オリンパスが外科手術用の新製品を近く発売する。ソニーとの共同出資会社であるソニー・オリンパスメディカルソリューションズ(SOMED、東京都八王子市)が開発した手術用顕微鏡で、4K映像で患部を映し出せる。2021年3月期を最終年度とする中期経営計画で、連結売上高1兆1000億円の目標を掲げるオリンパス。売上高の約8割を占める医療事業でさらなる成長を目指し、競合に後れを取る外科領域でシェア拡大に注力する。SOMEDへの期待や中計の進捗状況、課題について、笹宏行社長に聞いた。
(聞き手は内海真希)
消化器内視鏡では世界シェア70%を誇る一方、外科領域のシェアは2割ほど。海外競合と比べ、技術面でソニー・オリンパスメディカルソリューションズ(SOMED)が抜きんでている点は。
笹宏行社長(以下、笹):ソニーと当社が共同出資したSOMEDは、主に外科手術用内視鏡や関連システムの開発を手掛けている。4Kという技術トレンドがある中で、当初からオリンパスだけでできるレベルではないと思っていた。そのパートナーとなってくれたのがソニーだ。彼らのイメージング関連技術の高さと、引き出しの多さは素晴らしい。
ソニーは放送局用の技術で世界をリードしている。4Kも広く使われるようにならないと一般化しないし、製品価格も高いまま。先行して手掛けていたソニーは、当社にとってはまたとないパートナーだ。
医療機器は言うまでもなく品質の高さが求められるし、医療特有の色調や見え方もある。HD(ハイビジョン映像)に比べて4Kはデータ量が膨大になる。手術現場ではそれを遅延なく転送し表示させなければならないが、これは至難の業だ。医療現場でのノウハウを持つ当社と、4K関連で高い技術を持つソニーが組むことで達成できた。このような協力関係を競合他社は真似できない。
売上高の8割が海外、新興国を攻略
高精細化や高性能化は、医療機器の開発競争の争点になっている。一方で、4Kや3Dといった新しい技術が搭載されても診療報酬上は評価されにくいのが現状だ。ジレンマを感じないか。
笹:厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)の部会では、費用対効果を考慮してどう診療報酬に反映させていくかが議論されている。その動きは当然見ている。
ただ、当社の売上高の約8割が海外。日本国内の診療報酬のことばかり考えていても仕方がない。競争力を保つためには、今までの技術にあぐらをかくのではなく、付加価値があるものをどんどん作っていかなければならない。
2021年3月期に連結売上高1兆1000億円を目指す、5カ年の中期経営計画を進めている。一方で、初年度の17年3月期の売上高は前の期比7%減の7481億円と足踏みしている。現時点での進捗状況と手ごたえ、課題について教えてほしい。
笹:できているところと、できていないところがある。当社が考えていることと、外からどう見られているかの間に多少ギャップがあるとも感じている。社外の方は特に消化器内視鏡領域に関して、「成長が止まっているのではないか」と心配しているようだ。
ただし、新興国では着実に伸びている。そういう意味では、(中計で掲げた先進国の成長鈍化に対する施策の1つである)新興国での成長はできている。今後は新製品の開発に向けて遅れのないようしっかり取り組んでいく。
問題は外科領域にある。1つ誤算だったのは、15年10月に発売した、4K外科手術用内視鏡システムの売り上げが思っていたほど伸びていないこと。これは、SOMEDが手掛けた第1弾製品だった。
ただし、先ほど話したように4Kシステムは他社にはない素晴らしい製品だ。競合他社の顧客にぶつけて製品の買い替えを促す、いわゆる「ドア・オープナー」として使おうというのが4Kの戦略だ。その観点では、売れた先の8割が競合他社の顧客だったので、目的は果たせている。一方で、もっと売れてもいいはずという気持ちはある。
改めて振り返ってみると、当然、競合他社は顧客を取られまいと色々な方法で抵抗する。そのため進捗が遅いのはある程度は仕方ないと思う。さらに言えば、非常に高額なシステムのため、医療機関も導入に際して慎重になり、商談のクロージングまでの時間もかかっている。
病院全体のシステムを統合していく
それに対して打つ手はあるか。
笹:既に発表して導入も始まっている外科手術用内視鏡システム「VISERA ELITE(ヴィセラエリート)II」を軸として、オリンパス製品の顧客にリニューアルの提案をしていく。もちろん4Kでも新たな顧客を獲得していきたい。
もう一つは(外科手術で切開や止血などの処置を行う)エネルギーデバイス。戦略製品の「THUNDERBEAT(サンダービート)」は主要地域で2ケタ成長と好調に推移しているが、北米での子宮摘出術関連デバイスの落ち込みを埋めるまでには至っていない。
そこで昨年末、子宮摘出術の際にがんが散らばるのを抑えてより安全に行える「CTEシステム」という新製品を発表した。米国婦人科学会と共同でCTEシステムのトレーニングも進めている。市場の評判は大変良く、トレーニングが進んでいけばエネルギーデバイスの落ち込みも改善するとみている。
競合他社から顧客を奪う営業力はどのように強化するのか。
笹:当社の外科領域の営業力は競合他社に比べ、情報収集力、医療機関へのアプローチ、顧客に対する説明力など、全てにおいて劣っていると自覚している。中計では営業力強化に投資し、色々なプログラムを走らせている。例えばCRM(顧客関係管理)システムを強化し、医療機関の契約が切れるタイミングを探ってしっかりアプローチするとともに、ニーズを拾い上げてトータルソリューションを提案していく。
現状、当社の外科領域のマーケットシェアは低く、競合他社からの買い替えを促さなければならない。営業人員を増やすだけではなく、確かな戦略を立てて挑まなければシェアを伸ばすことはできない。
今年6月、院内画像管理システムを手掛ける米イメージ・ストリーム・メディカル(ISM)を約87億円で買収した。今後の展開は。
笹:ISM社の強みはCTやMRI、内視鏡といった様々な画像のほか、手術室の照明や音声、患者情報などの病院の基幹システムを統合して制御できること。それに必要なIP(インターネットプロトコル)ベースの映像管理技術や、手術室の改築を含めた病院全体のプロジェクトの進め方に関するノウハウをISM社は持っている。
買収によるシナジーは非常に大きい。病院全体のシステムを統合するような能力を持たなければ、内視鏡などの個別製品を持っていてもなかなか入り込めなくなってくるからだ。まずは最大の市場である米国でしっかりやり、水平展開していく。
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