2024年の音楽を振り返る

雑記

もう長いこと、年末にはその年の音楽を振り返るブログを書いているのだけれど、今年は本当にいい音楽に出会うことが多かった。また、この10年くらいライブハウスの現場で「いい曲」に触れることが多かったのだけれど、今年は配信やラジオ放送で知った曲に心を動かされることが多かったようにも思う。

そんなわけで、単純に「よかった曲」を挙げるだけではとても長くなってしまうので、何曲かよかったポイントを絞って紹介しつつ、他はリンクだけでも貼っていくことにしたい。

令和のシンガーソングライター

今年とにかく嬉しかったのは、昨年の記事で取り上げた、さとう。の1stアルバム『産声みたいで、』のリリースだ。収録された11曲すべてがギター弾き語りというスタイルながら、「ステージ」や「マイク前」といった、他のパートの伴奏が聴こえてくるようでもあり、これ以上足すことも引くこともできない完成されたアレンジの楽曲もあり、プレイヤーとしてのレベルの高さも感じる。

一方、昨年の「3%」や「あの夜」「始発前」「ピアス」といった楽曲では、物語性の高い歌詞が特徴的だ。アーティストの特徴を他のアーティストで表現するのは失礼だとは思うけれど、「令和の中島みゆき」というフレーズがどうしても浮かんでくる。楽曲の力が強いので、弾き語りにこだわらず新しい展開やアレンジも今後は期待したいところ。

シンガーソングライターの楽曲で言えば、今年はSundae May Clubのヴォーカル・浦小雪のソロ楽曲がすごくよかった。特にこの曲の「脳のしわ増えるくらい/君を紐解きたい」っていうサビのフックは素晴らしいフレーズだなと思う。

より胸に残ったのは、汐れいらの「糸しいひと」だ。歌詞に出てくる「愛」という字をすべて「いと」と読ませて、愛しい人とつながる糸というモチーフを表現したのも素敵だし、なにより、そこで描かれる愛が、結ばれた二人の関係ではなく、もう一緒にはいられなくなった二人の、だがより深い絆を思わせるものになっていて、涙なしに聴けない美しさをたたえている。

一方、令和だなあと感じたのは乃紫の「踊れる街」だろう。「全方向美少女」のフックがバズったことで今年一躍有名になった彼女だけど、本来の魅力は「運命なんて生まれた日より選んだ服で決まるもの」といった厭世観のある歌詞とマイナー調のメロディにある。その「全方向美少女」の前に初めて書かれたというこの曲も、「退屈な日常を抜け出して今ここを楽しむ」という刹那的な態度が描かれている。ご本人のインタビューなんかを聞いていても、世の中をやや引いた目で見るタイプなのかなと思うのだけど、そのたたずまいはいかにも1990年代的というか、岡崎京子の世界だよなあと思う。20代前半のアーティストが親世代のサブカルにつながるような楽曲を作ってくるあたりがいまの時代を象徴しているのかもしれない。

a子なんかも個人的には1990年代のオルタナ!って感じがするのだけど、海外で言えばビーバドゥービーも今年は突き抜けた楽曲が多かったので、その流れが日本にも到来しているのかもしれない。

自己肯定感爆上げツール

もうひとつ今年のトピックとして挙げておかないといけないのは「自己肯定感爆上げ」というトレンドだろう。とりわけ若い女性を中心に「セルフラブ」とか「自己肯定感」がキーワードになっている。平成の「モテ」が他者からの肯定感を調達することを目指していたのに対して、令和のZ世代は自分で自分を認めること、言い換えると他者に振り回されることなく、自律的に生きることを望んでいるように思える。

そのトレンドのひとつの表れが、アイドルソングにおける「かわいい」ブームだろう。CUTIE STREET「かわいいだけじゃダメですか?」FRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ」といった楽曲と並んでバズった、超ときめき♡宣伝部「最上級にかわいいの!」なんかは、リスナーにとっても自己肯定感を高めてくれるポジティブさがある。

で、その「最上級にかわいいの!」の楽曲提供をしたのがコレサワ。もともと、SNSで過去の楽曲がダンスに使われるといったバズは起きていたのだけれど、おそらく彼女の最大のヒット曲となった「元彼女のみなさまへ」は、プロデューサーとしての彼女の実力を知らしめたものでもあったと思う。これまで、失恋ソングと言えばどちらかというと捨てられ、泣かされる主人公を歌ってきた彼女が、そんな過去を全肯定していまの恋人との幸せを歌う。その前向きさがぐっと背中を押してくれる。

