ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Woman in White” 雑感(2)

 woman in white とかけてなんと解く?
 white dog と解く。
 その心は?
 Her tail is white too.
 いやはや、古いおやじギャグですな。通じたでしょうか。尾も白い。面白い。
 その面白さは前回紹介したとおり、「不可思議な状況がつぎつぎに発生し、そこから生じるサスペンス」。つまりジャンルとしては、サスペンス・ミステリですね。
 サスペンスといえば、善良な市民が突然犯罪に巻きこまれ、さらには犯人扱いされる、というのが典型的なパターンで、代表例はかの名作 “Phantom Lady”(1942)。(原書は未読につき採点なし)。

 べつに調べたわけではないけれど、作者の William Irish(Cornell Woolrich)が “The Woman in White” を読んだことがなかったとは、ちょっと考えられない。むしろ、謎の存在という点では the woman in white には phantom lady と相通じるものがあり、Irish の頭の片隅に Wilkie Collins がいた、と想像してもいいのではないか。
 ただ、the woman in white のほうは完全な phantom ではなく、Anne Catherick というれっきとした名前があり、その身分・立場もわりと最初から明かされている。
 おっとこれ、ネタを割っていい話なのかな。
 初登場のシーンはこうだ。... in one moment, every drop of blood in my body was brought to a stop by the touch of a hand laid lightly and suddenly on my shoulder from behind me./ I turned on the instant, with my fingers tightening round the handle of my stick./ There, in the middle of the broad, bright high-road ― there, as if it had that moment sprung out of the earth or dropped from the heaven ― stood the figure of a solitary Woman, dressed from head to foot in white garments; ...(pp.23 - 24)
 おっ、出ましたね! 待ってました! 夏の深夜、月光に照らされた路上で「私」、青年画家 Walter Hartright が白衣の女と出会う場面である。... this woman, whose name, whose character, whose story, whose objects in life, whose very presence by my side, at that moment, were fathomless mysteries to me. It was like a dream.(pp.26 - 27)
 この夢のようなシーンの直後、女を捜しているという男が現われ、たまたま通りかかった警官にこう告げる。She has escaped from my Asylum.(p.31)
 ここらへんでぼくはもう目が離せなくなった。この女はいったい何者? Walter とこれからどうかかわるんだろう?
 ううむ、でもこれ、みなさん先刻承知の筋書きかもしれない。なにしろ1860年作の古典ですからね。恥ずかしながら初見のぼくが勝手にハラハラ、ドキドキしているだけで、こんな紹介は蛇足もいいところか。
 そのわりに遠回しになってしまった。Anne の素性や特徴、Walter との関係を聞いただけで、本書の核心がピンとくる未読のひともいそう、と思うとウカツなことは書けない。やっぱりミステリの紹介はむずかしいですな。