国連広報センター ブログ

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「1.5℃の約束」キャンペーン2年目に掛ける思い キーワードは「野心」と「正義」

UN Photo/Mark Garten

「人類は薄氷の上を歩いている。しかもその氷は急速に溶けつつある」

「気候の時限爆弾が時を刻んでいる」

これは今年3月20日、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が第6次評価報告書の最終章にあたる統合報告書を発表した際に、アントニオ・グテーレス国連事務総長が寄せたメッセージの冒頭の言葉だ。

9年ぶりとなるIPCC統合報告書は「私たちがこの10年に行う選択と行動が数千年にわたり影響を与える」と指摘し、私たちが地球をつないでいけるかどうかの分岐点にあることを示している。

 

2022年、国連広報センターは国連としては世界で初めて、国レベルで多くの「SDGメディア・コンパクト」加盟メディアを動員して、「1.5℃の約束」気候アクションキャンペーンを展開した。なぜ世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5℃に抑える必要があるのか、それが私たちのいのち・暮らし・経済にどう関係するのか、そして私たちに何ができるのか。6月17日から11月18日までタイミングを合わせて、メディア主体のキャンペーンを、業態も規模も様々な146ものSDGメディア・コンパクト加盟メディア有志の力を結集して行うことができた。

画期的な一歩を踏むことができた訳だが、気候変動はそれ以上のスピードで進み、事態はもっと悪化している。3月のIPCC統合報告書は、全人類にとって住みやすく持続可能な未来を確保する機会の「窓」は急速に閉じつつあると強い警鐘を鳴らした。

世界の平均気温は産業革命前よりも既に1.1度上昇。海面上昇のペースは70年代以降加速し、世界の平均海面水位は20世紀初頭と比べて20センチ高くなっている。熱波や豪雨、干ばつといった異常気象も起きやすくなり、複合災害が起きるリスクも高まっている。世界人口の半分に迫る約33億~36億人が高い気候リスクにさらされているが、インフラが整っていない脆弱な途上国ほど、温室効果ガスの排出に加担していないにも関わらず深刻な被害を受ける。気候変動に対する責任が最も少ない人々が、不当にその影響を被っている中、「気候正義」の視点が決定的に重要であることは言うまでもない。10~20年の洪水や干ばつ、暴風雨による死亡率は、影響を非常に受けやすい地域ではインフラが整った豊かな地域に比べて15倍も高かった。

2022年のパキスタンの洪水 娘を抱きかかえる女性 @UNICEF/UN0730486/Bashir

IPCC統合報告書は、排出削減努力の必要性についてこれまで以上に踏み込み、1.5度目標実現への窓を閉ざさないためには、2035年までに温室効果ガスの排出を2019年比で65%削減することを世界に求めている。強い危機感のもと、今後10年で待ったなしで大幅な排出削減が欠かせない。報告書は解決策として、この10年間で大幅、急速かつ持続的な緩和策および適応策を加速すれば、人間や生態系に対して予測される損失と損害が軽減される、として各国の行動を促すとともに、気候変動対策に資金を振り分け、十分な資金を動員すること、国際協力が重要であることを強調している。

さらに、こうした措置が幅広く恩恵をもたらすことも指摘している。恩恵の具体例としては、クリーン・エネルギーやテクノロジーへのアクセスは特に女性と子どもたちの健康を増進するとともに、発電の低炭素化、徒歩や自転車、公共交通機関での移動によって大気環境が改善される。大気の改善だけを取っても、人々の健康増進による経済的恩恵は排出量の削減または回避にかかるコストと同等、あるいはそれを上回る可能性がある、と挙げている。

デンマークの洋上風力発電 @UN Photo/Eskinder Debebe

気候変動を前に、「途方もなく大きな課題」という虚無感や「どうせ何をやっても無駄」という無力感を感じる方も多いかもしれない。しかし、今必要なのは、もう一歩先を見越して、より野心的な行動に対する緊急の必要性を認識し、もし私たちが今すぐに行動を起こせばすべての人々が住み続けられる持続可能な未来を確保できるという可能性への確信だろう。

昨年の「1.5℃の約束」キャンペーンでは、日本中のメディア・パートナーの創造性、リーチ、影響力が活用された。この経験を単年にとどめるのではなく継続してこそ、より強力なインパクトを生むことができる。深刻化する気候危機に対処するための圧力をこれまで以上に強めていく必要があると考え、私たちは2023年も「1.5℃の約束」キャンペーンを継続して推進することを、IPCC統合報告書発表と同じ3月20日に発表して即日実施を開始した。キャンペーン2年目の実施開始から1ケ月で、参加表明は150メディアとなり、昨年の参加総数の146を超え、メディアの間の関心の高さをうかがうことができる。

 

 

今年11月から12月にかけてアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催される気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)は、パリ協定の目的や長期目標と比較して、国際社会全体の温暖化対策の進捗がどの位置にあるのかを、各国の温暖化対策や支援に関する状況やIPCCの最新報告書などの情報を基にして、5年ごとに評価する「グローバル・ストックテイク」を行う。各国はこの点検の結果をもとに、2035年の削減目標をより野心的なものに引き上げることが求められることになる。

この原稿を執筆中の4月21日に国連の世界気象機関(WMO)が発表した世界の気候に関する2022年の年次報告書は、切迫する気候変動の現状をあらためて突きつけた。2022年の世界の平均気温は産業革命前から1.15℃上昇し、1.5℃にさらに近づいている。2015年から2022年までの8年間の世界の平均気温は、冷却効果のあるラニーニャ現象が3年続いたにもかかわらず、観測史上最高を記録した。

 

二酸化炭素やメタンなど温室効果ガスの濃度も上昇し続けた。直近10年間の平均海面水位の年間上昇幅は4.62ミリで、93年から10年間の2倍になっている。スイスの山岳では史上初めて夏の残雪が消えた。気候変動は、私たちを待ってはくれないのだ。

「野心」と「正義」という気候を語るときの2つのキーワードを軸に、「1.5℃の約束」が果たされるよう、待ったなしで人々のアクションをうねりのように呼び起こすことが必要だ。そのためにも、キャンペーン2年目の今年は、信頼のおける気候科学の声がより多くの方々に届くよう、科学コミュニティーとつながりを強めると同時に、私たち同様に深刻化する気候変動に強い問題意識を持っている気象キャスターの方々と協力して、日々の気象コーナーの中で気象現象の背景にある気候課題や気候アクションの選択肢にも踏み込んで伝えていただき、「1.5℃」が家庭での話題になるよう推進したいと思っている。

科学的根拠に基づいて個人レベルでの気候アクションを呼びかける
国連のキャンペーン "ACT NOW"

アントニオ・グテーレス事務総長は、タイムズ誌のCO2 EARTH AWARD受賞に際して「未来の世代は私たちの行動を喜びと感謝の気持ち、それとも失望と怒りの気持ちで振り返るだろうか? 私は、気候変動対策、気候整備、より良く平和な世界のための闘いを決してやめなかったと、私のひ孫の娘に知ってもらいたい」とコメントしている。

それは取りも直さず、私たちの生きるこの時代が後世の歴史の教科書に、気候危機を乗り越えるために連帯を示し、地球をつなぐ選択をすることができた時代として記されるかどうかということでもあるだろう。

 

「1.5℃の約束」キャンペーン2年目継続実施発表にあたって、
根本かおる 国連広報センター所長からのメッセージ

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