Kyash COO の鳥越です*1。これは Kyash Advent Calendar 2024 24日目の記事です。
Kyashはチャージ型クレカ (Visaプリペイドカード) を提供していますが、カード利用する前にチャージするって面倒ですか?
「普通のクレカはチャージしなくても使えるのに、使う前にチャージ残高を確認して残高が足りなかったらいちいちチャージするってちょっと面倒だし不便だなあ〜」といったユーザーの声もあります。一方で、「チャージ型クレカはちっとも手間ではなく、むしろ使い過ぎを防げるから安心」といったユーザーや、そもそもチャージ型クレカによってクレカを普段使いできるようになり、キャッシュレス社会で暮らしていくなかで多くの恩恵を受けているというユーザーも実はたくさんいらっしゃるのです。
Kyashでは、オンライン・オフラインのハイブリット環境で All-hands meeting を毎月開催しています。2024年12月の All-hands meeting で僕が話した内容を少し引用しながら、現在Kyashで進めているブルーオーシャン戦略 (Kyash2.0) の方向性についてここに書いてみます。
金融包摂 (Financial inclusion)
まず、最初の質問です。みなさんは「金融包摂 (Financial inclusion)」という言葉を聞いたことがありますか?
世界銀行は、「金融包摂 (Financial inclusion) とは すべての人々が経済活動のチャンスを捉えるべく、経済的に不安定な状況を軽減するために必要とされる金融サービスにアクセスでき、またそれを利用できること」 と定義しています。
貧困や差別などによって金融サービスから取り残され、経済的に不安定な状況にある人々でも基本的な金融サービスにアクセスできるよう支援するためのグローバルでの取り組みです。
世界銀行が、2022年6月に公表した Global Findex Database 2021*2 によれば、2021年時点での金融取引口座 (銀行口座とモバイルマネー口座) の保有率は世界全体で76%と2011年の51%から大きく伸長しています。一方で、金融サービスの起点となる金融口座を持っていない大勢の人たち (世界の人口が約82億人× (100%-76%) ≒ 20億人) がいて、この20億人に対して金融サービスへのアクセスを可能とするグローバルな取り組みが課題になっています。
「金融包摂」を最大規模で社会実装できた企業グループとは
2つ目の質問です。みなさんは「金融包摂 (Financial inclusion)」を妄想でも空想でもなくアイディアレベルに留まらずに、インキュベーション (スタートアップ起業や新規事業開発を支援する活動) によって実際の社会でビジネススケーリングさせながら最大規模で実現できた企業グループがどこだかわかりますか?
答えは、「アントフィナンシャル」。中国発のコングロマリットのアリババグループの金融機能を担う金融プラットフォームです。聞いたことがありますか?
アントフィナンシャルは、決済領域に留まらずに、金融口座で余剰資金を運用できる「余額宝(ユーフーバオ)」、零細企業向けの運転資金融資「阿里小貸(アーリンシャオダイ)」、個人の行動履歴等の信用情報から信用スコアを算出する「芝麻信用(ジーマシンヨン)」など、これまで存在していなかった革新的な (Zero to One) 金融サービスの事業化において、過去は金融サービスの後進国であった中国本土で成功しているのです。
革新的な事業 (Zero to One) を生み出した企業理念
アリババグループの経営理念は、 「顧客第一、従業員第二、株主第三」、「唯一変わらないものは変化」などの「新六脈神剣」として簡潔な言葉で言語化されていて、テクノロジーを最大限活用しつつ社会変革と国家発展を目指す「利他的」な姿勢で貫かれています。
アリババグループの創業者ジャック・マーは、アントフィナンシャルがフィンテック企業と呼ばれることに対して非常につよい違和感を示し、テクノロジーをフル活用した結果として金融をより身近なものにしたいといった思いを込めて、フィンテックではなく順番を入れ替えた「テックフィン企業」と言っていました。テクノロジーが革新の起点になるとの思いからだと思います。
アントフィナンシャルの主戦場は、信用情報の履歴を持たない・持てない (クレカを持てない、ローンを借りられない・借りたことがない) 個人向けの金融サービスです。伝統的な銀行からは融資を引き出すことができないような零細企業や農家向けローンなど、既存の金融機関がコスト的に割が合わないとして長らく放置してきた事業領域に積極的に展開しました。unbankedな (銀行口座を持てない) マーケットにおける潜在的なポテンシャルを徹底追求した結果、金融包摂 (Financial inclusion) を最大規模で社会実装できたのです。
日本におけるユーザー・ペインポイント
ここまで読んでいただいて、「うむ〜、"unbankedな (銀行口座を持てない) マーケット" と言っても、日本では誰でも銀行口座ぐらい持っているので関係なくないか〜」と感じたかもしれません。しかし、実は日本においても充分な金融サービスを受けられない人達がたくさんいらっしゃいます。それでは、日本にはどんなユーザー・ペインポイント (ユーザーの満たされないニーズ) があるのでしょうか。
日本の総人口は、2024年6月時点で 1億2,397万人 (前年比▲53万2千人) ですが、少子高齢化が進み年々人口が減ってきています。2024年6月時点の総人口の内訳として、15歳未満 1,395万人、15~64歳 7,377万人 (うち高校・大学生は約600万人)、65歳以上 3,625万人 (うち75歳以上 2,056万人)。
ニュースなどで聞いたことがあると思いますが、日本は先陣を切って世界で最初に高齢化社会に突入しています。一方で、高齢者になると住宅ローンや消費者ローン、クレジットカードなどの金融サービスの利用が大きく制限される (金融サービスを受けられなくなる) ことを知っていますか?まだまだ先だねと思っていても、いつかは誰でも高齢者に仲間入りしますね。
高齢化問題に加えて、認知症患者はなんと約1,000万人。来年には高齢者人口の5人に1人が認知症になるとの推計が出ています*3。認知症患者は、正しい判断ができないとの理由などで金融サービスから基本的に遮断されていることを知っていますか?さらに、金融リテラシーなどの問題もあり、多くの学生が様々な金融サービスにアクセスできないことを知っていますか?そして、年々増え続ける在留外国人は最近では約340万人もの方が日本で暮らされていますが、彼・彼女らの多くが日本の金融サービスに自由にアクセスできないことを知っていますか?
