悩みが絶えない共働きでの子育て…乗り越える方法と対話のヒントは【専門家対談&体験談あり】

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「とにかく時間がない!」
「夫婦間で家事や育児をどう分担する?」
「ちゃんと子どもと向き合いたいのに疲れてしまって……」
世帯収入が安定するなど、共働き子育てのメリットはたくさんあるものの、特に夫婦フルタイムで勤務している場合は、忙しい毎日の中でさまざまな悩みを抱えることも多いのではないでしょうか。
また、これから共働きでの子育てを検討しているかたのなかにも、漠然と「やっていけるかな」と不安を抱えているかたもいらっしゃるかもしれません。
この記事では、これから共働き生活を控えているかたや、まさに共働きでの子育て真っ最中のかたに向けて、課題を乗り越えるヒントをお届けします。
悩んでいること・不安なことが出てきた際に、参考にしていただければ幸いです。

この記事のポイント

共働きでの子育ては、何がどう大変? みんなのリアルなお悩み

まずは、ベネッセ教育総合研究所が、0~6歳の第一子がいる保護者のかたに向けて2023年に実施した調査の結果をご覧ください。
子育てやキャリアについての悩みについて、夫婦いずれも正社員で働いている男女の回答を集計しました。
女性は「自分のための自由な時間を確保するのが難しい」男性は「仕事や家庭のこと(子育てや家事)等、複数の役割を両立させるのが大変」が1位という結果に。
2位は、女性が「仕事や家庭のこと(子育てや家事等)等、複数の役割を両立させるのが大変である」、男性は「自分のための自由な時間を確保するのが難しい」となっています。

また、同調査では男女ともに約8割が「妻の就業にかかわらず、家事・子育ては夫と妻が同等にするほうがよい」に賛成な一方で、その半数は「よいと思うが、そうするのは難しい」とも回答しています。

「乳幼児の保護者のライフキャリアと子育てに関する調査」ベネッセ教育総合研究所( 2023年)より、夫婦いずれも正社員で働いている回答者のみを再集計し算出

ベネッセのアプリ「まなびの手帳」では、共働きの保護者のかたに向けてアンケートを実施し、「特につらかったこと・今もつらいこと」についてたくさんのコメントをいただきました。
「パートナーは時間の融通が利かないので、家事と子育てがワンオペになりがち」「とにかく時間がなくて寝不足」といった身体面のきつさに加えて、「子どもの話を聞いてあげられない」といったメンタル面でのつらさを訴える人も目立ちました。

夫が朝6時には家を出て、帰宅が21時頃の為、完全にワンオペです。仕事を定時に終わらせ急いで保育園にお迎え、帰宅しても座ることも無く夕飯の支度に取り掛かり、お風呂、寝る準備、寝かしつけなどで、帰宅してからの体力気力がほぼ0な中動くのが辛いです。
(栃木県・まままさん 第1子は年長以下)

復帰した段階でまだ夜泣きが一晩で1~2回あったため、夫婦で1日交代で面倒をみていましたが、寝れない日は仕事をするのが辛かったです。
また、お互いに打ち合わせが入っている日に子どもが熱を出すのが困りました。特に、保育園に入りたてのときは1か月に1回は熱を出していましたので、何度も休むのが大変でした。
(神奈川県・まあちゃんさん 第1子は小学1年生)

子どもが小学校低学年の頃は、「どちらが残業を切り上げて学童保育に迎えに行くか」で調整が大変でした。子どもの夏休み中も、学童に送り届けてから出勤すると始業時間ギリギリになって困ったことも……。
(静岡県・もちけんさん 第1子は小学4年生)

保育園時代は、とにかく忙しい毎日でした。お迎えはいつも閉園間際だし、家事や事務処理が寝かしつけのあとになるのでいつも寝不足でした。
(石川県・あたさん 第1子は小学6年生)

フルタイムで働いていて、義母が子どもをみてくれています。子どもと義母は仲がよくて本当にありがたいのですが、小さい頃はなんだか自分の子ではないみたいに感じて疎外感があり、「何のために働いているんだろう?」と悩んでいました。
(静岡県・いっちゃんさん 第1子は小学4年生)

共働きでの子育てが特につらい時期はいつからいつまで?

