2024/07/09

「静かな黄昏の国」

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昨日聴いたCDは「ヒッコリーハウスのユタ・ヒップ」。ドイツのライプチヒ生まれのユタ・ヒップは夜な夜な地元のジャズ・クラブで演奏中、ジャズ評論家レナード・フェザーに見いだされ、アメリカへ渡る。

<自分では、「まあまあのピアニスト」と思っていた。だが、はじめてのニューヨーク、「バードランド」や「カフェ・ボヘミア」で本物を聴いた彼女はショックを受け、その後の二か月間、ピアノの前に座ることができなくなる。自分が「まあまあ」どころか「無」に等しい存在のように思えた。(中略)

司会者としてステージに立つレナード・フェザーの声が聞こえる。拍手はまばらだ。おそらく客席には空席が目立ったことだろう。その少ない客の話し声がときおり店内に響く。

かぼそい声、しかし毅然とした態度で曲名を紹介するユタ・ヒップの演奏はどこまでもメロディックに展開する。「まあまあのピアニスト」と思って落ち込んでいたのは自分だけだった。(「超ブルーノート入門」 中山康樹)>

 落ち着いたのだろう、二曲目の「ディア・オールド・ストックホルム」が胸をうつ。

素直に拍手だ。

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「静かな黄昏の国」(篠田節子)は著者お得意のホラーと近未来を描いた七つの短編と中編一編が収められている。

「リトル・マーメイド」は、架空の学名「マーメード・リマキナ」と呼ばれる人魚に似た軟体動物に魅せられた(姿、味)人たちの顛末を。

「陽炎」は、不思議な音を響かせる古くからある「篠笛」が引き起こす奇妙な現象を。

「一番抵当権」は、別れた妻から「一番抵当権」を設定された金銭的にだらしのないライターが、その抵当権を行使されるまでを描く。

「エレジー」は、努力してもちっとも上達しないチェロに魅せられた男が、高価なチェロを手に入れ演奏してみると……。

「棘」は、サボテンに憑依した昔の恋人に、思い通りに操作される売れない俳優が転落していく様を描く。

「小羊」は内臓を提供するために生存を許されている少女が、横笛の音によって「人間性」を取り戻していく様を描く。

「ホワイトクリスマス」は唯一の中編で、作家の卵がゲームソフトのノベライズのアルバイトをすることになり、そのゲームソフトを攻略しようと挑むが……」

「静かな黄泉の国」はホラーというより近未来小説で、「終身介護施設の営業マンの言葉に乗り、自然に囲まれた家に向かう老夫婦。彼らを待っていたものは――」