Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

増税は利権の温床

前回の記事から2ヶ月近くが過ぎてしまいました。その間に、復興増税に賛成した谷垣自民党総裁は総裁選に立候補することすらできず、総裁任期を終えてしまいました。一方、野田総理はなんとか民主党代表選には勝利しましたが、相次ぐ離党で衆院の議席は大きく減少し、あと8議席減れば与党は過半数を失うところまで来てしまいました。*1党の利益よりも財務省の意向を優先して消費税増税に走った政治家の末路は、惨めなものだと言えるでしょう。


さて、最近、復興予算が復興とは全く関係の無い用途に「流用」されていた問題が、大きく批判されています。この件は9/9に放送されたNHKスペシャルで取り上げられたことで、広く知られるようになりました。この番組では、2兆円もの復興予算が被災地以外の事業で使われている一方、被災地には十分な予算が割り振られていない事が、はっきりと指摘されています。

「復興は進んでいない。お金は一体どこに使われているのか。」今、被災地から切実な悲鳴があがっている。
大震災後、被災地復興のためつぎ込まれる巨額の“復興予算”。
増税を前提につぎ込まれることになった“復興予算”はいったいどのように流れ、使われているのか。
番組は“巨額のマネー”の行方を追い、その実態を徹底検証する。

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この番組の内容はtogetterでもまとめられています。

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しかし、この問題を最初に取り上げたメディアはNHKではなく、実は週刊ポストでした。たまたまその時の記事を、このブログの前回の記事のコメント欄で紹介していました。

 1年半前、大震災と津波の惨劇を目の当たりにした国民は、「東北を必ず復興させる」と誓い合った。政府は震災復興のため、昨年度は3次にわたって約15兆円もの復興補正予算を組み、今年度分と合わせて総額19兆円(当面5年分)の震災復興予算を東北に集中的に投下することを決めた。
 その財源をまかなうために来年1月から25年間にわたる所得税引き上げと10年間の住民税引き上げ(2014年6月実施)という、異例の長期間の臨時増税が実施される。「復興財源の足しにする」ために子ども手当制度の廃止(減額)、高速道路無料化実験の廃止、国家公務員の人件費削減などが決まったことは記憶に新しい。それでも、国民は「欲しがりません復興までは」と負担増に堪える覚悟をした。
 ところが、現実には復興予算の多くが被災地には届いていない。国の予算は制約ばかりで被災地が本当に必要としている事業には、使えない仕組みになっているからだ。地元自治体は津波で水没した地域の地盤かさ上げや流された公共施設の建て替え、小中学校の耐震工事、避難所までの道路整備などの予算を要求したが、「施設の耐震化などは別の予算がある。復興と関係の薄い事業に配分したら納税者の理解が得られない」(復興庁幹部)と審査を厳しくして、大半は却下された。
 苦労して予算をもらうことができても、復興にはつながらない。震災被害が大きかった気仙沼市や南三陸町などがある宮城6区選出の小野寺五典・衆院議員(自民党)が語る。
「被災地の自治体は壊滅状態だから税収もない。そこで復興に自由に使えるという触れ込みの復興交付金が創設されたが、使途が40事業に限定され、土地のかさ上げすらできない。気仙沼では水産庁の復興事業で漁港周辺の地盤を高くしたが、そこに以前あった商店を建てるのはダメだといわれた。これでは町の復興には使えません」
 その結果、昨年度の復興予算約15兆円のうち、4割に相当する約6兆円が使われずに余った。自治体への復興交付金も8割以上が残り、前述の被災者向け復興住宅の整備予算に至っては1116億円のうちわずか4億円しか使われていない。総額19兆円を注ぎ込む復興は、絵に描いた餅だった。
 大新聞・テレビはそうした復興予算の使い残しの原因は自治体の職員不足や縦割り行政の弊害だと報じているが、真実を見ていない。霞が関の役人は、わざと復興のカネを被災地の自治体には使えないように制限している。
 その証拠に、余った復興予算のうち「不用額」とされた約1兆円は、今年度から新設された「東日本大震災復興特別会計(復興特会)」に繰り入れられ、各省庁に分配される。この復興特会の使途を見ると、復興とは名ばかりで、国民・被災者が知らないところで役人の掴みガネとなっていた。不用とされたカネが、シロアリ官僚の餌に化けたのだ。では、役人のネコババの実態を見ていこう。
 シロアリ官僚たちがまず目をつけたのが、官僚利権の王道である「ハコ物建設」だった。 復興特会には「全国防災対策費」という名目がある。「東日本大震災を教訓として、全国的に緊急に実施する必要性が高く、即効性のある防災、減災等のための施策」に該当すれば、被災地でなくても復興予算が受けられる仕組みだ。役人たちは狡猾にこれを利用した。
 国交省は、復興特会から36億円を使って政府の官庁舎を改修する計画を立てた。そのうち12億円は、内閣府が入る霞が関の合同庁舎4号館の大規模改修に使われる。
「昭和47年に建てられた施設で耐震不足なので、免震構造に変えます。他に秋田合同庁舎、和歌山県の田辺合同庁舎の修理、他に名古屋や釧路など全国の港湾合同庁舎の津波対策に使います」(官庁営繕部管理課・予算担当企画専門官)
 一見、もっともな理屈だが、騙されてはいけない。国の施設の建て替えが進む一方で、肝心の被災地の整備には、予算が付いていないのである。石巻市役所は1階部分が水没し、5・6階の吊天井が壊れるなどの被害が出たが、「市庁舎改修工事」の費用はわずか2900万円。市の管財課担当者が、使い道を明かした。
「これは改修予算ではなく、加湿器と駐車場でのLED電灯の設置予算です。市庁舎を改修する予算は現段階ではありません。復興交付金には市庁舎の改修予算はメニューに入っていないので、付けられないのです。自治体が自腹で改修なんかしたら倒産してしまいますから、国に予算を出してもらう仕組みを検討中です」
 実は同じ石巻市にある国交省の港湾合同庁舎には、今年4億円の改修費用が計上されている。国の出先機関と自治体で、これほどに差がつけられる理由がどこにあるのか。復興予算を決定した安住淳・財務大臣は石巻市出身である。昨年7月、安住氏はテレビ番組でこんな発言をしている。
「被災地の人は『助けてけろ』というが、こっちだって助けてもらいたい。国会議員が悪いなんて感情的だ。被災地の人のストレスが私のところにきて、それが総理に伝わってしまう」
 その1年後、彼が決めた予算は、まさに被災地を助けず、こっち(中央の官僚たち)を助ける政策だった。
 その財務省の外局、国税庁のやり口も酷い。東京の荒川税務署など、被災地以外の税務署3施設の改修工事に5億円を計上。荒川が選ばれた理由は、「今回の地震でどこか崩れたとか、老朽化が著しいというわけではなく、耐震化工事に着手しやすい税務署だということ」(国税庁会計課)だそうで、ここでも被災地が後回しにされた。被災した大船渡税務署職員の嘆きを聞こう。
「税務署の建物は津波で浸水したため、現在は法務庁舎の敷地に仮事務所を設けています。プレハブ造りの簡素なものなので、空調の効きが悪く、場所もかつてに比べ手狭ですが、もとあった建物が整備されてから移転となるので、移転はしばらく先になりそうです」


NEWSポストセブン|復興予算15兆円のうち約6兆円が使われず1兆円を役人ネコババ NEWSポストセブン|復興予算15兆円のうち約6兆円が使われず1兆円を役人ネコババ NEWSポストセブン|復興予算15兆円のうち約6兆円が使われず1兆円を役人ネコババ



この件をスクープしたジャーナリストの福場ひとみ氏に、東京新聞・中日新聞論説副主幹である長谷川幸洋氏がインタビューした記事もあります。

メディアを賑わせている復興予算の流用問題が参院決算委員会で取り上げられた。この話は連日、新聞やテレビで報じられているので、問題自体の詳細はそちらに任せたい。ここで指摘したいのは、この問題に火を付けたのは国会でも新聞でもテレビでもなく『週刊ポスト』だったという点である。

 一般にはNHKが最初に報じたと理解されている。9月9日に放映された『NHKスペシャル追跡 復興予算19兆円』が話題になり、それをきっかけにこの問題を知った人が多いからだ。その番組が話題になったのはその通りだが、この問題をスクープしたのはポストである。

『週刊ポスト』が2012年8月10日号(7月末発売)で問題の構図をほぼすべて報じているのだ。NHKはポスト記事の後追いである。実は、私もつい最近まで「NHKのスクープ」だとばかり思っていた。ポストに連載コラムを書いていながら恥ずかしい次第だが、チラッと見出しをみただけで中身を読んでいなかったので覚えていなかった。

 あらためてポスト記事をチェックしてみると、驚いたことに沖縄の道路建設や霞が関の合同庁舎、東京・荒川税務署などの改修、反捕鯨団体シーシェパードの攻撃から守るための護衛費用など、いまでは有名になった流用事例が総ざらいして報じられている。そのものずばり「19兆円復興予算をネコババした『泥棒シロアリ役人の悪行』というタイトルの5ページの記事である。

 筆者は「福場ひとみと本誌取材班」とある。そこで福場さんに話を聞いてみた。


政治は政治家だけがするのではない!「復興予算の流用問題」をスクープしたフリーランス記者・福場ひとみ氏はどうやって「泥棒シロアリ役人の悪行」を見抜いたか  | 長谷川幸洋「ニュ 政治は政治家だけがするのではない!「復興予算の流用問題」をスクープしたフリーランス記者・福場ひとみ氏はどうやって「泥棒シロアリ役人の悪行」を見抜いたか  | 長谷川幸洋「ニュ 政治は政治家だけがするのではない!「復興予算の流用問題」をスクープしたフリーランス記者・福場ひとみ氏はどうやって「泥棒シロアリ役人の悪行」を見抜いたか  | 長谷川幸洋「ニュ



さすがに国民の反発が大きいので、国会はこの問題を審査しようとしましたが、民主党はこれを欠席し、会合は流会してしまいました。また、この会合で答弁するはずだった官僚に対して、民主党が欠席を支持したのでないかという疑惑もあります。これでは政府・民主党は逃げ回っていると言われても、仕方ないでしょう。

 衆院決算行政監視委員会の小委員会は11日、東日本大震災の復興とはかけ離れた事業に復興予算を流用したとされる問題を、審査する会合を開く予定だったが、民主党委員が欠席したため定足数に満たず流会となった。関係省庁の答弁予定者も政府の指示を受け欠席。野党の追及を警戒して審議に消極的な民主党の姿勢の表れとみて、野党側は猛反発している。

 小委が開かれる午前9時に委員会室に集まったのは、メンバー14人のうち自民党委員4人、公明党、国民の生活が第一の委員各1人ずつの計6人だけ。民主党委員8人が欠席し、定足数(7人)に達せず流会した。


(中略)


 また、8事業に関係する財務、外務、経済産業、国土交通、法務、厚生労働、文部科学、農林水産各省と復興庁の答弁予定者も小委に出席しなかったことについて、「民主党が内閣総務官室を通じて指示した」と指摘。「残念で怒りを覚える」と批判した。これに関し藤村修官房長官は会見で「先例に照らした判断だったと聞いている」と説明。一方、永田町関係者は「役人たちもせっかく予算が付いた事業を追及されたくない。政府は役人のいいなりになっているのではないか」と指摘した。


不適切流用の追及恐れ?民主、復興予算審査会“トンズラ” ― スポニチ Sponichi Annex 社会 不適切流用の追及恐れ?民主、復興予算審査会“トンズラ” ― スポニチ Sponichi Annex 社会 不適切流用の追及恐れ?民主、復興予算審査会“トンズラ” ― スポニチ Sponichi Annex 社会



さて、なぜこのようなことが起こってしまったのでしょうか?この原因については、震災直後に行われた東日本大震災復興構想会議や、それを受けて成立した東日本大震災復興基本法に「日本の再生」という言葉が盛り込まれたことが、根拠となっているという指摘があります。

 ともあれ、まずは今回の復興予算問題について、震災以降の事実関係を整理してみたい。被災地以外に支出は許せないというマスコミや片山元大臣の意見は妥当か、官僚が国民を騙して予算を作ったのか、与党、野党の政治家は知らなかったのか知っていたのか、さらに、そもそも復興増税は正しかったのかなどを考えてみよう。

 復興予算は震災直後から精力的に検討された。政府は、財務省主導の下で東日本大震災復興構想会議を立ち上げ、復興増税を提唱した。同会議の庶務は財務省出身の内閣官房副長官補のところで、事実上財務省が事務局を仕切っていた。増税と同時に各省庁への配慮から復興予算をばらまく思惑もあった。

 事実、2011年5月10日の「復興構想7原則」の原則5で、「被災地域の復興なくして日本経済の再生はない。日本経済の再生なくして被災地域の真の復興はない。この認識に立ち、大震災からの復興と日本再生の同時進行を目指す」と書いている。

 つまり、当初から復興予算を被災地以外にばらまくつもりだったのだ。

 これを受けて、6月24日に成立した「東日本大震災復興基本法」の第2条(基本理念)に、「単なる災害復旧にとどまらない活力ある日本の再生を視野に入れた抜本的な対策」という文言がある。

 この基本法は、政府から提案された「東日本大震災復興の基本方針及び組織に関する法律案」を撤回し、民、自、公による共同提案を成立させたモノだ。

 政府提案の法案では、基本理念は「単なる災害復旧にとどまらない抜本的な対策」となっていた。「日本の再生」という文言はないものの、復興構想原則のとおり、被災地以外にばらまくという当初の考え方は踏襲されている。この意味で、細野氏がテレビでいった「当初は被災地に限定することを考えた」というのは、政府提案を見る限り正しくない。

 ちなみに、復興基本法案の採決は、参議院サイトにあるが、みんなの党と共産党以外は賛成している。

 まして、これら復興会議、復興基本法の国会審議、政府方針の決定に閣僚として関わった片山氏は、被災地以外へのバラマキを批判する資格はない。さすがに、この点、細野氏が一緒にやったでしょうとやんわりと片山氏を批判していた。

 では官僚が国民を騙したのか。官僚としては正統な手順を十分に踏んだと言いたそうだ。少なくとも形式的には言えるかもしれない。しかし彼らが復興構想会議をコントロールした実態を見た筆者としては文句も言いたい。筆者が「復興構想会議が官僚にコントロールされている」実態をテレビで発言したら、テレビ局に対して執拗な抗議をしてきたのが官僚だった。指摘が図星だと官僚は本気でむかってくる。

 こうした舞台裏について、民、自、公の政治家は知らなかったのか。そんなことはない。よく知っていた。中には、この際「救国連立」にして復興特需のうまみを吸いたいとホンネをいう政治家までいた。


「日本再生」というばらまきに群がった官僚や政治家たち!「復興予算の乱用」を自民や公明、そしてメディアがいまごろになって批判する資格はあるのか  | 高橋洋一「ニュースの深層」 「日本再生」というばらまきに群がった官僚や政治家たち!「復興予算の乱用」を自民や公明、そしてメディアがいまごろになって批判する資格はあるのか  | 高橋洋一「ニュースの深層」 「日本再生」というばらまきに群がった官僚や政治家たち!「復興予算の乱用」を自民や公明、そしてメディアがいまごろになって批判する資格はあるのか  | 高橋洋一「ニュースの深層」


