小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第996回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

Vlog/ライブ配信向けマイクロホン、TASCAM注目の3機種を試す

TASCAMのライブ配信/Vlog向けマイク。左からTM-70、TM-82、TM-200SG

一気に3モデル

昨今リモート会議もだんだん板についてきて、すでに多くの方は定番の機材でさっとセットアップして開始、という流れができてきていると思う。筆者も背景にグリーンバックをひいたりラベリアマイクを使ったりと色々と試行錯誤した時期もあったが、今はミラーレスとワイヤレスイヤフォンで十分なクオリティを確保するに至った。

一方で、仕事の一環としてウェビナーやオンラインプレゼンといった、ライブ配信をやる人も増えてきているように思う。趣味の配信ならトラブルも笑いのうちだが、仕事となると失敗できない。ライブでのコミュニケーションの肝となるマイクロホンは、しっかりしたものを選びたいところだ。

オーディオのクリエイティブ製品を数多く出しているTASCAMから、6月下旬にライブ配信/Vlog向けマイクロホン3モデルがリリースされた。「TM-70」(直販価格8,580円)、「TM-82」(同4,378円)、「TM-200SG」(同16,280円)である。

筆者は音響技術系の専門学校に通っていたが、マイクと呼ぶと先生に怒られた。「マイクロホン」だろと。「マイクロ」の「ホン」なのに「マイク」で切るのはおかしいだろと。じゃあオマエは「マイク」の「ロホン」だと思ってるのかと。そんなわけで本稿では、すでに一般名詞化した用語を除いて、マイクロホンで統一する。

かつてマイクロホンは、業務用オーディオメーカーしか作っておらず、楽器店で買うものと相場が決まっていた。また製品寿命も長く、銘機と呼ばれるものは数十年販売される事がある。

しかし昨今ではIT系やPC系メーカーも参入し、価格もどんどん下がってきている。いったいどれを選べばいいのか、指針もなかなか立たない状況だ。そんな中、老舗ともいえるTASCAMが新しいマイクロホンを3つ同時にリリースというのは、なかなか珍しい。

今回はライブ配信というところをキーに、3本のマイクロホンを試してみよう。

オールマイティに使えるTM-82

まずはオーソドックスなスタイルのTM-82から見ていこう。いわゆるハンドマイクと言われる形のマイクロホンだが、改めてTASCAMの現行ラインナップを見てみると、割と特殊用途のものばかりで、意外にこういうオーソドックスなダイナミック型がなかったようである。

オーソドックスなダイナミック型、TM-82

強いてあげればコンデンサー型の「TM-60」がポジション的に近いところではあるが、堅牢性の高いダイナミック型をラインナップに加えたことは、TASCAMとしては新しいチャレンジと言えるだろう。

端子口までボディ一体成型

この手のマイクロホンでは、Shureの「SM58」がよく知られるところだが、形状やサイズ感もよく似ている。ヘッドケースは球体ではなく、頂点が平たい円筒形だ。ボディ全体が黒で統一されており、その点では地味なスタイルである。ボディにはスイッチやフィルター切り替えなどは何もなく、シンプルだ。

ヘッドケースのてっぺんは平ら
マイクホルダーも付属
マイクスタンドに装着したところ

周波数特性としては50Hz~20kHzとなっており、低域特性はあまり伸びていないが、バスドラムなどでも100~200Hz程度だ。特性表をみるとそのあたりが少し持ち上がっており、バスドラムも録りやすいだろう。

TM-82の周波数特性

ハンドマイク型ではあるが、グリップノイズは入りやすい。したがってマイクスタンドで使用するのが一般的なスタイルになるだろう。

指向性としては単一指向性カーディオイド型。重量は272gとなっている。

TM-82のポーラーパターン

音声収録にフォーカスしたTM-70

TM-70は、一見するとコンデンサー型のように見えるが、実はダイナミック型である。TASCAMではこれまでボーカル収録ではTM-280やTM-180といったラージダイヤフラムのコンデンサー型をメインに推してきたが、そういう意味では本機はボーカルというよりトーク収録といった用途に振っているのかもしれない。

独特のフォルムを持つTM-70
指向性は長手方向にある
端子部分の作りも丁寧

周波数特性としては30Hz~20kHzで、カーブを見ると2kHzから8kHzあたりにかけて上昇しているのがわかる。明瞭感を出すために意図的にそういうカーブに仕上げたということだろう。

TM-70の周波数特性

指向性としては正面に指向性を持たせたスーパーカーディオイド型。指向性はマイクロホン本体の長手方向に向いている。後述するカーディオイド型と比べて、横や斜め後方からの暗騒音には強いが、後方にも若干の指向性があるのがスーパーカーディオイドの特徴だ。

TM-70のポーラーパターン

なお大型ダイアフラム採用のコンデンサー型は、ダイアフラムが本体に対して垂直に取り付けてあるので、マイクロホンから垂直方向に指向性がある。よくライブ配信シーンの写真で小道具として使われるが、マイクロホンの方向が間違ってるものがかなりあるので、今後はそういう目で見てみると楽しいだろう。

重量は285gで、コンデンサー型よりもだいぶ軽い。ショックマウント付きのマイクホルダーが付属するのはありがたい。簡易卓上スタンドも付属するが、できればしっかりしたアーム型マイクスタンドに装着したいところである。

マイクホルダーが付属
マイクスタンドに装着したところ

コンデンサー型フィールドマイクロホン、「TM-200SG」

3つ目はいわゆるガンマイクと言われるタイプである。ショットガンマイクロホンというのが正式な呼び方のようである。SGはおそらくショットガンの略であろう。

ガンマイクのTM-200SG

前面に特性を絞った超単一指向性のマイクロホンは、どうしても指向性を尖らせるために全長が長くなるものだが、本機は全長を153mmに押さえながらも超指向性を実現している。今回の3モデルの中では、唯一のバックエレクトレット型コンデンサーマイクロホンである。

