらなる減損に追い込まれれば、東芝の屋台骨が揺らぐことになる。
「苦し紛れ」に基数を増加
東芝は本誌(日経ビジネス)が指摘するまでWHの経営状況を開示せず、2012年度と2013年度に巨額減損を計上し、赤字に陥っていたことを隠蔽してきた。室町は会見で「不十分な開示姿勢を深くおわびしたい」と陳謝。2006年の買収以降、WHが2億9000万ドル(約350億円)の累積営業赤字に陥っていることも明らかにした。
一方で2014年10月の「減損テスト」の結果、東芝が連結で抱えるのれんについては減損が不要であると説明した。そのうえで発表したのが、冒頭の64基計画である。ただこの計画も、内部資料を基に分析すると“結論ありき”で策定されたものと言わざるを得ない。
下のグラフで示したように、東芝は原子力事業の利益が2018年度以降に急増するとしている。電力・社会インフラ事業グループを所管する副社長の志賀重範は「全世界で約400基の新設計画がある」と強調。WHが米国と中国で計8基を建設している実績が、有利に働くと説明した。
だが、志賀の見通しは楽観的すぎる。その根拠は東芝の経営幹部でやり取りされたメールにある。
2014年3月11日。東芝電力部門の幹部は、副社長CFO(最高財務責任者)だった久保誠が定例会議で発した“コメント”をまとめ、以下のようなメールを発信した。
原発幹部さえ“非合理的”と認識していた
「監査人の印象も悪くなるので、のれん減損テスト事業計画上の64基を今から減らす必要はないが、どこかの時点で冷静になってリーズナブルなレベルに見直す必要がある」
受信したのは、WH会長の岡村潔(現・東芝執行役常務)など複数のWH幹部。64基計画は“非合理的”なレベルだとして、近い将来に引き下げるべきだとCFOの立場から示唆している。この数字が生まれた背景には、WHの監査を担当する米監査法人アーンスト・アンド・ヤング(EY)との確執がある。
さらにメールを引用する。
「昨年度(2012年度)はEYが聞く耳もたずの減損ありきで割引率を上げていったので、やむを得ず苦し紛れに基数を増やす結果となってしまったと説明を受けたので、それに対してクレームしてパートナーも変えさせた」
WH単体では2012年度に約9億3000万ドル(約762億円、為替レートは当時=以下同)の減損を計上し、メール送信時点では2013年度にも減損を認識する可能性が高まっていた(実際に約394億円の減損を計上)。
WHでは主に将来の収益予測を基に減損テストを実施し、減損の要否を判定する。2012年度の監査に不満を持った久保は、EYと提携する新日本監査法人に担当を変えるよう圧力をかけた(詳細は日経ビジネス11月16日号を参照ください)。
その後もEYはWHの収益力を低く見積もり、東芝に対して減損テストの厳格化を求めた。テストの結果、東芝本体が抱えるWHののれんの減損につながれば、厳しい財務状況がさらに傷んでしまう。東芝はこれを回避するために、EYを納得させるための「苦し紛れ」の計画として、64基の新設受注計画を示したわけだ。
日経ビジネス電子版有料会員になると…
- 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
- 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
- 日経ビジネス最新号13年分のバックナンバーが読み放題