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アニメの必修科目! 日本アニメを“文化”に押し上げたAKIRAの圧倒的な魅力

「AKIRA」
(C)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

もはや『AKIRA』は「教養」だ。『モナリザ』とか『ショーシャンクの空に』とか、そういった類のものだ。今や世界的に知れわたるようになった「日本アニメ」の礎を築いた作品の一つである。

しかし意外と観ていない方が多い気がする。でもアニメ好きとして「観ていない」とは言いづらい。特に下北沢や高円寺に生息する野生のサブカル大学生は「え? AKIRA……? み、み、観たよ? 『さんをつけろよデコ助野郎」でしょ?」とつい知ったかぶりをしちゃいたくなる教科書的な作品。それが『AKIRA』だ。

でもそんな見栄っ張りも2024年で終わりだ。時間のある年末年始はNetflixで『AKIRA』に浸ってみよう。

大友以前・大友以後とも呼ばれる革新的なマンガ表現

『AKIRA』は漫画原作のアニメだ。1982年~1990年にかけて『週刊ヤングマガジン』にて連載された。ちなみに1988年に劇場アニメ化された。なのでマンガ版とアニメ版ではラストが違う。

作者は言わずと知れた大友克洋氏だ。日本のマンガの歴史は平安時代の鳥獣戯画から始まり、江戸時代の葛飾北斎、明治時代の北沢楽天、岡本一平、そして戦後の手塚治虫と続く。

そんな手塚治虫の2Dライクで記号的な表現を1980年代にアップデートしたのが大友克洋氏である。彼がどんなに革新的だったかって「大友以前、大友以後」というフレーズが一般化するほどだからすごい。

大友克洋がアップデートしたマンガ表現は人によって判断が分かれるだろうが、個人的には以下だと思っている。

  • 線の太いダイナミックな絵 → 細くスタイリッシュな絵
  • 人物画にフォーカス → 背景の緻密さ、背景だけで“語る”コマの増加
  • イケメン・美少女 → どこにでもいる東洋人に
  • 人の顔や体は記号 → 緻密なデッサンでリアルに
  • コマの大小で動きを表現 → 一枚絵だけで動きを表現
  • 熱血で仰々しい演出 → クールで冷めたものの見方

つまり、アニメ版『AKIRA』がヒットする前から、日本国内において大友作品は相当な話題になっていたのだ。こうした大友克洋の表現を知っておくと、よりアニメ『AKIRA』を楽しめるに違いない。

制作費10億円、総作画枚数15万枚、総カット数2200カット!

(C)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

さて、本題のアニメ版『AKIRA』である。制作費はなんと10億円だ。セル画枚数は15万枚、総カット数2200カットにもなった。とんでもない工数がかかっている作品である。

先に声優の声を録って後から絵を合わせる「プレスコアリング(通称・プレスコ)」を採用。なので口の動きにもまったく違和感がない。かなりの手間暇をかけて作られた。

しかも1988年12月の国際映画祭への出品に合わせて、さらに1億円を投資して大友克洋自身が200枚の画を追加した。このときにエンドクレジットなどもすべて英語表記に変更。海外志向として「AKIRA」を出すわけである。

また、作中音楽も素晴らしい。「らっせーらー! らっせーらー!」や「ばーん! ばーん!」でおなじみの日本的な音楽は芸能山城組が担当した。任侠っぽさも感じるキャラの濃い音楽だが、作品のミステリアスさを邪魔していない。ちなみに『月曜から夜更かし』のSEとしても使われている。

アメリカで10万本もビデオが売れた理由

(C)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

そんなAKIRAは1989年末にアメリカで公開され、アメリカで不思議な形でヒットすることになる。実は日本含め、興行収入自体はあまり振るわなかったのだ。しかしビデオはアメリカで10万も売り上げ、「ジャパニメーション」という言葉が生まれた。

なぜか。それは一部の熱狂的なファンが日本で発売されたビデオなどを使って、自主的に上映会を開いたからだ。これによって口コミが徐々に広がった。ダビングされたソフトの貸し借りも活発になり、どんどん知名度を高めていったわけだ。

それほど、AKIRAが描くネオ東京の世界は、アメリカをはじめとして斬新な文化だったのだ。東洋風の顔、日本風のBGM、荒廃した東京の街並み、そして20世紀末ならではの終末感。西洋人に未知の世界を見せたことが、AKIRAが世界で認められた理由だろう。

そして時代は国際放送が可能になっており、AKIRAをきっかけに日本のアニメーションは世界で放映されるようになるのだ。AKIRAが灯した火をさらに大きくしたのが、大友氏の同期・鳥山明氏の「ドラゴンボール」である。このころから世界的にジャパニメーションが広まっていき、今に至るわけだ。

そんな『AKIRA』はハリウッド実写化が粛々と進行中だといわれている。一度は白紙に戻り、作品のファンであるジョーダン・ピール監督には断られ……と停滞していたプロジェクトだ。

しかし一方で、タイカ・ワイティティ監督が脚本を完成させた、という報道もある。もしかしたら数年中に実写化され、再ブームが巻き起こるかもしれない。公開から35年以上経ってもいまだ世界中で愛される、まさにジャパニメーションの代表格だ。

まだ見ていない方は、ぜひ師走も落ち着いた年末のおともにいかがだろうか。

緒方優樹