アンケートで多くの人が「大変だった時期」として挙げたのは、「保育園・幼稚園通園中」「小学校低学年」「小学校中学年」という3つの期間。
それぞれの時期について、「どこで苦労したのか」をアンケートのコメントに基づいてご紹介します。

●保育園・幼稚園通園中

お子さまが保育園・幼稚園を卒園するまでの期間に関しては、「お迎えがギリギリに」「疲れて寝落ち」「子どもを預けるときに泣かれるとつらい」という意見が多数挙がっています。
またこの時期は、お子さまに急な体調不良が起きることも多く、「休みを取ったり早退したりしなければならないのがつらい」と訴える保護者のかたも多くみられました。

●小学校低学年

小学校1~2年次は「学童に通うようになり、保育園のときよりも子どもを預けられる時間が短くなる」「PTAや行事参加などで仕事の調整が必要に」など、いわゆる「小1の壁」につらさを感じる人も多数。
特に、「パートナーは仕事の都合がつかず、いつも自分が仕事を休まなければならない」と不公平感を訴える人も目立ちました。

●小学校中学年

小学校3~4年生になると、お子さまが自力でできることも増えてきます。
とはいえ、「1人で留守番させてよいか迷う」「習い事から1人で帰宅させて大丈夫?」と悩む人も少なくありませんでした。

では、このような共働きでの子育ての大変さを乗り越えるためにはどうすればよいのでしょうか。
保護者のかたの体験談と子育てを取り巻く社会問題に関する専門家のかたとの対談から見つけてみましょう。

先輩夫婦に学ぶ! 共働きでの子育ての負担を軽減する具体的な方法は?

共働きで子育てをしている先輩夫婦は、さまざまな工夫で子育てを乗り越えたようです。
アンケートで教えていただいた、具体的な方法や考え方のコツを5つに分けてご紹介します。
ピンとくるものがあれば、ぜひ試してみてください。

話し合い、家事を可視化して分担をきめる

子どもが赤ちゃんのころに「お世話項目」をすべてリストアップ。「見える化」しておくことで、夫婦がいつでも、どちらでもお世話ができるので、夫が自らアクションを起こせるようになりました。子どもの年齢が上がるごとにお世話の内容も変わるので、リストを更新していました。
(京都府・ykさん 第1子は小学5年生)

二人とも両親が遠くに住んでおり、頼れる状況ではないことは分かっていたので、育児書や体験談を読み漁り、妊娠中に夫婦で話し合いの場を設け、産後やってほしい家事や育児について夫にお願いしました。事前に起こることがわかってる場合は事前に、突発的なことはその都度どうしてほしいか話をしました。
(福島県・ゆかさん 第1子は小学2年生)

「がんばりすぎない」を徹底する

自分にもパートナーにも「100%」を求めないことが大切だと考えて乗り切りました。「家事ができなくても健康なら大丈夫」と思っておくと気持ちがだいぶラクになります!
(滋賀県・たにちさん 第1子は小学6年生)

とにかく、無理はしない。夜寝る前は今日もよくやったと自分をほめて、次の日はリセットして楽しむようにしています。
(奈良県・ももんがさん 第1子は小学1年生)

家事を効率化する

食洗機やガス衣類乾燥機を購入し、家事負担を減らしました。少し高価な家電でも、時短になるなら要検討! また夫婦の家事分担を決めたら、相手の家事が滞っていると思っても口を出さない方が、ストレスがたまらないと思います。
(沖縄県・たまさん 第1子は小学1年生)

周囲の人や外部サービスに頼る

病児保育や、ファミリー・サポート・センターなどを利用し、仕事を休むことを減らしました。
(香川県・りんりんさん 第1子は小学1年生)

子どもにも手伝ってもらう・自発的な行動を促す

子どもに仕事(家事)を割り振って、頼むことに後ろめたさを感じないように子どもたちにもボーナスを支給しました。(少額ですが)
(千葉県・ぐりたろうさん 第1子は中学2年生)

洗髪やドライヤーなど、子どもができるようになったことはどんどんさせました。
(福岡県・まななままさん 第1子は小学5年生)