クレカって、誰でも作れるの?
最後の質問です。日本人でクレジットカードを作れない人は何人くらいいると思いますか?
答えは、およそ1,000万人。日本クレジット協会によれば、2023年の申込件数 3,871万件に対して契約件数は 2,874万件 (契約率74%)。ということは、およそ1,000万人もの人が日本でクレジットカードを作れない状況なのです。そして、この作れない数字は年々増加しています。つまり、そもそもクレジットカードを作れない、やがて高齢化してクレジットカードを持てなくなるといった非常に多くの顧客セグメントが日本でも実際に存在しているのです。
前述したユーザー・ペインポイントを抱えている多くのユーザーセグメントの人口を単純に足し上げると、なんと約5,000万人 (日本の総人口 1.2億人の約40%) もいることになります。
Kyash 2.0のエッジ(強み)は、なにか
でも、日本においてクレカを利用できないといったユーザー・ペインポイントを抱えている約5,000万人でも使えるクレカがあります。はい、Kyashが提供する「チャージ型クレカ (Visaプリペイドカード)」です。
クレジットカードの発行時審査は不要ですし、チャージした残高以上は使えません。利用履歴も確認できます。先ほどのクレカ問題は基本的に解決できると思っています。Kyashのプロダクトでクレカ問題を解決することは、金融包摂 (Financial inclusion) の観点からもとても意義があります。
ただ、Kyashが提供する金融サービスがよいプロダクトであっても、チャージを手間と感じるユーザーに対する打ち手としてポイントをバラ撒いて獲得する "ポイント合戦" では、大手のクレジットカード会社やQRコード決済会社などの競合には絶対に勝てないと思っています。
Kyashとして非常に重要な問いは、「どのような事業を行うのか」、「どのように戦うのか (どのように優位性を獲得するのか)」です。ポイント合戦に参入してしまうと、レッドオーシャンでの戦いになって完全な負け戦になってしまいます。
Kyashの強みは「商品開発力」です。
いいプロダクトを作っても、プロダクトアウト*4な発想になってしまうとユーザーに支持されません。作り手の視点から自分たち (会社) が良かれと思っていても、マーケットインの視点が弱ければユーザーに支持されない。ユーザーに支持されなければ、インキュベーション (スタートアップ起業や新規事業開発を支援する活動) ができずに絶対にスケーリングもできない。スケーリングできなければ、事業化できずせっかくのよいプロダクトを必要とするユーザーに提供できなくなってしまいます。
Kyash 2.0で、必要なこと(ブルーオーシャン戦略)
Kyash 2.0では、Kyashが提供してきた金融サービス (プロダクト) を考える上での前提をまずは疑ってみて、非連続な視点からKyashが提供しているプロダクトの優位性を再定義してみる必要があります。
これまでの発想 (マインドセット) は、「クレカなのにチャージしないと使えない。だったら、なるべく手間や面倒をなくしていこう。ポイントだって、競合他社に負けないようにポイント還元していこう」でした。
でも、これからの発想はこれまでとは違ったマーケットインからの非連続な視点から、「Kyash チャージ型クレカ (Visaプリペイドカード) にチャージするといったひと手間をかけることで、クレカの使い過ぎを防げて安心して使える。キャッシュレス社会でも普段使いできる。長生きしても人生100年ずっと使える」といった顧客視点からのプロダクトの再定義が必要だと思っています。
Kyashにはいいプロダクトがあるのに、そのよさが正しく伝わっていない、伝えるべきユーザーにきちんと届いていない。レッドオーシャンのなかで、ポイント合戦に参戦してガチンコ勝負している場合ではありません。日本にはクレカを利用したくても利用できないユーザーがたくさんいるのです。
Kyash 2.0のエッジ (強み) は、なにか。
これまでの考える前提を疑って非連続な視点からこれまでの考え方を再定義してみると、見えてくる世界も変わってくるし、マーケティングを含めた戦略の抜本的な見直しも必要になってきます。ユーザー・ペインポイントを抱えてキャッシュレス社会で暮らしていくなかで困っている多くのユーザーが、日本にも存在しています。
こうした状況を放置したくありません。
Kyashの強みを活かして、日本でも金融包摂を事業化したい。
そのために、Kyashの優秀なエンジニアに対して、もっと活躍の場を提供したい。
そうすることで、Kyashのプロダクトを待ち望んでいるユーザーに正しく伝えたい。
Kyash 2.0では、これまで多くの日本の金融機関が放置してきた未開拓の顧客セグメントを丹念に探索・深化しながら、徹底的な顧客視点でユーザーペインポイントに応えていきます。マーケットポテンシャルを最大限追求しながら、ビジネスインキュベーションを成して、そしてユーザーに支持されることで結果としてのスケーリング (事業規模拡大) へと戦略的にプロダクト展開していきたいと考えています。
Kyash 2.0には、希望がある!
社内の全社会議の表現なので細かな説明は端折っていますが、Kyashの目指す姿が伝われば嬉しいです。