小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第940回
首かけ vs 骨伝導!? TVの音をワイヤレスで、シャープ「AN-SS2」、AfterShokz「AS801」
2020年6月12日 08:00
テレビワイヤレス時代の到来
今年2月、「こういうのでいいんだよ! TVの音を低遅延でワイヤレス化、サンワサプライのBluetooth送信機」という記事を上梓した。ちょっとした小ネタのつもりだったのだが、今でも時折バズる人気記事となった。
「テレビの音をワイヤレスで聴く」というのは、一見簡単そうな話だが、予備知識なしにやってみると意外にハードルが高い。そこそこニーズがあるのに、テレビにBluetoothが搭載されていない以上、専用機器に頼らないと上手くいかないというのが現状だ。
そんな中、今回は、テレビをワイヤレスで聴くタイプのスピーカーとイヤフォン2種を取り上げる。両方とも先行モデルをアップデートした新モデルである。
まずシャープ「AQUOS サウンドパートナー AN-SS2」は、2018年11月に発売された小型軽量モデル「AN-SS1」の後継機だ。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は16,000円前後。発売日はまだ少し先で、7月18日を予定している。
シャープは比較的ネックスピーカーに積極的で、昨年は全く設計の異なる上位モデル「AN-SX7」を投入している。要するに毎年新モデルを投入しているわけである。
もう一つのAfterShokzは、骨伝導ヘッドフォン専門メーカーで、従来の骨伝導とはレベルが違う高音質で、主にアスリート向けに製品を展開していた。今回の「AS801」はテレビ視聴向けにターゲットを絞って、専用トランスミッターを同梱したセットモデルである。販売経路は若干変則的で、4月21日からヤマダ電機専売モデルとして発売を開始。加えてAfterShokzのAmazon公式ストア、および公式サイトで販売している。価格は23,880円だ。
家族と共に過ごす時間が長くなった今、テレビの音のワイヤレス化、というか“パーソナル化”は時代の必然とも言える。筆者宅の場合、夜はベッドでテレビを見たい妻、夜はベッドで本を読みながら音楽を聴きたい筆者との間で葛藤があるのだ。テレビの音がうまいことワイヤレス化できないので、筆者がノイズキャンセリングイヤフォンで対応するわけだが、そうなると話しかけられた時に気がつかなかったり、話する時にいちいちイヤホンを外さないといけないので面倒だ。
だがテレビ音声がパーソナル化すれば、ある程度解決の糸口が見えてくる。快適なテレビ生活を実現する2製品を、早速試してみよう。
シャープ「AQUOS サウンドパートナー AN-SS2」の場合
スリム、軽量が売りの前モデルを継承した新モデルは、ブラック、ホワイト、ローズゴールド、レッドの4色展開。今回はレッドをお借りしている。
デザインとしてはエッジの効いた馬蹄形で、方向性は前作と変わりない。前作はエッジ部分にシルバーの強調ラインがあったが、今回はそれがなくなり、よりシンプルなイメージとなっている。
メインスピーカーは、リフレクター構造だという。正直それだけだとなんなのか詳細が分からないが、前作は単に上向きのスピーカーだったのに対し、反射板を使って音を耳方向へ流す構造になったものと思われる。
テレビ視聴では画面に対する音の遅延が重要なポイントになってくるわけだが、今回の新モデルはaptX Low Latencyに対応。もちろん本機と専用トランスミッター間もaptX LLで通信する。また連続再生時間も、前作の約14時間から約16時間と効率が良くなっている。充電時間は約2時間半。
加えて新機能としては、IPX4相当の生活防水対応となった。従来モデルでは案外キッチンなどの水仕事をやりながらの利用が多かったため、防水が心配という声があった。それに対応したものだという。
また本機を2台用意すると、1台のトランスミッタへ2台同時に接続する事ができる。つまり2人で同じ音声が同時に聞けるわけだ。2人で聞くならそのままテレビスピーカーで聴けよという話もあるが、まあいいじゃないか。ちなみに2台同時接続だと、aptX LLでは接続できないという。だったらそのままスピーカーで聴……まあいいじゃないか。
