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【天ノ空レトロスペクト】感想

天ノ空レトロスペクト

 

GLacéより2015年10月30日に発売された18禁恋愛アドベンチャーゲームです。

 

 

口コミも何も見ずにヒロインの髪の毛の総合値だけを見て買ったゲームなのですが、個別ルートを2つ攻略した時点ではあまりの面白さに「実はこのゲームって隠れた名作とか言われてる系のやつか?」と考えてしまうほどに感銘を受けていました。

完走後にレビューを見に行った感想は、「評判が悪い理由もわからんでもないな……」でした。

 

そうやって印象がジェットコースターと化したゲームでしたが、世間で酷評されている理由は誤字やボイス設定ミスなどの、ゲームとしての不備の多さが原因だったと思います。

それらのほとんどは現在パッチで修正されており、一部の個別ルートを尋常じゃないぐらい楽しめたというのは揺ぎ無い感想なので、不具合に目を瞑れば言われているほど悪いゲームではなかったと思いました。

まあ、とりあえずこれから遊ぶ方がもしいるならば、必ず「上から順に」ルート攻略した方がいいと思います。最終ルートがルートロックされていないことこそが究極の不具合だと思うので……。

 

 

追記よりネタバレを踏まえた感想になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深澄ルート

 

ただ一人過去の記憶が一切なく、人間ではないという説まで出てきていた深澄。

この手の種明かし後の着地点として王道であるパターンといえば、「正体が虚構だったとしてもそこで積み上げてきた気持ちは本物だ!(ドン!)」というものだと思います。

本ルートでもそのステップは例に習って踏みつつも、一味も二味も違う展開まで見せてくれました。

 

「これまで積み上げてきた思い出は本物だった」という気づきより、大切なのは「これから思い出を積み上げていくことで本物にする」という決意。

つまりは前を向いて生きていくこと。これはゲーム全体のテーマとなっていると同時に、深澄の存在を救う上でも重要なワードでした。

 

天の空5

 

 

無限の猿定理。アトランダムな試行回数という部分をしばしば引用される定理ですが、これをシキミは「猿にも意志は存在する」ものとして解釈しました。

一見偶然に見える『結果』も、あらゆる因果――人々の『意思』の介入した行動の結果であるというもの。

深澄とシキミはそれを信じて歩みを進めてきたからこそ、托身という結果へと辿り着けたのだと思います。

 

深澄はシキミのことを、何も思考せずに猫の入った箱を開けてしまうような、哲学とは対極を行く経験主義的人間と評しました。

ここでの猫は某量子力学的思考実験のことを示していると同時に、深澄のことも表していたと思います。

どんな未来が待っているかは歩いてみればわかる。脳筋とも言えるその心こそが深澄と街を救ったのだと思いました。

 

 

祇典である深澄が人間へと托身する鍵は、歌謡曲『ゴンドラの唄』がヒントとされていました。

「人は、人との関わりなくしては生きられない。人の思い出に根付き、そして傍にいて欲しいと思われることで、その存在が確立される」。

アマホシのこの発言を見る限りでは、深澄自身が気づきを得るというだけではなく、深澄が周囲の人物に人として受け入れられることも条件となっていたのでしょうかね。

元より欲望の具現化たる深澄にとって、知るという行為は好奇心の一環でしかありません。しかし、"恋を知る"のは相手がいてこそ初めて成り立つものでした。

 

天の空3

 

一応ソラミは深澄と融合しなければ神通力を取り戻せないという設定だったはずなので、融合できなかった分の力はどうやって帳尻を合わせられたのか気になりました。

普通にソラミ本来が持つ神通力は半身である深澄が持ち逃げしてしまいましたが、街中の祇典を回収するだけならばアマホシ+不完全ソラミの神通力でも十分可能だった、というオチだったのでしょうかね。

それにしても行方不明であったソラミを発見してアマホシをアマノソラとして覚醒させ、神通力による全範囲サーチオペレーションというチートコマンドで解決するというルート取りは、さながら祇典回収RTA最短効率のようでした。他のルートはどうするんだろう……とプレイしていた時は思っていました。

