レビュー

第4世代「RPドライバー」進化に驚愕、FOSTEXのハイコスパモニターヘッドフォン「T50RPmk4」

T50RPmk4

何度か記事にも書いているが、私はフォステクスの平面振動板“RPドライバー”を搭載したヘッドフォンが好きだ。繊細なサウンドが楽しめるのが一番の魅力だが、“これぞモニターヘッドフォン”という無骨なデザインもカッコいい。なにより、高級ヘッドフォンは数十万円して当たり前なご時世に、4万円以下で購入できる製品が多いのが魅力だ。

RPドライバーの“RP”は「Regular Phase:全面駆動型」を意味する。フォステクスは1974年に、日本初の平面駆動型ヘッドフォンとなる「T50」を発売しており、言わば平面駆動型の先駆者と言っていい。

T40RP mk3n

以前は密閉型ハウジングの「T40RP mk3n」というモデルを使っていたのだが、2021年にRPヘッドフォンを自作できる組み立てキット「RPKIT50」が登場。小寺信良氏の連載でも取り上げたが、「自分でも作ってみたいな」と入手。自分好みの音にチューニングできるのもDIYならではの楽しさで、以来このRPKIT50を家ではメインに使っている。

自分好みの音にチューニングできる「RPKIT50」

そんな折、このRPドライバーが第4世代へ進化した新モデル「T50RPmk4」(オープンプライス/実売34,650円前後)が登場した。ドライバーの進化により、なんでも音が大きく進化しているという。……これは聴かないわけにはいかないので、お借りして一週間ほど聴いてみた。結論から言うと、これはもう前世代には戻れない音に進化していた。

RPドライバーとは何か

T50RPmk4

T50RPmk4の実機を手にすると、ぶっちゃけデザインや質感にこれまでとの大きな違いはない。やや角張ったハウジングが特徴的。ハウジングにはメッシュが貼られたスリットが4本あり、セミオープンになっている。

スリットがあり、ハウジングはセミオープン
左からT50RPmk4、RPKIT50

大きく進化したのは、ハウジングの中にあるRPドライバーだ。

構造はこうだ。まず、平面振動板にコイルをプリントする。その振動板が、振幅する隙間を確保した上で、磁気回路となるマグネットでサンドイッチしている。この構造は初代から変わらないが、50年に渡り改良を重ね、T50RPmk4に搭載した第4世代へと進化したわけだ。

第4世代のRPドライバーでは、平面振動板の振動領域を拡大させつつ、さらに均一に振動させるために、振動板にプリントするコイルのパターン形状を新設。振動板を挟み込むマグネットも増量しつつ、磁気回路の構成部品も一新し、磁束分布を最適化。これにより、振動板の不要共振が抑えられ、より鋭いレスポンスを実現したという。また、感度向上、滑らかな周波数特性、過渡特性の向上なども実現したそうだ。

インピーダンスは28Ω、感度は97dB/mW、最大入力は3,000mW。再生周波数帯域は10Hz~40kHzとなっている。

ちなみに、搭載している振動板のサイズは横34mm、縦40mmだが、この振動板自体のサイズを41.6×45.6mmに拡大したプレミアムなPRドライバーを搭載した「TH1000RP」(密閉型/実売約316,800円)、「TH1100RP」(オープン型/実売約376,200円)も8月下旬から発売される。こちらも気になるところだが、価格が10倍くらい違うので、比較対象には適さないだろう。むしろ実売約34,650円のT50RPmk4がより安価に思えてくる。

左から第3世代のRPドライバー、T50RPmk4に搭載している第4世代のRPドライバー、TH1000RPに搭載しているプレミアムPRドライバー

話をT50RPmk4に戻そう。

ユニークな点として、左右ハウジングの両方にコネクタを備えている。つまり、付属のケーブルを、環境に合わせて、左右どちらでも好きな方に接続できるわけだ。

左右ハウジングの両方にコネクタを備えている

なお、付属ケーブルは3.5mmのアンバランスケーブルだが、コネクタとしては4極3.5mmになっており、ケーブルを変えればバランス接続にも対応可能。別売バランスケーブルとして、入力側が2.5mmの「ET-RP2.5BL」と、4.4mmの「ET-RP4.4BL」、XLRの「ET-RPXLR」を用意している。

イヤーパッドは装着感を追求した低反発のアラウンドイヤー型で、モチモチとした感触。無骨な外観ではあるが、側圧はそこまで強くなく、長時間使用でも負担は少ない。ホールド力は高く、装着したまま首を動かしてもズレる気配はない。ケーブルを除いた重量は約300gだ。

