(写真:つのだよしお/アフロ)
(写真:つのだよしお/アフロ)

 今、学校法人「森友学園」をめぐり、小学校の設置認可、小学校新設のための国有地の取り引きなど、数多くの問題が話題を呼んでいる。

 中でも大きな問題は、森友学園が小学校を開設するにあたって、財務局が鑑定価格9億5600万円の国有地から地下のごみ撤去費として8億1900万円などが差し引かれた約1億3400万円で購入した。民進党によると、国は汚染土除去費用として1億3176万円を支払ったと指摘している。これを考えると、学園の負担はたった200万円ということになる。

 どうしてこんなことになったのか。これにはやはり、政治的関与があったのではないかと思わざるを得ない。国有地の問題も、なぜ売却費がこんなに下がってしまったのか。

 この点に関しては、近畿財務局と学園側との交渉の記録や報告書がすでに破棄されていることが分かった。こんな大事な記録を破棄することなどあるのだろうか。第一、最終報告書は破棄したとしても、それを作成するための計算書は残っているはずだ。それを「破棄した」として提出しないというのは、「表に出すと非常に都合の悪いこと」だと疑われてもおかしくないだろう。

 まだ疑惑がある。森友学園が大阪府豊中市で建設中の小学校について、府私立学校審議会(私学審)に報告した校舎の建築費と、国の補助金を申請する際の建築費も食い違っている。

 国有地の問題だけでなく、国民の疑惑をかき立てるような事柄が次から次へと起きている。その1つが、稲田朋美防衛大臣の言動だ。

 稲田氏は、国会で野党から「かつて弁護士として森友学園のための弁護活動をしたのではないか」と問われて、「同法人理事長の籠池夫妻から法律相談を受けたことはない。裁判を行ったこともない」と答えていた。提示された署名入りの書面についても「初めて見た。同じく弁護士である夫との共同の事務所であるから、連名で資料を出しただけだ」と説明した 。

 ところが翌日、稲田氏はこれまでの発言を覆した。「記憶になかったが、やったことがある。弁護士の夫の代わりに出廷したのではないかと推測している」と訂正して謝罪した。

 こんなおかしなことがあるだろうか。記憶になかったというだけでは済まされない問題だ。国会答弁があまりにも軽々しすぎる。野党は当然、稲田氏の辞任を強く要求している。

 さらには、稲田氏は籠池理事長夫妻から政治献金を受け取ったことまで露呈してしまった。常識的に考えれば、当然、稲田防衛相は辞任すべきだと思う。

 共同通信社が11、12日に行った世論調査によると、森友学園への国有地売却問題について、86.5%が「適切だと思わない」と回答したという。また、籠池氏を国会招致して説明を求めることに「賛成」と回答した割合も74.6%に上った。

 さらには、政府が十分に説明していると思うとの回答は5.2%しかなく、「思わない」は87.6%に達したという。学園との関係をめぐる安倍晋三首相のこれまでの説明を「納得できない」と答えたのは58.3% という結果になった。

 つまり、国民のほとんどが森友問題には疑惑を抱いているということだ。

籠池理事長はなぜ会見をドタキャンしたのか

 森友学園の籠池泰典理事長は3月9日、大阪府私学課による現地視察に立ち会った際、集まったマスコミに対して「悪意ある批判に対しては、園として今後も断固として戦う」と何度も絶叫した。

 ところが翌日の夕方に開かれた記者会見で、籠池氏は一転して「苦渋の決断だが、認可の申請を取り下げる。理事長を退任する」と言った。

 これはどう考えればいいのか。前日まで「断固戦う」と言っていた人物が、なぜ翌日には申請を取り下げて、断腸の思いで理事長を降りると言ったのか。

 これは何らかの政治的圧力がかかったのだと思わざるを得ない。15日も、籠池理事長は日本外国特派員協会の記者会見を行う予定だったが、直前に延期されることとなった。これも背景に何らかの圧力があったのではないかと感じる。

