部下たちの退職を防ぐために
いよいよ年の瀬、私の連載も本年最後の更新です。今回は本年一年を総括する意味を込めて、私がかねてより懸念に思っていることをお話してみましょう。
私は、「市場やお客様は“分秒の単位”で変化し続けている」とよくいいます。わが社の社員に向かっても、セミナーや講演でもいいます。そして原稿にも書く。その意とするところはこうです。市場やお客様が急速に変化を続ける以上、それと同等のスピードで考えかたやビジネスのやりかたを変えていかなくては、あっという間に見放されて売上を落とす…、と。
しかし、私の懸念は、このことをあまりにも頻繁に主張しすぎたために、「対市場」・「対お客様」の変化「だけ」を見ていれば充分だという誤解を、わが社の管理職に与えてしまったのでは、ということです。
企業の競争力は働く人を確保できているかどうかに依存する
私はこんなことも付け加えていわなくてはならないと思っています。「分秒の単位で変化し続けているのは、市場やお客様だけではありません。新卒で入ってくるあなたの部下もそうですよ」と。これからの管理職は、市場・お客様の変化はもとより、部下の変化にも敏感であらねばならない。そうでないと部下は、仕事や職場環境と自分の価値観とのギャップに悩み、そして辞めてしまう。
これはあなたが思う以上にシビアなことです。当連載の第1回目「『部下を辞めさせない』管理職が評価される時代」でも述べましたが、少子高齢化で市場が急速にシュリンクしていく中にあって、企業の競争力は「働く人をきちんと確保しているかどうか」に大きく依存するからです。
先般、「2017年の就活生の内定辞退率は、過去有数に高かった」といった内容の記事をどこかで読みました。それは、このところの売り手市場を反映しているということはもちろんあるのでしょうが、受け入れる側の管理職が就活生らの変化に気づかず、旧態依然の価値観のままで彼らに接した(それで失望させた)面も否定できないと私は思う。「おそらく」ですが、入社1年、2年で辞めた新卒社員の数も、今年は過去有数に多かったのではないでしょうか。
2018年入社予定の新卒社員の「志向の変化」とは?
では新卒社員の意識はどのように変遷しているのか。この20年以上にわたり新卒採用を続けてきた経験からいうと、おおむね以下のような感じです。
ずいぶん長いこと、新卒社員は「お金」とか「出世」とかいったものにモチベーションを持っていました。給与・賞与はこれくらいほしいとか、入社5年以内には店長になりたいとか、そういうことです。当然、彼らを差配する管理職も、適度に残業をさせて手取りを増やしたり、成果が出るように導いたりして、それを昇進という形で報いてやれば、彼の満足度や組織に対するロイヤリティは向上した。
ところがこの5年くらいで、雰囲気が変わりました。少し前に流行った言葉でいえば「草食系」とでもなるのでしょうか。基本的には素直で真面目だし能力もあるが、ハングリーさや野心には欠けるタイプが増えた。こういう人材は当然、お金とか出世とかではモチベーションは維持されません。そんなものはどうでもよくなっている──、とまではいわないまでも、「ほどほどの待遇でいいからプライベートや余暇を充実させたい」という志向が強いです。
一人だけ目立ったり、抜きんでたりすることを忌避
こうなるともう、やれ残業だそれ研修だと彼らを駆り立てることはもう得策ではなくなる(もちろん皆無にするわけにもいきませんが)。そこでわが社は、残業を大幅に圧縮し、かつまた社員の有給休暇の取得率を高める取り組みを始めました。これはなかなか効果があって、ここ3年以内で辞めた新卒社員はわずかに3名です。毎年20名程度の新卒社員を採用していますが、それでこの数字なら「まずまずのもの」といっていいと思います。
そして、ここからがある意味では本題なのですが、来年2018年4月に入社してくる新卒社員は、また少し感じが変わってきています。お金や出世よりもプライベートを重視するのは同じなのですが、そこに新たな傾向が加わりました。一人だけ目立ったり、抜きんでたりすることを忌避するようになっている。わが社の内定者全員に「鞄持ち」をさせて私の仕事に同行させ、彼らに質問させて、つぶさに観察して得られた結論です。
