みなさん、こんにちは。月に一度の読書コラムです。
僕たちは宇宙の中に住んでいます。そして、僕たちの体は星のカケラからできています。前回の本コラムの最後で、脳の成り立ちも宇宙の成り立ちも非常に似ている、ということを書きました。母なる大地の、さらなる母が宇宙。宇宙をめぐる研究や議論も、ここのところ飛躍的な進歩を遂げています。
そこで今回は「宇宙」をテーマに、とっておきの本をご紹介します。
宇宙といえば、僕が子どもの頃に胸をときめかせたのは、タコのような火星人、頭が大きくて、足がぴょこんとした宇宙人が出てくるH.G.ウェルズの『宇宙戦争』(創元SF文庫)でした。
荒唐無稽な話のようでいて、最後は細菌で皆死んでしまうところに、妙なリアリティーがあります。例えばコロン(ブス)が米国大陸に到達して、誰かがくしゃみをしたことによって現地の人がほとんど死に絶えてしまったことと同じだからです。H.G.ウェルズはきちんとした文明史観を持っていたのです。発刊されてから100年近く経つと思いますが、今読んでも構成がしっかりしており、臨場感たっぷりの描写に胸がワクワクします。
星空を眺めながら宇宙をテーマに話をする時には、童心に返って『宇宙戦争』を読み返してみると、意外で新たな発見があるかもしれません。
木星の姿を「予言」したカール・セーガン
もう1つ、子どもの頃に読みながら宇宙を夢想して心をときめかせたのは、カール・セーガンの『COSMOS』(朝日新聞出版)だったと思います。
セーガンは当時「木星の氷の海の下に生物がいる」ということを書いています。「そんなのウソだろう」と思っていたら、最近、土星の衛星の氷の中から水蒸気が出てきたのが発見されて、そこに生命がいるのではないかというニュースがありました。つまりセーガンの予言は正しかったのかもしれないのです。
僕の子供の頃の思い出では、ウェルズの『宇宙戦争』と、セーガンの『COSMOS』の2冊が、宇宙への扉を開いてくれた本でした。
さて宇宙論は、昔に比べて日々進化しています。現在の宇宙論の全体を理解しようと思ったら、最近の研究成果をしっかりと学ぶ必要があります。これは僕が最近読んだ本の中では一番しっかりしていた本です。ブライアン・グリーンの『宇宙を織りなすもの』(草思社)です。上下巻あり、やや手応えのある本です。現在の宇宙論を理解するために欠かせない論点が網羅され、しかも全体像がバランスよく把握できる、とても分かりやすい本です。
これを読んで、現在の時点で分かっている宇宙がどのようなものか全体像をつかんだ後で、次に読み進めてほしい2冊の面白い本を紹介します。
1冊目は、素粒子、とりわけヒッグス粒子に関する啓蒙書でベストセラーを連発し、あまりにも有名になった村山斉・東京大学教授の『宇宙は何でできているのか』。もう1冊は、村山さんの書いた本に匹敵する面白い本で、吉田直紀氏の『宇宙137億年解読』です。
『宇宙137億年解読』は、宇宙がどうやって今のような姿になったのかという難問について、コンピューターで綿密かつ丁寧に分析しています。すると興味深いことに、宇宙が今のような姿になったのは、ビッグバン以降の「ゆらぎ」の重なりの結果であるというのです。
脳も宇宙も「ゆらぎ」から生まれた
一方、脳科学者の池谷裕二先生によれば、脳は遺伝子ですべてが説明できるわけではなく、ちょっとずつできていく過程での「ゆらぎ」部分がかなりあるのだそうです。人の脳も宇宙も「ゆらぎ」が創り上げていった、という点が大変興味深いと思いました。
人間の本源は脳です。その人間の脳を形作るものがゆらぎである。そして、この人間とは比べものにならない巨大な宇宙も「ゆらぎ」でできている。ここまで紹介した本で「ゆらぎ」の重要性を体得できたら、人間を理解するうえでも大変重要な示唆が得られるのではないでしょうか。
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