音を聴いてみる

DAPはAstell&Kernの「A&ultima SP3000」、据え置きのヘッドフォンアンプはBURSON AUDIOの「Soloist SL」(ソースはデノンのネットワークプレーヤー DNP-2000NE)を使い、試聴した。接続は、付属のアンバランスケーブルだ。

デザインに大きな違いがないので、聴く前は「振動板の振動領域が拡大したと言っても、そんなに激変はしてないのでは?」と思っていた。しかし、聴き慣れたRPKIT50で1曲再生した後、同じ曲をT50RPmk4で聴くと、「マジで!?」と言うほど違う。

「ダイアナ・クラール/月とてもなく」冒頭のアコースティックベースで比較すると、低域の深さ、奥行きの深さが、T50RPmk4の方が圧倒的に優れている。音がより深く沈むだけでなく、音が肉厚で、ベースの音像にしっかりと厚みが感じられる。

色付けは少なく、高解像度で繊細なサウンドという全体的な特徴は、RPKIT50とT50RPmk4で共通している。ただ、T50RPmk4の方が1つ1つの音のコントラストが深く、質感が描写も豊かだ。この違いはかなり大きく、「じっくり比較してわかる」ではなく「付け替えた瞬間にわかる」レベルだ。

驚くのは、低い音がより深く、パワフルに、肉厚に出るようになりつつ、トランジェントも良くなった事だ。低域がパワフルになると、全体的にはモコモコした、フォーカスの甘い音になりがちなものだが、T50RPmk4の場合は、パワフルなのに1つ1つの音がズバッと歯切れの良さまで備えている。

先程の、冒頭アコースティックベースでは、芳醇な低音の響きをよりタップリ出しつつ、弦が時折「ブルン」と強く震えたり、「バチン」とぶつかった時の鋭い音も、T50RPmk4の方が鮮烈に、生々しく描写する。これはもう“あらゆる面で音が進化した”と言っていいだろう。この進化ぶりは、RPKIT50ユーザーとしてはちょっと悔しい。

そのため、T50RPmk4をしばらく聴いた後でRPKIT50に戻ると、RPKIT50の音の方が硬く、薄味に聴こえてしまう。ボーカルや弦楽器の質感も描写もT50RPmk4の方が上手い。要するに、T50RPmk4の方が、柔らかい音から鋭い音まで、表現の幅が広いわけだ。

「手嶌葵/明日への手紙」のような女性ボーカルを聴くと、声の表情の変化や、響きの美しさが、T50RPmk4の方がより深く味わえる。モニターライクな高解像度サウンドでありながら、“音のナチュラルさ”を両立している。これはリスニングにも使えるヘッドフォンだ。

「米津玄師/KICK BACK」も、T50RPmk4で聴くと最高に気持ちが良い。背後で乱舞しているドラムの低音がより深く沈み、切り込むベースもトランジェントが抜群で、とにかく聴いていて気持ちが良い。

この楽曲は、音の数が多いので、解像度の低いヘッドフォンで再生すると、いろいろな音がくっついて、ゴチャゴチャした曲に聴こえてしまうのだが、T50RPmk4は個々の音の輪郭がシャープで、細かな音が聞き分けやすい。モニターヘッドフォンとして重要な実力も、しっかり備えている。

今までのRPヘッドフォンには「駆動力の高いアンプでドライブしないと、低い音が出にくい」という印象もあったが、T50RPmk4では、それがかなり改善され、より鳴らしやすいヘッドフォンになった。パワフルなヘッドフォンアンプで駆動すると、真の実力を発揮するのは変わりはないが、DAPやスティック型DACなどでも楽しめるヘッドフォンになっている。

コストパフォーマンスの高さが光る

10万円以上が当たり前という他社の高級ヘッドフォンと比べると、実売約3.5万円のT50RPmk4は手に取りやすい。それでいてモニターヘッドフォンレベルの分解能、トランジェントの良さ、そしてパワフルになった低域再生能力も備えており、コストパフォーマンスが高いヘッドフォンだと感じる。

外観からはスパルタンな印象を受けるが、リスニング用としても楽しめるサウンドであり、固有のキャラクターも少ないので、多くの人に試聴して欲しい。相棒として末永く活躍してくれるヘッドフォンになるだろう。

山崎健太郎