共働きしながらの子育てはこう乗り切った! 先輩夫婦の体験談とエール

共働きしながらの子育てを実践している2組のご夫婦の体験談とエールをお届けします。
妻・夫それぞれの本音からわかる「大変だったこと」「乗り越える工夫」「がんばってよかったこと」は、忙しい共働き子育て生活を送るにあたっての参考になるはずです。

ケース1:子どもたちが「働くって楽しそう」と言ってくれるのがうれしい

宮下由起子さん・博さん(仮名)
お子さまの現在の年齢:19歳(大学1年生)、17歳(高校2年生)

由起子さん
共働きでの子育てで大変だったのは、子どもたちの保育園時代です。発熱など体調不良が起こったときに休みの調整がつきにくく、会社の同僚に迷惑をかけてしまうのがつらかったです。また、子どもの体調を心配するというより、「今日も休まなきゃいけないかな」と仕事のことを考えてしまうので罪悪感がありました。

だからこそ、普段は子どもとの時間を大切にしました。週末におかずをまとめて作って冷凍保存しておき、平日の夜は一緒にゆっくり過ごせるように工夫。子どもが早く寝れば自分の時間もつくりやすく、ストレスもたまりにくかったです。

共働きで子育てをしてきてよかったと思うのは、子どもたちが「働くって楽しそうだね」と仕事を前向きにとらえてくれるとき。また、「ご飯作ってくれてありがとう」と感謝してくれるときもうれしくなります。時間的・体力的に一番大変なときは一段落しつつありますが、楽しく子育てと自分育てに向き合っていきたいと思います。

博さん
子ども二人はそれぞれ別の保育園に入園したので、朝に送り届けるのが手間取ると仕事に遅れそうになるのが大変でした。前日から着替えなどを準備してモーニングルーティンをスムーズにこなし、時間に余裕をもって外出できるよう工夫していました。

子育てで意識したのは、夫婦の意見をしっかりすり合わせることです。母と父で言うことが違うと、子どもたちが混乱してしまいますから。小さなことでも話し合いを重ね、方針を決めてから子どもに伝えるようにしています。

ただ、二人ともフルタイム勤務であっても家事・育児で妻に任せる割合が多くなってしまっています。そこで、せめて妻への感謝やリスペクトは子どもたちの前でこまめに伝えるようにしています。

ケース2:自分を大切にすることで子どもも大切にできる

池田彩香さん・一樹さん(仮名)
お子さまの現在の年齢:7歳(小学1年生)、4歳(保育園年中)

彩香さん
共働きの子育てでつらさを感じたのは、家庭内というよりは勤務していた企業の対応です。育休明けは会社の慣例で、時短勤務で復職したのですが、給与がグンと減り、仕事内容はほかの社員と同じにもかかわらず残業はできない状況でした。一方で、会社主催のユーザー向けイベントがある日は、「日曜はパパが休みだからみてもらえるでしょ」と休日出勤を要請されて……。いろいろ考えた末、現在は別の企業に転職し、フルタイム勤務で不満なく働いています。

共働きで大変なのは子どもが体調不良のときだと思いますが、我が家では「相手と比べて忙しくないほうが休みをとって対応」という方法で乗り切っています。きっちり役割を決めると、できていないときに相手を責めてしまう怖さもあるので、「そのときにできるほうがやる」「その場でやる人を決める」という方針で回しています。

また、「第1子の習い事に付き添うときに第2子の見守りをどうするか」といった問題が出てきたときは、「ファミリー・サポート・センター」にたびたびお世話になりました。お金はかかるのですが、だからこそママ友などにお願いするのと違って頼みやすいと感じました。「多少お金がかかっても使える制度やサービスはどんどん活用」と決めて自分の時間も大切にすれば、子どもたちの話を聞く余裕もできて、私自身もパワーをもらえます。一緒に過ごす時間が少なくても、できるだけコミュニケーションの時間を増やして、日々の「楽しい」を共に積み上げていきたいですね。

一樹さん
共働きでの子育てを始めて特に大変だったのは、子どもたちが通う保育園の建て替え工事がおこなわれていた1年半ほどの時期です。二人の子どもをそれぞれ別の園舎に送り届けなければならないため、雨や雪の日は時間がかかって大変でした。お迎えは妻の担当でしたが、二人をピックアップして帰宅するのに 1時間ほどかかっていたそうです。