余談だけど、今年のサーキットフェスで彼女のステージを見たら、おそらくSNS経由で知ったと思われる新規のファン(大半が若い女性)が殺到していて驚いた。そんな中でも、古参と思われるお姉さんがこの曲の「いろんな人に泣かされてさ/今のあたしがいるんだわ」というフレーズを聴きながら隣で号泣してた(同じく古参である僕も「でずよねえええ」って思いながら泣いてた)。

同じくセルフラブに関するものでは詩羽の「MY BODY IS CUTE」が挙げられると思うけれど、一方で今年は歌手としての活躍もめざましたかったサーヤ(CLR)がヴォーカルを務める礼賛の「PEAK TIME」なんかも、自然体の自己肯定感が心地良い。アンミカみたいに「自己肯定感の高いお姉さん」のポジションを確立しそうだなと。

3ピースの魅惑

今年は、女性ヴォーカルの3ピースバンドに縁の多い年でもあった。とにかく聴き込んだり自分で弾いたりしていたのはリーガルリリー。今年リリースのアルバム「kirin」は文句なしのベストだけれど、年頭にリリースされたyonigeの「Empire」も捨てがたい。カネヨリマサルは「ラブソングがいらない君へ」から「シャッターチャンス」まで、ミディアムでメロウな曲が多かった印象だけれど、それによってバンドの魅力じたいも大きく広げたと思う。PEDROのミニアルバム「意地と光」も、俺たちが聴きたかったのはこういうジャパニーズシューゲイザーだよ!という大満足の作品だった。

3ピースではないけど女性ヴォーカルのバンド自体もよく聴いていて、前に挙げたSundae May Club、チョーキューメイはステージも素晴らしかった。

ほんとはこの話に絡めて『ふつうの軽音部』についても語っておきたいのだけどすっごく脱線しそうなのでパス。はとっちを実写化するならこの人に歌って欲しいという方だけ挙げておく。

インディーズシーンの再興

割とメジャーどころ(当社比)を聴くことの多かった印象だけれど、インディーズシーンもすごく盛り上がっていた。演奏力では明くる夜の羊が頭一つ出ていた印象。とりわけVo. カワノユイの声量は凄まじく、ギターの音量を上げすぎたときにくる頭を殴られる感覚を、歌声で食らうとは思っていなかった。あとBa. ナツキの尖ったたたずまいもよくて、僕の中で「佐倉出身のバンドはベースがクセ」っていう法則が再確認された。

他に注目アーティストを挙げておくと、Apesomeme tentenRe:nameCrab 蟹 Clubレトロマイガール!!クレナズムUNFAIR RULEchef’sはライブパフォーマンスも素晴らしかった。今後観てみたいアーティストとしては、oftonanewhitein sea hole三四少女フリージアンなんかが挙げられそう。音楽的な完成度や演奏力はどんどん上がっているというか、もうDTMとバンドの境界線はほぼなくなっているので、純粋に楽曲が人の心を動かす力が大事になってきそうな2020年代後半だと思った。

たかがゲームではない

ほとんどゲームをする時間がなくなってしまった昨今、ちまちまと続けられたのが『学園アイドルマスター』(学マス)だった。基本的には配られた手札とアイドルの相性を見ながら攻略する戦略カードゲームだと思うのだけど、練度が低い段階の音程を外しまくった下手くそなライブから、大規模会場での成長しきったステージまでを通して見てしまうと、やはり胸にぐっとくるものがある。楽曲としては、ものすごく難しい上に展開も複雑なこちらが好き。

最後に宣伝

というわけで音楽的にすごく充実した年だったけど、何より自分にとって大きかったのは、アルバム「環世界」をリリースできたことだ。もう昨年の段階で曲ができていることは予告していたけれど、リメイクを含むとはいえ、これだけの曲数を働きながら制作できたのは大きな自信になった。

別にファンがいるわけでもたくさん聞かれているわけでもない。でも、素人がちょっといいなと思った景色をスマホで撮影してSNSにアップしても「お前に表現の資格があるわけない」なんて言う人がいないのと同じで、限られた棚を取り合うことなく自由に表現、発信ができる時代なのだから、それで自分のことを嫌いにならずにいられるのなら、どんどん発信すればいいのだ。

ありがたいことにもう新曲もできている。今年アルバムをリリースしたおかげもあって気持ちに余裕ができていて、じっくり制作しているのでリリース時期は未定だけど、たぶん春までにはお届けできるはずだ。

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