玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

「派遣村」叩きに日本の国民性を思う

2009å¹´01月07æ—¥ | æ—¥ã€…思うことなど
少し前の番組になるが、去年12月21日に放送された「サイエンスZERO」がとても興味深かった。
人間性とは何か、信頼や満足感はどこから生まれるのか。わかったつもりでいたけれど実はほとんど知らないのだと気付かせてくれた。

「シリーズ・ヒトの謎に迫る」第3回は、さまざまな工夫を凝らした実験で「心の正体」を探る社会心理学の最前線を見る。プレゼンターは北海道大学の山岸俊男教授。「なぜ実験で心がわかる?」という質問に、山岸教授は「心と意識は別もの。ヒトの心は本人にもよくわからない。実験なしに知ることは不可能」と言い切る。山岸教授の研究チームが実施する実験は、たとえば「独裁者ゲーム」と呼ばれるもの。二人組の一方に「ふたりで分けなさい」とお金を預けたとき、どのような割合で分けるかを大勢に試して統計を取る。その結果、独り占めする人はほとんどおらず、意外に均等に分ける人が多いことがわかる。それはなぜか?その理由をさらなる実験で解明し、人に共通する心の枠組み=「進化の産物」としての心を見ようとするのが山岸教授のスタイルだ。このお金の分配ゲームでは、将来の見返りを期待して相手にも公平に分けるという心の働きが読み取れた。しかし、これは打算ではなく、無意識のうちに心が処理した結果だということも実験でわかる。「情けは人のためならず」を心が知っていたのだ。

サイエンスZERO | これまでの放送 | 第238回 シリーズ ヒトの謎に迫る③ 実験で解き明かす!心に潜む仕組み


そんなことを思い出したのは、「派遣村」への批判や冷たい視線が思った以上に広がり、人間の(日本人の)嫌なところを見せ付けられたからだ。

痛いニュース(ノ∀`):派遣村村民「最初から講堂を開放すればいいのに。行き当たりばったりだ」
痛いニュース(ノ∀`):「厚労省は5日以降の衣食住も提供せよ」…『派遣村』から6項目の要望
痛いニュース(ノ∀`):【派遣村】 「集まったのは、本当に働こうとしている人か疑問」「学生紛争のときの戦術が垣間見える気がした」…坂本政務官

yahoo!ニュースのコメント欄がひどい - 狂童日報
派遣村バッシングの背景にある根強い自己責任論 - 人の生存より市場原理優先の新自由主義は退場を|すくらむ
派遣村への誤解や無知の頻出と、その背景(2) - クッキーと紅茶と(南京事件研究ノート)
坂本哲志擁護 派遣村バッシングの不毛 - Munchener Brucke

寒空の下で路頭に迷う経済弱者を温かい屋根の下にいるものが批判し、自己責任のお説教をして切り捨てる。そんな冷たい「空気」を感じ取った政治家が失言し、批判を受けて撤回された失言を「正論だ」と支持する人たちがいる。彼らがどれくらい多いのか、あるいは少ないのか本当のところはわからないが、2ちゃんねるやYahoo!のニュースコメントでは多数派を占めている。
寄る辺ない弱者を批判しているのが押しも押されもしない強者、資産家や権力者であるのならまだわかる。強者が世間の波に溺れる失業者を「稼ぎもしないのに助けてくれと要求ばかりする連中はゴミだ」と考えるのはそれなりに合理的だ(倫理的に立派なことではないが)。だが、ネットで弱者叩きにいそしんでいる人たちがそのような強者であるとはとても信じられない。「溺れて必死に助けを求める人を手漕ぎボートの主が小突き回し、そのすぐ横を大型船が行く」という絵が目に浮かぶ。手漕ぎボート氏は大型船の引き波で自分のちっぽけな船が転覆する可能性に気付いていない。


私には行き過ぎた「派遣村」叩きは単に不人情なだけでなく不合理としか思えない。あからさまな冷酷さは必ず反発を生み、失うもののない弱者の捨て鉢な復讐を生む。
それくらいのことは少し考えれば誰にでもわかるはずなのに、なぜこんなに「良識ある一般人」が弱者に冷たいのか、意地悪なのか。どうしてこれほどいじましいのか、不寛容なのか。派遣村を叩いている個人の「自己責任」を問うてもそれこそ波平の頭(ほとんど不毛)なので、日本人の国民性から考えてみる。最初に紹介した「サイエンスZERO」で、私がいちばん強く印象に残ったのは、まさに日本人の「冷たさ」「他者への不信感」だった。

