どうやら自分はアイドルのライブ会場の特等席にいるようだ。しかしそこが現実ではないことはデジタルで描かれた風景、そして「初音ミク」というバーチャルアイドルがいることで分かる。だが、首を上下左右に振れば、360度を自由に見渡すことができる。
味わったことのない凄まじい「没入感」。仮想世界に迷い込んだ、という表現がこれほど似合う体験はない。
これは、9月に開催された世界最大級のゲーム見本市「東京ゲームショウ2015」にて、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のブースで味わった試遊の一幕。最新の「VR(バーチャルリアリティ=仮想現実)」技術に触れ、「ゲームの未来」を感じると同時に、ゲームの枠を超えた可能性も垣間見た。
東京ゲームショウにはこの10年ほど、毎年欠かさず通っている。今年の出展社数は過去最多の480社となり、うち海外からは246社と初めて過半数を越えた。スマートフォン・タブレット端末向けゲームの展示が増えたことが社数増大の要因だが、来場者やメディアの話題と人気を最もさらっていたのはVRだ。
開場とほぼ同時に整理券配布が終了
VRで人を惹きつけたブースは2つある。1つは、昨年、米フェイスブックが買収したベンチャー、オキュラスVRのブース。もう1つは、家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)」を展開するSCEのブースだ。
SCEのVRは、「PS4」のオプションシステムとして提供される。その点で、パソコンと組み合わせて利用するオキュラスとは大きく異なる。SCEは東京ゲームショウに先立ち、これまで「Project Morpheus(プロジェクト・モーフィアス)」としていたVRシステムの名を「PlayStation VR」と変え、2016年に一般販売することを発表。その試遊ができるとあって、SCEのブースには来場者が殺到し、連日、開場とほぼ同時に整理券配布が終了するほどの人気ぶりだった。
SCEは昨年の東京ゲームショウでも試遊コーナーを設けていた。筆者はこの時も体験し、記事にまとめているが、今年の試遊は昨年とは次元が違う。昨年までは、ゲーム専用機とVRが組み合わさると何ができるか、ということを単純に見せるデモしかなかった。だが、今年は商品化が予想される10種類のゲーム/コンテンツと20の試遊ブースを用意。より現実味のある未来を提示していた。
ここで、筆者は3つのタイトルを試遊する幸運に恵まれた。
ロボットに乗り込み、高速移動しながら敵を撃破するシューティングゲーム「RIGS」を始め、「ファイナルファンタジー」や「真・三國無双」といった家庭用ゲーム機ではお馴染みのタイトルのVR版試作も揃っていた。だが筆者が選んだのは、こうしたゲームらしいゲームではない。
実は筆者がPS3で最後にゲームをやったのは数年前。PS4は持っていない。昔は「ファイナルファンタジー」や「メタルギアソリッド」といったタイトルを楽しんだものだが、いつの間にか重厚長大なゲームに尻込みしてしまうようになっていた。
VRの試遊ブースはオープンな作りで、試遊できない来場者も、試遊中の画面を見ることはできる。下手なプレイをお見せするのが恥ずかしいと思った筆者が選んだのは、複雑な操作なく楽しめるコンテンツだ。それが、冒頭に紹介した、初音ミクのライブである。
仮想のアイドルが接近、思わずのけぞる
ブースに入ると、コンパニオンの女性が視界をすっぽりと覆う専用の「ヘッドマウントディスプレイ(HMD)」とヘッドフォンを装着してくれる。眼前にはドットで描かれた3Dのステージが浮かび、周囲にはサイリューム(光るスティック)を手に盛り上がる他の観客もいる。思わず、左右を見渡し、後ろを向くと、そこにも大勢の観客がいた。
初音ミクが登場すると、その観客が沸き立つ。実際に手に持つリモコンは、画面上ではサイリュームとして表示されており、リモコンを動かすと、画面上でもその動きに忠実に合わせてサイリュームが動く。この時点で「画面の中に自分がいる」と思い込むに十分な没入感があった。
すると、ライブの途中で突然、自分の居場所がステージ上に切り替わった。多少の距離があった初音ミクが、目の前で踊っている。ステージ右手から左手へ歌いながら移動する際、自分の前、10センチほど(に感じるくらい)の至近距離をかすめていった。思わず「うわっ」と声をあげ、のけぞってしまった。
圧巻は、自分が向いた向きに従って、ヘッドフォンの音声も変化することだ。ライブは、前にあるスピーカーから音が出ている。右を向けば、ヘッドフォン右の音量が大きく、左は小さくなる。この「音像」の変化が臨場感をより増していた。
続いて試したのが、バンダイナムコゲームスが提供していた「サマーレッスン」というコンテンツだ。10あった試遊タイトルのうち、圧倒的な人気を誇っていた。
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