藤本健のDigital Audio Laboratory
第1022回
英国プロ用ブランドから新作USBオーディオ「SSL2 MKII」。性能&音質も大進化!?
2024年12月9日 08:00
前回のInter BEE 2024の記事でも取り上げた通り、イギリスのメーカー・Solid State Logic(以下SSL)から新たなオーディオインターフェイス「SSL2 MKII」および「SSL2+ MKII」が発売された。
名称からも分かる通り、これらは「SSL2」および「SSL2+」のモデルチェンジ版で、パッと見は従来機とあまり大きく変わらず、メインボリュームのノブの色が青から黒になっただけ? とも思ってしまうほど。しかし、スペックも中身も大きく変わるとともに、使い勝手の面でも大きく向上している。
なかでも従来機種の分解能が24bitだったものが、今回32bitになったことによりダイナミックレンジが大きく変わるとともに、アナログ回路も大きくブラッシュアップしたため、より高音質化している、というのだ。
筆者は従来モデルであるSSL2+をずっと使ってきたのだが、今回SSL2+ MKIIを試してみたところ、気に入らなかった部分がすべて改善されており、音も断然よくなっていた。実際、何がどのように変わっていたのか、測定しながらチェックしていくことにしよう。
英国Solid State Logicとは
イギリス・オックスフォードにあるメーカー「SSL」は、1969年設立のプロオーディオメーカーの老舗だ。世界中のレコーディングスタジオ向けの大型ミキシング・コンソールを開発・製造し、まさに世界中の音楽、ヒット曲を生み出す機材を手掛けてきた。
従来は数百万円や数千万円といった、まさに業務用機器に特化したメーカーであったが、昨今の音楽制作のダウンサイジング化に伴い、SSLもコンパクトで低価格な機材も出すようになっている。
その中でも、大ヒットなっていたのがUSBのオーディオインターフェイス「SSL2」および「SSL2+」だった。第904回の記事でレポートしていたが、3万円前後で購入できるSSL本家が出す製品を購入できることから、アマチュア・プロ問わず多くの人が導入していたし、筆者自身もSSL2+を購入して使ってきた。
最近は円安に伴い、実売価格もじわじわと上がってきており、発売当初と比較すると1、2割高騰し、2in/2outのSSL2で3万円程度、2in/4outのSSL2+で4万円程度で販売されていた。
そうした中、SSL2およびSSL2+の後継モデルとして、SSL2 MKII、SSL2+ MKIIが発売されたのだ。価格は若干上がってSSL2 MKIIが税込み実売価格で33,000円程度、SSL2+ MKIIで45,000円程度。
とはいえ、現在の1ドル=150円で換算すると海外と比較して日本が圧倒的に安い販売価格となっており、SSL Japanによれば年末~年明けあたりには価格の見直しをする、とのことなので、買うなら早めがよさそうではある。
新旧モデルで違いをチェック
新モデルは旧モデルと比較して何が違うのか。SSL2 MKIIが2in/2outで、SSL2+ MKIIが2in/4outであるなど、入出力構成は同じだが、実はいろいろと進化している。
まずは、SSL2+とSSL2+ MKIIを比較していこう。
トップパネルを見ると、メイン出力調整用の大きいノブが青から黒へと変わっていたり、パネルの色も紺色からグレーへと微妙に変わっているけれど、そこは単純にデザイン上の違いだ。フロントとリアをそれぞれ比較してみると、結構違いがあることが分かる。
とくに非常に便利になったと感じるのは、従来、リアパネルにあった2つのヘッドフォン端子がフロントに来たこと。これによって使い勝手は大きく向上している。
同様に従来はリアのコンボジャックに接続していたギター入力=INST入力もフロントに2つ搭載された端子に切り替わっている。これによってギターが各段に接続しやすくなっている。
さらにリアを見ると、従来は出力がRCAピンジャックが4つと、メインの1/2chに関しては6.3mmのバランスフォンジャックが搭載されていたが、今回はRCAが廃止され、4ch出力すべてが6.3mmのバランス出力へ切り替わっている。
一方で1ch、2chにあった+48V、LINE、HI-Zという切り替えボタンも大きく仕様変更されている。