家事・育児の分担は、そのとき「できる+気付いたほう」がやる方針ですが、妻が時短勤務で働いていた当時は特に、負担が妻に偏らないよう意識していました。「柔軟に決める」という方針だからこそ、互いに気づかい合うことが大切だと実感しています。

共働きでよかったと思うのは、両親がそれぞれの職場の話をすると、興味を持って聞いてくれることですね。子どもたちにいろいろな世界を見せてあげられるのは意義のあることかな、と思っています。

ファミリー・サポート・センター|東京都福祉局

【対談】共働きでの子育てはなぜモヤモヤする?解決のヒントは「受援力」と「自己開示」

共働きでの子育てではなぜさまざまな課題が生じるのでしょうか?
悩みを乗り越えるために、夫婦はどんなアクションを起こせばいいのでしょうか?
そして周りができることは?
共働きの課題について詳しい、産婦人科医・産業医で父親の育児支援を行う一般社団法人Daddy Support協会代表の平野翔大先生と、社会運動論を研究し、ご自身の出産の際の葛藤(かっとう)を明かし話題になった立命館大学准教授の富永京子先生に、語っていただきました。

プロフィール

平野翔大先生

産業医、産婦人科医、医療ジャーナリストとして活躍。2022年に一般社団法人Daddy Support協会を設立し、代表理事として父親の育児支援に向けた情報提供や環境整備のための活動を展開している。著書に『ポストイクメンの男性育児 妊娠初期から始まる育業のススメ』(中公新書ラクレ)がある。たまひよ「子育てのミライ応援プロジェクト」で投票数1位に。
https://daddy-support.org/%E2%80%8B%E2%80%8B

富永京子先生

立命館大学産業社会学部准教授。主専攻は社会運動論・国際社会学。社会運動・政治参加の文化的側面に注目し、現代社会におけ人人々の政治参加・社会運動への抵抗感に関する研究に取り組む。著書に『みんなの「わがまま」入門』(左右社)、『社会運動のサブカルチャー化—G8サミット抗議行動の経験分析』(せりか書房)など。
https://kyokotominaga.com/

子育て中は「孤立」が最大の敵

平野:私は産業医として複数企業とお付き合いがありますが、育休明けの男性社員で心身の不調を訴える人が一定数みられます。男性で育休を取得する人は数年前から増えていますが、「休職明けは育休前と同じ成果を出す」がなんとなく前提となっている企業が多く、「とにかくしんどい」と感じる原因になっています。

富永:「しんどい」と思ったときに産業医の先生に相談するのは、男性ならではという気がしますね。男性と女性の社会関係資本を比べた場合、男性のほうが相談相手が少ないというデータは多く出ています(石田光規『孤立の社会学』など)。
女性の場合は出産後、産婦人科や実家の親、ママ友などの前で、不安や悩みをオープンに訴える人が多いのかもしれないですね。私自身も出産後、仕事で出会った女性とママ友のように共感しあえることがあって、それが案外精神的な支えになっているのかも。
でも男性は、助けを求める場所を見つけられる人が少ないのかもしれないですね

平野:多くの女性はおもに出産後、ホルモンバランスの変化などが原因で、いわゆる「マタニティーブルー」を経験します。症状の出方は人それぞれですが、マタニティーブルーによる不安感は子育てでは実は大切なことで、この経験をきっかけに、周囲を頼って子育てができるようになるかたもいます。

産婦人科医の吉田穂波先生は、人に頼るスキルを「受援力(じゅえんりょく)」という言葉を使って説明しています。男性は身体の変化がないぶん、受援力を身に付ける機会がないまま育児も仕事もがんばろうとする傾向がみられます。仕事は仕事、家庭は家庭、ときっちり分けて考えようとする人は多いけれど、人間のキャパシティは1つの大きなコップのようなもの。どちらも10割の力を出そうとすると、コップから水があふれてしまいますよね。
男性も女性も、孤立し「ひとりでがんばらなくては」となってしまう状態は非常に危険だと思います。