番組の最初に紹介された「独裁者ゲーム」(利益の配分を勝手に決められるとき相手にどれくらい分け与えるか)実験での配分率が私の予想より低かった。「日本人はけっこうお人よしだから、7割か8割が均等に分けるんじゃないか」と思っていたら、実際に半分を分け与えた「独裁者」は52.1%だった。「おやおや」と思っていたら、番組の最後に紹介された諸外国と日本での調査結果はさらに意外だった。

 普通、常識として信じられていることに、「日本は信頼社会であるのに対して、アメリカは信頼よりもドライな契約関係が重要視されている」ということがある。しかし、調査によればこれとは全く逆の結果があらわれている。
  • 「たいていの人は信頼できると思いますか」に「はい」と答えた人 ・・・・・アメリカ47パーセント、日本26パーセント
  • 「他人はスキがあればあなたを利用しようとしている、と思いますか」に「そんなことはない」 ・・・・・アメリカ62パーセント、日本53パーセント
  • 「たいていの人は他人の役にたとうとしていると思いますか」に「はい」 ・・・・・アメリカ47パーセント、日本19パーセント

安心社会から信頼社会へ

ちなみに私の答えは、「たいていの人は信頼できると思いますか」には「(どちらかといえば)はい」、「他人はスキがあればあなたを利用しようとしている、と思いますか」には「そんなことはない(だろうと願う)」、「たいていの人は他人の役にたとうとしていると思いますか」には「はい(そうだといいね)」である。
アメリカよりも他人に厳しい調査結果にびっくり、というかなんてこった、というか。
私のセルフイメージは合理性を尊び不人情なモヒカン族だったのに、実はよっぽどお人よしだったらしい。「日本人ってけっこうお人よしだよね」と思い込んでいた私こそがお人よしだった。

そんなことはどうでもいいのだが、山岸教授によれば日本人が他者を信頼する傾向は調査した国の中でもっとも低い部類に入るそうである。端的に言えば日本人は人を見たら泥棒と思い、世間の人たちの大部分は身勝手だと信じている。信頼よりも疑い、優しさよりも警戒感、希望よりも絶望が勝っている。
私とて日本が好きな日本人なので、こんな調査結果は信じたくない。「心優しい日本人」像にしがみつきたい。たぶん調査に答えた人たちは「なんだか難しくて厳しい調査だな」と心を閉ざし、「お人よしと見くびられたくない」と突っ張ったのだろう。だからこんなに不信感と利己主義が強く表れたのだ。不信感が強く出たのは本来の優しさの反動だ、きっとそうに違いない。
…と信じたいのだが、諸外国の中で日本だけそのような影響が強く現れたという根拠は何もない。

素直に社会心理学の調査結果を受け入れれば「派遣村」叩き・失業者批判はそのまま理解できる。
 「たいていの元派遣労働者(失業者)は信用できない」
 「元派遣はスキがあれば自分たちを利用しようとしている」
 「元派遣は他人の役にたとうとするつもりなどない」
という不信感が判断の基盤であれば冷酷な批判が生まれないわけがない。
さらに身も蓋もないことを言えば、多くの日本人の心理的基盤がかくも強い不信感で彩られているのであれば、「派遣村」支持の「左側」の人たちがどれほど熱心に説明し説得しても受け入れられることはないだろう。


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日本は村社会 (ホフ)
2009-01-08 11:28:08
欧米に住んだことのある人ならすぐ分かると思うけど、あちらでは赤の他人との距離が日本よりもずっと近い。道を聞けば誰でも丁寧に教えてくれるし、近所のばあちゃんがパンクファッションの若者と音楽の話で盛り上がったりしているのを見るのは日常茶飯事だ。路上で他人が困っている時に誰かが助けてくれるのも日本ではなく欧米だ。

その代わり欧米では友達と他人の差もあまりない。日本においては親しい人物と他人との差は非常に大きい。これは日本が村社会であることに関係しているだろう。友達に対しては日本人は究極にお人好しだ。自己犠牲なんて当たり前、むしろそうでないと村の中では「ひどいやつ」とされてしまう。