ギター入力がコンボジャックとは別にフロントに搭載されたことにより、Hi=Zボタンは廃止され、代わりにローカットボタンに切り替わった。さらに従来はこれらがアナログのプッシュロック型の切り替えボタンであり、ノイズ発生の元になりやすかったのだが、今回はデジタル制御となったため、ノイズ発生のリスクもなくなっている。
しかし、最大のポイントは旧モデルが最大で192kHz/24bitだったのに対し、新モデルは192kHz/32bitとビット解像度が大きく変わっている点だ。この32bitというのは32bit floatではなく、32bit固定小数点なので、ZOOMのオーディオインターフェイスなどとはまったくの別モノ。Steinbergの「UR22C」などといった、UR-Cシリーズがスペック的には近そうだ。
その背景にあるのは、搭載されているADC/DACのチップを一新したこと。もともとSSL2およびSSL2+では、旭化成のAKM4621EFというADC/DAC対応チップを採用していたが、旭化成宮崎工場での火災事故などからチップ供給が止まったことで、コロナ禍において内部的な設計変更が行なわれESSの24bitのチップへと変わっていた。そこに来て、今回の新モデルではESSの32bitチップへと載せ替えられるとともに、アナログ側においてもさまざまな設計変更が行なわれたようだ。
実際に試してみて最初に驚いたのが、ヘッドフォン出力における音の違い。そのサウンドが断然よくなっているのだ。また、その出力が断然大きくなっているのもポイントで、インピーダンスが高いヘッドフォンでも余裕で鳴らすことができるし、一般的なヘッドフォンであれば爆音で鳴らすことが可能である。
なお4Kボタンは「SSL4000」を彷彿させるビンテージサウンドをアナログ回路で作り出すためのスイッチで、入力における1/2chそれぞれに音楽的に気持ちのいい歪みを与えるためのものだ。SSLによれば、この回路自体はまったく手を加えておらず、従来のままとのことだが、モニターしてみると全体の音質が向上しているからか、よりパンチの効いたサウンドになるような印象を持った。
もう一つの仕様変更として、ループバックに対応した点も挙げられる。これはループバックスイッチが搭載されたわけではなく、入力用のサウンドドライバとしてLoopbackというものが追加された形。もっとも旧機種もファームウェアでループバック対応になっていたので、その意味では従来通りの仕様ともいえる。
入出力の音質とレイテンシーを検証
では、その高音質になったという点、本当なのか? 実際に測定を行なってみることにした。測定はこの連載でいつも利用しているRMAA Proを用いる方法で、入力と出力をケーブルでで直結して強制的にループバック接続にしながら信号を流してくというもの。
44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれで試してみた結果がこちら。
これを見るとすべてにおいてExcellentであり、極めて好成績なオーディオインターフェイスといって間違いなさそうだ。以前の前モデルを記事で取り上げたときに行なった測定結果と比較しても、各段に性能向上していることが見て取れる。この点だけをとっても十分導入する価値のある機材といえそうだ。
では、レイテンシーについてはどうだろうか? こちらもいつもと同様にCEntranceのASIO Latency Testを使って試してみた。
これについても、44.1kHzのサンプリングレートにおいて、バッファサイズを128samplesにした場合のみ、ドライバ設定でSafe Modeにチェックが入った状態で測定。それ以外はSafe Modeのチェックを外すとともに、設定できる一番小さいバッファサイズで測定してみた。
下記結果の通り、44.1kHzで4.29msec、48kHzで3.94msec、96kHzで3.43msec、そして192kHzにおいては2.83msecといずれも旧機種よりもレイテンシーが小さくなっていて好成績。この点においても申し分のない感じだ。
以上、SSLのオーディオインターフェイスの新モデルSSL2 MKIIおよびSSL2+ MKIIについて紹介してみたがいかがだっただろうか?
見た目はマイナーバージョンアップに思えるけれど、機能、性能的にはかなり良いものへと進化していた。前述のとおり、間もなく海外価格と同程度に値上げとなる可能性も高そうなので、購入するのであれば早めがよさそうだ。