自民党は当初、籠池理事長の参考人招致を拒否

 これほど謎の多い森友学園問題について、野党は籠池理事長を国会への参考人招致を強く要請していた。ところが、安倍首相をはじめ自民党は当初、これを拒否した。

 安倍首相は、「自分も妻も森友学園の問題には全く関与していない」と言っている。だが、本当にそうであるならば、籠池理事長の国会招致を最初から認めるべきだった。招致しないとする姿を見た国民の多くは「招致すると都合が悪いことが隠されているのではないか」と思っただろう。

 そんな中、16日に突然、籠池氏の国会招致で与野党が合意した。しかも、証人喚問で一致したという。なぜ自民党の方針が変わったのか。籠池氏による「爆弾発言」が飛び出したからだ。16日、大阪で参院予算委員会のメンバーによる現地調査が行われた。そこで実施された籠池氏への聞き取り調査で、彼は安部首相サイドから、建設費の寄付金として「100万円をもらった」と述べたという。菅義偉官房長官は即座に安倍首相による寄付を否定したが、もしもこれが事実であれば大問題だ。

 安倍首相は一切の関与を否定していた。もし関係があったとすれば辞任するとまで国会で答弁している。それだけに、今回の「名指し」での関係性をしっかりと否定するために、急遽証人喚問での合意がなされたようだ。

安倍首相に意見できない自民党

 結果的に、証人喚問が実現する見通しだが、自民党の対応は誉められたものではなかったように思う。どうしてここまで後手に回ったのか。それは、自民党内には安倍首相にそのような指摘をする者がいないからだ。これが一番の問題だ。

 かつて自民党内には主流派、反主流派、非主流派があった。僕が若い頃は、自民党の主流派と反主流派との激しい論争があった。反主流派・非主流派が存在していたからこそ、自民党には多様性がある。自由な意見が飛び交っていた。主流派の考えに異を唱え、対案を出して政策のバランスが保たれるというわけだ。実は、自民党の総理総裁は、党内での派閥争いに敗れて代わっていたのだ。当時は野党の追及などより、自民党内部での戦いの方が激しかった。

 ところが1996年の衆議院議員選挙から、中選挙区制に代わり小選挙区制が導入された。小選挙区制とは、1つの選挙区から1人だけが選ばれる制度だ。小選挙区制になると、自民党から立候補するためには、執行部からの推薦がないと公認されない。執行部が承認するということは、反主流派・非主流派であってはならない。こうして、主流派のみが存在する自民党、自由な意見が言えない自民党になってしまったのだった。

 僕は、ある自民党の幹部たちに「元の中選挙区制に戻すべきだ」と提言したことがある。彼らは「田原さんの言う通りだが、戻すのは反対だ」と答えた。

 「なぜか」と再度問うと、「中選挙区制で選挙をすると、どうしても1回の選挙で1億数千万円の費用がかかる。すると、表に出せない金を集めざるを得ない」と言うのだ。中選挙区だと、選挙区内で自民党同士の戦いが生まれる。そうすると、いろいろとお金を使わなければならないらしい。だが、今は多くの議員がそのような選挙資金を持っていない。小選挙区制になったお陰で、そこまでの費用はかからなくなったという。

森友問題は、安倍政権の根幹を揺るがす可能性がある

 今回の問題でも、自民党内から「籠池理事長を国会に招致すべきだ」という意見がもっと早い段階で出ていいはずだ。だが、それはなかった。

 自らの組織の中で、ダメなものはダメと言える「自浄作用」が働く組織でないと、与党として健全に機能しなくなるだろう。このまま国民の疑惑がどんどん深まれば、「自民党ではなく、民進党に票を入れよう」と考える人も増えるかかもしれない。

 今は残念なことに、党内で安倍首相に反対意見を言える人物がいない。中堅の議員たちに頑張って欲しいが、難しいようだ。

 支持率も高く、自民党総裁任期の延長を決めて万全の状態で長期政権を狙っていた安倍首相。だが、今回の問題を軽視しては大やけどを負うことになる。

 国民の声を無視し続ければ、その代償を、安倍政権だけでなく、自民党そのものが支払うことになりかねない。

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