さる12月2日、公正取引委員会は、検索エンジンと検索連動型広告配信システムにおけるヤフーと米グーグルの業務提携に独占禁止法上の問題はないと発表した。両社は7月に提携を発表したが、直ちに米マイクロソフトが反発、10月には楽天が公取委に対し調査を求めていた。

 本件に関する数々の新聞報道を読むと、提携によって日本のインターネット検索の9割がグーグル製検索エンジンで処理されることへの懸念と、独禁法適用の可否という二つの話が混在している場合が多い(関連記事「ヤフー・グーグル提携報道が偏向する理由」)。

 そこで後者について、独禁法に詳しい萩原浩太弁護士に、ヤフー・グーグル提携と独禁法の関係について解説してもらった。萩原氏は東京理科大学専門職大学院講師を務めるが、それ以前は公取委に5年間在籍し、独禁法関連の業務を担当していた。

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―― 公取委がヤフー・グーグル提携に独禁法上の問題はないと発表した。もともと提携を発表する以前に、ヤフーが公取委に相談し、その時も問題なしとの判断があった。一連の判断をどう見るか。

 萩原 独禁法違反かどうかを分析するためには、「市場画定」、「違反類型」、「競争に与える影響」という3つのキーワードがあります。「競争に与える影響」を見るには、まず、どんな取引について議論するのか、それを決めないといけません。競争への影響を検討する「取引」あるいは「市場」の分野を定めることを「市場画定」と呼びます。

 もう1つの「違反類型」とは、市場における競争を阻害するパターンと思って下さい。「不当な取引制限(独禁法2条6項、3条後段)」、「私的独占(独禁法2条5項、3条前段)」、「不公正な取引方法(独禁法2条9項、19条)」といったものです。

 ヤフー・グーグル提携に独禁法上問題があるかどうかは、市場画定をした上で、どのような違反類型にあたるのか、それを分析し、判断することになります。

―― 今回のヤフー・グーグル提携の場合、市場はどこか。

 2つあります。まず、技術です。日本のヤフーは、検索エンジンや検索連動型広告プラットフォームという技術を自ら開発しておらず、ほかからの供与を受けていましたので、これらの技術を取引する市場における競争を検討しなければなりません。広告プラットフォームというのは、検索エンジンと検索連動型広告を管理・表示する基本技術の両方を指します。

 もう1つ検討すべき市場は、インターネット広告ビジネスです。

 まず、技術取引市場の競争から検討してみましょう。ヤフーは、グーグルとマイクロソフトの検索エンジンおよび検索連動型広告プラットフォームをそれぞれ比較した結果、特に日本語検索の性能を評価し、グーグルを選んでいます。言い換えると、グーグルとマイクロソフトが市場で競争し、そういう結果になった。

 独禁法が問題とするのは、「違反類型」に示されている、競争以外の方法で市場における支配力を増し、競争を実質的に制限することです。価格や品質で競争が行われた結果、強い事業者がさらにシェアを増やしたり、それによって市場における支配力を獲得しても、それ自体は問題視しません。公取委も今回、ヤフーの自由な判断でマイクロソフトよりもグーグルを選んだことを重視しています。

自由競争は尊重すべき

―― 提携によって、グーグルの検索エンジンを使う頻度が高まるので、検索エンジンの精度が高まり、競合他社が不利になるという批判がある。さらにグーグルは検索エンジンだけではなく、検索連動型広告プラットフォームの市場でも大きなシェアを占める。

 グーグルの検索エンジンの精度が一層高まることは考えられますが、それは検索エンジンに限ったことではありません。あるメーカーの製品シェアが高まると、利用者の意見あるいはトラブル情報をそのメーカーは今まで以上に集められます。その結果、そのメーカーの製品がさらに充実し、市場における競争力をさらに高めるかもしれません。

 これを独禁法で禁じることはできません。ある企業が競争に勝ち、シェアを高めていくと起こりうることです。これを問題だとしては、競争それ自体を否定することになりかねません。プラットフォームまで広げて考えても、同じではないかと思います。

 また、シェアが高まるから、技術開発の競争ができなくなる、新規参入が難しくなる、と言い切ってよいのでしょうか。IT(情報技術)の進歩は速いですから、もっと便利な検索エンジンやプラットフォームが登場すれば、シェアが変わる可能性があるでしょう。技術革新の見通しは通常、容易ではありません。

―― 広告分野についてはどうか。

 広告に関する「市場画定」は2通り考えられます。1つは、検索連動型広告だけを市場としてみる。もう1つは、インターネット広告全体を市場としてみる。

 このうち、検索連動型広告が1つの市場を形成しているかどうかは、慎重な判断が求められると思います。インターネット広告は新しい市場であり、検索連動型広告以外にも、バナー広告、タイアップ広告など色々ありますし、新しいタイプの広告が次々に登場しています。技術としては検索エンジンと検索連動型広告プラットフォームを使っていても、利用者がそれを意識しない広告もあります。これを検索連動型広告と呼ぶのかどうか。

 インターネット広告の種類が流動的であることを考えると、ヤフー・グーグル提携を考えるための市場画定をする場合、インターネット広告取引全般とするほうが妥当と思います。

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