スイス出張から戻りました。出張中に、私の本『欧文書体』の図版42について、大熊さんから以下のような質問がありました(抜粋)。
「35ページの図42。数字とmとの間隔がベタのようですが,実際にヨーロッパではこのように組むことが多いのでしょうか。」
その図版を同じ書体を使って再構成します。本では、この組み方が良いと判断して載せました。「零テン九五メートル」を組んだ例。まん中は主にヨーロッパ、右はイギリスの一部の人が使うやり方。
『欧文書体』執筆の際に組版の部分で私が参考にした本は数冊あります。いわゆる古いオックスフォード・ルール、古いシカゴ・ルール、新しい『The Oxford Guide to Style』、そして Phil Baines & Andrew Haslam 共著の『Type & Typography』の4冊をとくに参考にしていて、このうち、図42の部分に限らず多くの部分で参考にした『Type & Typography』では数字のあとにスペースは入れていません。
いろんな本を見比べて、良いと思われるものを選っていたので、この本を参考にしてここを書いています。『Type & Typography』は現代的でしかも実践的なガイドだと思います。オックスフォードやシカゴにはない新鮮でしかも納得のいく解釈がいくつかあります。著者の Phil Baines は20年前からの知り合いで、彼がかなりの勉強家で印刷の知識も豊富であることも知っているので、それで信頼の置ける彼の本を多く参考にしているわけです。
ちなみに、ご指摘の部分と似たような場合を他の3冊で探してみると、古いオックスフォード・ルール、古いシカゴ・ルールではワードスペース(単語と単語との間のスペース)一個分空いていて、それは私には空きすぎに見えます。
新しい『The Oxford Guide to Style』では、同じような場合に数字のあとの空きがワードスペース半分くらいに狭くなっています。同じ本で、数字のあとにスペースを入れない単位もあります。時間の省略形 (hour, minute, second) の表記は
20h 18m 15s, or 20h 18.25m
とスペースは入れていません (『The Oxford Guide to Style』p.375)。貨幣のペニー・ペンスは
54p
です(同 p.171)。
結論を言うと、数字と単位との間はワードスペース一個分もあり、半分もあり、空けないこともある、といういろんな指針があって、どれが正しい、ということではないみたいですね。書体にもよるし、一冊の本、あるいはひとつの仕事の中で統一がとれていればいい、というくらいじゃないでしょうか。かりに空けないと決めても、書体によっては、本文サイズでは数字と単位との間を少し空けても良いかな、というものがあったりするかもしれません。もちろん、私の本に従わなきゃいけないわけでもないんです。