 今回指摘された復興予算の使い道について国民は怒っているが、政府あるいは霞が関の立場から言えば、何が問題なのか、今さら何を言っているのか、と反論したいところであろう。なぜなら、被災地以外に復興予算を使えることは、復興の基本を定めた法律である東日本大震災復興基本法に規定されているからである。

 例えば、復興基本法の第1条の目的に、「……東日本大震災からの復興についての基本理念を定め、並びに現在及び将来の国民が安心して豊かな生活を営むことができる経済社会の実現に向けて、東日本大震災からの復興のための資金の確保、……等により、東日本大震災からの復興の円滑かつ迅速な推進と活力ある日本の再生を図ることを目的とする」と書かれている。つまり、法律の目的は、復興と日本再生の2つだ。

 また、推進すべき施策を規定する第2条第5項には、「地域の特色ある文化を振興し、地域社会の絆の維持及び強化を図り、並びに共生社会の実現に資するための施策」も挙げられており、被災地における復興とは関係ないことに予算が使われることは法律上明文化されている。さらに、この法律に基づき閣議決定した基本方針も同様である。実は、こうした復興基本法の条文は、民自公の3党の修正で出来上がったものなのである。

 各省からいえば、財務省が査定し、閣議決定され、国会で承認されたお金を使って、何が問題なのかと反論できるわけである。しかも、国会では、自民党などの野党も補正予算を認めているわけで、役人が勝手に予算を横流ししたわけではない。野田首相も、インタビューで、法律に基づいて予算を使っただけだと弁明している。

 財務省も、法律そして閣議決定の規定に従って予算を認めたわけで、何ら悪いことはしていないと、ホンネでは思っている。当初はこんなに問題になるとは思っていなかったはずだ。

 つまり、霞が関は民主主義の手続きを経て、予算を使っていると主張するわけで、問題があるならば、復興基本法を作ったとき、国会での審議中に指摘するべきだったということになる。

 法律に書いてあるから問題ないと言われても、国民からすれば、にわかには納得しがたいだろう。復興だから、増税に同意したからである。では、なぜこうした事態が起こったのだろうか。原因を明らかにしておかないと、再び同じ問題を繰り返すことになる。



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この法律や方針を作り賛成した官僚、政治家から見れば、「法律に書いてあることを実行して何が悪い」という思いなのかもしれませんが、何気ない「日本の再生」という言葉がこれほど巨額な復興予算の流用に繋がったとなると、国民としては「霞ヶ関文学」に騙されたとした思えないでしょう。


さて、このように復興予算の流用を正当化した復興構想会議や復興基本法の審議、政府方針の決定では、同時に復興予算を国債ではなく増税で賄うことも決定されました。
この2つの間に何か関係はないのでしょうか?

上に挙げた高橋洋一氏、田中秀明氏とも、この流用と増税の関係についても指摘しています。

 ここまで書いてくると、なぜこうなったのかという根本問題がでてくる。これに対する筆者の直感は、財務省がはじめに「復興増税」ありきという流れを作ったからと思う。

 復興増税だけでは財務省の一人勝ちになる。他省庁が歳出増の分け前を求めるのに応えようとしたが、「被災地に限定」では少なすぎた。そこで被災地以外にも予算をつけられる「日本の再生」という「チエ」がでて、それに民、自、公の政治家が群がったのだ。

 筆者は、震災当初から「増税」ではなく「寄付金税額控除」、「復興国債の日銀直接引受」を主張していた(2011年3月14日付け本コラム「「震災増税」ではなく、「寄付金税額控除」、「復興国債の日銀直接引受」で本当の被災地復興支援を菅・谷垣「臨時増税」検討に異議あり」)。

 もちろん、被災地でのインフラは絶対必要なので、公共投資を全否定するつもりはない。しかし、日本の財政政策は、財政支出の割合が多く、(給付金を含む)減税系が少ない(2010年1月18日付け本コラム)。