トランスミッタの仕様は、上位モデルのAN-SX7同梱のものと同じのようだ。背面にはmicroUSBの電源端子、光デジタル入力、ステレオミニのアナログ入力がある。右側にはデジタルとアナログの入力切り替えスイッチと、ペアリング用のボタンがある。
確かにディレイは少ないが……
では実際に音を聞いてみよう。本機と専用トランスミッタとはあらかじめペアリングされており、トランスミッタ側に電源とオーディオ端子を繋げば、すぐに再生を楽しむ事ができる。今回は光デジタル入力でテストした。
電源が入ると、「電源が入りました。電池残量は十分です。」と、シャープのスマホユーザーの間ではお馴染みの、人工知能エモパーによく似た声で教えてくれる。
専用トランスミッタと本機は、1台接続であればaptX LLで接続されるので、音のディレイは少ない。テレビスピーカーからの音との遅延を聴き比べてみたが、全く同タイミングというわけにはいかない。筆写の耳では1フレーム程度の遅延に聞こえた。テレビスピーカーをミュートにして試聴してみると、明らかにリップがずれていると認識できるほどではないが、スピーカーからの出音と聴き比べるとダブって聞こえるという程度である。
音質としては、トーク番組を聞くには十分で、特に「Clear Voice」をONにすると「さしすせそ」が明瞭になるため、言葉の輪郭がはっきりする。これは常時ONで問題ないだろう。
ヘッドフォンではなくスピーカーなので、周囲に音漏れはする。しかし本人的に十分な音量であることを考えれば、普通にテレビから音を出すよりは全然静かではある。隣室で使っている状態であれば、こちらにはテレビ音声は全然聞こえてこないレベルだ。
寝転がってテレビを見るような体制だと、モノとしては硬いので、首に食い込むと痛い。枕を使って首回りにうまいこと隙間を作るなど、工夫が必要だ。
加えて本機は普通のBluetoothスピーカーでもあるので、スマートフォンなどとペアリングしても聴ける。本体対応のコーデックは、SBC、AAC、aptX、aptX LLの4つなので、スマートフォンとの接続ではまず困ることはないはずだ。
ただaptX LL対応のスマートフォンはまだそれほど多くはないため、動画視聴の際は若干ディレイが大きくなる。モバイル視聴ではそれほどリップシンクを重視しないだろうが、専用トランスミッタのパフォーマンスには劣る。
音質的には、バラエティなどのトーク番組視聴では問題ないレベルだが、音楽視聴になると厳しい面も見受けられる。明瞭度はあるのだが、いかんせん低音がほとんど出ないので、地に足がついていないポヤンとした音である。この辺りは前作AN-SS1とあまり変わっていない。
付加価値的機能としては、最近頻度が増えているオンライン会議用のマイク&スピーカーとしての利用がある。そもそも本体が88gと軽量なので、長時間装着していても、装着しているのを忘れるほどである。また聞く対象も相手の声なので、音域が狭い本機でも問題ない。音のディレイは多少あるはずだが、会話に不便なほどではない。オリジナル音声と聴き比べることはできないので、具体的に何フレーム遅延かは分からないが、元々ネット環境によってストリームそのものにも遅延が発生しているため、本機だけの問題ではない。
AfterShokz「AS801」の場合
AS801は、以前から発売されているスポーツモデル「AEROPEX」とモノ自体は同じように見える。これにトランスミッタやオーディオケーブルなどを同梱して、テレビ向け製品として仕上げたということだろう。AEROPEXは4色展開だったが、AS801はブラックのみである。
構造としてはネックバンド型とも言えない、頭の後ろにワイヤーを回すスタイルのヘッドフォンに近い。骨伝導スピーカーなので、先端はスピーカーではなく、アクチュエータだ。この部分を、耳穴の前の骨のあたりに当てて音を聞く。したがって先端部は穴などは空いておらず、ツルンとしている。また先端部のみシリコンでカバーされており、肌触りがよい。
電源を入れると、「AfterShokzへようこそ。接続しました。」と、そこら辺の事務のお姉さんのような声でアナウンスが入る。筆者は2018年発売の同社「AIR」を以前から使っているが、以前のモデルは英語のアナウンスであった。
