印刷ブローカーは生き残れるか


15年で売上が半分に。


ネットを検索していると、たまたま最初に就職した会社がヒットした。
会社概要を見て、あんぐりである。退社する頃の売上に比べれば、ほと
んど半分になっている。


この会社がやっていたのは印刷ブローカーだ。あるいは販促・PRの企
画会社ともいう。いま、実体がどうなっているのかは知らないが、当時
はれっきとしたブローカーだった。その仕組みはこうだ。


クライアントから印刷物の注文を取ってくる。ここがポイントで、ただ
の印刷屋と違うところは、ファーストステップで提案系の要素を持って
いたことだ。突破口は営業が開いてくるのだが、本番の打合せにはプラ
ンナーやディレクターを同席させる。


ご注文通りに、何でもやりまっせ。ではなく、ご注文以上のできに仕上
げまっせ。これが得意技であり、付加価値の源泉の一つだった。


加えてオリジナル商品を持っていた。一つはDM。クライアントに多かっ
たのが京都の呉服屋さんである。イコール問屋さんなんだが、彼らは地
方の呉服小売店の販促サポートをする。要するに呉服店が展示販売会を
開くのだが、そのためにはお客さんにまくDMが必要になる。


とはいえ販売店単位では、DMに制作コストをかけることはできない。
たとえばモデル撮影などは論外の話となる。ここに目を付けた。


単純にいえばボリュームディスカウント。モデル撮影をし、そこそこの
デザイナーを使ったオリジナルDMを20種類ぐらい用意するのだ。そ
してこれを呉服問屋さんに持っていく。問屋さんは、その中から適当な
ものをピックアップし、コピー原稿だけをオリジナルの内容で追い刷り
する。


売店さんはオリジナル(完全じゃないけど)で、しかもちゃんとモデ
ル撮影までした立派なDMを使えるので大喜び。なかなかのアイデア
と思う。が、このモデルは京都の呉服屋さんが軒並み倒れていく状況の
中では生き残ることはできなかった。


しかし、この会社はもう一つの差別化商品を持っていた。カーペットの
サンプル帳である。一般の方がこれを目にする機会は、たぶんあまりな
いだろう。がインテリアコーディネイターや建築家、工務店などにとっ
ての必須ツールである。


このサンプル帳はホームセンターなどで売っている定型のカーペットで
はなく、しき込みタイプのカーペットを販売するためのツール。要する
に、そのカーペットが実際にどんな生地で、その質感はどうなるのかを
お客様に理解してもらうためのツールである。


従って、その構成は施工写真(実際に敷き詰めると、こんな素敵なお部
屋になりますよという写真ですね)+生地見本(商品を5センチ角ぐら
いの大きさにカットして台紙にはっつけたもの)で構成されていた。こ
のサンプル帳を発明したのは、その会社だったらしい。


これは完全な装置産業である。カーペットをカットする機械、カットし
たサンプルを台紙に張っていくライン(内職さんを含めて)を持ってい
ることが差別化になる。しかし、これだけではフォロワーに対する障壁
とはなりがたい。ポイントはノウハウ、と教えられた。


たとえばクライアントサイドへのアピールポイントとしては施工写真の
撮り方、生地見本の並べ方などがある。特に色の並べ方次第で売れ筋・
死に筋が出るので、どんな配列にするかはとても重要だといわれた。が、
残念ながら、そのノウハウは明文化されておらず、自分にはとうとう理
解できなかった。


製造サイドでは、生地見本の切り方から台紙への貼り方、検品の仕方な
どがノウハウになったのだろう。が、いまにして思えば、もっとコスト
ダウンを図る余地はいろいろあったと思う。


ところが、ここにも強力な競合が現れた。二番手は先行者をじっくりと
研究できる分有利である。その有利さを活かし、まずコストメリットを
クライアントに打ち出してきた。ソフト面でのノウハウについても、新
しいところの方が斬新に見える。さらにうまかったのは、営業面でかゆ
いところに手の届くフォローをしていたことだろう。たとえば大きな選
挙があれば、その応援のための人員派遣までやるといった具合に。


その会社のいまのクライアント構成を見ると、こうしたインテリア問屋
からの仕事もすべてなくなったようだ。そうしたことがあい重なって、
約15年で半分の売上にまで減ってしまったのだろう。これをもってブ
ローカー業がダメになっていくなどというような荒っぽい切り方をする
つもりはないが、単なるつなぎ役には厳しい時代となることは間違いな
さそうだ。



本日の稽古: