「ナイフ」
「ナイフ」(重松清)は5つの「いじめ」をテーマにした短編集で「坪田譲治文学賞」受賞作。
「ワニとハブとひょうたん池で」は、ある朝突然理由もわからずいじめの対象にされた中学二年の少女が、家族に知られないよう必死でいじめと闘う姿を。――「悪いんだけど、死んでくれない? ある日突然、クラスメイト全員が敵になる。ミキはワニがいるはずの池をぼんやり眺めた。
「ナイフ」は、小柄なことでいじめに遭う息子と共に戦おうとする父親の姿を――
<子供を守り切れない不甲斐なさに、父はナイフをぎゅっと握りしめた> 「キャッチボール日和」は、家族ぐるみで付き合っている同級生の少年がいじめにあっているのを傍観している少女の眼を通して、その少年と父親の姿を。
「エビスくん」は、転校してきた大柄な「エビスくん」に「親友だ」といわれ、毎日いわれのないいじめにあう「ガンジー」と呼ばれる少年の姿を。
「ビタースイートホーム」は、小学校の担任の先生の指導方法を問題にする母親と、自分の都合で妻に職を辞めさせた負い目をもつ男の姿を。
これはいじめを契機に「家族」が再生する物語でもある。いじめについての少女のこんな独白が、大人たちとの深い溝を感じさせる。
<完全なコドモじゃないから、やってはいけないことや悪いことは、たくさんわかってる。でも、やっぱりコドモだから、わかっていることをうまくやれない。「ごめんなさい」なんて照れくさいし、「わたしたちが悪かったんです。反省します」なんて嘘っぽい。わたしたちは悪いコかもしれないけど、照れ臭さや嘘っぽさに平気で知らんぷりするような偽善者にはなりたくない。サイテーの自分より、嘘つきの自分のほうが、いまは嫌いだ。(「キャッチボール日和」)