 

 

深澄と出会った時の会話である、無限の猿定理への解釈。人間の行動は物理学的な因果には決して当て嵌まらないことが語られました。

個別ルート分岐前の、演劇と祭りを基盤とした街おこしの計画。街の住民たちが街を愛している様子が描かれていました。

序盤と中盤から語られていたテーマ性が最後まで一本の線で繋がっており、非常に完成度の高いルートでした。

無限の猿定理やゴンドラの唄などの哲学や詞の引用と、それを劇中の内容へと結びつけている構成もとても良かったです。

 

天の空4

 

締めの文章も素晴らしいですね。

『そして猫は恋を知る』。深澄とシキミが恋人となるきっかけになった物語は、このルートの顛末そのものでした。

 

 

正直クリア時は「これ以外の個別ルートは何をやるんだ……?」と思ってしまったレベルに濃い話でした。

というのも、空っぽの存在であった深澄の正体に根差した、「自分達は未来へ生きていく」という解答。これがそのまま本作のテーマ性であった「街を作る若人」というものとリンクしていました。

そんな出来の良さからして、さながらメインのルートであるようにも感じていました。

 

 

 

 

しのんルート

 

導入から貼られていたしのんの正体に纏わる伏線。なんと彼女はアニメオタクでした。

……前ルートの「神様の半身」って正体と比べると随分ランクダウンしたな……。サブカル文化から最も遠いと言われていましたが、格ゲー女子な時点でまあイメージ通りではあるんですよね。

というのはミスリードであり、彼女の本当のコンプレックスは「変化を望もうとしない」というその性格でした。

 

自然体としてのしのんを好きになったシキミは、しのんはそのまま変わる必要がないと諭しました。

凸凹コンビとしてお互いがそれぞれを補完し合うという関係。このカップルの在り方はエリが示唆していた「守るべき誰かの為に生きる」という生き方です。

しかし、それが結果的にしのんの契約からの掃除部消滅という大事件へと繋がってしまったと思います。

 

天の空し7

 

しのんらしからぬ表情のドアップ。インパクトのある告白シーンでした。

 

しのんはシキミ相手に一度腹を割って相談したのにも関わらず、身勝手に自らが犠牲になる行動を起こすほどには停滞を望む気持ちが強かったです。

最初は「たかがゲームセンターひとつの為にそこまでする……?」と思ってしまいましたが、しのんは特定の土地を愛するあまり因果を超越するほどの神通力を所持している特異な産子という設定が明かされました。そんな不条理な行動を起こしてしまうほどに土地への執着心が振り切っているからこそ、概念的存在として誕生したのだと思います。

 

 

 

キャラクターの半生を描きながら「思い出」の在り方を説いた、メッセージ性の強いシナリオでした。

登場人物の考え方が二転三転もしていく難解な話だったので、解釈が間違っていたらすみません。

結論から言うと、重要なのは「過去にしか目を向けない」のではなく、「未来にしか目を向けない」のでもなく、「今を大切に生きる」ということだったと思います。

 

 

掃除部消滅という事件を経て、しのんの胸中は移り変わっていきます。

 

天の空し1

 

しのんの最初の選択は、シエロ・シエスタで作られた思い出を守る為に廃業から救うというもの。一見思い出を大切にしている故の行動に見えますが、これは真の意味で思い出と向き合うことができていません。

なぜなら出来事は「過去」となるからこそ初めて「思い出」として昇華するものだからです。正確には当時のしのんの言う思い出とは「記憶」ではなく、「物」や「場所」としての依存でした。

 

掃除部がなくなった世界では、エリに慰められたしのんは今後の未来にだけ目を向け、離れてしまう相手との思い出はあっても意味がないものとして見なしていました。

深澄ルートのような未来に目を向けて歩むという生き方ではありますが、思い出を作ろうとしないという点で大きく異なりました。

 

 

吹っ切れたように見えたしのんでしたが、その考えもまたシキミに否定されます。

思い出は依存するものではなく、全く価値がないと見なすものでもない。

「今」の一瞬一瞬をかけがえのない時間として噛みしめて生きていくことで、「過去」の記憶を思い出として心に記録しながら、「未来」へ目を向けて歩んでいくということ。それが本当の意味で思い出を大切にするという行為でした。