こういった日米間の差を考慮すれば派遣村論議の裏にある日本人の特質が自ずと見えてくるはず。
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Unknown (な)
2009-01-08 12:46:38
日本人を全員同じにしないで欲しいんだけど。
ちもちわるいなあ
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こんにちは (Hanikami)
2009-01-08 12:58:29
社会心理学と言うより進化心理学的な内容でしたね。進化の視点からは「道徳的罰」も結構重要だと思います。互恵的な社会を維持するには裏切り者を検知し、罰したり追放したりしなければならない。そのために裏切り者への罰は心理的な正の報酬がある。つまり”本能的に”犯罪者に厳罰を与えると快楽を得ることができる。ロバート・ライトは『モラルアニマル』と言う本で次のようなことを述べています。「進化理論から分かることは、我々の道徳的直観は疑ってかかるべきだと言うことである。」
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目から鱗が落ちる思いです。 (橋本)
2009-01-08 13:36:13
はじめて書き込みます。よろしくお願いします。

玄倉川さんの書かれたエントリーは、年末の派遣村叩きの本質を暴いていると思いました。

世間的にたいして強者でも無い2ちゃんねらーやmixi日記書いてる、普通の人々が派遣村を執拗に叩く姿に私も疑問を持っていた一人ですが・・・・・

キチンと説明されるとその通りだな・・・・・と納得できました。

日本人は冷たい民族なのですね。合掌。
返信する
Unknown (bbt)
2009-01-08 15:17:26
はじめまして。興味深く読ませていただきました。

日本人が社会的弱者を好んで排斥するという傾向は、
随分昔から見られた傾向であるように思います。
例えば敗戦後の日本を扱った有名な著書の1つである
ジョン・ダワーの「敗北を抱きしめて」には、
以下のようなくだりが書かれています。

『作家の大佛次郎は、外国人の知り合いから
「なぜ日本は戦災孤児のような弱者に救いの手を
差し伸べず、放ったままにしておくのか」と問われた時、
大佛は「それは経済的な事情が許さないからだ」と答えた。
しかし後になって考えてみると、これは正直な答えではないと彼は感じた。
結局、日本人とは他人への情愛に欠ける冷酷な民族だというのが
大佛の出した結論であった』

読んだ当時は今ひとつピンと来なかったものですが、
昨今の派遣叩きのやり取りやkurokuragawaさんの記事を見ていると、
根本的な所で日本人は変わっていないのかなと感じます。
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Unknown (Unknown)
2009-01-08 16:52:35
私は派遣村には否定的な見方ですけど、本当に弱者たたきなのでしょうか?
災害被災の時は反応はどうだったか思い出してください。数億円もの被災募金が集まり、難病救済募金の○○ちゃんを救う会などでも数千万~億もの募金が集まっていますよ。
メディアの報道のしかたのせいもあるかもしれませんが、派遣村に集まっている方でインタビューを受けている方の中には、お金が全く無く食べるのもままならないと言っていながら、タバコを吸っていたりしていて、タバコを買う余裕があるくらいなら、そのお金をもっと有効に使えるのではと、人間性や金銭感覚を疑ってしまいます。
また、多くの人はいざという時のために貯金をしていると思うので、普通は解雇されて即、ホームレスはありえないかと。
あと派遣期間工の待遇はかなり良い方で、もっと厳しい経済状況の中でがんばっている方はたくさん居ます。彼らは低い給料で長く安定して働くより、不安定な雇用でも比較的高い給料の仕事を選んだのではと思います。
中には、どうにもならない事情があって、ホームレスにならざるを得なかった方も居るかもしれませんが、そんな人が何百人も居るというのも考えにくいです。
彼らが自分でできる手段を全て使って努力したうえで、どうにもならない人を税金で救済するのはかまわないのですが、、、
彼らは、ろくに努力もせずに助けろとわがままを言ってるようにしか思えません。
セーフティーネットは必要ですが、派遣村に集まっているような人とは別に考えた方が良いと思います。
長文で失礼しました。
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フォーカスすべきところの意識の差 (hnrl)
2009-01-08 17:59:03
書かれているとおり、ネットでは派遣村に対する批判の方が多く目につくのは事実です。
ネット上ではどこであれ、どのような話題であれ批判や反論を持った人の意見が多くなりますが、それは書き込み、意見することのエネルギーを考えたら当たり前のことのように思います。

