やっと「はやぶさ2」の打ち上げ日を迎えた。
 2度にわたる打ち上げ延期で、打ち上げ日時がどう変わったかを見ると、

11月30日(日)13時24分48秒
12月01日(月)13時22分43秒
12月03日(水)13時22分04秒

 11月30日の予定時刻が、12月1日には2分5秒早まり、さらに12月3日では39秒早くなったことがわかる。

なぜ4時間? なぜ1秒?

 それにしてもなぜ、1~2日ずれるだけで打ち上げ時刻が変わるのだろうか、それも秒単位で。
 面倒なことは言わず、「00秒」で統一してくれればいいのにと思う人もいるだろう。実際、ここ種子島宇宙センターで「はやぶさ2」の前のH-2Aロケット25号機(静止気象衛星ひまわり8号)の打ち上げは、

2014年10月7日(火)14時16分00秒

だった。打ち上げ計画書には「打上げ時間帯」という添え書きもあり、

14時16分00秒~18時16分00秒

と記してあった。秒の単位が「00」というのは、とてもわかりやすい。しかも、「打ち上げ時刻は最大4時間遅れてもオッケーよ」だった。


2014年10月7日14時16分00秒、静止気象衛星「ひまわり8号」を搭載し打ち上げられたH-2Aロケット25号機。(写真:JAXA)

 ところが「はやぶさ2」は、今回の打ち上げが最大12月9日まで遅れた場合でも、いずれの日の打ち上げ時刻も1秒の正確さが必要で、「1秒遅れたらバツ」なのだ。

 こういう厳しい「打ち上げ時刻」は聞いたことがなかったのだが、その理由を語ってくれたのは、「はやぶさ2」のプロジェクトエンジニア、津田雄一さんだった。


「はやぶさ2」のプロジェクトエンジニア、津田雄一さん(宇宙科学研究所准教授)。「はやぶさ2」の工学系の統括を担当。(写真:山根事務所)

誤差は火曜に確認

「打ち上げ時刻が秒の単位で設定しているのは、小惑星『1999 JU3』へ向かうための軌道計画によるものなんです。もし、打ち上げが1秒以上遅れれば、その日の打ち上げは中止です。地球周回衛星であれば若干の打ち上げ遅れは許されるでしょうが、『はやぶさ2』では1秒以上遅れれば軌道に入れないんです。打ち上げが中止となった場合の予備期間は2週間ありますが、それでも打てるのは1日1回、誤差1秒以内です」(『小惑星探査機はやぶさ2の大挑戦』第8章 秒針上の宇宙機)

「はやぶさ2」が向かう小惑星に到着するのは、2018年の6月か7月。3年半以上もの長い長い大宇宙航海なのに、どうして出発時刻がそんなに厳しいのと思うが、「はやぶさ」も「はやぶさ2」もそういう超厳密な軌道計算が大前提なのだ。

 ミッションマネージャの吉川真さんも、こう語っている。

「ロケットは予定された推力を出し続けて飛翔します。仮に打ち上げ時刻が1秒ずれたとしても、そのずれを補正するように推力を増したり減らしたりと変化させることはできません。なので、ずれがある場合は、探査機がロケットから切り離されてから、探査機側で軌道を修正する必要があります。しかし、それにはかなりの燃料が必要で、場合によっては不可能となります。わずか1秒でも、そのずれの影響が大きいため、打ち上げは1秒の精度で決まった時刻に行わなくてはいけないんです」

 もちろん、イオンエンジンを吹いて航行を続ければ、ちょっとの軌道の誤差は出る。そのため「はやぶさ」では、毎週火曜日にイオンエンジンを止めて予定通りの道筋を辿っているかどうか、軌道の確認をしていた。

 探査機が計算通りの航行ルート(軌道)通りに航行するためには、2つの計算が必要だ。

 「軌道決定」と「軌道計画」。

 似た用語で何のことやらわかりにくいが、こういうことだ。

 探査機から送られてくるデータをも参考に、探査機が今どこにいるか、何日後にはどこにいるかを計算で突き止めるのが「軌道決定」だ。これは、富士通のエンジニアが担当。

 この「軌道決定」による位置データによって、「おっ、ちょっとズレているぞ、速度が速すぎるな」ということがわかる。そこで、そのズレを修正しながら次の1週間の旅の道筋を設定して、探査機に「これでいけよ!」とエンジンの運転指示をするのが「軌道計画」なのだ。

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