 

結果的に人と離れることになってしまっても、精一杯楽しんだという記憶があれば必ず再会することができると、シキミは言いました。

実際に何もかも失ってしまった世界の中、しのんの中で確かに育まれていたシキミとの思い出。その記憶から呼び覚まされた会いたいという強い感情が、偽りの世界にヒビを入れて掃除部を取り戻しました。

 

天の空し3

 

変わってしまったものは元には戻らないけど、起きた出来事は全て思い出となって、今の自分を作り上げる。

変化することを怖がっていたしのんが辿り着いた、変化を受け入れる心でした。

ひいては「物」や「場所」よりも「記憶」を大切にするという生き方であり、本作のテーマ性とも合致していた部分でした。

 

 

 

因果上書き前、最後にしのん達の前に立ちはだかった人物は親友のエリ。しのんでもシノヱでもない、本当に変化を怖がっていた少女がここにいました。

エリはシナリオ中には相談役としてシキミやしのんの話し相手となっており、典型的な的確なアドバイスをくれるサブキャラクターというイメージがありました。

その印象は掃除部がなくなった世界の中、ただ一人しのんのことを信用して彼女を奮い立たせてあげたという場面からも現れていたと思います。

 

相談役というのは得てして主人公達の一歩先を行く正論を持っているキャラクターであるのが通例であり、そんな人物と最後に対立するというのは予想ができなかったです。

振り返ってみると、「しのんがいなくなったら自分が自分じゃなくなる」と発言する程には、強い依存心を見せていました。

そして、掃除部がなくなって打ちひしがれていたしのんの心を救った助言は、「藤堂先輩のことは忘れちゃった方がいい」というものでした。

 

天の空し4

 

人やものに対して、固執するか忘れるかの二択という、0か1でしか考えられない彼女の思考が表れていたと思います。

 

 

エリかシノヱに身体が乗っ取られていたというのが伏線となっていたことは、作中でも説明されていました。

「しのんがブラジルに行くと言ったら自分も行く」。エリのその言葉は冗談ではありませんでした。

しのんを見守る使命があると豪語していた彼女。その使命は自戒でも自己満足でもなく、彼女がそうしなければ生きられないという呪いだったと思います。

 

しのんによって作り上げられた自分は、しのんがいなければ空っぽになってしまうと泣きつくエリ。

しかし、エリによって作り上げられたのはしのんも同じです。もっと言うなればしのんは様々な人々との交流によって自己が作り上げられていました。

 

天の空し5

 

エリ、シノヱ、シキミ。本ルートでこの三人と深く交流して考えを交換していき、異なった考えの吸収によって過ちを犯すこともありながらも、最後に辿り着いたのが今の場所でした。

時を重ねるに連れて人との関係が遠いものへと変化してしまうことは必然的に訪れる。しかし、それが遠いものとなっても過ごした記憶は決してなくならず、その記憶があるからこそ自分もまた変化をしていく。

それが変化を受け入れるということ。人との交流を「思い出」という財産としながら生きていくということでした。

 

 

 

かなり難しくこんがらがる話だったので、どこまで言語化できているか怪しいです。

まだ2ルートしかやっていないのにも関わらずこの面白さとは、恐ろしい完成度のゲームです。と、本ルートクリア直後は思っていました。

 

 

 

 

アマホシルート

 

※この感想は全ルートクリア後に書きました。

 

人々の思い出への固執、そして今を生きるという解答。

上のしのんルート感想で長々と語っていた通りの物語でした。

 

天の空ア1

 

 

シナリオにおける舞台装置の使われ方、肝となっている解決手段とメッセージ性の部分など、他個別ルートとの共通項がかなり多かったです。

停滞する世界。シノヱの登場。深澄の托身。

良く言えば集大成、悪い見方をすれば他個別ルートのキメラのようなルートでした。

 