富永:そうですね。自分自身はごく限られた人にしか妊娠を明かさず、しばらくは出産も公開しなかった「孤立」の状況でした。孤立の何が辛いかって、その苦しみが自分だけのものだと思ってしまうこと。そうなると「楽しそうな人」を見るだけで心にきてしまう。
SNSで同業者の男性がキラキラしたパパの姿をたくさん投稿しているのを見て、「あなたたちは出産しなくていいんだから気楽よね……」と暗い思いに襲われてしまって。パパたちからしたら理不尽な怒りを投げつけられているだろうという感じなのですが、出産を公表したあとに他の女性にその感覚を伝えたら「あるある」と……。
今考えると、キラキラして見えるパパにしたって、楽しんでパパをやれているかたももちろんいると思うのですが、その裏では闇を抱えていることもあるんだろうなと……。どうしても育児中は孤独になりやすいですよね。

富永:また、家庭内での「頼る」を巡る議論で面白いものに、家事の「スキル」を論じた筒井淳也先生の議論(『仕事と家族』)があります。スキルのある側が家事をやってしまって、下手なほうの人に頼れない。その結果、どちらかの負担が増えている場面もよくありそうです。
職場でも家庭でも、仕事が上手な人は「自分がやったほうが早い」と思いがちだけど、そこで我慢して見守るのも長い目でみると重要かもしれません

平野:女性が出産時期の数か月を実家で過ごす「里帰り出産」も一因ではないでしょうか。男性は子どもの誕生から数か月遅れて育児に参加することになるため、その後すぐに女性と同じように育児をするのは無理があります。育児は手技の積み重ねでもあるので、いきなりやろうとしても難しい。
妊娠中など早い段階から男性も女性の体の変化を理解し、育児や家事の分担を早めに実践しておくことが大事です。

共働きでの子育てを乗り越えるために、まずはモヤモヤを言葉にしてみる

富永:既に育児スキルや意識の差がある場合、埋めるためにはどうしたらよいでしょうね?

平野:1~2時間でも構わないので、お子さまを実家に預けるなりして夫婦だけの時間をつくり、現状の課題があればそこで話し合ってほしいですね。お子さまがその場にいると目が離せず、冷静な話し合いができないと思うので。

富永:確かに、近しい関係であればあるほど、言語化が必要だと私も思います。ただ、私が専門としている社会運動論では、いわゆる「話し合い」における発言力はその人が持っている資源の多寡で決まるとよく言われます。すべての人がロジカルに、冷静に話し合いができるわけではない。さらに言えば何がロジカルで冷静というのもその場において発言力がある人が勝手に決めるルールでしかない。そのなかで、どうすれば公平な話し合いを実現できるでしょうか?

平野:やはり、メモにまとめるなどして話し合いたい内容を整理するしかないかな、と感じます。とはいえ、「うまく言えないけどイライラする、どうにかしてほしい」という言語化しづらい思いもありますよね。

富永:モヤモヤしていることを言語化するのにはリテラシーが要りますよね。私は、パートナーにいきなりぶつからず、まずは同性の友達や実家の親など自分の味方になってくれそうな人に話をして、「何がつらいのか・大変なのか」を少しずつ形にしていけばいいのかな、と思います。それこそ匿名SNSとかでもいいのかもしれない。言葉にする過程で、課題と感じていたことを解決できるかもしれないし。

平野:職場でも、もっとざっくばらんに自分の状況を開示してもいいですね。今は《個》が強い時代なので、互いに他人の事情に口を出さないぶん、つらいときにちょっとしたグチやモヤモヤを吐き出すのが難しくなっている。
自分だけで抱え込むことが続くとメンタルの不調につながりやすいので、職場で雑談する機会に自分の状況を話すだけでもやってみてはどうでしょうか。自己開示をしてもらえれば、相手も「ここまでは踏み込んでよさそうだな」とわかりますよね。

富永:私も、担当している授業で、1人につき3分間で学生に自己紹介をしてもらおうとしたのですが、「他人の時間を奪うのが申し訳ないから、手短に簡潔に」という感覚が強いようで、みんな持ち時間を使い切らずに終えてしまう。それって学生に限らず私たちでも同じで、「話が長い」ってどちらかといえば悪口としてとられがちですよね。
もっとムダがあっていいのでは、と思います。企業においても、「こんなこと言っても無駄かな、他人の時間を奪ってしまっているんじゃないかな」と思わずに自己開示をすることがチームビルディングに役立ち、生産性を上げる一助になり得るのではないでしょうか。