 前者は、特定関係者の利害に大きく関係するが、後者は広範囲の人が便益を受けるためにあまり特定関係者の利害を考慮する必要がないので、財政のフェアを追求するのであれば、後者の減税系を指向すべきである。筆者の震災当初の提案はその考えに沿っている。

 今のマスコミが行っている批判は、被災地以外に増税を使ったということで、支出のムダとはすこし違った角度になっている。もし、復興増税でなかったら、どうだったのか。それに、政府支出ではなく、国民への減税系だったら、どうだったのか、少し冷静に考えてみると、違う世界が見えてくるだろう。


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 法律に書いてあるから問題ないと言われても、国民からすれば、にわかには納得しがたいだろう。復興だから、増税に同意したからである。では、なぜこうした事態が起こったのだろうか。原因を明らかにしておかないと、再び同じ問題を繰り返すことになる。

 表面的には、政府や役人に責任はないということになるが、こうした事態を招いたのは、政府機構に内在する慣性が働いたからだ。省庁や財務省の役人、政務三役や野党の政治家、利害を持った民間など、彼らが自らの利益を追求した、あるいは合理的な行動をとった当然の結果だともいえる。

 各省庁にとっては、当然ながら、予算は削られるより、増えるほうがよい。役人だけではなく、関係業界、そしてそれに関係する国民も喜ぶ。財務省も、予算を切ると、各省そして利益団体から怒られる。ときには恫喝される。他方、予算をつければ、「どうもありがとう」と喜ばれるわけで、自分自身のことを考えれば、他人から嫌われるより、ありがたく思われ感謝されるほうがよいに決まっている。

 そもそもを言えば、財務省は、実質的に予算を切ることはできない。予算を切るためには、その予算は効果がないことを証明する、そして関係者を説得するための情報が必要であるが、そうした情報は財務省にはなく、各省庁が持っている。当然ながら、各省庁は、そうした情報を知っていても、財務省には説明しない。歳出を切れない以上、少しでも財政収支を改善するため、財務省は増税に走る。今回の復興予算については、財務省が各省に復興予算をもっと使えとけしかけたと聞いている。昨年の補正予算編成時、霞が関は予算獲得で大宴会モードであった。要は、お金が必要だということを言わなければ、増税できなかったからだ。

 政治家にとっても、予算を切るより、使う方が、地元も潤って、選挙にプラスに働く。野党の自民党も復興予算を増やせと注文したのが真相である。民主党は、もともと、霞が関の無駄を省く、野田首相は、役人は白アリであり退治すると言っていたが、政府に入ったとたん、族議員化してしまった。各省の政務(政治家)は、役人と仲良くして、もちつもたれつの関係を築くほうが、メリットがあると気付いたからである。

 要するに、今回の事態は、予算獲得ゲームに参加するプレーヤーが、震災復興という大義の下に、合理的な行動をとった結果なのである。


被災地以外にも使われる震災復興予算 その本質的な原因と対策を問う ――明治大学公共政策大学院教授 田中秀明|DOL特別レポート|ダイヤモンド・オンライン 被災地以外にも使われる震災復興予算 その本質的な原因と対策を問う ――明治大学公共政策大学院教授 田中秀明|DOL特別レポート|ダイヤモンド・オンライン 被災地以外にも使われる震災復興予算 その本質的な原因と対策を問う ――明治大学公共政策大学院教授 田中秀明|DOL特別レポート|ダイヤモンド・オンライン



さらに田中氏は過大な復興予算がこのような流用の温床になったと指摘しています。

 起こったことは元に戻せないが、震災復興が急がれる中で、他に手立てはあったのだろうか。後知恵になるが、時計の針を戻して考えてみよう。

 問題の発端は、復興予算の総額の見積り、すなわち19兆円にある。それが過大だったのだ。この予算額のベースとなったのは、内閣府の推計である。2011年3月23日、内閣府は、東日本大震災における物的資産の毀損額を、仮の数字として16兆円から25兆円と発表している。この数字は、阪神淡路大地震による資産の毀損をベースに、極めて大ざっぱに推計されたものであり、その詳細な根拠は示されてない。