深澄の托身は深澄ルートの方が物語のテーマに絡む形でまとめられている分説得力がありました。

シノヱはいくら利害が一致しているとは言っても、しのんルートでの性格の通りならば取引ぐらい持ちかけてくるはずなので、協力的な味方側として登場する必要性をあまり感じませんでした。

 

深澄ルートの解決のキーとなっている、シキミが幼少期に円角先生で会っていたという回想も最終盤に急に出てきます。伏線も何もなく唐突にシキミが思い出します。

このルートを最初にプレイしていたらネタバレダイジェストのように感じられてしまうと思うので、これから遊ぶ方は攻略順にはご注意ください。まあ、これから遊ぶ人はこの文章を読んでいるはずがないのですが。

 

 

最も気になったのはひまりとしのんの物わかりの良さでした。

未来へ進むことを怖がって世界をループさせてしまったひまり。変化することを怖がって掃除部を消滅させてしまったしのん。

どちらも思い出へと向き合うことのできない恐怖から、神との契約を結んで一騒動を起こしてしまいました。

それほどまでに葛藤していた彼女たちが口頭の説得ひとつで目を覚ますというのは、個別ルートで積み上げたものはなんだったんだろう……と思ってしまいました。

 

まあ、ひまりは実際にループされた世界で過ごしてみて自らおかしいと気づくような人物だったので違和感はないとしても、しのんは紆余曲折あってようやく真実に辿り着いていたはずだったのでどうなのでしょう。

間違いを犯しながらも最終的には正解へと辿り着けた、個別ルートでの冒険が否定されたようで悲しかったです。

 

 

他の個別ルートとの違いはやはり「今がずっと続けば良い」という考えを、深澄以外の登場人物全員のジレンマとして設定していたことでしょうか。

これまでは基本的に正論人間であった主人公のシキミが思い悩んでいるというのは珍しかったですね。

 

しのんルートのシキミは正しい考えを持っているのかどうかが曖昧に描かれていましたが、深澄ルートのシキミは「とりあえず行動すれば未来は開ける」なんて言うほど前向きすぎる人間であり、ひまりルートのシキミは未来に行くのは怖くないと断言していたので、このルートで停滞を望んでいることには若干違和感はありました。

こうした違いが生まれたのは、アマホシの影響を受けたという意味があったりするのでしょうかね。うーん。

 

未来へ進むことを怖がっていたのは他のヒロインと共通していましたが、アマホシが抱いていたのは典型的な「失われることへの恐怖」でした。

別れはいつか必ずやってくる。人間とは違って永遠の時を生きるアマホシがヒロインのルートだからこそ、テーマとしては説得力のあるものとなっていたと思います。

個人的に好きなのは交際前に渡した日記帳が説得手段になることでした。

 

天の空ア3

 

なんだかんだ伏線が多かったルートでした。

 

 

エピローグが冒頭と繋がるのは感動的でしたね。

それもあって他個別ルートの内容を全て回収した総まとめという名の"正史"として見れば悪くないルートだったと思いますが、プレイヤーは当然そんなことを知らずにプレイすることになります。

 

何よりもルートロックがかかってないせいで最初にプレイすることもできてしまうのですが、その場合深澄やシノヱの話をダイジェストの如くネタバレされてしまうので、それ以降プレイする個別ルートでの感動が薄れるという最悪のパターンだと思います。

しかし、最後にプレイしたらしたで衝撃的なシナリオが見れるかと思いきや展開が個別ルートの継ぎ接ぎということでがっかり感が強く、どのタイミングにプレイしても地雷になってしまう悲しいルートだと思います。

 

これは自分の攻略順による印象も影響しているかもしれません。仮に最初にプレイしていれば「アマホシルートだけは面白かった」という感想になっていた可能性もあります。

なにしろ他個別ルートの内容をいいとこどりしまくっているシナリオだったので、単体として見た場合は面白くはなっていると思います。

 

結局はどのルートを元ネタとして置くかという話にもなりそうなのですが、アマホシルートはネタバレ云々に加えてキャラ崩壊が顕著なので、諸悪の根源はこのルートであるとは考えています。