アクチュエータの後ろ側に太くなっている部分があるが、おそらくここに基板とバッテリーが入っているのだろう。仕様としては2時間充電の8時間再生である。
コントローラは右側のみで、電源兼用のプラスボタンとマイナスボタンがあるのみだ。充電は専用端子となっており、付属ケーブルの先端が磁石でくっつくようになっている。AIRはいちいちフタを開けてmicroUSBで充電していたので、それよりは全然楽だ。
対応コーデックは資料がないが、おそらくSBCとaptXのみで、AACには対応していないようである。
トランスミッタも見てみよう。ボタンや表示類は表面にある。トランスミッタ側にもボリュームボタンがあるのは面白い。2台までペアリングできるよう、ヘッドホン1、2のボタンもある。長押しするとペアリングモードだ。
ディスプレイには接続コーデックがわかるよう、SBCやaptXといった表記がみられるが、LLという表記もある。ヘッドホン本体側は対応がないが、トランスミッタ側はaptX LL対応なのかもしれないが、詳細は不明である。
背面にはmicroUSBの電源端子、光デジタル入力、ステレオミニのアナログ入力があり、トランスミッタの電源ボタンもある。入力切り換えは特になく、使わないほうは抜くという対応のようだ。
音のディレイはあるが…
ではこちらも試してみよう。テレビとは光デジタルで接続している。音のディレイに関しては、aptXながらも独自チューニングでディレイを軽減しているという。テレビスピーカーの音と比較したところ、筆者の感覚では2~3フレームのディレイのように感じられる。
よく気をつけて見れば多少リップシンクがずれているのがわかるが、実際のコンテンツではそれほど口元がアップで映ることも少ないので、視聴への差し支えはないレベルに収まっている。
音質的には十分で、骨伝導のわりに、中域から高域にかけての特性がいいのが特徴である。低域もものすごく出るというわけではないが、そこそこの量感で感じられる。ただし骨伝導は、どこに押し当てるかで音質がかなり変わるので、自分なりのベストポジションを探ってみるといいだろう。一般に耳穴に近い方が、特性がフラットに近づいていくはずだ。
なお製品に耳栓が付属しているが、耳穴を塞ぐと不足している低音がドーンと持ち上がってくる。なかなか面白い経験なので、機会があったらぜひ試してみるといいだろう。
バンドを頭の後ろに回すスタイルなので、基本的に寝転がって使用するのには向いていない。また横向きになると片側だけアクチュエータのあたりが強くなるので、そっち側だけ音が大きくなる。まっすぐ寝転がるなら、バンド部を頭の上のほうに逃がしてやるなど、工夫が必要だ。
音漏れは、2018年発売のAIRと比べると50%少ないという。AIRもそれほど音漏れする感じもなかったが、本機はアクチュエータ部が密閉されているので、音漏れはほとんどない。隣で聞いていても気にならないレベルである。
家族に両方の製品を試して貰ったが、評価が高かったのはAfterShokzの方だった。方式が珍しいということもあるだろうが、音漏れが気にならないことや、音質的に満足できるところが大きかった。
総論
どちらの製品も、テレビ視聴にフォーカスしてチューニングされた製品であり、音楽向けのオーディオ製品とは違った評価軸が必要である。とはいえ、テレビ音声のワイヤレス化、あるいはパーソナル化にはそれだけニーズが高まっているということであろう。
テレビの光デジタル端子から音を取るので、テレビ放送だけでなく、様々な機器の音をワイヤレス化できる。ゲーム機やパソコンを繋げば、その音もワイヤレス化できるわけだ。
光デジタル出力とスピーカーから同時に音が出せるテレビと組み合わせれると、さらに便利だ。テレビの近くにいある子供達はスピーカーで音を聞き、親はキッチンで料理しながら同じ音を聞くという事もできる。どちらの製品もBluetooth 5.0対応なので、トイレに行くぐらいの距離なら、移動しても十分聞き続けられるはずだ。
オーディオ業界としては、音楽再生用以外の市場ができたことで、より低遅延なトランスミッタやコーデックの開発も含め、新しい課題ができたところである。自宅待機が増えたことで、家族がテレビを見ている中で仕事せざるを得ない人も多いことだろう。
自分が使うのではなく、家族に使って貰うという視点で製品を見ると、また違ったポイントが見えてくるのではないだろうか。