 被害額の推計が過大であるという問題は、既に、早稲田大学の原田泰教授が、その書著『震災復興欺瞞の構図』(2012年3月発行、新潮新書)で明らかにしている。詳細は省くが、原田教授は、被害額は6兆円に過ぎないと言っている。そして、被害額の推計が過大になったのは、増税の必要性を説明する必要があったからだと指摘している。

 被害額の推計がどの程度過大であったかは議論があるとしても、19兆円を予算枠としたことは禍根を残した。端的にいって、予算制約が緩んだので、有象無象の予算が盛り込まれたからである。さらに問題なのは、予算が余ると増税の必要性が問われるので、財務省が各省に予算を使えと奨励したことである。もし、予算制約が厳しければ、優先順位が付けられた。

 仮に、復興予算が19兆円真に必要であったとしても、最初は5兆円の枠とし、それが使い終わってから3兆円というように、段階的に使えば、もっと効率的・効果的に予算を使うことができたであろう。復興の現場からは、調達や契約が硬直的であるため融通が利かず、無駄にお金が使われたという話も聞く。復興の現場にもっと裁量を与えれば、節約できたかもしれない。巨額な予算が確保されたが、執行面への配慮や工夫は乏しかった。

 ただし、この場合、増税の最終的な必要額が直ちに定まらないので、増税の根拠が弱くなる。誤解のないように言えば、筆者は増税そのものに異論を唱えているわけではない。復興債の償還には財源が必要だからである。

 復興基本法に、被災地以外でも予算を使えると規定されていたわけであるが、被災地以外にお金を使っても、復興に寄与する、あるいは日本経済の再生を通じて復興に寄与することは、直ちに否定されるべきことではない。政治家や役人が、被災地以外にも予算を使えるように深慮遠謀を働かせたかもしれないが、法律の規定は、建前としておかしいとはいえない。政府が国民に対してもっと正直であれば、「東日本大震災復興基本法」ではなく、「東日本大震災の復興及び日本経済の再生に関する基本法」とすべきであった。しかし、後者であれば、国民は増税に賛成しなかったかもしれない。
 仮に復興基本法の規定を是認する場合でも、免責になるわけではない。法律の目的に照らせば、関係予算が、震災復興あるいは日本経済の再生に貢献するという因果関係を証明する必要があるからだ。予算は実施前なので、そうした蓋然性が高いことを説明しなければならない。予算査定は財務省の権限だというならば、まさに、これを精査し、査定するのが、財務省の仕事ではないか。

 新聞やテレビで復興予算の報道が繰り返されているが、不思議にも、財務省についての指摘は皆無に近い。去る10月18日に開かれた参議院決算委員会で、城島財務大臣は、来年度予算は厳しく査定すると述べたが、まずは、これまでの査定が甘かったことを謝るべきではないか。そして、なぜ甘い査定となったのか、その理由を国民に説明するべきである。


被災地以外にも使われる震災復興予算 その本質的な原因と対策を問う ――明治大学公共政策大学院教授 田中秀明|DOL特別レポート|ダイヤモンド・オンライン 被災地以外にも使われる震災復興予算 その本質的な原因と対策を問う ――明治大学公共政策大学院教授 田中秀明|DOL特別レポート|ダイヤモンド・オンライン 被災地以外にも使われる震災復興予算 その本質的な原因と対策を問う ――明治大学公共政策大学院教授 田中秀明|DOL特別レポート|ダイヤモンド・オンライン



以上の議論から考えると、増税の必要性を正当化するために復興予算を膨らませる必要があり、その結果復興とは関係の無い予算が復興予算の中に大量に潜り込んだということでしょう。増税と巨額の予算流用はセットであったということになります。復興増税は、官僚や政治家の利権の温床となってしまったのです。
もし、復興予算が国債発行や国債日銀引き受けで賄われていた場合、財政再建を大義名分とする財務省は無駄な復興予算を削らざるを得ず、ここまで大規模な流用は起こらなかったのではないでしょうか?