「『ほどほど』に抑えておこう。そのほうが軋轢もなくていいや」
これまでの新卒社員は、いくら草食系とはいっても同期社員や先輩社員より多く売り上げれば誇らしい気分にはなったし、それで表彰されれば顔をほころばせた。ところが、来年入社の新人以降はそうではありません。Aさんより多く売り上げたら「気まずくなってしまう」のではないか、そんなことになるくらいなら「ほどほど」に抑えておこう。そのほうが軋轢もなくていいや──と、そんなふうに考える人材が入ってくる。
昨今の小学校の中には、(本当かどうか直接確認してませんが)こんなところがあると聞きました。運動会では「教育上よろしくない」として順位はつけない。だから徒競走ではテープの前で全員がいったん止まり、そして手をつないで一緒にゴールする、と。もしかすると彼らは、それに近い感覚を引きずって社会に出てくるのかもしれません。
経営者として、社員は常に「同期に優ってやりたい」「できれば先輩をも上回ってやる」と意気込んでもらわないと困るが、来年に入社する新人にとってはそんなものはすでに時代遅れです。こういう「草食系」とすらいいにくいタイプの人材を、いったいなんと呼ぶべきでしょうか。
「みんなでゴール」を、仕事において行います
そこでわが社では来年、新人研修のやりかたを変えます。これまでは一応、先輩社員を「お世話係」にして、基本的に個人単位でルートセールスをさせ、そこから上がってくる数字を、やはり個人レベルで評価していました。従来はそれで問題はなかったのですが、来年以降の新卒に関しては──よろしくない。それでは「抜きんでた成績」を出した者と「それなり」の数字しか出せなかった者との間のギャップが、拡がってしまうことになる。
来年からは「チームプレイ」です。三人一組でチームをつくらせ、共通の目標を与える。三人は力をあわせてそれに取り組み、ミッションをクリアすれば達成感を三人等しくわかちあえる。そういう仕組みにしました。先述した「テープの前で全員がいったん止まり、そして手をつないで一緒にゴール」を、まさに仕事においても行います。
「どうしてそこまで迎合する必要がある?」
いうまでもないでしょう。そうでもしなければ、あたら獲得した人材に辞められてしまうからです。
「そんなの、武蔵野みたいな低レベルの会社に限った話じゃないのか?」
そうかもしれません。しかし「去年入社してきた新卒社員と、今年の新卒は別物である」と考えておくことは、マネジメントをする上で決して無駄にはなりません。
中小企業が変化を起こすのは難しい、変化についていくことはできる
「稼ぎたい、出世したい」の志向が、やがて「ほどほどの稼ぎで充実したプライベートを」に変わり、そして「一人だけで目立ちたくない」に変わる。これは、社会がそういう人材を育てていることに他なりません。つまり「プライベートを充実させたい」「一人だけで目立ちたくない」という人材が、今は正しいのです。だからあなたはゆめゆめ「近ごろの若いもんは」などとぼやいてはいけません。
中堅・中小企業が、社会に変化を起こすことは難しい。しかし社会の変化についていくことは比較的容易にできます。そして社会の変化についていくことを怠った企業を待ち受けているのは、ただ「死」のみです。あなたはこのことをしっかり心に刻んでください。
さて、2017年もあますところあと数日、皆様よいお年をお迎えください。そしてまた来年も当連載をどうぞよろしくお願い申し上げます。
(構成:諏訪 弘)
精神論では、会社は儲からない!
儲けの7割は「整頓」で決まる!
小山社長の持論です。株式会社武蔵野を率いて約30年。赤字会社を再建した後、中小企業630社以上を経営指導し、5社に1社が最高益達成。その経験に裏打ちされた信念です。
本書の特徴は、写真がたっぷり。5ステップで「儲かり体質」の現場づくりを目指します。
1.5万人が視察した株式会社武蔵野の現場の写真がたっぷり
2.写真があるから、すぐ実践できる
3.自社のモノの置き場所、置き方が改善される(=整頓)
4.会社が変わる。社員が成長する(形から入って心に至る)
5.儲かる会社の土台ができる!
登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。