もちろん歓迎、賛同する意見もあるのでしょうが、この話題に関しては「どうでもいい」であったり「興味はあるけど対岸の火事」という意識の人が大多数でしょうし、その意見をわざわざ書き込んで公開する気にはならないでしょう。そういう意味ではネットで目につくのが批判だらけであってもそこまで危惧する必要はない気がします。

また、最初に目につく意見が批判的なものであっても(もしくは賛同のものであっても)、この記事のようにそれに対する反対の意見はいずれ出てくるわけで、問題が始まってまだ日が浅い段階で嘆くこともないのかな、と思うわけです。(特に、日が浅い段階では詳細がわかっていないにもかかわらず脊髄反射的に意見する人も多いですし)

ちなみに私個人は元派遣の方が路頭に迷っていることに関して「自己責任だ!」と責める気はないですが、マスコミや政府が派遣村を特別視して全国の元派遣の方々に一律ではなくごく限られた人々に手厚い対応を保証するのは間違っていると思います。
全国に同様の事例で困られている人はいるに違いないのにマスコミが面白がって派遣村ばかりを報道し、マスコミに気を遣って政府がその場しのぎの対策をするのは違うのではないかな、と。(もちろん生きるか死ぬかという状況ではその場しのぎの対策も必要なのですが、局所的な対策では賛同は得られないでしょう)

最後に…
記事中程の「安心社会から信頼社会へ」の引用部は蛇足だったように思います。
本自体を読んでいないので見当違いかもしれませんが、「たいていの~」などという曖昧なアンケートの答えが二択という時点で大多数の人にとっては答えづらいものであると思いますし、リンクをたどるだけではアンケートの母数も対象もわからないので、ここであえて取り上げることもなかったのでは、と思いました。
まぁ個人的に読んでみようかなと興味がわいたことは良かったですが。
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Unknown (こんた)
2009-01-09 01:31:00
勘違いしてる人が多いんですけど、
2chやヤフー掲示板で作り出される声は多数派ではありません。
例えば麻生総理の支持率なんて2chの中でアンケートを取ったら少なくとも6~70%は行くんじゃないでしょうか。
これは2chにいる人の大半が麻生総理を支持している、というわけではなく、興味の無い人はアンケートに答えないから必然的に支持派の声が大きくなる、というだけのことです。
2ch系のユーザー(2chと比べると若者が中心)が大半を占めるニコニコ動画で麻生総理の支持率を取ったところ、男性30%、女性10%と、一般世論と大差の無い結果でした。
これはニコニコ動画を見ている人に対してランダムにアンケートされたものなので、一部の人間の声が大きく反映されたということもありません。

今回の派遣叩きも同じ事で、「今まで必死に働いてきただろうに、衣食住も確保できないなんて可哀相」「大企業の派遣切りは許せない!」と思っている人は2chを普段利用している人の中にもたくさんいるはずですが、それをわざわざ書き込まないだけなんです。
結果として派遣に対し自己責任を叫ぶ声ばかり大きく(見えるように)なります。
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Unknown (AKI)
2009-01-09 01:53:30
多分「信頼(社会)」という言葉に誤解があって、
一般に日本語で「積極的な信頼(関係)」といえば「相手を信頼すること」ではなく「相手に信頼される(してもらう)こと」なんですよ。
逆に「信頼が壊れる」とは「信頼しないことにする」ではなく「信頼されなくなることをする」こと。
日ごろから信頼されるに足る行動することで、そういう人同士が接触し、社会を作ることが信頼社会なんです。
そう考え直すと「彼らが「派遣村」を信頼していない」のではなく「「派遣村」は彼らに信頼されていない」と考える方が妥当ではないでしょうか。
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Unknown (trat)
2009-01-09 17:28:35
彼らは良識ある一般人でも何でもなくメシウマの材料を探しているだけの弱者です。
程度の差こそあれ、どう見ても同じ弱者同士なのにお互いの境遇を悪くしあっているのは全く持って不合理ですね。
頭のいい人たちはうまくお互いを持ち上げあって社会に対して権利を主張していくことが多いのですが、そういう賢さがないから彼らは今のポジションに自然と落ち着いてしまっているのではないかと思えてきます。
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