そういう意味で言葉を選ばずに言ってしまえば存在に問題がありすぎるルートだったと思います。根本的に内容を変えるか、そうでなくともせめてルートロックをかけて欲しかったです。

アマホシは好きだったので残念でした。

 

 

 

 

ひまりルート

 

完璧人間として描写されていたひまりは定番のメシマズヒロインでした。

ひまり味だの魔界だの語彙が面白かったです。

 

 

ひまりが抱えていたのはしのんルートやアマホシルートにも共通していた、「変化を怖がる」というコンプレックスでした。

それは思い出が何かを理解していなかったしのん、失うことを恐れていたアマホシとは違い、「今が幸せの頂点だから変化したくない」という感情から起因していたものでした。

 

天の空ひ1

 

ひまりの他のヒロインとの違いは極端な考えに至ったりはせず、最終的には悩みを自己解決したという点でしょうか。

正確にはシキミとの会話を積み重ねて改心をすることになったのですが、掃除部を消滅させたり世界を停止させたりしていた二名と比べると聡明でしたね。

「今が幸せの頂点」というのはしのんやアマホシにはなかった宗教染みた固定観念であり、前日には未来へ踏み出すということを否定していたのもあって、自己解決できたことは少し意外に感じました。

 

 

ループ(厳密にはタイムジャンプ)の原因となったソラミとは特に対立することがなく、会って会話しただけで勝利できました。

ソラミの願いとはなんだったのか? 深澄の正体はなんだったのか? ……という伏線を貼りながら幕を閉じる、短めのルートでした。

 

おそらく一番最初にやるべきルートだと思います。最低でも深澄ルートの前が良いですかね。

しのんルートの短縮版のような内容に感じてしまいましたが、やる順番が違っていたらその印象も変わっていたのかなぁ。

 

 

 

 


 

 

 

 

【好きなルート】

しのん>深澄>>>ひまり>>>アマホシ

 

 

【好きなヒロイン】

アマホシ>ひまり>しのん>深澄

 

 

 

個別ルート単体に目を向けるとしのんルートと深澄ルートは完成度が凄まじく、とても面白かったです。

 

深澄ルートは多くの哲学を引用しながらも、虚構の存在としてありがちな話には留まらず、「未来へと進むこと」をテーマにしたシナリオでした。

しのんルートはヒロインが幾度も間違いを犯しながらも、主人公及び親友と交流して考えを交換しながら人間的に成長していき、「思い出を本当の意味で大切にすること」に到達するシナリオでした。

 

台詞回しや地の文の面白さ。メインテーマとの一貫性。どこまでもキャラクターが主役として描かれている点。

正に自分がノベルゲームに求めていたシナリオと言っても過言ではないほどに満足度が高かったです。

深澄ルートとしのんルートの感想はルートクリア直後に書いたものなのですが、個別ルート感想でここまで長文になったのはおそらく初めてであり、プレイしていた当時は感動しまくりでした。

 

 

2ルートクリア時は、たった2ルートだけでこんなに面白いとか神ゲー確定やんけ……と戦慄していました。このゲームが名作として名を馳せていなかった理由がわからない、というレベルでした。

そこまでハードルを上げていたせいもあったのか、以降2ルートをプレイした時は残念に感じてしまいました。

 

ひまりルートはしのんルートでやった内容の簡易版。アマホシルートは他個別ルートのパッチワーク。

思い出を作るだの変化を受け入れるだのをどのルートでも語るというのは、良く言えばテーマ性が一貫していると思います。しかし、流石にヒロインが全く同じ悩みを持っていてそれを全く同じ教訓で解決する内容というのは、身も蓋もないことを言ってしまえば「焼き直し」に感じてしまいました。

 

深澄ルートとしのんルートは、人格的に不完全なヒロインが葛藤をしながらも成長していく内容となっており、キャラクターが人間として描かれている面白さを感じました。

しかし完走後は、テーマに沿ってどのキャラクターも同じような台詞を吐いていたこと、各登場人物のコンプレックスの大小がこじつけでも説明がつけられないほどに個別ルート間で乖離が見られていたなど、一転して「キャラクターが脚本に沿って動かされてる」ような気味の悪さを感じてしまいました。

