「母恋旅烏」
「母恋旅烏」(荻原浩)の前半は、読むのをやめようかと思うほどつまらなかったが、大衆演劇の劇団に戻ってからが俄然面白くなってきた。ラストもハッピーエンドで、家出した妻もそのうち帰ってくるだろうと思わせる終わり方でグッド。こういう知らなかった世界を味わえるのも小説の醍醐味。
<元・大衆演劇役者の花菱清太郎が家族全員を巻き込んで始めたのは、レンタル家族派遣業。しかし、失敗に次ぐ失敗に借金はかさみ、いつのまにか火の車に。やがて、かつての義理で旅回りの一座に加わることになったが…。「本の雑誌」が選ぶ2002年上半期ベスト10の3位。著者の最高傑作。>
ちなみにこんな感想を書いている人がいた。ご参考までに引用しておく。
<家族全員でレンタル家族派遣業をしている花菱家。普段は仲が悪いのにレンタル業をしているときだけは理想の家族になる変な一家の物語。ところが花菱家はレンタル業にも失敗して、父親が以前役者をしていた大衆演劇の世界に戻ることに…。
家族6人がちゃんと成長していくとことん前向きな展開で、これ以上ないくらいのすっきりさわやかな読後感を味わうことができる。親子のはにかんだ様な思いやりはまさに大衆演劇そのもの(おひねりたくさんいただけそう)。というより話全体がそんな雰囲気を醸し出している。子供たちが自立し始める後半あたりから、前半でメインにいた父親の存在が徐々に薄れていくのもさりげなくリアル。おまけに登場人物は変な人たちばかり。いきなり戦時中モードに入ってしまう小野寺のじいちゃん、大衆演劇にいきなりブレヒトを取り入れようとする花之丞、存在すら無視されてしまうシゲさん。ツボにはまってしまいました。(「WEBH本の雑誌」)>