周波数特性は30~20kHzで、5kHz以上の部分に少しクセがある。ローカットフィルタがついており、本体のスイッチで切り替えるスタイルだ。またウィンドスクリーンも付属している。

ローカットフィルターを内蔵
ウインドスクリーンも付属
TM-200SGの周波数特性

指向性も、この長さの割には一般的なガンマイクと変わらない。付属品としてシューマウントタイプのホルダーが付いており、いわゆるカメラマイクとしての利用が想定される。アクセサリーシューに付けても前に出っ張らないので、広角レンズ使用時にも写り込みにくく、被写体にも接近しやすいというメリットがある。

シューマウント用ホルダーが付属
カメラに取り付けたところ

一方でXLR接続のコンデンサー型なので、ファンタム電源が必要になるのが難点だ。XLR入力ができて、ファンタム電源対応のデジタル一眼はなかなかない。動画ファイル内に音声を入れ込むのであれば、ソニーの「FX3」のようにXLR入力対応ハンドルユニットが付けられるカメラか、「iRig Pre2」のようなインターフェースを用意するか、あるいは「DR-70D」のようなフィールドレコーダを使うかということになる。

バックエレクトレット型のカメラマイクは、それほど大きな電圧は必要ないため、内部に電池を入れるか、3芯ミニジャックを利用してカメラから電源を取るといった方法で動くものが多い。しかし本機はそうした仕掛けがなにもない、言ってみればまったく普通のコンデンサーマイクロホンなので、実際Vlog撮影でフィールドで使うには、かなり大掛かりになってしまう。フィールドで簡単に使えないのが残念だ。

音の違いは?

では実際に集音してみよう。今回はライブ配信をターゲットということで、トークの収録と、楽器収録をテストしてみた。

まずトーク収録だが、TM-70と82は話者から30cmの距離でほぼ同じ位置に、TM-200SGはカメラのアクセサリーシューに装着して1.5mの距離にセットし、同時収録してみた。

3種類のマイクロホンを同時収録して比較

口からの距離が30cmということで、近接効果はほとんど発生していないと思われるが、TM-82は低域から高域までのバランスがよく、低め、厚みのある音となっている。クセがないので、どのような集音にもオールマイティに使えそうだ。

TM-70は周波数特性で見ても高域に特徴があるが、実際に集音しても高域に歯切れの良さがあり、明瞭感の高い音が特徴的だ。BGMの上に喋りを乗せるみたいなミックスの際にも、音乗りしやすいだろう。男性の声でもこうした特徴がわかるので、女性の喋りにはかなり使い勝手が良さそうだ。ダイナミック型ながら、コンデンサー型のイメージを意識した音、と言えるかもしれない。

TM-200SGは、話者から距離があるので若干SNという点で不利だが、音質的にはバランスが良く、TM-82の音とかなり近い。画面内にマイクロホンが入れられない撮影にもいいだろうし、バックアップとして裏で立ち上げておくマイクロホンとしても使えそうだ。

では次に楽器の集音を試してみよう。手元にアコースティック楽器と言えばウクレレしかなったので、筆者のヘタクソな演奏にお付き合いいただきたい。

この集音では、TM-70、82は音源から距離約20cm、TM-200SGは距離約60cmである。

TM-82で集音

TM-82では多少の近接効果もあるだろうが、ボディの鳴りも含めて低域に特徴のあるサウンドとなっている。高域はちょっとこもり気味で、抜けという点では物足りなさがある。もっとも、これが普通といえば普通である。

TM-70で集音

一方TM-70では、高域の伸びが綺麗で、爽やかなサウンドとなっている。楽音として上から下まで録れるわけではないが、明るく涼しげな印象があり、イメージとしては悪くない。

TM-200SGで集音

TM-200SGは、他のマイクロホンと比べて距離があるにも関わらず、低域の減衰が少ないのが特徴だ。高域の抜けもよく、TM-82よりも明瞭感が感じられる。楽器集音については、各楽器の音域や音量なども関係してくるので、一概にどれがいいとは言えない。つまりその試行錯誤と組み合わせの妙が、「マイクアレンジ」というものである。

総論

昨今ライブ配信で人気のあるマイクロホンは、USBにダイレクトに接続できるといったタイプが人気があるところだが、やはり音質面や耐久性ということでは、これまで長い実績があるスタンダードなタイプのマイクロホンも視野に入れておくべきだ。

実際マイクロホンの寿命は長く、筆者の手持ちで言えば今から40年前に買ったShure SM57も壊れることなく普通に使えている。さすがに出番は少なくなったが、ちゃんとしたマイクロホンは長く使えるものである。

今回ご紹介したマイクロホンは、その性能からすればかなり安いと思う。TASCAMはこれまでコンデンサー型に力を入れてきたが、ダイナミック型も性能的に悪くない。ただXLR出力やファンタム電源の都合で、ミキサーやオーディオI/Oが必要というところは、業務ユーザーには若干敷居が高いかもしれない。

ただ、「何がいいのか知らないが要するに高いヤツ」を闇雲に買うより、まずはちゃんとした音響機器メーカーのマイクロホンから試してみて効果測定するというのは正しいアプローチだ。個人的にはTM-70は個性があって面白いように思う。これで8,580円はなかなかお買い得だ。

自分の声質にあったマイクロホンが見つかると、収録が楽しくなるものだ。皆さんにもそんないい出会いがあることを期待したい。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。