 

 

クリア後にレビューを見てみたらかなーり評判の悪いゲームでした。某批評空間では中央値68点なんてスコアを出しています。

最初は驚きましたが、冒頭で書いた通り世間で低評価されている理由もわからなくはなかったです。

 

ストーリーも教訓も個別ルート間で幾度も使い回されており、イベントCGの枚数があまり多くないということもあって、必然的に似たような話であると感じてしまうと思います。

また、典型的な攻略順によって印象が上下するゲームでもあると思うので、仮にアマホシルートを最初にやってしまったら後のルートを楽しむ難易度はかなり高くなると思います。

 

深澄ルートとしのんルートだけならばテーマの使い回しもキャラ崩壊もあまり感じませんでした。

やはり問題の根っこはアマホシルートだったのかなと思います。他の個別ルートの内容を雑に拾いまくっているので最初からプレイできるのが罠でしかなく、キャラ描写の乖離の大半はこのルートに起因するものでした。

結果的に読後感としてシナリオの流用やキャラ崩壊を感じてしまうのは、このルートによる部分がかなり大きいと思います。申し訳ありませんが、自分としてはこのルートをスケープゴートとして気持ちの整理をつけたいかもしれません。

 

決定的な証拠があるわけではありません。

しかし、発売当初の誤字脱字・ボイス設定ミスの多さから見られるデバッグ不足、他個別ルートの展開を大幅に流用しているシナリオ、重要なシーンにイベントCGが用意されていないことなど、制作が間に合わずに世に出たと邪推できてしまう材料は多かったです。

そういう意味で勿体なさや悔しさを感じてしまいました。エロゲ業界はかくも過酷ですね。。

 

 

とはいえ、それらのマイナス要素をひっくるめてもいくらなんでも低く見られすぎだとは思います。少なくとも深澄ルートとしのんルートに関してはテキストが濃密で構成も上手く、ノベルゲームの個別ルートという括りで見ても上位に入る面白さでした。

発売された当時は誤字や不具合がいくつもあり、ゲームとしての不備が多かったらしいのである程度酷評されるのは仕方なかったかもしれませんが、今遊ぶならばそのようなバイアスもかかりません。

 

自分は最初に攻略したのが深澄としのんであり、その後にアマホシとひまりという攻略順にしてしまいました。

前2ルートがピークだったこと、外見が好きなヒロインを後に残したことからハードルは上がりに上がりまくっており、いざプレイしてみるとアレだったので読後感は悪くなってしまいました。

 

ですからプレイ後は落胆してしまった気持ちも大きかったですが、深澄ルートとしのんルートで感想を綴ったことが、プレイしていた当時覚えた感動の証左だと思います。

この2ルートは自分が好きなタイプのシナリオど真ん中を行っていたので、それだけでもプレイして良かったと思えました。

 

 

 

他に好きだった部分で言うと、共通ルートの基本構造であった祇典による怪異の発生とその解決に向かう掃除部、という世界観はとても好みでした。

オムニバス形式で進行するのでテンポが良くて読みやすく、祇典騒動の内容がオカマや同性愛などの濃すぎるものが多かったので、必然的にコミカルさという切り口からヒロイン達の可愛さが引き立てられていたと思います。

なんでもアリな怪異を前にドタバタしながらも解決し、最後はキャラクターのコンプレックスを解消する人間ドラマという形で収めていることも綺麗でした。

 

天の空ア2

 

ヒロインの中ではアマホシが好きでした。見てて癒される生物。

また、サブキャラクターがここまで魅力的に描かれているゲームも中々ないと思います。頼りになる大人でありながらインパクトの強いエピソードもあった行定先生や、しのんルートでのキーパーソンだったエリは特に好きでした。

 

 

日常BGMである『賢哲のワルツ』は本作の世界観と合致している曲で、とても良かったです。

ファイナルエロシーンBGMである『何よりも甘くて甘い愛』、クライマックスBGMである『今日より楽しい明日を信じて』は、流れる回数は少ないものの好きな曲でした。

 

 

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