7月15日。中国は2013年4~6月期の実質GDP(国内総生産)伸び率を7.5%と発表した。
地方政府の債務危機やら、短期金利の上昇やら、鉄鋼業など素材産業の惨状が伝えられる中、悪くない数字を「持ってきた」。
辛うじて、つじつまが合わないこともない。GDPの過半を占める資本形成(設備投資や住宅投資を足し合わせたもの)は2割伸び、それだけで1~6月期の成長率を4.1%押し上げた。6月にマイナスに転じた輸出の成長率への貢献度は0.1%だ。
中国政府が「景気の減速を甘受している」というのは間違ってはいないが、一方で急減速も望んでいない。中央政府の予算による公共投資は10%台後半の高い伸びが続いており、むしろ必死に景気を下支えしている。
それでも、多くの人は感じたのではないか。「本当に、中国経済はそんなに強いの? 鉛筆、舐めてない?」
国家統計局も、そのようなバツの悪さを感じたのだろう。翌16日、統計局トップの馬建堂局長が新華網(新華社のウェブサイト)でインタビューを受けた。この様子は動画で配信された。日本で言えば「ニコニコ生放送」出演といった趣だ。最後にはネットで寄せられた質問にも答え、(中国政府が良くやる手だが)親近感の演出にも腐心したりした。
この番組で馬局長が強調したのは、
- 35年も高度成長を続けてきたのだから、ある程度の鈍化は当たり前
- だけど、当面はしっかり成長できるだろう
- 統計は真面目に作っているからガタガタ言うな
の3点だろう。最後は、実にやんわりとした言い方だったが。
インタビューの結果、もう少し待たないと発表されないようなデータもいくつか出てきた。弱音に近い発言もあったし、中国経済は悪くないと強調するための数値が、実は頭を抱えたくなるような内容だったりもした。なので、ごく断片的にだが、馬局長の発言を読み込んでいって、ツッコミを入れてみたい。
つじつま合わない失業率
「上半期、都市部の就業者は725万人増えた」
「農民工(出稼ぎ労働者)は1億7000万人で、前年同期より444万人増えた」
「毎年700万人の大学卒業生が労働力として加わってくる」
「大・中都市の失業率は5%前後で安定している」
中国が社会の安定を保つために重視する就業問題。少し前まで8%の経済成長を掲げていたのも、経済のパイを広げて仕事を増やす必要に迫られていたためとの見方が有力だ(今は農村からの出稼ぎが減り始めたので、何が何でも8%の成長は必要ない、という解釈にもつながる)。
農民工の数は推計のはずで、結構、ブレも大きいだろうが、仕事の数が足りてないように見える。農民工は昨年の6月末との比較だから、昨年7~12月に田舎から出てきて仕事を見つけることができた人を差し引く必要があるかもしれない。それでも新しく生まれた就業者(725万人)と大学の卒業生(700万人)がほとんど同じ数字だから、失業者は増えているはずだ。
中国の失業率は調査対象が都市部に限られ、かつ失業保険に加入している都市戸籍を持つ人だけをカウントしている。工場労働者は足りないが、ホワイトカラーやショップ店員は余っているという風情だろう。都市部の可処分所得の伸びは6.5%にとどまっているのだ。大・中都市の失業率だと断っている点も気になるところだ。
「2012年の労働年齢人口(16歳から60歳までの人口)は9億2200万人で、1年前より205万人減った」
「60歳以上の人口は1億9700万人で、人口に占める割合は14.3%だ」
「都市化率(都市に住む人口の割合)は52.6%だが、先進国は軒並み70%を超えている」
人口ネタが続いて恐縮だが、足元の景気や就業環境を説明する際には労働力(ここでは農民工)の増加を挙げていたが、インタビューの中程では、このようなコメントが出てくる。ここから先の人口予想は識者によって差があるが、2020年には労働年齢人口は9億人を割り込み、2025年には、さらに3000万~5000万人ほども減少する、というのが一般的なイメージだ。
この過程で仕事不足は解消されていくだろうが、人件費が下がるわけではないし、社会保障の問題も深刻になる。解決策がないことはなくて、その1つは諸外国と同様に65歳まで働ける制度を作ることだ。
農民工は都市に定住する者もいれば、歳をとって前ほど稼げなくなると土地のある農村に帰る人も少なくない。農村戸籍の人は都市部にいても何の社会保障も受けられないから、Uターンの動機はより強い。高齢化、社会保障といった問題に手をつけるなら、農村と都市の戸籍が分かれている現状にも、いずれ手を入れざるを得ない。
高齢化が急ピッチで進む中、都市化がこれまでと同じペースで進むかは、正直に言ってよく分からない。馬局長は70%を1つの目安にしており、これは大雑把に言って、あと2億人ほどは都市人口が増えてもおかしくない計算になる。
馬局長は「農村に住む人の支出は年6000元、中小都市なら1万2000元、大都市なら1万8000元」と都市化のメリットを強調していたが、高齢化と都市化、プラスの要因とマイナスの要因のどちらが強く出るかは細かく見ていかないといけないだろう。
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