子育てしやすい空気づくりのために、一人ひとりができること

富永:会社の規定などで子育てに不便なところがあるなら、労働組合や人事・総務に訴えるなどの形で、もっとアウトプットしてもいいと思います。企業には、ほかにも共働きでの子育てに奮闘している人はいるはずで、休業や時短について言うと、介護や働く人自身の傷病・疾患にも関わるかもしれない。自分が子育てで感じる不便・不満を声に出していくことは、「自分のわがままの解決」ではなく、ほかの人の幸せにつながることなんだとマインドチェンジしてほしいですね。

平野:社内SNSや交流の場を活用して、社内で同じ意見をもつコミュニティーをつくってから会社側に要望を言ってもいいですね。
私がお付き合いいただいているある企業では、休職明けの社員が所属するコミュニティーがあって、いろいろな部署や役職の人が交流できるんです。そこで「現状のこの制度は不便」といった声が多ければ、コミュニティーの総意として会社側に上げていくので、意思決定層としても考慮しやすくなります。
共働き子育て中の当事者や社会保険労務士、産業医なども交えて議論しながら進められれば、よりよい制度をつくりやすいでしょう。

富永:議論をしていくにあたっては、子育てを経験していても、自分の世代の価値観を下の世代に押しつけないことも大切ですね。NHKが5年おきに「日本人の意識」という調査を実施しているのですが、世代によってこれほど価値観が違うのかということに驚きます。学生が「うちの親は考えが古いから」と言いながらも親の意見を真に受けて、就職などで迷っている姿をよく目にします。ベネッセ教育総合研究所が行った調査でも、「性別による役割観に影響を与えている要素」に「自分の親」があったように、子育ての領域も、親や先輩夫婦からのアドバイスに支配され続けている気がします。
でも、これだけ共働きが増えている中で、かつての親世代が実践してきた子育ての在り方を理想像とするのは難しい。

先日、ある新聞社の女性記者の方々とお話したんです。先輩の女性記者が、出産を希望する女性記者に「私は出産していないけれど、共働きでの子育てを経験した人を紹介するから安心して産んでね」とエールを送っているそうです。
私自身は共働きかシングルかは公表していないし、平野先生も共働きで子育てしているわけではないですが、それでも話を聞いたり、専門知識を提供したりすることで共働き夫婦の方々の力になれるかもしれない。
「自分は経験者じゃないけど応援しているよ」という励ましは、とても力になります。私もそうありたいですね。

平野:その夫婦なりのパートナーシップを尊重するのと同時に、しんどいときに気軽に助けを求められる場所をつくる。バランスが難しいですが、周りの人は意識しておくことが大切だと思います。

「乳幼児の保護者のライフキャリアと子育てに関する調査」ベネッセ教育総合研究所

まとめ & 実践 TIPS

「共働き子育て」の在り方に正解はありません。
ただし、「自分たちにとってベストな方法を話し合って決める」「家庭内で解決しなければ、と思う必要はない」などの考え方は大きなヒントになりそうです。
「受援力」を高めて、周りとコミュニケーションをとりながら乗り越えていきたいですね。

プロフィール

平野翔大先生

産業医、産婦人科医、医療ジャーナリストとして活躍。2022年に一般社団法人Daddy Support協会を設立し、代表理事として父親の育児支援に向けた情報提供や環境整備のための活動を展開している。著書に『ポストイクメンの男性育児 妊娠初期から始まる育業のススメ』(中公新書ラクレ)がある。たまひよ「子育てのミライ応援プロジェクト」で投票数1位に。
https://daddy-support.org/%E2%80%8B%E2%80%8B

プロフィール

富永京子先生

立命館大学産業社会学部准教授。主専攻は社会運動論・国際社会学。社会運動・政治参加の文化的側面に注目し、現代社会におけ人人々の政治参加・社会運動への抵抗感に関する研究に取り組む。著書に『みんなの「わがまま」入門』(左右社)、『社会運動のサブカルチャー化—G8サミット抗議行動の経験分析』(せりか書房)など。
https://kyokotominaga.com/

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