さらに言えば、このような話は復興増税だけではないと思います。
前回、前々回の記事で、僕は消費税増税が官僚や政治家の利権のために行われたと書きました。
実際、消費税増税法案の審議の過程で「国土強靱化」を名目とした200兆円規模の公共事業の話が出てきましたし、来年度予算の概算要求では、過去最高の100兆円以上の規模になったという話もありました。

 「10年間で200兆円」(自民党)、「10年間に100兆円」(公明党)―。民主党との「密室談合」で、消費税大増税と社会保障改悪の「一体改革」法案を衆院通過させた自民、公明の両党が、次期総選挙をにらんで「国土強靭(きょうじん)化」「防災・減災」などと銘打って大型公共投資を競い合っています。消費税増税は、公共事業バラマキのためなのか―。

 3党密室合意による消費税増税法案には、消費税増税で財政にゆとりが生まれ、機動的対応ができるとして、「成長戦略や事前防災および減災等に資する分野に資金を重点的に配分する」との文言がこっそり挿入されました。

 日本共産党の佐々木憲昭議員が、6月26日の衆院社会保障・税特別委員会で追及したように、消費税の増税分を「社会保障に全額使う」というのは見せかけで、実際には財源が置き換えられ、大企業への減税、無駄な大型公共事業、軍事費などに使われることになる恐れがあります。


自民党 200兆円だ  公明党 100兆だ/大型事業 競い合う(しんぶん赤旗) 自民党 200兆円だ  公明党 100兆だ/大型事業 競い合う(しんぶん赤旗) 自民党 200兆円だ  公明党 100兆だ/大型事業 競い合う(しんぶん赤旗)


2013年度政府予算(一般会計)にこの事業を入れてほしいという各省庁からの概算要求が7日、出そろった。要求総額は98兆円ほどになる見通しで、特別会計に移された東日本大震災の復興費を加えると100兆円を超える。震災復興費などでふくれた12年度の要求総額98.5兆円をさらに上回り、過去最大の概算要求になった。


朝日新聞デジタル:概算要求100兆円超 復興費含め過去最大 来年度予算 - 政治 朝日新聞デジタル:概算要求100兆円超 復興費含め過去最大 来年度予算 - 政治 朝日新聞デジタル:概算要求100兆円超 復興費含め過去最大 来年度予算 - 政治



復興予算流用を正当化した言葉「日本の再生」に相当する言葉としては、僕が7/14の記事で指摘したように、消費税増税法の附則18条にある「成長戦略や事前防災および減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど」という言葉が挙げられるでしょう。このような用意もされているということは、復興増税の先例から言っても、消費税増税本来の目的であったはずの社会保障や財政再建以外の目的に、この増税が使われることは間違いないでしょう。
従って、消費税増税もまた、今回と同様に利権の温床となるものと思われます。


一般的な経済学の理論では、国債発行は歯止めのない財政支出(俗に言うバラマキ)に繋がりかねないため戒められていて、増税や歳出削減による財政規律の維持が重要視されています。財務省が財政規律を叫ぶのも、このような考え方に基づくものです。
しかし、日本ではここまで説明したように、増税するとかえってバラマキが増えて、財政規律が緩んでしまいます。これでは国債発行の方が無駄な財政支出が抑えられて、まだ財政規律が保たれるのではないでしょうか?
財政規律を建前としながら、その裏では利権をむさぼる財務省、そしてそれに迎合するその他の省庁や政治家がいるこの国では、このようなパラドックスが起こるのも不思議ではないと思ってしまいます。